旅の空でいつか

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記憶・1 /豚肉と白菜とにんにくのスープ

  1. 2010/07/16(金) 01:50:52|
  2. ★完結★ 『ハミングライフ』シリーズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
作品一覧はコチラです

『ハミングライフ』シリーズです。

今日のメニューは、
●豚肉と白菜とにんにくのスープ
です*^^*


今回、続きます。
前後編です。
なのでレシピは、後半に掲載です!!

カラダがあったまる系ですし、食材的にも冬物ですが、
……クーラーの下で楽しんで下さい☆笑

ではでは、
《続きを読む》から、どうぞ☆



***************



夕方の少し涼しい風が入ってくる。
窓の外はもう薄闇だった。

ふと
風に運ばれて、ごま油のにおいが漂っていることに“ピアス”は気づいた。
微かににんにくのにおいもする。
階下で、家主が料理を作っているのだ。

今夜は何を作っているのだろう。

(……)

けれどさっきまで持っていたはずの食欲は、
そのにおいとともに、薄れていく。
ごま油のにおいもにんにくのにおいも、“ピアス”にとっては
その女を思い出させるためのものでしかなかった。

今頃はどうしているのだろう。

懐かしさを感じることができるような、そんな記憶ではなかったけれど、
ただ否応無く、思い出されてしまうのだ。



***************



(この家を出よう)

ペリドットが決めたのは、
自分の好物の料理のにおいが漂っているだろうリビングから、
弟が試験の点を自慢する声が聞こえて来た、その時だった。
ごま油でキャベツやらニンジンやらを炒めて、
ウインナーも一緒に、コンソメスープで煮込む。
タマネギがグズグズになる程度。それが目安だ。
にんにくは最後に、すり下ろした物を一欠け入れる。

自分の好物だった。
それがどんな味だったのか、ペリドットはもうよく覚えていなかったけれど、
においだけは記憶していて、
かつては自分にも、それを食べる機会がちゃんとあったのだ、ということを思い出させる。

それはもう、随分と遠い昔のことだ。
この何年かは、
残り物の野菜のくずだとか、
固くなったパンの欠片だとか、
においの変わって来たチーズだとか、
そういったものしか食べていない。


キッカケは何だったのか、ペリドットにはわからない。
ただ、母親の様子が変わりだしたのは今から5年前、
4歳違いの弟が産まれてからだ、ということだけはわかる。

最初は、産まれたばかりの赤ん坊の世話に忙しいのだと思っていた。
産まれたばかりの弟はペリドットだって可愛く思っていたし、
自分は兄になったのだから、寂しいのくらいはガマンしようとも思っていた。

けれど母親は、
弟が歩いたり喋ったりすることを覚えて大きくなっても、
ペリドットが覚えていたような「昔の母」に戻る事はなかった。

母は次第に、自分に触れることがなくなった。
笑顔を見せることがなくなって、
顔を向けてくれることがなくなって、
名前を呼ばれることがなくなって、
声をかけられる機会も、ぐんと減った。

寂しかったし、怖かった。
「普通はこんなものなのだろう」という気持ちも最初は持っていたけれど、
近所の、弟や妹のいる自分と同じくらいの年齢の子どもを見て、
そうではないということを知った。

母が自分の名前を呼ぶことがなくなったころ、
だからペリドットは一度、勇気を出して言ってみたことがある。

自分は母親が大好きだということ。
けれど、もう自分のことはキライになってしまったのではないかと思って、悲しいということ。
言いながら泣き出してしまった自分に、
けれど母親は結局、
自分に顔を向けることもなく、
何かを答えてくれることもなく、
大きなため息をついただけだった。

それからペリドットは次第に、自分だけ、食事を与えられないようになった。
洗濯や、風呂に入る機会も制限されるようになった。

食卓に、自分の食事だけが並ばない。
話しかけても母親は答えてくれなかったから、
数日はそれでガマンしていたのだけれど、
耐えきれなくなったある日から、家族の残り物をこっそりと漁るようになった。
それからは、ペリドットからももう、
母親に喋りかけることはなかった。

仕事が忙しく、滅多に家に返らない父親は、
ペリドットと母との間に流れる空気には、気づくことはなかった。

育っていく弟を見ているのは楽しかった。
けれど弟は、次第に、母親のペリドットへの態度をマネするようになり、
彼を、まるでそこにいないもののように扱った。
悲しかったけれど、
おそらく仕方のないことなのだろうと、ペリドットは諦めた。

きっと自分は何かが、
どこかがひどく、決定的にダメなのだ。
母親も弟も、声をかけることすらする価値がないくらい。
だから仕方がないのだと、諦めた。

虐待、という言葉を、
当時のペリドットは知らなかった。
イジメという言葉は知っていたけれど、
自分が母親にそれをされているのだとは、少しも思わなかった。
母親は自分を殴ったり、傷つけたりするようなことはしなかったから。

ただ、いつもお腹はすいていた。
母親と弟の目を盗むようにして風呂には入るようにしていたけれど、
それが何日もできないときは、自分でも自分を汚いものだと思った。

ペリドットは、家族を諦めた。
母親も弟も、滅多に帰ってこない父親も、諦めた。

いつも暗い部屋の中で、ひとりで、
ドアの隙間から漏れる明るい光と笑い声と、おいしそうな食べ物のにおいを感じていた。

ドアの向こうにある世界は、
自分にはもう、きっと一生縁のないもので、
だったらなんで自分はここにいるのだろうと、
いつも、ペリドットは考えていた。

けれど1年に2度だけ、彼にも、ドアの向こうの世界の住人になる機会があった。
誕生日だ。
忙しいばかりの父親も、弟と自分の誕生日にだけはいつも、帰って来てくれた。
その日だけはペリドットも、家族に戻ることができた。
その日があるからペリドットは
自分がまだ、家の中に存在しているのだと、感じることができたのだった。


ペリドットが家を出よう、と決めたその日は、
彼の9歳の誕生日だった。
この年、数ヶ月前の弟の誕生日にも、父親は帰ってこなかった。
イヤな予感はしていたけれど、
案の定、自分の誕生日にも、父親が帰ってくることはなかった。

誕生日だった。
ドアの向こうは明るくて、
自分の好物のにおいがしていて、
笑い声も聞こえる。

自分の誕生日だ。
けれどそれを祝ってくれる声はなく、暗い部屋で一人で、お腹を空かせて。

自分が消えてしまったような気がした。
それが気のせいだということも知っていたし、
だから本当に消えてしまえばいいのに、と思ったけれど、
どうすればそれが叶うのか、ペリドットにはわからなかった。

だから、家を出ることにした。
母親にも弟にも、おそらく父親にももう、
別れを告げる必要だってないだろうと思った。

だから黙って、窓を開けた。
ただ、消えたいだけだったから、荷物も何も必要なかった。
部屋と同じ暗闇の中に、一歩、踏み出せばいいだけだった。
星明かりがあるだけ部屋の中よりもマシだと、
頭の片隅で、うっすらと思った。



***************



消えたい、と思って家を出たのだったけれど、
結局、その願いを叶えることはできなかった。

お腹がすけば食堂の裏道を漁ったし、
バレないように、
知らない人間の家や、店先のものに勝手に手をのばす事もした。


実際のところ、家を出てしばらくして感じたのは、
外の世界の「生きやすさ」だった。

家にいたときのように、
何かを食べたり、動いたりすることに
罪悪感も緊張感も抱く必要はなかった。

自分と同じようにして道で生活している人間や、
時には酔っぱらいに絡まれることはあったけれど、
次第に、彼らとのつき合い方も覚えていった。

仲間、と呼べるような存在はいなかった。
ペリドットはいつも一人だったけれど、
自分のまわりにいる人間も、みんながみんな一人だったから、
それで身の切られるような想いをすることも減っていった。


自分のような存在を狙っている人間がいる、というのも知っていた。
警衛士だ。
なんのつもりか彼らは、いつも、自分たちを捕まえようとしている。

彼らの目的は、
盗んで食べたことに対して罰を与えることと、自分たちを親元へ帰そうとすることだった。

盗むなと言うくせに彼らは、自分たちに食べ物を与えてくれることはなかった。
彼らが帰そうとしている家に、自分たちの居場所なんてないのだということも、
おそらく彼らは、わかってはいないだろう。

今の生活に終止符を打たれるということは、
自分の人生にも終止符を打たれるということだ。
ペリドットはそう、感じていた。

消えちゃえば楽なのに。
そう思うことは、変わらず、たびたびあったけれど、
そのタイミングくらいは、自分で決めたかった。
家に帰されるということは、また、自分が消されるということだ。
そんなこと、誰にだって強制されたくなかった。


だからペリドットは、潜った。
深く、暗いところへ。

最初に家を出て、初めて、暗闇の中に一歩足を踏み出した時よりも、
それは簡単なことだった。

潜って、
暗いところへと進んで行けば行く程、ペリドットは自由になれた。

次第に喧嘩を覚え、
骨を折ったり、鋭い凶器にも相対さなければいけないことも増えたけれど、
生き延びるたびに、ペリドットは対処の方法を覚えて行った。
最初はこわかったそれも、
次第になじみ深いものになった。

そのころから、ペリドットは仕事を任されるようになった。
中身を知らされることのない荷物を、ただ、こっそりと運ぶ。
そんな仕事だ。

最初は緊張もしたけれど、
身体が小さく身軽で、特に目立った外見でもないペリドットは、
人混みにも風景にも、紛れ込むのが得意だった。
多少は感じていたはずの恐怖感も、
報酬の良さに、薄らいだ。

その仕事を始めてからペリドットは、
その報酬で住居を借りる事も、店で食料を調達することも、洋服を買う事もできるようになった。

仕事を始めたのは、13歳の時。
家を出てから、4年の月日が流れていた。
そこらの13歳じゃ、こんなにちゃんと、一人で生きていられているヤツなんていないだろう。
ペリドットはそう思っていた。

両親に守られて、
何の疑いもなく学校に通い、
家に帰り、
親の作った料理を食べ、
季節が変われば洋服を買いに行く。
……そんな甘えた人生を送っているガキには、自分は絶対に負けない。
与えられたのではない。
全部、自分の力で手に入れた。
それが自慢でもあったし、唯一の自信だった。


もう自分は、
母親が自分にだけ作ってくれないあの煮込み料理をただ待っているだけの、
そんな、弱い存在ではないのだ。

そう思った。


(to be continued...)

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comment

  1. 2010/07/16(金) 21:59:40 |
  2. URL |
  3. 遠野秀一
  4. [ 編集 ]
こんばんは、遠野です。
辛い人生を送っていますね、ペリドット。
ホロリと来てしまいました。

レシピも楽しみです。
さっそく後編へ行ってきますw

Re: 遠野秀一さま

  1. 2010/07/17(土) 00:00:39 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
あ……
後編の方のコメントを先にしてしまいました> <;
こちらもコメント、ありがとうございます!!

ペリドットは、これからです。
いろんな意味で。
いや、もうペリドットはいないのですが、なんというか。

・v・;

コメント、ありがとうございます!!

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