旅の空でいつか

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『冬の要塞_2』 /A/Z

  1. 2010/05/12(水) 01:20:16|
  2. ★完結★ 『アルファベットの旅人』シリーズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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昨日の宿屋での一件で、
私は、『A』のことが大キライになっていた。

でも
「ミスター・ビッグに会いに行こう。」って
『Z』がそう言ったから、
だから私たちは、『Z』について、一緒に行くことを決めた。

けれどそう言った翌朝、
『Z』の調子は、よくなかった。
朝起きた瞬間から『Z』は、目が見えなくなっていたのだ。

困ったな。
ぽつりと、『Z』は言った。

じゃあ、やめようよ。
何も今日、そんな体調で行くことないよ。
……私はそう言って『Z』を止めようとするけれど、
でも、『Z』はガンコだった。


「困ったけど、まぁ、大丈夫だよ。」

『Z』が言ったのがこの言葉だけだったら、
そんなの全然、納得できなかったと思う。

でも、
「それにね、もうぼく、9年もかかったんだ。ここまで来るのに。
 だからここまで来て、せっかくここまで来て、ガマンなんてしたくないんだ」
……って言われれば、さすがに私の心だって動くし、
「だから、ユエ、ウルフ、お願い。助けて欲しい。」
なんて、
そんなこと言われてしまったら、
私たちが『Z』に「イヤだ!」なんて、
言えるわけがないのだ。


目が見えなくても。

元々動きがゆっくりな『Z』は、
いつも以上にゆっくりな動きにはなるけれど、
時々私の肩につかまったりもするけれど、
それでも、自分の足で
ちゃんと立って、歩いている。

最初に見えなくなった時は、さすがにものすごく焦ったよ。
でも、覚悟はいつも、していたし。
慣れちゃえば、案外大丈夫。
……そんな風に、『Z』は言う。

そういうものだろうか。
そんなに簡単に、そんな風に思えるものなのだろうか。

わからないけれど普通だったら、
少なくとも私には、無理なような気もする。
わからない。
案外、順応できるものなのかもしれないけれど。


プレゼントしたサングラスをかけて、
私とウルフとで、両脇に並んで。

そして私たちは、
大屋敷へと向かった。


***************



大屋敷は、
大屋敷、と呼ばれているだけあって、
ものすごく広かった。

気持ちが悪いくらいに大きくて、立派なつくりだ。
この街の南側の、
大半の面積を占めているんじゃないだろうか。

大きな門の前には、
黒服の男たちが何人も、並んでいた。

昨日、あの『A』と一緒に街を練り歩いていたヤツらと同じ格好だ。
大屋敷の人間は、みんなこんな格好をしているらしい。

それはそれで、ぴしっとした感じがして悪くはないけれど、
でも、
誰も彼も、みんな同じように気配が固くて、
見分けすらよくつかない。

一人ひとりと知り合ってみれば、
みんな本当は、いろんな顔を持っているのかもしれないけれど。

この黒服たちの気配の、均等な堅さと無機質さは、
“組織”としての強さを見せる分、
ひとりひとりの顔を見えなくさせる分、
すごく……私はすごく、怖い。


『Z』は今、目が見えない。
だからいつもよりもずっとずっと、気配には敏感になっているはずだった。

でも『Z』は、
黒服たちに対しても、物怖じすることはなかった。


門の一番正面にいる黒服の前に立つと、
彼に向かって、『Z』は言う。

「あの……“ミスター・ビッグ”に、会いに来ました。
 お取り次ぎ願えますか?」

その口調は、いつもと変わらない。
丁寧で、ゆっくりとしていて、やわらかいものだ。

そんな『Z』の声を聞けば、聞いている方だって
少しくらいはやわらかい態度になってもよさそうなものだけれど、
やはり黒服たちの硬質な雰囲気は、変わらない。

「約束のない者をミスターに取り次ぐことはできない。
 お帰りを。」

話し方は丁寧だけれど、
その分、なんというか、迫力がある。

けれど、『Z』はひるまなかった。

では、と言って、あのおじいさんの名前を出した。

「ぼくたちは、彼の知り合いです。
 今日もこちらにいらっしゃいますよね?
 『Z』が来たと、お伝え下さい。 ……彼に、取り次ぎを。」

それを聞いた正面の黒服は、
まず、『Z』をじろりと見つめて、
それから私とウルフにも目をやってから、
奥にいるまた別の黒服に指示を出した。

奥の黒服は一旦、大屋敷の中に入ると、
少し……たぶん5分くらいして、
少しだけ急ぎ足になって、戻って来た。

正面にいた黒服の表情が、少しだけ変わった。

「どうぞ中へ。それから……
 あなたの名前を聞いて、ミスターも、あなたに会うと。」

「ありがとうございます。」

答える『Z』の声もまた、変わらなかった。
ゆっくりで、やわらかい。
私はそれに、安心する。

この“大屋敷”の前に来てから……
私は緊張が、止まらない。

門がゆっくりと、開いていく。

黒服の一人に誘われて、
私たちはその中へと、一歩、踏み出した。



***************



大屋敷は、
実際に入って歩いてみると、ますます、広い。

門から玄関までがまず、長かった。
玄関の扉も大きくて、
そこには大きな空間があった。
吹き抜けだ。
3階建てで、上の階の廊下が見えた。
天井には、大きな明かり取りの窓がある。

一見しただけで「高いな」と思える調度品が揃えられていて、
けれどそれが、
金とか銀とか宝石だらけとか、
そんな下品なものじゃないことが、さらに、余裕を感じさせるのだ。

黒服は、ゆっくりと歩く。
『Z』の目のことに気づいて、わざとゆっくり歩いているのかもしれない。

それが私の気のせいなのか、
思いやりなのか、それとも客人にはいつもこのペースなのか、
私にはわからない。

広間を抜けて、
すぐ奥にある階段をのぼって、2階へ。
2階の一番奥の部屋へと、私たちは案内された。


黒服が、2回、ノックをした。
すると中から、ノックが1回。
今度は黒服が3回、ノックを返して、それでドアは、中から開いた。
鍵もかかっていたようだ。

私たちが部屋に入ると、
ここまで案内してきた黒服は部屋には入らず、そのままドアの外で立ち止まった。
そしてドアのすぐ脇にひかえていた別の黒服が、
静かにドアを閉め、再び、鍵をかけた。


ドアの向こうには、
焦げ茶色の革張りのソファに座るあのおじいさんと、
それからその正面に……。

(……あ、れ?)

一人の、男性。
座っているけれど、背はおそらく、高いだろう。
たぶんおじいさんと、同じくらいの年齢。
けれどまだ、背は曲がっていない。

ただ、何よりも私の目をひいたのは、
その男性の外見だった。

(……あの人が、“ミスター・ビッグ”?)

少し驚いて足をとめた私の様子に、『Z』も気づいたようだった。
立ったままでいる私たちに、“ミスター・ビッグ”が声をかけてくる。

「どうぞ、座りなさい。」

おじいさんが席をたって、“ミスター・ビッグ”の隣に移動した。
少し低くて掠れていたけれど、彼のその声は、
綺麗な声だった。

「……」

言われて私たちは、さっきまでおじいさんが座っていた
“ミスター・ビッグ”の正面のソファに、腰掛ける。
腰掛けるときに『Z』は、
少しだけ、ソファとの距離感を掴むのに苦労したようだった。

私たちのその様子を見て、“ミスター・ビッグ”が「おや」と声を出した。

「きみは目が見えないんだね。
 歩いているところを見ても、気づかなかったよ。」

“見えていない”『Z』に向かって喋っているのに、
少しだけ、笑顔も添えている。

「……今日は少し、調子が悪くて。」
たぶんまた、見えるようになると思います。
そう言って『Z』は、小さく会釈して見せた。

席についた私たちの前に、白いカップが差し出された。
ウルフの前にも、同じデザインで、けれど平らな形の皿を。
シンプルだけれど、持ち手にも淵にも、繊細な意匠が施されている。

黒服が同じポットから、
“ミスター・ビッグ”とおじいさんと、そして私たちのカップにお茶を注いだ。
そのお茶には、最初に“ミスター・ビッグ”が口を付ける。

私たちに見せてるんだな、ということがわかって、
だから私も、「いただきます」と言って口を付けた。


私は、やっぱりまだ、緊張していた。

当たり前のように目の前のこの男は、わかっている。
私たちが警戒していること。
尊敬や好意から、ここに来たわけではないこと。

全てをわかった上で、
こうして目の前に座って、
会話では笑顔を見せ、
温かいお茶を淹れてくれる。

自分の緊張を、“ミスター・ビッグ”に……
初対面の相手に見せるのは悔しかったけれど、
どうせ隠せもしないだろうとも思うから、
少しだけ指先が震えているのも、
私はもう、気にしないことにした。


一口飲んて、カップをソーサーに戻すと
“ミスター・ビッグ”が先に、口を開いた。

「きみ、おれに会いに来たんだって?」

『Z』は無言で、うなずいた。

「それできみ、名前は、『Z』と言うんだってね?」

その問いにも、『Z』は無言でうなずいた。

「おれには、いろんな友人がいるけれど。
 彼がね、この街に誰かを連れて来ようとしたのは、実はきみがはじめてなんだ。
 だから、いったいどんな人間かと思っていたら……」

おじいさんは、
いつもの飄々とした表情で、お茶を飲んでいる。

「……きみはもしかして、“あの場所”にいた人間なんじゃないか?」

その問いにも、
『Z』は無言で、うなずいた。
“ミスター・ビッグ”は、少し、笑ったようだった。

そんな“ミスター・ビッグ”に、『Z』は言う。

「一度だけ、あなたを“あの場所”で見たことがあります。
 覚えています。あなたは1人だけ、いつも来る客たちとは、様子が違っていましたから。
 ……そして、“彼”を、買って行ったから。」

ふうん。
“ミスター・ビッグ”は、それがどうした、とでも言うように答えた。
けれどそのあと、
じっ、と『Z』を見て、言う。

「あぁ、きみはもしかして……あの時の子どもか?」

あの時。
それがどの時のことを言っているのか、私にはわからない。
けれど『Z』は、うなずいた。

へぇ、なるほど!
“ミスター・ビッグ”は、今度は目に見えて、おもしろがっている様子になった。

……私は、その様子が恐ろしかった。

あの場所とは、
“ミスター・ビッグ”が『A』を買った、
『Z』が昔とらわれていた場所のことだろう。

人間を、人間でなくす場所。
幼い子どもから徹底的に奪って、痛めつけて、
そのままその子どもの、命を消してしまうこともある場所。
多くの場合は、その子どものその先の人生をも、奪う場所だ。

そんな場所のことを、
こんなに普通に、こんなに明るい声色で、話すことができる。

そのことが、恐ろしかった。

「で、きみは、……『A』に会いに、この街に来たんだろ?
 9年前に、同じあの場所にいたという、それだけで。あいつに。」

……でも、やっぱり、『Z』はひるまなかった。
“ミスター・ビッグ”の問いに、静かに、頷いた。
そして口を開く。

「“彼”の名前は、今でも、『A』なんですか?」

「おもしろいことを聞くんだな。」

“ミスター・ビッグ”は本当におもしろそうに、
今にも声をあげて笑い出しそうに、言った。

「そうだよ。『A』のままだ。
 欲しい名前があるならそう名乗ればいいと、おれは言ったんだけどね。」

それがどうかした?
“ミスター・ビッグ”は、そうも言う。

『Z』は言った。

「彼を自由にしてください。……これは、お願いではありません。」

どういう意味だい?
“ミスター・ビッグ”の問いかけに、『Z』は言い切る。

「お願いでは有りません。
 自由になること。それは、彼の権利です。」

その言葉を聞いて“ミスター・ビッグ”は、
……今度こそ本当に、声をあげて、笑った。

その声に、
ウルフは伏せていた体勢を起こし、
おじいさんは「あーあ」と言った表情でお茶をすすり、
私は、……やっぱり、緊張していた。

どうして、今のこの流れで、こんな風に笑うんだろう。
わからなかった。
目の前のこの“ミスター・ビッグ”という人間が、何を感じているのか。
わからなくて、
あまりにもわからなくて、怖かった。

『Z』はけれど、冷静だ。
そんな『Z』に向かって、“ミスター・ビッグ”は言う。

「“権利”か!
 ……そんな言葉が出てくるなんて、きみは随分、立派なところに買われたんだねぇ!」

『Z』は、それには何も答えなかった。
“ミスター・ビッグ”は続ける。

「おれはね、『A』を気に入ってる。
 きみもおもしろいけどね、でも、『A』はもっと、おもしろいんだ。」

どんな風におもしろいか、聞きたいか?
そう言われた『Z』は、
この日初めて、“ミスター・ビッグ”の前で不快を顔にした。
けれど何も言わず、ただ、首を横にる。

少しだけ残念そうにしてから、“ミスター・ビッグ”は続ける。

「おれは『A』を気に入っている。だから『A』が望むものは、何でも与える用意をした。
 決して悪い環境じゃないはずだ。
 他のところだったら、今日までに命があったかもわからない。
 今頃とっくに壊れされて、捨てられていてもいいところだ。そうだろう?」

「……」

「おれは、『A』を正式に息子にするつもりだ。
 この年齢になって、おれには子どもがいない。この街を“守る”人間が、必要なんだ。
 ……別に、子どもにこだわるわけじゃないんだけどね。それだけ『A』を、気に入っているんだ。」

「それは、“彼”の望みですか。」

「どうだろうな。でもあいつはたぶん、それを“選ぶ”よ。」

『Z』はこれと同じ質問を、昨夜、アランにしていた。
けれど今日は、そのときとは違った答えが、返って来た。

「……ぼくは、そうは思いません。」

『Z』のその言葉に“ミスター・ビッグ”は、
また、笑った。

「きみは、あの場所がどんな場所か、もう知っているね?
 どんな客が集まってくる場所だったのか。……知っているね?」

『Z』はまた、一瞬だけ不快な表情をしてから、うなずいた。

「おれはね、『A』を買った。最初はそりゃ、あいつも怖がっていたけどね……。でも、おれはね。
 あいつが“自分からそれを選ぶ”まで、あいつに本当の意味で手を出したことは、ないんだよ。」

「……」

「まぁ、せっかく買ったから。いろいろしてもらったり、見て、楽しませてはもらっていたけど。
 でも、それだけだった。たったのそれだけだ。
 あいつと本当に“そういう関係”になったのは、あいつがそれを、選んだからだ。」

「……」

それだけ。
“ミスター・ビッグ”がその言葉を言って、
それから『Z』は、不快な表情を隠さなくなった。
__当然だ。
こんな年齢の男に「モノ」として買われて、
黒服の男だらけのこの、あまりにも立派すぎる屋敷の中で、
毎日毎日、逆らうこともできず、自分の身体を、扱われるのだ。
それを“それだけ”だと、この男は、言った。

「そのかわりに金をよこせと、あいつは言ったんだ。
 信じられないだろ? 9年前、まだ、8歳かそこらのガキだったあいつがそう言ったんだ。このおれに。
 __気に入らないわけがないだろう? 生意気で、頭がよくて、けれどバカで。かわいいガキだ。」

私は、昨夜のアランの言葉を思い出していた。
9年前。金。
『A』が彼らを「飼う」ための資金を、調達するために。

「そんなあいつが、おれの元を離れることを、選ぶと思うかい?」

『Z』は、少しだけ考えて、言った。

「……おそらくは。」

その言葉をきいた“ミスター・ビッグ”は、笑顔になって、言った。
それはただのきみの望みだろう、と。

「じゃあきみ、賭けをするかい?」

「……賭け?」

「あいつは自分でも、この選択をするはずだ。でもきみは違うと言う。
 だから、賭けをしよう。あいつが何を選ぶか。
 もしあいつがおれの息子にはならない、という道を選ぶなら、おれはそれを尊重する。約束だ。
 あいつがそれを選ばないのなら、そのときは、きみの望みは破れるね。」

どうだい?
そう聞いてくる“ミスター・ビッグ”に、『Z』は言った。

「それは、あなたには得のない賭けだ。……条件があるんですね?」

うん、鋭いね。
“ミスター・ビッグ”は言った。

「おれはね、“金”と“気に入ったやつの人生”にだけは、興味があるんだ。
 だからきみには“金”と、もし万が一、それが用意できたら、もうひとつ条件を飲んでもらいたい。」

“ミスター・ビッグ”は、その金額を口にした。
それを聞いて、それまで隣で大人しくしていたおじいさんが、“ミスター・ビッグ”を振り返った。
それほどの、大金だった。
大した贅沢をしなければ、人ひとり、一生養っていけるほどの。
私たちのような年齢の人間が、手にすることはないだろう金額。

……けれど。
私は知っている。『Z』は、今提示された以上の……その数倍の金額を、所持している。

でも、そのお金は、大切なものだ。

『Z』のご両親が、
視力や身体の機能を大きく失っている『Z』のためにと、用意したお金だ。

簡単には使えないお金だ。
出来る限り、使わないでおきたいお金だ。


……あぁ、でも。


『Z』は迷うことなく、
カバンを開けて、いくつかのプレートを取り出した。

「これを。」

そして、その金額を言う。
“ミスター・ビッグ”が提示したのものの、数倍の金額だ。
『Z』がおうちの方から受け取った、その、全額。

「全て、差し上げます。
 ……人ひとりの、人生の値段です。これでも足りないくらいだ。」

『Z』は、以前言っていた。
このお金を使えなかった、と後悔していた、たしか、あの温泉のある町で。
でも自分は、『A』のためだったら、このお金を使うだろうと。
そう、思ったんだ。と。

そのときが来てしまったから、
それをした。
……そういう、ことなのだ。


まぁ、そんな金額を用意するのは無理だろう。おれにはそう大した金額ではないけどね。
__そんな表情でお茶を飲んでいた“ミスター・ビッグ”が、固まった。
差し出されたそのプレートを確認して、
そして、
……また、笑った。

このお金の、その、意味も知らずに。
愉快そうに、笑った。

「いいだろう! じゃあ、もうひとつの条件だ!」

静かに耳を傾ける『Z』に、“ミスター・ビッグ”は言う。

「『A』に、検査を受けさせること。」

「検査? 一体、何の……?」

問い返す『Z』。
おじいさんは、「あ、言うの?」と、“ミスター・ビッグ”に顔を向ける。

“ミスター・ビッグ”は、笑って、その名前を言った。

「!」

聞いた次の瞬間、『Z』の表情が変わった。

「……やっぱり、知ってるよね。その“病気”。」

おじいさんが言うのに、うなずく『Z』。

「気はつけてたんだけどね。おれが感染しちゃったかもしれないんだ。」

「……あなたは、感染者なんですね。」

笑ってうなずく“ミスター・ビッグ”に、「発症は?」と、あわせて訊く。
「それはない。おれには、優秀な医者が毎月、来てくれているからな。」と“ミスター・ビッグ”は、
隣でお茶を飲むおじいさんをあごでさした。

「“彼”は、あなたが感染者だということは、知っているんですか?
 それが、どういうものなのかも。」

「もちろん」
“ミスター・ビッグ”は、そう言った。

「最初からね。『A』には伝えているよ。知ってる。
 それでも『A』は、おれとそうなることを、選んだんだ。」

ただ『A』は、
どれだけ言っても、検査は受けてくれないんだ。
おれはずっと、ずっと、それが気になっていたんだ。
“ミスター・ビッグ”は、そうも続けた。
「ちなみにぼくからも言ったけど、検査はさせてくれなかったよ。」
おじいさんも、そう言った。

「わかりました。」

ひどく固くした表情でそう言うと、『Z』は立ち上がった。
それに合わせて、ウルフも。
一番出遅れたのは、私だった。

私には、聞き覚えのない病名だった。

「……一度、外に出てきます。」

そう言って、お茶を一息に飲み干してから『Z』は、“ミスター・ビッグ”に背を向ける。
ずっと出口のそばに控えていた黒服が、鍵とドアを開ける。
ドアの外には、
最初に私たちを案内した黒服がいた。
ずっと、そこにいたのだろう。

「……」

何も言わずに『Z』は、部屋を出た。
礼儀正しい『Z』が挨拶をしないなんて、めずらしい。

……私は、緊張がおさまらない。



***************



そのまま『Z』はまっすぐ、『A』の部屋を探すのだと思っていた。
けれど『Z』は、
廊下を進み、階段を降り、広間を抜けて、
……そのまま、大屋敷を出てしまう。

『Z』はまだ、目が見えていない。
時々ふらつくし、階段では手すりを探しているから、それがわかる。

でも、そうとは思えないほどの早足で“大屋敷”を出て、
庭を通り過ぎて、あの大きな門も通り過ぎる。

そこでやっと『Z』は
「ねぇ、ユエ」
私を、呼んだ。

「アランにもう一度、会わないといけない。」

人を、探すこと。
初めて訪れる場所で、歩き回ること。
それは、視力をなくした『Z』には、ひどく難しいことだ。

「……わかった。」

聞いて私は、しっかりと、『Z』の手を引いた。
その手が、思っていたよりもずっとずっと、私よりもずっと冷たくて、
そうか『Z』も緊張していたのだと、はじめてわかる。

アランの居場所なら、おそらくあの辺りだ。
あの、……最初に彼をみかけた、
最初に『Z』が『A』を見つけたときの、あの道。

たぶんアランは、あのあたりで、仕事をしているはず。

そう予想して、
私よりも冷たい『Z』の手をひいて、
私たちは歩き出した。


(to be continued...)


***************
入れるつもりのなかったエピソード。
でも結局、入れずにはいられなかった。
職業病かも知れませんが……。
詳細は、先の話で。
***************



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comment

  1. 2010/06/09(水) 22:53:18 |
  2. URL |
  3. 遠野秀一
  4. [ 編集 ]
こんばんは、遠野です。

……職業病ですねwww
具体的な病名は出てなかったので、私もここでは自粛。

個人的にわかりやすい悪人ってのは好きです。
現実にいるとイラっとするでしょうが(某大物幹事長とかw)。

たまには批評っぽく厳しいことを言うと、
話がトントン順調に進んでいくなぁと思います。
これまでの話も含めて。

たくさん回り道はしているけど、
思い切り壁にぶち当たるって感じがないんですよ。
悪い言い方をすれば、ご都合主義っていう奴です。

主人公達ではどーにもならないっぽい状況を
突きつけられて、さてどーするかーって感じは、
書き手としては難しいです。
でも、あると読者はワクワクするみたいな?

まぁ、別に作風によってはなくても
全然構ないと思いますけど、
前々から思っていたので一言。
もう言う機会なさそうな気がしたので。

久々に毒のあること言ってしまって、申し訳ないです。

Re: 遠野秀一さま

  1. 2010/06/09(水) 23:30:05 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
こんばんは!コメントありがとうございます*^^*

> たまには批評っぽく厳しいことを言うと、
OKです。笑
というか、遠野秀一さまのイメージは、そんなイメージですwww

> 悪い言い方をすれば、ご都合主義っていう奴です。
ですよね~。
ご都合主義、って言葉で考えたことはなかったですが、
基本的に起伏に薄い。
と、自分でも思って書いたりしてたことは、多々。

> 久々に毒のあること言ってしまって、申し訳ないです。
問題ないっす*^^*

毒吐くのって、体力と覚悟がいると思うんですよ。
書いてる内容とか、関連する「自分甘いな」みたいなこと
全部、自分に返ってくると思うので。
ありがたいですよ~*^^*

コメント、ありがとうございました☆☆

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