旅の空でいつか

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記憶・2 /豚肉と白菜とにんにくのスープ

  1. 2010/07/16(金) 11:41:33|
  2. ★完結★ 『ハミングライフ』シリーズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:10
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一つ前の話はコチラです

『ハミングライフ』シリーズ。
初の前後編。

まぁ……単に短くおさめられなかっただけ、っていうね。

今日のメニューは、
●豚肉と白菜とにんにくのスープ
です*^^*
レシピ収録。
クーラーの下を推奨です。


一つ前の話はコチラです


ではでは、
《続きを読む》から、どうぞ☆

***************



やっていける。もう、ひとりでも。
それがペリドットの自信で、
それを初めて実感したときは、嬉しくて、左耳にピアスをあけた。
それは、自分に対する約束のようなものだった。

自分はもうやっていけるのだ、それを忘れるな、と。
そのためのピアスだった。

けれど、そうして住処や食事に困らなくなると、
ペリドットには今度は、いろいろなモノが見えて来てしまった。

自分の家族が、やはり少し、病んでいたのだ、ということ。
けれどそんなのは、大してめずらしい話でもなかったのだ、ということ。
そうではない世界もたしかに、存在はしているのだ、ということ。
明るいところを堂々と歩いていく、そんな世界で
自分と同じような境遇でも、たしかに、生活しているモノもいるのだということ。


やがて、自分を気にかけてくれる存在ができた。
その誰とも、深い付き合いではなかった。
けれど、
買いものに行くたびに声をかけてくれたり、
おかずの残りをわけてくれたりした。
それはペリドットの知らない文化だったけれど、
そんな人間たちのマネをしてみたら、相手からは随分と喜ばれた。

喜ばれて、嬉しかった。

だからペリドットは、次第に、迷うようになった。
自分のしている仕事のことだ。

迷って、考えて、けれど答えは出なかった。

褒められた仕事じゃない、ということはわかっていた。
けれど自分が今こうして生活していられるのは、その仕事のおかげだ。
それに、
辞めたい、と思ったからといって
すぐに辞められるような仕事ではないこともわかっていた。

だから、すぐにその仕事を投げ出すようなこともしなかった。
けれど一度うまれた「自分のしていること」への違和感は消えることはなく、
完全に押さえつけておく事も、無視しておくことも、
もう、できなかった。

ペリドット自身がそれに耐えきれなくなるまで、
そう、時間はかからなかった。


そしてある時、
それを抱えておく事に耐えられなくなったペリドットは
時々訪れる食堂の、下働きの男にそれを話した。

並外れて長身のその男とは、特に親しかったというわけではない。
ただ、いつもノロマなこの男がとても誠実な人間だということは
男の所作や雰囲気からわかっていたし、
だから、自分の話したことがこの男からどこかに漏れることもないだろうと思った。


食堂が終わるのを待って、待ち伏せた夜の道で、
歩きながら、小さな声で、ペリドットは話した。

感情的に話しても、何の解決にもならない。
そう思っていたから、つとめて事務的に、端的に話した。
アドバイスを期待していたわけでもなかった。
ただ、感想だとか思った事だとかを聞ければよかった。
他人の感覚、というものを知りたかったのだ。確認したかったのだ。

「普通の世界」に生きる人間の反応が見たかった。
自分の感覚にはもう、あまり自信を持てなくなっていたから。

怒るとか、怖がるとか、もしくは、汚いものを見るような目だとか。
今までに経験してきた、
長く曝されて来た、そんな視線が送られるだろうと思っていた。
その覚悟はしていた。

けれど話し終わって男を見てみれば、
男はひどく、悲しそうな顔をしていた。
泣きそうな顔だ。

「……っ」

男は、何も言わなかった。
同情でもなかった。
ただ、悲しそうだった。
ペリドットは、言葉も忘れて、その場から逃げ出した。
だって、そんな顔をされるなんて、思ってもいなかったから。


その夜からペリドットは、
次第に、仕事を断るようになっていった。
そのうちに仕事の依頼が
向こうから勝手に来ないようになればいいのにと、
そんなこと叶う事もないだろうと知っていながら、けれどずっと、思っていた。

もちろん、その願いは通じることはなく、
ある日、いつも依頼を持ってくる男から
「この仕事を辞める気なのか」と、尋ねられることとなった。
ウソはつけなかった。ついたところで、なにも変わらないことはわかっていたから。
だから一言で「そうだ」と答えれば、
その男はあっさりと「それならコレを」とひとつの荷物を差し出した。
それを最後の仕事にしてやると、その男は言った。


それでペリドットはその夜、身支度を整えた。

簡単に抜けられる世界でないことは、わかっていた。
この荷物を渡す道の途中で、
つまり今夜、おそらく自分は、狙われるだろう。

住居を構えてから、気づけば荷物は増えていた。
けれど、かつて、家を出た時同様、
やはり何かを持ってその部屋を出ることはできなかった。
今夜はだって、身軽でなければいけないから。

自分のような人間が、今さら警衛士に助けを求めることなどはできないと、
それはわかっていた。
自分に優しくしてくれた町の人間にも、頼れない。
迷惑はかけられないし、
どのみち、
自分を狙うだろう人間たちから身を守るだけの力を、町の人間たちは持っていないだろうから。

だから、自分はただ、逃げ続ける事しかできないのだ。
身を潜ませて、見つからないように。



***************



そしてその夜、思った通り、彼は狙われた。
自分を追うことだけに相手が集中しないよう、
警衛士の連中をあおっておいて、町の至る所で巡回させた。
追っ手と警衛士との両方から逃れるのは、自分にとっても大変なことではあったのだけれど、
追っ手よりも町のことをよく知っている自分の方が、あきらかに有利だった。
逃げる途中で面倒なケガもしたけれど、
それでも大丈夫なはずだと、ペリドットは踏んでいた。

けれどこの夜、ペリドットの計画通りにコトが運ぶ事はなかった。

追っ手でもない、警衛士でもない、
なんだかよくわからない人間に見つかってペリドットは、
計画通りに町を抜けることができなかった。
勝手を知り尽くしているはずの裏道で、
自分の背後にはもう壁しかない、というところまで、その人間に追いつめられた。

目深にフードをかぶったその人間は、
ひどく優しい声で、ペリドットに「選べ」と言った。
自分についてくるか、警衛士につかまるか、追っ手につかまるか。

どの選択肢も選べなかった。
警衛士につかまることは自分の存在の終わりを意味していたし、
追っ手に捕まれば、そのまま命の終わりを意味していた。
けれど、目の前に突然あらわれたその人物を信じられるはずもない。

だからペリドットは抵抗したのだけれど、
結局その抵抗は叶わなかった。
その人物は、笑顔ですらあった。

ケガをした肩の傷口をえぐられて、
それから腹を蹴り上げられて。
それがみぞおちに綺麗に入ったせいで気を失って。

……それで、終わりだった。



***************



ペリドットが気づいたのは、
気を失ってから、なんと、20時間も後のことだった。

目覚めたペリドットの目の前にいたのが、
今のこの、料理好きの家主だった。

目覚めたばかりでふらふらしているペリドットに水を渡すと、
やがて家主となるその男は、ペリドットに再び、言った。
選べ、と。
ただしいずれの道を選んでもペリドットは死ぬことになるだろうと、その男は言った。

死神のような男だと、ペリドットは思った。

町中の、あの路地裏でかぶっていたはずのフードを脱いだその男は、
ひどく美しかった。
髪の金色が光をはじいて、深い目の青には吸い込まれそうになる。
おそろしい男だと、思った。
そして、まるで人間じゃないみたいなその顔で、
いずれにしても自分は死ぬことになると、言っているのだ。
死神のようだとしか思えない。

何も答えられずに黙っているペリドットを置いて、
男は部屋を出て行った。
ドアに鍵はかかっていない。
拘束されているわけでもない。

だからペリドットには、
その場から逃げようと思えば、そうすることもできた。
けれどどこにも、自分の逃げ出せる場などないのだということを、彼はよく理解してもいた。
自分が気を失っていた間に、
おそらく、自分を追っていた人間たちはもう、しっかりとした網を作り上げたはずだった。
その網の目をかいくぐって逃げ出すことは難しいだろう。

どうしたものかと途方に暮れていると、
しばらくして、死神のような男が戻って来た。
肩の下まである髪をひとつにしばって、前髪もおでこの上でとめている。
手には、大きなスープ皿を持っている。
にんにくのにおいがした。

「ん。」

その皿が、ペリドットの前に差し出された。
勢い良くさしだされて、迷うヒマもなくペリドットは、手を出した。
薄くカットされた肉の塊がいくつも入っていて、何種類もの野菜が彩りを添えている。
にんにくと、胡椒のにおいもする。
熱い。

「とりあえずそれ食って、考えろ。」

渡されたそれを抱えながら、
けれどなかなか口をつけない自分に、男は話しはじめた。

短い話だった。

自分がほんの少し前まで、警衛士だったこと。
けれど、どうしてもやりたいことがあって、その仕事をやめたこと。
その仕事のために、もうすぐこの町を出る気でいて、
けれどその前に一度ペリドットに会いたいと思っていたのだ、ということ。

男は、もともとはこの町の人間ではなかった。
職場は都にあって、
けれど新しく始める仕事のために、数ヶ月程前から、この町に住みはじめたのだという。
やがてペリドットのことを見つけ、気になって「調べはじめた」のだと言う。

男は、ペリドットのことをよく知っていた。
彼がこの町で、どんな生活をしていたのか。
その生活のために、何をしていたのか。
それを始めたのはいつごろか。
なぜ、それを始めたのか。
それをするまでは、どこで、何をしていたか。
どうしてそのような生活をするようになったのか。

全部、全部知っていた。
最初に家を出るようになった理由だけは、男の推測だった。
その推測が合っていたわけではなかったけれど、
あながち間違っている、とも言いきれないものだった。

そこまでペリドットのことを調べたのは、
当時は、警衛士という彼の仕事柄、だったという。
だから本来であれば、
ペリドットの素性や行動を知った時点で、もっと早く「保護」しなければならなかったのだ、と。

けれどそれをしなかったのは、意味が無い、と、知っていたからだった。
だから、タイミングを図っていた。
……タイミングを掴みきれず、結局は、男が仕事を辞めた後になってしまったのだけれど。


そこまで話を聞いて、
やっとペリドットは、皿に手をつけはじめた。
まだ、随分と熱い。

ペリドットは思い出した。
今食べている物とは全然、違うけれど、
まだ、変わってしまう前の母親がかつて、自分にも
こうして何かを作ってくれることがあったこと。

店で頼むのではなくてこうして、
自分のために誰かが何かを作ってくれるなんてこと、
随分と久しぶりだった。

少しだけ胃が弱っているペリドットのために、
野菜も肉も、柔らかめに似てある。
「味どう?」
聞かれて、だから「少ししょっぱい」と素直に答えれば、
少し気まずい顔になって男は「うるさい、黙って食え」と言った。
それから、誰かに作るとか初めてだから、と、小さく言った。

スープはちゃんと、おいしかった。
だからそれを聞いて、おいしいと、まず伝えてやればよかったと思うけれど、
なんだか言いなおすのも変な気がして、そのまま黙って、最後まで食べた。

男は黙って、ペリドットが食べ負えた皿を受け取って、部屋を去ろうとした。
だからその背中に、ペリドットは声をかけた。
「おれ、あんたを選ぶよ。」
部屋のドアを開きかけた男が、振り向いた。

「……」

無言でもう一度、ペリドットが身体を起こしているベッドに近づいて、
皿はサイドテーブルにおいてイスを引き寄せると、男は言った。

「それでいいのか?
 おれを選んだら、ペリドット、お前は死ぬことになるよ。
 それで、本当に、いいのか?」

やっぱりイヤだ。
ペリドットはそうも思ったけれど、
けれどそれは顔に出さないようにして結局、黙って、うなずいた。

自分の持っている選択肢は、3つだった。
警衛士に突き出されて、「保護」されて、家に帰されるか。
このまま逃げ出して、決してそう遠くではない先に追っ手に捕まるのを待つか。
この男に、ついていくか。

死ぬ事になる、というのがどういうことなのか、
ペリドットにはよくわからなかった。
でも、
3つのどの選択肢を選んでも、自分に待ってるのは「死」だ。

どうせその答えしか待っていないのだったら、この男が一番マシだ。
ペリドットは、そう思った。

「……わかった。」

ペリドットが頷いたきり、もう何も言葉を発さないことがわかって、
男は部屋を出て行った。
一人残された部屋で、カーテンの隙間から、ペリドットは窓の外を眺めた。
もうすぐ夏だ。
今日も暑くなりそうだと思った。



***************



男の仕事は、早かった。
ペリドットが決断をしたその3日後、ペリドットは、死んだ。
社会的に。

ペリドットが逃げ出したその夜、
追っ手から逃げながら、けれど警衛士に見つかって追いつめられた彼は、
抵抗し、凶器を取り出した。
そこでもみ合いになり、その凶器はけっきょく、ペリドット自身を傷つける結果となってしまった。
病院で3日間の治療が続けられて、
けれど治療の甲斐なく、ペリドットは命を落とした。
……そう、公表された。

あの死神のような男が、
どのような手段とツテで、そのような処理をしたのか。
ペリドットにはわからなかった。
けれど、公的な意味でペリドットは、たしかに、死んだ。

物理的な意味では、生きている。
そのことを知っている者も、警衛士の中にはたしかにいるようで、
ただしそれは、一部の者だけだ。
これもどのような手段を使ったのかはわからない。
ただしペリドットは、
自分のしていた仕事の情報を洗いざらい、明け渡すことと、
この死神のような男の監視を受けるという条件のもと、
どうやら、牢に入れられることは免れたようだった。

完全に死んだものとして、扱われていた。
しばらくして、荷物を置いたままだった部屋も
警衛士によって処分され、またいくつかのものは、証拠物として押収されたと聞いた。
今その部屋は、すでに、モヌケノカラだと言う。

この数年間で少しずつ増えていった家具も、
なにもかもが、すでに彼のものではなくなっていた。
それは少し悲しかったけれど、
それよりも辛かったのは、男から、自分の住んでいたその近所の住民の話を聞いたときだった。

ペリドットの行っていた仕事のことを聞いて、
恐怖と嫌悪を感じ、
けれど彼が死んだ、ということを悲しむ住人たちも、たしかに存在していた。
それが辛かった。
そして、それも自分が今までしてきたことへの罰なのだろうと考えた。

ペリドットの生まれ育った家にも、彼の死は伝えられていた。
男は、ただその事実が伝えられた、ということだけを、ペリドットに伝えた。
だからペリドットにはわかった。
おそらく、かつて家族だったはずの人間たちは、大した反応を示さなかったのだろう。
それはわかっていた。
だって家を飛び出してから、
自分は一度だって、自分が捜索されているという情報を耳にしたことはなかったのだから。
たぶんもうかつての家族たちは、自分には、関心がないのだろう。
わかっていたから、よかった。
自分だって、
こうなった今でさえ、彼女たちに会いに行きたいとは思わない。
だから、お互い様だ。
だから、いいのだ。
そう思った。


それから半年ほどの時間をペリドットは、その部屋で過ごした。
高層にあるそのアパートの一室から出る事は許されなかった。
それは、想像以上の苦痛だった。
けれどあらゆることのほとぼりが冷めるまで、それは必要なことだった。
わかっていたから、耐えた。
男は、部屋から出られないことの苦痛を思いやってか、
いろいろと世話をやき、
アパートの中であれば、最大限、ペリドットの自由にさせてくれた。

それからペリドットは、新しい名前を得た。
新しい名前は“ピアス”だ。
死神のような男にどうしたいかと聞かれて、それでその名前は、自分で決めた。

死神のように美しい男が
「ペリドット」が死んでからは、ニックネームのようにしてそう、呼んでいた。
だから、なじみがあった、というのも理由だった。
ただそれ以上に、
そのピアスは、自分への約束としてつけた物だった、という理由のほうが強かった。

このピアスを開けた当初は、
今から思えば、「自分で生きていける」なんて
そんなことを言えるほどのことは結局、できていなかったのだけれど、
けれどそう思ったときの気持ちを、感情を、忘れたくはなかった。
新しいこの名前には、戒めの意味もあった。
今度はそんなカンチガイをしないようにと、決意の意味も込めていた。


だって、ペリドットは死んだのだ。
ピアスとして、今度はヘタな失敗はしたくない。そう思った。


自分を名付けた日、
ピアスは、“死神のような男”の名を尋ねた。
2人きりの部屋だから、「なぁ」とか「あの」とかで足りていたのだ。
だから、あまり気にしていなかった。

男は“ヒナタ”と名乗った。
小さな紙切れに「日向」と書いて、嬉しそうに、見せてくれた。
あまりに嬉しそうだったから、もっと早く聞いてやればよかったと思った。
失敗だ。
ただ、ピアスは文字を読む事はあまりできなかった。
弟と違って、自分は学校には通っていなかったし、
家の中にある本も教科書も、自分のものではなかったから。
手に取ろうと思えばそうできたのだろうけれど、
それをすることはできなかった。
あの家にいた当時は、声を出すことも、歩き動き回ることも、
なんだか、してはいけないことのような気がしていたからだ。

ヒナタは少しずつ、文字や計算を教えてくれた。
「おれは教えるのはうまくないから」と言って、筆記用具と教材を渡してくれただけだったけれど、
ピアスにはそれで十分だった。
音楽だけは、教えてくれた。
歌うのは苦手だと言って、
決して、ピアスの前でその歌声を聞かせてくれることはなかったけれど、
手のひらにおさまってしまうような笛だったり、
部屋の隅に置かれている、小さいけれど立派に見えるピアノだったりは時々、演奏して聞かせてくれた。

ある時は、手品、と言って、
小さく口笛を吹くだけで、
少し離れたところにあるガラス戸を揺らして見せたり、
机の上の書類たちをとばして見せた。
それも音の力なのだという。
タネはよくわからなかったけれど、
なんだか不思議すぎてキモチワルいとも思ったけれど、面白くもあった。

部屋の中にいるしかできないピアスには、
それは大きな楽しみにもなった。


アパートには、
あまり、人は尋ねては来なかった。
ただ1人、時々、彼の同期だったという男がやってきた。
コウ、という名前らしい。

コウの髪も金色だったけれど、
ヒナタとは違い、それは染め粉を使って出した色らしかった。
金の髪色をマネしたくなる気持ちなんてまったくわからない、とヒナタは言っていたけれど、
コウは「この色の方がモテるからいいんだ」と言って譲らなかった。
ヒナタはいつも、苦笑していた。
嫌がっているわけではないのだということだけは、ピアスにもわかった。


そうして穏やかな時間が過ぎて、
年が明けて、けれどまだ春までは遠い時期に、
ヒナタとピアスはそのアパートを出ることとなった。

その町の近くの、
近くと言っても、何時間も馬車に揺られていくような場所に、森がある。
そこにヒナタは、家を建てた、と言うのだ。

まだ何もないその家に、
これから自分たちは移り住むのだと言う。
そのために、ヒナタは警衛士の仕事をやめたのだ、とも言った。

今度は、何も聞かれなかった。
けれど当然、ピアスもそこについていく事となった。

家具も、大した設備もない、
まだ誰も住んでいないその家を、“home”へとつくりかえていく。
そんな作業が待っていた。
顔には出さなかったけれど、それはとても、楽しそうだ。


道の端にまだ雪の残るとある日の早朝、
ピアスとヒナタは、町を出た。

仕事のあるコウはもちろん、
町を出る2人を見送る姿は、ひとつもない。
久々に歩く外の景色は、ピアスにはとても、新鮮なものに思えた。

まだ薄暗い。
けれど、夜の闇の中でなく、こうして
少しずつ明るくなっていく道を歩いて行けるのは、喜びでもあった。

これから、荷物をその森の家に運ぶために、
おそらく何度も歩くことになる道だ。
深呼吸すれば、冷たい空気が肺を満たす。
悪くない気分だった。



***************



「はい、全員集合してー!!」
階下から、家主の……ヒナタの声が聞こえた。
夕食ができたらしい。
本当であればその準備を自分たちも手伝うべきなのだろうけれど、
ひとりでアレコレと試行錯誤しながら料理をつくる時間を
ヒナタが特別気に入っていることも知っていたから、あえて、手は出さない。

スープのにおいがする。
にんにくの少し強い、美味しそうなにおいだ。


2人きりで住み、つくってきたこの家には今、
自分とヒナタを含めても、4人の人間が住んでいる。
定期的に訪れる人間もいる。
不思議な気分だった。
男3人に、小さな少女が1人。
それが当たり前のように、食卓を囲むのだ。
ヒナタと“のっぽ”は、嬉しそうに梅酒を氷の上から注いでいる。
酒好きな大人たちだ。

「おいしそう!」言って、“みぃ”が席に着いた。
食欲はまだ薄れたままだったけれど、
“みぃ”の言葉が可愛らしくて仕方がなくて、ピアスも「そうだね」と答える。

自分はそういえば、こうして弟と一緒に食卓についたことはなかった。
だから、やっぱり、不思議だ。

「じゃ、いただきます!」

みんなでそう言って、
今夜もまた、夕食の時間が始まった。

昼間の熱気がウソのような涼しい風が、また、カーテンを揺らした。
小さくため息をついて、
ピアスもやっと、目の前のスープに手をのばしたのだった。


(to be continued...)


===============

《豚肉と白菜とにんにくのスープ》
 ・豚のバラ肉 200グラム
 ・塩 適当
 ・しょうゆ 適当
 ・ごま油 大さじ1くらい
 ・白菜 4分の1くらい
 ・昆布 少々
 ・ニンニク 1欠片
 ・ごまや七味唐辛子など お好みで
 ・水 4分の1カップくらい

1、肉を食べやすい大きさにカットして、塩をふってもみ込む。
 袋とか使うとラク。塩は小さじ半分くらい。
2、ごま油で肉を炒めて、肉が炒まったら、適当に切った白菜も一緒に炒める。
3、水と昆布を入れて、煮る。(フタしてね)
4、ニンニクをイン!(すりおろしておくこと推奨)
5、白菜の具合を見て、塩とか醤油で味つけする。

お好みで、ごまとか七味を入れて、出来上がり☆☆
(ちなみに私は一味派です)

===============


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comment

  1. 2010/07/16(金) 21:16:03 |
  2. URL |
  3. 遠野
  4. [ 編集 ]
待ってました!!

まずは。
おいしそう!!
明日にでも作ってみます^^
あと、ヒナタが良い兄ちゃんになってて、本当に嬉しいです><
これからどう続いていくのか、益々楽しみです…!

  1. 2010/07/16(金) 22:49:58 |
  2. URL |
  3. 遠野秀一
  4. [ 編集 ]
こんばんは、遠野です。
ヒナタさん、料理好きなんですねw
個人的にそこがツボでした。

なんだか幸せそうでホッとしました。

  1. 2010/07/16(金) 23:31:59 |
  2. URL |
  3. ゆさ
  4. [ 編集 ]
こんばんは!
わーいヒナタ!ヒナタが登場!!!
ごめんなさいそれしか言えません(笑)元気そうで良かった…安心しました。

スープ料理って、人と人を繋ぎますよねvvv

レシピのスープ、そのままでも美味しそうですが
春さんの書いたようにスパイスを入れると
ちょっと味が引き締まりそうですね☆
すてきだなぁ(^ ^)。

Re: 遠野さま

  1. 2010/07/16(金) 23:48:42 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
こんばんは☆

> 待ってました!!
お待たせしまた!!……ありがとうございますっ!!

このスープ、さすがスープなだけあって、
かなり適当につくっても、あまり失敗しません。
味付けと、肉とにんにくの加減によりますが、
胃にもやさしくて、私自身、かなりのヒットでした*^^*

ヒナタは、いい兄ちゃんですか!!
そう言ってもらえて、すごく、すごーーーく嬉しいです☆

コメント、ありがとうございました☆☆

Re: 遠野秀一さま

  1. 2010/07/16(金) 23:51:27 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
こんばんは!!

> ヒナタさん、料理好きなんですねw
そうなのです。
なぜなら、私が料理(食べる方)が好きだからwww

> なんだか幸せそうでホッとしました。
……へへ*^^*
どうかどうか、ホッとしていてくださいませ!!

コメント、ありがとうございました♪

Re: ゆささん

  1. 2010/07/16(金) 23:58:12 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
ゆささん、こんばんは~☆

> わーいヒナタ!ヒナタが登場!!!
こっちでヒナタの名前出すまで、なんだかちょっと時間かかっちゃいました。
何と言うか……隠してるわけでもなかったのに、なんでだろう・_・

彼は元気です☆

スープは、
本当に、失敗がなくて嬉しい限りです。笑
ただ、クーラーの下でないと本当に、暑くてたまらなくなるので、それだけは注意です^^;

コメントありがとうございました☆☆
あ……
ゆささんのブログ、いつもすごく楽しみにしています!!

  1. 2010/07/19(月) 17:10:33 |
  2. URL |
  3. パセリサラダ
  4. [ 編集 ]
こんにちは。

淡々と語られる文章だからこそ、胸に迫ってくるものが強くて、熱くて、あっという間に読ませていただきました。
面白いです!

(to be continued...)
を見た時は、いやだー!今すぐ続きをー!と思いました。
楽しみにしてます!

Re: パセリサラダさん

  1. 2010/07/20(火) 00:33:24 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
パセリサラダさん、こんばんは☆

> 面白いです!
ありがとうございますーーー*^^*

> (to be continued...)
> を見た時は、いやだー!今すぐ続きをー!と思いました。
前後編、読みにくいかなぁと思っていたのですが……ありがとうございます☆

『ハミングライフ』は、『アルファベットの旅人』って前書いていたシリーズの姉妹編なので、
ちょっとまだ、引きずっています。
なので、この話だけだったら読みにくいかも……と、ちょっと心配だったりもしております・_・
少しずつ、看板(?)交替も進んで行くとは思いますが……。

へへ、
ゆっくりですが、楽しくがんばります^^;

コメント、ありがとうございました☆☆

  1. 2010/07/21(水) 21:00:58 |
  2. URL |
  3. びたみん
  4. [ 編集 ]
きゃああああヒナタさん!!素敵なお兄さんになって登場だなんてもう嬉しすぎてジタバタしましたっもうっヒナタさんっ好き!!今すぐ続きが読みたくてのたうちまわりそうですがぐっとこらえます。^^
次回もたのしみにしていますーーーっ

Re: びたみんさん

  1. 2010/07/22(木) 01:38:42 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
きゃああああびたみんさん!!
こんばんは*^^*

ヒナタくん、おにいさんです。
むしろもうおじさん?(いやそんなことはない……かな、どうかな)
えっちらおっちら、やっていきます^^;

コメント、ありがとうございました☆☆
私もびたみんさんのブログ、いつも楽しみにしていますーーー☆

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