旅の空でいつか

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思えば謎の男 /照り鳥丼

  1. 2010/09/05(日) 02:18:44|
  2. ★完結★ 『ハミングライフ』シリーズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:10
※作品一覧はコチラです

みなさま、こんばんは☆
『ハミングライフ』シリーズです。
1ヶ月くらいぶりの更新ですね^^;

今日のメニューは 照り鳥丼 です☆
胃にもたれたくないけどガツっと肉食べたい時に、オススメです。


関係ないですが、
大好きな作家・上橋菜穂子さんの新作『獣の奏者 刹那』を本日購入→読了しました☆
におい立つ感じの作品で、なんだか新鮮でした。
ともかく、今、
読了後のしあわせ気分です*^^*
(本当に関係ないですね・苦笑)


では、《続きを読む》からどうぞ、進んでやって下さいませ☆



***************



「咳の音がいつもと違うんだ」
家主が言った。

幾分か早い時間に起こされて、ピアスが聞いた第一声がそれだった。
家主は、腕に“みぃ”を抱いていた。頬を赤くして眠っている。

昨夜、“みぃ”は熱を出した。
それ自体は、さほどめずらしいことではなかった。

全力で遊んで、全力で食べて、全力で眠りにつく。
幼い子どもはこうして、信じられないほどの体力で日々を過ごし、
時々、その全力が振り切れすぎたせいか、急な熱を出す。
よくあることだ。

だから、まだ暑いこの時期に、毎日走り回って遊んでいる“みぃ”が熱を出すのも
初めてのことではなかったし、
それほど驚くことでも、
ちゃんと熱を出し切ってやって、冷やすべきところを冷やしてやって、
水分不足と、食事にさせ気をつけて看病してやれる限りは、それほど心配をするほどのことでもなかった。

けれどこの朝、家主は
いつもは見せない、少し、不安げな表情をつくっていた。

咳の音が違う、と、家主は言った。

ピアスにも、やがて起きて来た“のっぽ”にも、
その音の違いを聞き分けることはできなかった。
だから初めは「ヒナタの気にし過ぎだろう」とも思ったのだけれど、
けれどこの家主は、異様に、耳がいいのだ。

時々頼まれるという、ここに越して来てから始めた楽器の調律の仕事は、
おそろしく正確な腕を持っていると、すでに密かな噂にもなっているらしいし、
外で吹く風の音を聞くだけで天気の変化をあてることもあったし、
この森に誰かが足を踏み入れた時、
いつも誰よりも早く気付くのが、この家主なのだ。

だからその家主が「いつもと違う音だ」というのなら、
おそらくそうなのだろうし、
自分たちには聞こえない以上、
それを心配だという家主の感触は尊重してもいいだろうと思えた。

たぶん大丈夫だろうけど、と言いながら、
けれど家主はこの朝中に、街の医者のところまで“みぃ”を連れて行くと言って、
早々に家を出発することとなった。


「おれも行く」と、出かかった言葉を、
ピアスはけれど、飲み込んだ。
自分にはそれができない、ということを、ピアスはよくわかっていた。

ピアスが“ペリドット”ではなくなってから、もう2年ほどの時間が経っていた。
けれどまだ、彼には制限がつけられている。

この森を出てすぐの町であれば、問題はない。許された範囲だ。
けれどヒナタが“みぃ”を連れて行くのは、医者の住んでいる、そのさらに先の街だ。
ピアスが自由に動くことを、許可された場所ではなかった。

ヒナタも、“のっぽ”も、知っていた。
ピアスが、ことさら“みぃ”を大切にしていること。
溺愛していると言っていい。
いつもはツンツンとして、どこかイライラした空気を持ったピアスだが、
“みぃ”の前でだけは、まるで別人のような顔を見せていた。
だから、街の医者の元に連れて行く必要があるような状態の“みぃ”に本当は、ついていてやりたいだろう。

わかっていても、どうにかしてやりたくても、
どうにもできないこともある。
ピアスが街に姿を見せることは、まだ安全だとは、言いきれない。
ピアス自身の安全に関わることだったから、
ヒナタも“のっぽ”も、何も言えなかった。
ピアスも、2人のその気持ちをもわかっていたから、ワガママを言うことがないのだ。

「……じゃああと、たのんだ。」

「おう」「わかりました」
ピアスと“のっぽ”の両方が応えた。
家主は少しだけ微笑んでから、“みぃ”をしっかりと背負って、家を出た。

パタン、と静かに扉が閉まって、
ピアスと“のっぽ”の2人が、取り残された。
どちらからともなく顔を見合わせて、
そう言えば、自分たちだけでこの家に残されるのってレアだよな、と
お互いに、思っていた。



***************



“のっぽ”がこの家にやってきたのは、
家主とピアスが、街のアパートを引き払った冬の日からもうすぐ1年が経とうとしている、
穏やかな秋の日のことだった。

森の中に足を踏み入れた彼の存在に最初に気付いたのは、当然、家主だった。
覚えのない気配で、
何か意志を持って近づいてくる存在で、
けれど、妙に「緩い」気配を持っていた彼。
滅多に人の訪れることのない自分たちの家に向かってくる「よくわからない」存在を、
最初家主も、当然ピアスも、警戒していた。

けれど丁寧なノックのあとにあらわれた“のっぽ”は、
うすく開かれたドアの隙間からピアスの姿を見つけてみせて、
「あぁぁ~~~いたぁぁぁぁぁ~~~」と、
どこまでも力の抜けるような声を出して、
そのまま、警戒していたはずの家主がおもわず背をさすってやりたくなるような泣きそうな顔になって見せた。
そして、
「え、……あ、うわっ!」
ピアスのこともひどく、驚かせた。

特に怯えるでも身構えるでもなく、
驚きながらも、どことなく懐かしい表情をつくったピアスを見て家主は、
“のっぽ”がピアスの知人であることを見て取って、
彼を、家にあげたのだった。


「おれが住んでた街の、食堂で働いてた人だよ」
ピアスは家主に、そう、簡単に説明した。

ピアスがまだ「仕事」をして生活していたころ、よく、顔を出していた食堂で働いていた男だった。
名前は知らなかったし、自分も名乗ったこともなかったと、ピアスは言った。
特段、仲が良かったわけでもない。
ただ、1度だけピアスは、彼を「頼った」ことがあった。
自分の「仕事」に疑問を持ち、自分の感覚や考え方に疑問を持った時に、
この男に、自分のことを話したことがあった。

“のっぽ”のことは、客として時々見ている限りでも、
特に、頼りになる男だと感じたことはなかった。
どちらかと言えば大して仕事の手際のよくない、
背が高いことだけが取り柄の男だとさえ、思っていた。

ただ、話し口や客への対応やその所作から、
おそらく、「人のいい」ヤツなのだろうとは思っていた。
口下手そうでもあったし、だからどちらかと言えば、口は堅いほうだろうとも思っていた。
でも、その程度だった。
特に仲がいいわけでもない、その程度の人間だったからこそ、
ピアスは「頼る」ことができたのだとも言える。

「……」

でも、だからわからなかった。
その男がなぜ、この家に来たのだろう。

“ペリドット”としてのピアスの死は、随分としっかりと、
特に、当時彼の住んでいた街の人間には知らされていた。
“ペリドット”がどんな「仕事」をしていたのかも詳しく説明され、
だから、そのいざこざに巻き込まれてしまったのだと、
街の住民はみんな、理解していたはずだった。
それなのに、なぜ。

「あぁぼく、頭、悪いので。」

大して恐縮する風も無く、
むしろ笑顔で、“のっぽ”は言った。

警衛士から、“ペリドット”の死もその理由も、何回も説明されたのだけれど。
「だってなんだか、信じられなくて。」

突然の死が信じられない。
その気持ちは、抱いて当然のものだった。
けれどそれでも、いつかは折り合いをつけ、
もしくは、何か別の対象にその感情を転嫁したり、
折り合いがつかないながらも日々の生活を重ねることで、
人によっては、途方もなく長い時間のかかるものではあるのだけれど、
なんとか、「もう2度と会えない」ことに慣れていく。

多くの場合と同じ、そういうものとして
“ペリドット”の死も、扱われるはずだった。

けれど“のっぽ”は
「そうやってうまく整理をつけられるほど、ぼく、頭良くないんです」
と言った。


“のっぽ”の頭が、どれだけいいのか悪いのかはわからなかったけれど、
おそらく「まっすぐすぎたのだろう」と家主は考えた。

深く考えることもなく、
悲しみを否定する気持ちからでもなく、
ただ「死んだなんて信じられない」自分の気持ちに正直になって、
その気持ちのままに“のっぽ”は、“ペリドット”の消息を探しはじめた。
それこそ、初めて人の死に触れた子どものように。

そんな子どもであれば、おそらく多くの場合は、
周囲の人間がその子を諭しただろう。
けれど、もう子どもとは到底呼べないだろう年齢を重ねていた“のっぽ”に、
今さらそれを諭してくれる大人は、いなかった。

(この年齢まで、この人間はどうやって育てられて来たのだろう)
家主は不思議に思ったけれど、深く追求することはしなかった。
自分だって、人のことを言えるほど「一般的」な育ち方をしてきたわけではなかったし、
“のっぽ”のまっすぐさは、周囲の人間に気持ち良さを感じさせる類いのモノだった。
ヘタに「否定」のような言葉をぶつけたくはなかったのだ。


ともかく、
自分の「本当は死んでないのではないか?」という気持ちに正直に、アレコレし始めた“のっぽ”は、
少しずつ捜索の手を伸ばして、
ついに、この家にまでやって来てしまった。

“ペリドット”の情報は、完全に、警衛士によって作られ、制御されている。
けれど、
「そう言えばあの日、それくらいの年の子見たよ」とか
「そう言えばいつだったか、それくらいの年の子の声を聞いた」とか
「言われてみれば、似た特徴の子を見かけたことがある気がする」とか
そういった、曖昧な情報に関しては、さすがに、止めることはできずにいた。

それでも半年、“ペリドット”は一歩も、アパートからは足を出していないし、
その後、街に姿を見せたのは、
この森に初めて足を踏み入れた日の早朝と、
荷物を運ぶために行き来をした、これもやはり早朝だったり深夜だったりの時間だけだ。

だから、ピアスに辿り着く手がかりなんて、ほぼ、皆無と言ってもよかった。

“のっぽ”が手にすることができたのは、
真偽の程も定かではない、噂話ばかりだった。
だから当然、そのほとんどは空振りの結果に終わっただろうし、
真実、ピアスを示したものであったとしても、残されたうわさ話なんて断片的だったはずで、
到底、本当に辿り着けるようなものではなかったはずだった。

相当の手間と、時間と、運の良さがなければ。
いや、それらに恵まれていたとしても。
まさか本当に辿り着けるとは、家主にもピアスにも、全く思えなかった。
しかもこんな、動きも思考もゆっくりな男に。

だから、本当はどこかから、何かピアスに関して重要な情報がもれてしまっているのではないかと、
家主もピアスも、不安になった。
そうなれば、当時ピアスを狙っていた人間がこの森を嗅ぎ付けてくるのも時間の問題だ。
だから2人は、しつこく、“のっぽ”を問いただした。

けれど結局わかったのは、
「“のっぽ”はどうやら、探し物の天才なのだ」ということだけだった。

お隣のおばあちゃんの眼鏡から、
どこにでもいる三毛猫の捜索、
池の中に落としてしまったガラス玉まで。

「ヒナタは耳がいい」のと同じくらい、
たしかに、授けられた才能だった。


そう結論づけた後、
家主は丁寧に、あらためて“のっぽ”の訪問を迎え入れてやって、
それから数日、この家に泊まって行くようにと提案した。
ピアスを探すために食堂の仕事を辞めてしまっていて、
時々の「行く先々にある食堂のお手伝い」程度でしか金銭を得ていなかった“のっぽ”には、
宿代を浮かせられるのは、ありがたい話しだった。
だから“のっぽ”は二つ返事で、笑顔で、了承した。

一方、申し出た家主とピアスとは、混乱していた。
だって、警衛士が周到に隠していたはずの“ペリドット”の元に、
こんなに緩い人間が辿り着いてしまったのだ。
この事態を報告しないわけにはいかない。
そのこともあって家主は、“のっぽ”に数日の滞在を申し出たのだ。


ともかく、それが、“のっぽ”が一緒に住むようになったキッカケの出来事だった。



***************



「ピアス、お肉、食べたくないですか?」
不思議な思いで“のっぽ”のことを考えていたピアスに、その本人が、声をかけた。

“みぃ”と家主が出かけて、
朝食はパンとあまりものの野菜炒めを温めなおしただけのものですませてしまっていたのだけれど、
“みぃ”の体調のことを考えたり、
“のっぽ”が意味のわからない才能でこの家にやって来たときのことを思い出したりしているうちに、
どうやら時間はもう、正午を少し過ぎていたようだった。

ぼーっと考えながらも、家事に関してはしっかりと手を動かしていたから、
そういえば、お腹も空いてきている。

「あぁ……食べたい、かも。」

家主であるヒナタは、少し、食が細い。
だから、あまり胃に重いものは好まなかったし、
“みぃ”はやわらかい食感のものが好きだ。
そのためこの家では、あまりストレートに“がっつりした肉料理”が出てくることがない。
文句を言うほどのことでもない、とは思っていたし、
そもそもピアスは食事に関して文句を言うような、
自分がそんな甘え方をすることを許さなかったのだけれど、
実際は、そう少なくない頻度で、物足りない腹心地にもなっていたのだ。

そうか、家主も“みぃ”もいないということは今日は、
“がっつりした肉料理”を食べるチャンスなのだ。

「じゃあ、作りましょう!」

ハリキって言う“のっぽ”に誘われるままにピアスは、
いつもは家主の立つキッチンに向かった。
“のっぽ”が調味料を合わせている間に、ピアスは鶏肉を火にかける。
皮から油がしみ出して、多すぎるものは、時々取り除いてやる。

こうして並んでみると、“のっぽ”は本当に背が高い。
2メートル近くあるのではないだろうか。

「……」

“のっぽ”は鼻歌まじりで作業をしているが、ピアスの方は無言で、考えていた。
おそらくこの家で、一番不思議で奇妙な人間なのは、
実は、この“のっぽ”だ。
ピアスは、そう思っていた。


詳しくは訊いていないけれど、
どう考えても普通の人間離れした耳の良さを持つ家主は、
その外見と耳の良さを差し引いてもまだ、どこか「違った」空気を持っている。
半年もの時間を同じアパートで過ごし、
一緒にこの家を作り上げ、もう2年以上の時を過ごしているけれど、
ピアスはいつも、「自分は家主のことを何も知らないのだ」と感じている。
どうしてか、
深い溝のような、しっかりとした氷の膜のような「仕切」を感じるのだ。

“みぃ”だって、変わっている。
厳しい真冬の寒空の下に、“みぃ”は取り残されていた。
その事実から「捨てられた」ことは間違いない、と言えるのだろうけれど、
それにしては、
薄汚れていたとは言え、包まれていた毛布は祖末なものではなかったし、
“みぃ”の性格は素直で、まっすぐだ。
だから、保護者に疎まれていたのではないはずだと思えたし、
それなのに彼女は、
自分を捨てた親を思って泣く、ということがない。
彼女の年齢を思えばそれは、あり得ないことだった。
ちなみに“のっぽ”が“みぃ”を拾った場所やその周辺の町などでは、
“みぃ”の保護者の捜索は続けられているのだけれど、
一向に手がかりはつかめなかった。

家主と“みぃ”の「よくわからない」感じに比べれば、
自分のかつての家族が病んでいたことだって、
自分が後ろ暗い仕事をしていたことだって、
その後、かつての自分を殺して、新しい名前で生まれなおしたことだって、
なんだか、単純なことのような気がしてくる。

鶏肉を時々ひっくり返して、うまく両面に焦げ目を付けながら、ピアスはそんなことを考えていた。

「投入しま~す!」

作っていた調味料を肉の上にかけながら、
ニコニコと、“のっぽ”は言った。

家主を筆頭に、“みぃ”と、自分。
一見、一番「普通」であるはずの“のっぽ”。
「普通」であるが故に、彼の存在が一番、不思議だ。
また鼻歌を歌いだした“のっぽ”を、
ピアスはつい、凝視する。

「?」

そのピアスに気付いて“のっぽ”は、「どうしました?」と訊いてくる。

「……“のっぽ”はどうして、この家で住もうと思ったんだ?」



初めて“のっぽ”がやってきた後。
家主が事情を報告した先の警衛士たちが、この家に押し掛けて来たことがあった。
後で家主に聞いたところでは、
少なくとも、下っ端とは呼べない地位の者たちであったという。
家主よりも10以上、年を重ねているような者ばかりだった。

慇懃無礼な様子で警衛士たちは“のっぽ”を尋問し、
言葉にはしなかったけれどその時彼は、随分、イヤな思いをしたはずだった。
やってきた警衛士たちは、多くの警衛士たちがそうであるのと同じように、
まるで自分たちは「一般市民」よりも偉いのだとでも言いたそうな空気を崩さなかったし、
あまり頭の回転の早くない“のっぽ”を、明らかに見下してもいた。


かつて同じ組織で働いていたはずの家主に対しても彼らは、
厳しい視線を向けていた。
家主はそのことに対しては何も言わず、
投げ返す視線や表情は柔らかなものではなかったけれど、丁寧な態度は崩さなかった。


結論として、
“のっぽ”が本当に、頼りないうわさ話ばかりを手がかりにしてここに辿り着いたのだ、という話は
形式的には受け入れられた。
けれど、やってきた警衛士たちは「自分たちの仕事は疑うことだ」と言わんばかりに、
“のっぽ”にはしばらく、監視を付けると言いだした。
町の生活で野放しにしておくのは危険な人物である恐れがある、と彼らは言った。
見下した視線を隠しもしていないくせに、そう言ったのだ。

それにはさすがに家主も目つきを鋭くし、ピアスも食って掛かった。
“のっぽ”が悪行を疑われ、監視を受けるいわれなど、どこにもなかったのだから。

そうして言い争いを始めた両者をしばらくおろおろと眺めてから、
「あの、」と“のっぽ”は小さな声を出した。
視線は家主に向けられていた。

振り向いた家主に、“のっぽ”は言った。

「あの、……もしご迷惑でなかったらぼくのこと、この家に置いてくれませんか?」


「え、」と家主が一瞬、言葉につまった。
警衛士たちは「は?」と、相変わらず見下した視線で“のっぽ”に向き直った。

「あのぼく、お手伝いだったらなんでもしますし、仕事だって探しますけどでも、今、
 あんまりお金、持ってなくて。
 前の家も引き払っちゃってるから、宿代がいっぱいかかると、ちょっとキツイし……。
 それに、警衛士さんたちが言うように、町の中にぼくがいるのが心配なんだったら、
 じゃあここだったらいいんじゃないかなぁなんて思ったりもして……えと……」

ど、どうでしょう。
不安気な笑顔を作って小さな声で言った“のっぽ”の提案は、
けれど、採用された。

「やっかいなのがまとまって引っ込んでてくれるなら、願っても無い」と
驚くことに、本当に、警衛士たちは言い捨てて行った。
家主もピアスも、そのあからさまな物の言い様に、返す言葉もなかったものだ。



あの時、“のっぽ”は宿代も浮かせたいと思うほど、金を持っていなかった。
これは本当だろう。
町中じゃないなら警衛士たちも満足する。
それが頭の中にあったのも本当だろう。
けれどそれでもどうして、“のっぽ”はあんなことを言いだしたのか。
ピアスには不思議だった。

“のっぽ”には、元の町に残してきた家族があった。
妹と、少し年齢のいった両親と。
ピアスを見つけたその後は、最初の予定ではまた町に帰るつもりであったようだし、
町にはおそらく、少なくはない数の友人もいたはずだった。

“のっぽ”にとって家主は「見知らぬなんか変わった人間」だったはずだし、
ピアスのことだって、「店で何度か見たことあるだけの人間」だ。

それなのに、なぜ、あんなことを言ったのだろうか。

「なんつーか、別にもちろん、イヤ、とかじゃなくって……
 ただ、ずっと不思議だったっつーか、……」

言いながら調理の手を止めてしまったピアスからフライパンを引き受けて“のっぽ”は、
不器用な動きながらも調味料がちゃんと肉にからまっていることを確かめ、
しっかりと火が通っていることも確かめてから、
丼に、山にならないギリギリまでよそったご飯の上に、それをとりわけ始めた。

とりあえず席について~と笑顔で言って、ピアスをテーブルに導いてから、
“のっぽ”が丼を運んでくる。
それから、丼の上のあたたかい鶏肉をめがけて、きざみのりをまぶした。
あ、忘れてた、と言いながら、
冷やしていた麦茶をピアスの分も、注いでくれる。

その様子をピアスは、やはり不思議な気持ちで、
なんとなく無言で、見つめていた。

バタバタと麦茶を用意し終えてからピアスの正面の席につくと、
“のっぽ”は言った。

「……知りたいですか?」

ピアスは少し緊張して、頷いた。
丼の上にまぶしたきざみのりは、さっそく、しなしなになってきている。

「……今はまだ、内緒、です。」
「は?」

それだけ言うと“のっぽ”は、
いただきまぁすと、へろっとした声で言うと、さっさと食べはじめてしまった。

「え、なに? 何か隠さなきゃいけない理由とかあんのかよ?」

いえ別に、と、“のっぽ”は小さい目をクリクリさせながら答える。

けれど、じゃあ、と言うピアスに

「秘密じゃないけどでも、ちょっとだけ、言いにくくて。
 話す時は少しだけ、心の準備みたいなもの、したくて。
 だから、今日のところは内緒、じゃ、ダメですか?」

と“のっぽ”は、鶏肉を口に頬張りながら、
大きな背中を少し小さく丸めて言う。

(内緒? 心の準備?)

この、あまり何も考えてなさそうな、
秘密なんてものからは縁遠そうにまっすぐな“のっぽ”に?

ピアスはますます、やっぱり一番「普通」に見える“のっぽ”が一番不思議な人間だと思いつつ、
けれど「普通」の人間だって、内緒だったり言いづらいことだったりのいくつかは
当然のように持っているものなのかもしれない、とも考える。

わからなかった。
そもそも、こうしていろんな人間を知ってみてピアスは、
最近はむしろ自分こそ「普通」なのではないかと思いはじめている。

「普通」かもしれない自分にだって、言えないことがあるのだ。
「普通に見せかけて普通じゃないかもしれない」“のっぽ”には、
もしかしたら自分以上に、そういったことが多いのかもしない。

ぽろぽろと、のりやらご飯粒やらを時々こぼしながら何だか一生懸命に、
けれどゆっくり食事を進める”のっぽ”。

不思議なヤツだと思うけれど、
別に不思議なままでも一緒に生活して、
一緒に会話をして、一緒に遊んだり、楽しんだりすることはできる。

(じゃあまぁ、いいか。)

少なくとも、今はまだ。


思いながら麦茶を一気に飲み干すと、ピアスも食事に手をつけはじめた。
ジュッと汁の染み出たご飯はやっぱり美味しくて、
“のっぽ”と目を合わせて、つい、笑顔を浮かべてしまう。
そんな単純に笑顔を作ってしまったことが恥ずかしくてピアスはすぐに目をそらすのだけれど、
“のっぽ”はかまわず、「おいしいですねぇ~」と声をかけてくる。

(……はやく“みぃ”とヒナタも帰ってくればいいのに)

不思議を解明することよりも、
そう思える状況を維持することの方が、ピアスには大切だった。

自分の中のそんな気持ちを再確認しながら、
ピアスは箸を進めるのだった。



(to be continued...)


===============

《照り鳥丼》 ※2人分
 ・ご飯 2膳分
 ・鶏もも肉 1枚
 ・日本酒 お玉で半分くらい
 ・醤油 お玉で4分の1くらい
 ・みりん お玉で4分の1くらい
 ・砂糖 お好みでスプーン1~2杯くらい
 ・きざみのり お好みで
 ・胡椒 お好みで

1、日本酒、醤油、砂糖をまぜておく
2、鶏もも肉の皮に切り込みを入れる(大胆な感じで!)
3、鶏もも肉を、皮を下にして弱火でじっくり焼く。
 ※油はいりません!
  むしろ溢れるので、ティッシュとかキッチンペーパーで適宜ふきとります。
4、焦げ目がイイ感じになったら、ひっくり返して焼く。
 ※うまく火が通らなかったので、私はここでフタして、蒸すイメージで火を通しました^^;
5、肉に火が通ったら、「1」をからめて焼く。
6、みりんでちょっと照りを出す。お好みの量の胡椒を振る。
7、焼けたら、食べやすい大きさに切った肉をご飯に盛る。
  さらにお好みで、きざみのりをまぶす。

これで、できあがりです*^^*
途中で胡椒を振るのをやめて、丼に持ってからゆず胡椒で食べた方がうまかったかも、と
今さらながらに思っています。
(未実践です、誰かやってみてイイ感じだったら教えて下さい☆)

===============

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comment

  1. 2010/09/05(日) 16:10:03 |
  2. URL |
  3. tama
  4. [ 編集 ]
こんにちは!
久しぶりのブログめぐりで早速ハミングライフにお目にかかれるとは何という僥倖vv
実はのっぽの隠れファンであった自分にとって今回のお話は本当に嬉しい内容でした。
ああ~のっぽ!期待を裏切らずなんていい人なんですかのっぽ!!
ツンツンしてるピアスといいコンビだなぁ~って思いました。
私もヒナタのうちで4人と暮らしてみたい!(←
照り鳥丼もおいしうで涎がー(ジュルリ
今回もご馳走様でしたvv

Re: tamaさん

  1. 2010/09/05(日) 22:00:59 |
  2. URL |
  3. [ 編集 ]
tamaさぁん、こんばんは☆
お久しぶりです*^^*
久しぶりすぎて文章がなんか全然書けなくて、実はドキドキしてます。笑
いらして下さって、嬉しいです!

> のっぽ
あぁ、嬉しいです♪
ピアスの成長期はゆっくりなようなので……身長差を想像すると自分でも楽しいですwww
そう言えば私、元祖のっぽさんファンなので、
心して書かねばなりませんね・m・!

> 照り鳥丼
うまいです!
とりあえず手順無視して、焼いて調味料かけてまた焼けばそれで完成なので、
実際は記事で書いているイメージよりもラクラクだと思います。笑
オススメです*^^*

おそまつさまでした☆

  1. 2010/09/05(日) 23:03:12 |
  2. URL |
  3. 遠野亨聿
  4. [ 編集 ]
こんにちは、こちらではお久しぶりです!

いやぁ、美味しそう!!
すぐに作ってみたくなりますね、これは…。

のっぽは、結構不思議なキャラクターですね。
どういった事情なのか、凄く気になります…><

  1. 2010/09/05(日) 23:42:05 |
  2. URL |
  3. ゆさ
  4. [ 編集 ]
うわあぁぁい春さん!お待ちしておりました☆

のっぽの人柄が少しずつ明らかに!彼も大変な時期があったんですね…。
大きい体におおらかな性格だなんて本当にツボだー☆
わたしのっぽの誰かに語りかけるような口調がもう大好きなんです(*^ ^*)。
今回もじっくり読ませていただきました~照り鳥丼もご馳走様ですvvv

そした『獣の奏者 刹那』を早くもゲットされたのですね~。
わたしも読まねば!

初めまして

  1. 2010/09/06(月) 00:16:21 |
  2. URL |
  3. Me
  4. [ 編集 ]
足跡から参りました。
ご訪問有難うございます。

ゆさちゃんとお友達なのですね^^
ブログには掲載して居りませんが
昔二次創作をしていた事があるので
楽しく拝見致しました。

読んでいて不思議と胸が暖かくなりました。

また伺わせて頂きます。

Re: ゆささん

  1. 2010/09/06(月) 00:19:17 |
  2. URL |
  3. [ 編集 ]
ゆささん、こんばんは☆

> のっぽ
ツボ!
嬉しいです~ありがとうございます*^^*
小さい体にあまりおおらかではない性格の私には、彼は、未知です。。。
ツボって頂いて嬉しいです☆

> 『獣の奏者 刹那』
じ、実は……
サイン会に行きたくて、予約しました*> <*
人生初のサイン会です!@池袋
夫の●●●目線が新鮮で、内容自体も新鮮なのですが、
やっぱり、誠実で密度の濃い、ステキな文章がぎゅっとつまっていて……
ステキな作品でしたよ~っ*^^*♪

コメント、ありがとうございました☆☆

Re: Meさま

  1. 2010/09/06(月) 00:28:14 |
  2. URL |
  3. [ 編集 ]
はじめまして、Meさま!
いえいえ、こちらこそ、ご訪問ありがとうございました*^^*

Meさまの、絵?写真?
ステキです!!
まだ2ページほどしか潜っていないのですが、ちょっとしっかり時間をとって、
じーーーっくり拝見したいと思っています^^;
(お邪魔します!!)

> ゆさちゃんとお友達なのですね^^
ゆささんのファンです☆
ゆささんの文章も写真も大好きで、以前イラストを頂いてからは
イラストのファンでもあるのです!!←もはや大ファンですね。笑
(作品一覧の下のほうから、頂いた絵を載せた記事一覧がありますので、ゆささまの絵を、ぜひ☆)

> 昔二次創作をしていた事があるので
文章も書いてらしたなんて、ステキです!
二次、難しそうです……。

> 読んでいて不思議と胸が暖かくなりました。
ひゃぁぁぁ
嬉しいです。恐縮です。ありがとうございます*> <*
はい、またぜひ、いらして頂けると嬉しいです☆

コメント、ありがとうございました*^^*♪

Re: 遠野亨聿 さま

  1. 2010/09/06(月) 08:32:45 |
  2. URL |
  3. [ 編集 ]
遠野さぁ~~~んコメント、ありがとうございます☆
はい、こちらではお久しぶりです*^^*

> すぐに作ってみたくなりますね、これは…。
う、うまく書けなかったですが、
本当に文章で見るよりもすぐ、簡単に、できるので、
ぜひ*^^*

> のっぽ
のっぽ、好きなのですが、書きにくいです・v・
文章書く時、このブログでは
大体無計画に書き進めて行ってしまうのですが、(←ダメ)
今回のっぽ氏が出てきてくれたおかげで、ちょっと話を進められそうです。
やっと道筋が見えてきました^^♪

遠野さま、コメントありがとうございましたっ☆

  1. 2010/09/06(月) 21:41:15 |
  2. URL |
  3. びたみん
  4. [ 編集 ]
こんにちは!
春さんの小説が久しぶりに見れてテンションあがりまくりです!!!うふふふふっ
のっぽがあまりに可愛くてのたうちまわりそうです。
そうかのっぽさんにはそんな素敵で不思議な才能が・・・。
そして相変わらず私はヒナタさんのことが好きすぎます。
みぃちゃんも心配だぁ~早く帰ってきて~~っ

Re: びたみんさん

  1. 2010/09/07(火) 02:11:55 |
  2. URL |
  3. [ 編集 ]
びたみんさん、こんばんはー!!
私こそ、いつもいつもいつもいつも、びたみんさんの作品には
テンションうなぎのぼりさせて頂いております。ふへへへへへっ☆

> のっぽ
彼、驚くくらい書きにくいです。が、がんばります。
少しがんばってもらわねば・v・

> ヒナタ
あああありがとうございます!!
……でもこっちでは、ヒナちゃんは主役にはなれない宿命(の予定)です・v・

コメント、ありがとうございました☆☆

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