旅の空でいつか

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猶予の日々 /A  ★絵祭り作品掲載★

  1. 2010/05/07(金) 02:30:19|
  2. ★完結★ 『アルファベットの旅人』シリーズ
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  4. | コメント:8
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Alan_bytohnosan

「決まったよ。
 この月が変わったら。……次の月の、その、最初の日だ。」
穏やかに話すアイツに、オレは、返す言葉がなかった。

(『Touno's soliloquy painting』の遠野さまより、『アラン』)


本編は《続きを読む》からスタートです!

***************



アイツと出会ってから、7年の月日が流れた。

オレは今年、18歳になる。
エレンは12歳になって、
アイツは、たぶん15歳くらい。

アイツは、自分の誕生日を知らない。
だから見た目から判断するしかなかったけれど、
たぶん、オレとエレンの間くらいだろう、ということで
今年で15歳だ、と思うことにしている。

大屋敷でも、オレたちが思うものと同じ年齢として扱われているようだった。


7年経って。

オレは今年、ついに、学校を卒業する。
あと数ヶ月後、
春になれば、卒業だ。

学校に行きながらもずっと仕事は続けていたし、
そもそも生活に必要な金は全て、アイツから渡されていたから、
今ではそれなりの貯金もある。

卒業後の進路は決まっていた。
アイツに出会って初めて知った「銀行」という場所で
オレはこの年から、仕事をすることが決まっていた。

外ではどうなのか知らないが、
この街の中では、「銀行」でもらえる給料は、それほど高くはない。

もちろん、
今まで見たいに、学校に通う傍らで続けていた仕事よりはずっと稼ぎはいいし、
生活に困ることもないだろう。

オレがそこに仕事を決めたのは、
朝から夕方まで働いて、
そして必ず、定時で帰れる職場だからだった。

12歳と言えば、もう随分大きくなったとは思うけれど、
でも、オレから見ればやっぱりエレンはまだ子どもで、
だから、
あまり帰りの遅くなるような仕事には就きたくなかったのだ。


すごく、順調だと言えた。
オレはちゃんと学校を卒業して、
安定した仕事も決まっていて、
貯金もあって、
エレンを学校に通わせることもできる。


そう、つまりこの年。

オレとアイツの、約束が終わる。
その年がようやく、やってきたのだ。



***************



3年前。

オレとエレンは、
初めて、一緒にアイツを待った。


アイツは月に一度だけ、オレたちの家を訪ねに来ていた。
町中が静まり返って、
当然、エレンはもうとっくに2階にあがって眠っているような時間にだ。

歩く道をやっと照らせるような小さなランプをひとつ持って、
いつも静かに、ノックをする。


オレが、アイツが“何をしたのか”を知って、
それをアイツに伝えた夜。

その日、アイツはいくら誘っても、
オレたちの家に上がろうとはしなかった。

約束を終わらせようとして、うまくいかなくて、
結局アイツを傷つけて、
それでもアイツは、月に一度必ず、オレたちの家を訪れた。

その夜までと変わらずに、
オレの、エレンの様子を聞いて、
ひと月分の生活資金を渡して、帰って行く。

会話はそれだけだった。


けれどそれが3年前に、少しだけ、変わったのだ。

エレンと一緒にアイツを待って、
エレンが起きていることに驚いたアイツを
オレたちは、
……いや、主にエレンが、家の中に引き込んだ。

今思い出しても、
我が妹ながら、エレンはすごいヤツだと思う。

ドアの前にいるアイツを両手でひっぱって、
つんのめるようにしているアイツの後ろにまわって、
さっさとドアを閉めてしまった。

驚くアイツに有無を言わせるどころか、
むしろ、何を言うことも、抵抗するヒマさえも与えないで、
一瞬で、アイツを家にあげてしまったのだから。

「会いたかった、おにいちゃん!!」

そして、
自分が今、何をしたのかもわかっていないような満面の笑顔でそう言えば、
アイツはもう、抵抗することができなくなっていた。


その夜は、
アイツは、ほとんど何も喋らなかった。

家に入れたときと同じくらい強引に、エレンに席に座らせられて、
ランプはテーブルの上に置いて。
その正面に、エレンが座った。

エレンは、
ずっと会いたかったとか、
街で見ても話しかけられなくてつまらなかったとか、
学校はどんなところで、どんなことをしてどんな友だちができただとか、
そんなことをずっと、喋っていた。
嬉しそうに、本当に嬉しそうに、喋っていた。

オレは用意していたスープを温めながら、
それを背中で聞いていた。
相づちさえ、アイツは打たなかったけれど、
時々、うなずくくらいのことはしていたようだった。

アイツがその夜、声を出したのは3回だけだった。

1回目は、
温めたスープを3人分、
つまり、アイツの分も差し出した時だ。
アイツは、「ありがとう」と「いただきます」を言った。

大屋敷でのアイツの生活がどんなものなのか、
オレは全く知らなかったけれど、
ちゃんと挨拶をするところとか、
スープを口にするその姿勢や所作からは、
“イイトコ”出身のおぼっちゃん、といった感じがした。
とにかく、ひどく動きが綺麗だったのを覚えている。

2回目は、
スープを飲み始めて、
そこに刻んでいれた香草のことを、
つまり、エレンが庭のことを話そうとした時だった。

「いや、待って!」
勢い良く、アイツは言った。
「あの場所の……庭の話は、いい。」
ハッキリと言葉にはしなかったけれど、
その話は聞きたくない、と言っているのが、
オレにもエレンにも、ハッキリとわかった。

「……」

エレンはとても悲しそうな顔になったけれど、
結局、違う話題を探し始めた。

あの場所は、アイツの場所だ。
アイツの庭だ。
けれど、アイツは決して、あの庭に行こうとはしない。
それは、オレと“約束”をしたせいで、
それを律儀に守っているせいなのだと思ったけれど、
……もしかしたら、それだけではないのかもしれない。

その理由が何なのかは、わからなかった。
この会話でわかったのは、
アイツは、エレンには少しだけ、
物言いや態度が柔らかい、ということだけだった。

そして3回目は、アイツが出て行くとき。
「お邪魔しました」
アイツは、そう言った。
やっぱり、礼儀正しかった。
オレは大屋敷の近くまで送ろうとしたけれど、それは断られた。
もう遅いから、と。
だから送るんだと言ったけれど、
エレンを一人にするなと、目線の動きだけで、叱られた。

だからただ、
去って行くアイツの姿を、
ドアの前で、オレとエレンとの2人で、見送ったのだった。


そんな月日が、続いた。

アイツは月に一度、オレたちの家を訪れる。
その日だけは、オレもエレンも夜更かしをして待っていて、
そしてエレンが、いつも強引にアイツの手をひいて、家にあげる。

アイツは、エレンには少し、弱い。
最初は、それがなぜなのか、わからなかった。
けれど少ししてから、
エレンが、自分より小さなオンナノコだからなのかもしれないと、思うようになった。

なにしろ、
大屋敷には、女がいない。
アイツより年齢の小さな子どももいない。
いつも、自分より年齢の高い男たちに囲まれているのだ。

だから、
女で、自分よりも幼いエレンと、
どういう風に接していいのかがわからないのだろう。

エレンの、アイツに対して果たした役割は、とても大きかった。

アイツはあまり、表情を変えない。
よく見れば、
ちゃんと見ればもちろん、わかるけれど。

一度なんて、出したお茶が熱すぎて舌を火傷しているのに、
アイツはそれを、何の表情にも出さなかった、ということがあった。
アイツに続いてそれを飲んだオレもエレンも、無意識に「熱っ」と、声に出してしまったのに、
表情どころか、少しの動きも、アイツは見せなかった。

アイツはそんなんだし、
相変わらず、
挨拶や、本当に必要なこと以外は喋らなかったから、

だからオレは、不安だったりもしたのだ。

アイツは、
オレたちの家に来ることが実は本当に嫌だったりはしないのか?
とか、
オレたちの家にいることで、大屋敷の中で何か、さらに理不尽な扱いは受けていないか?
とか。

けれどエレンは、そういったことを全く、気にしなかった。

オレとエレンとの大きな違いとして、
エレンはアイツの出自も、立場も、役割も、何も知らない、ということがあった。

アイツはもちろんのこと、
オレもそれをエレンには悟らせないようにしていたし、
アイツが黒服たちと一緒にいる姿が馴染んだころから、
最初は街で言われていた色々な噂も、次第に流れなくなった。
だから、エレンがソレを知ることは
おそらく、この先もないだろう。

だからエレンは、
気にせずに、普通に、アイツに接することができるのだ。

……エレンは頭が悪い訳ではないし、
空気が読めないわけでもない。
ただ、きっともっと感覚的なところで、
動物的なところで、
自分が本当に配慮するべきところなのかどうなのか、
そこを“わかる”力が、あるように思う。

兄のひいき目かもしれないけれど。
驚くくらいにまっすぐに、エレンは育ったから。
だからきっとエレンは、こうなのだ。


そのエレンのおかげで、
なんだかんだ、毎月オレたちの家に引き込まれることになったアイツは、
1年が過ぎたころから、
ほんの少しだけ、変化を見せるようになった。

家に引き込まれる時に、抵抗する力が弱くなった。
エレンの話に、小さく、相づちを打つようになった。
相変わらず表情を動かすことはなかったけれど、
目つきは少し、やわらかくなったように思う。


オレがアイツと、アイツの話をした夜から。
実はアイツは、それ以前よりもずっと、
口数を少なく、表情を薄くしていたのだ。

そのことに気づいたのは、
アイツがうちに上がるようになってから、しばらくしてからのことだ。

それまでのアイツには、
例えば、口を歪ませて笑ってみせたり、
オレを睨みつけてみたり、バカにするような目つきを作ったり、
そういった表情の変化は、あったのだ。

必要なことだけ、というのは変わらなくても、
もう少し、いろいろな言葉を投げて来ていたようにも思う。

それすらもなくなったことは、
これは、たぶん、
少しは喜んでいいのだろうと思った。

オレたちの家の中では、
無理に表情を作ることもないし、
無理に喋ることもない。

アイツの中でこの場所が、
多少なりとも、そういう場所に変わったのだろうと、思ったから。

そのことがオレは嬉しかった。
けれどアイツにとってのその結果が、
表情や言葉をなくすことだったのは、悲しかった。

舌を火傷しても、
表情にも、言葉にも、
普通だったら反射的に動くはずの身体にも変化がないのは、
見ているのが、辛かった。


だから、
エレンとの会話で見せた相づちや目つきの変化は、
オレが純粋に喜ぶことのできた、数少ない変化のひとつだった。

そしてその変化は、
本当に少しずつ、少しずつだけれど、大きくなっていった。

そんな小さな変化の月日が、2年流れて。


そうしてオレが18歳になるこの年に、
“約束”の終わるこの年に、
オレはアイツから、いくつかの言葉をきくことになったのだ。



***************



約束が果たされることになった、その月。
アイツは、オレとエレンに、
「もうここには来ない」と、そんなことを言った。

アイツとの付き合いも、もう7年になるのだ。
そう言いだすだろうことは予想済みだったオレは、
もちろんエレンと話し合って、
「来ないならコッチから行く」と、アイツを脅すことにしていた。

アイツはめずらしく、焦っていたようだった。

ここに来る用事がなくなったから、来なくなる。
それだけのことだろ。
アイツは、そうも言った。

どうしてだろう。
どうしてアイツは、そんなことを本気で、言えてしまうのだろう。

必要があるとかないとか。
オレもエレンも、そんなことでアイツを今まで、
こんなにも強引に家に上げていたわけではないのに。

相づちを打つようになったり、
目つきがやわらかくなったり、
少しずつ変化はあったのだから。

だから少しでも、
ただオレたちは、会いたかったから、家に上げたのだと、
気づいてくれていてもいいはずだった。

コイツだって、頭がいいのだ。
むしろコイツの場合は、取り立てて。
人の感情を読む力だって、
有り余るほどに、不必要なほどに、
逆に不便だろうというくらいに、持っているというのに。

それでもコイツは、本気で、そんなことが言えてしまうのだ。

コイツにそう言われて、オレたちが悲しい気持ちになったことはわかっても、
どうしてオレたちが悲しくなったのか、
コイツには、それがわからない。

だからオレとエレンは、強引な手段に出るのだ。

こんな強引な、言ってみれば「脅迫」でしかない言葉をコイツに向けるのは、
オレだってエレンだって、楽しいわけではないけれど。

でも、そうしなければコイツは、
きっと、もう、帰ってこられなくなる。

どこから、とか、どこに、とか、
そんなこと言葉にしては説明できないけれど。

でも、それだけはハッキリしている。
オレもエレンも、そう感じていたのだ。


そうしてアイツは、
今までと同じ様に月に一度、オレたちの家を訪れることになった。


アイツは少しずつ、
挨拶と相づち以外にも、言葉を話すようになっていた。
短い言葉ばかりだったけれど、
それは当然、嬉しかった。


けれど、アイツとオレの“約束”が果たされても、
アイツの“首輪”が外されることはなかった。
少しだけ期待をしていたオレは、ひどく落胆したのを覚えている。

そしてアイツは相変わらず、
アイツの庭には、行っていないようだった。
そこが今どんな状態なのか、
話すら、聴こうとはしなかった。

“首輪”のことも、“庭”のことも、
だからオレは、アイツにはなかなか聞けずにいたのだった。


けれど、
オレが働き始めてからもうすぐ1年になる、という春のある夜、
エレンはとうとう、1輪の花を、持って帰ってきた。
もちろん、あの庭で作られたものだ。

だからその月の夜、オレは、聞いた。
「そういえばさ、お前、なんであの庭に来ないんだ?」

カップを洗いながら、
さも、「ふと思いついた」とでも、言うように。

鋭いアイツのことだから、
そんなオレの様子には気づいていただろうし、
アイツは今まで通り、「その話はするな」と、突っぱねることもできたはずだった。

けれどこのときは、違った。

アイツは言った。
「気持ちの整理がつかないから」と。

「どういう意味だ?」
オレは尋ねたけれど、それには、答えてはくれなかった。

その日はその後、
アイツはまた、帰り際の挨拶以外、何も話さなかった。


アイツの言った言葉の意味がわかったのは、
それから半年くらいたった、秋の夜だ。

その日は月がとても綺麗で、
オレたちは窓の外の月を見ながら、
お茶とお菓子を頬張った。

月を眺めて、
オレも、普段はいろんなことを喋っているエレンも、静かになって。

そんな時にアイツが、ふと、言った。

「おれは今年、15歳、らしいんだけどさ」

コイツには誕生日がない。
それを知らないエレンにとって、その言葉は不思議なものだったろうけれど、
エレンは口を挟むことなく、アイツの言葉を待った。

アイツがこうして自分から話しかけてくることなんて、
だって、滅多にないことだったから。


「17歳になった年の、秋に。
 おれは正式に、あの爺の息子になることになってるんだ」


……なに?

オレは何の言葉も出て来なくて、
アイツの横顔から、目をそらすこともできなかった。

それでもエレンが、静かにカップを置いたのがわかった。
そのエレンも、何も言わない。

アイツは続けた。

「そうしたら、きっと今みたいには……ここにはもう、本当に来られなくなると思う。」

たぶん、忙しくなるからな。
そんな言葉と共に、アイツは続ける。

「きっと、あの庭にも行けない。
 エレンには悪いけど……。」

アイツが、エレンの名前を呼んだのは、
たぶん、この時が初めてだった。


忙しくなる。
たぶん、そうだろう。

でも、月に一度、ここにさえ来られなくなるというのは、
仕事がたくさんあるから、と、
それが本質的な理由では、ないはずだ。

おにいちゃん、もう“ミスター・ビッグ”の子どもなのかと思ってたよ。
エレンが言った。
めずらしく、あまり感情のこもっていない声だ。

アイツは答えた。

「いろいろ世話になってるだけだ。
 ただ、オレにずっと持ってた興味が、もっと大きくなって。
 だから、正式に子どもにすることに決めたんだってさ。」

それは、いつから決まっていた話なのだろう。

アイツは、
気持ちの整理がつかないから、もう「庭」には行かないのだと、言った。


例えばあの場所が、
アイツの、当時唯一の、少しは安らげる場所だったとして。

奪ったのは、オレだった。
その場所を失って、アイツはきっと必死に、あの場所がなくても自分を保てる術を、探したはずだ。

そして、それでどうにか、過ごして来たから。
だから逆に、あの場所には行きにくくなってしまったのではないか?
オレはぼんやりと、そんなことを考えていたのだけれど。


けれどそれは、いつか、時間が解決してくれるのではないかと、
そうも、思っていたのだ。

いつか少し、ほんの少しでも、気持ちに余裕がうまれたら。
ほんの少しでも、そうなれたら。
いつか。

そう、思っていたのだ。

けれど、それは叶わない。
時間は、コイツの味方ではなかったから。


“ミスター・ビッグ”は、
コイツの人生に興味があるのだと言ったらしい。

7年近く前、黒服からオレは言われた、
“ミスター・ビッグ”は、オレの人生には興味を持っていない、と。
あのときはそれが悔しかったし、悲しかった。

でも、
人の人生に興味があるって、なんなのだろう。

今までだって、
今だって、
コイツのことなんて、自分の思い通りにしているだろうに。

何が興味だ。


“ミスター・ビッグ”は飼い犬にはやさしいのだと、
以前、コイツは言っていた。

コイツと会えるのは、たったの、月に一度だけだ。
けれどその一度、
オレは注意深く、コイツを見るようにしているから。

だから例えば、
コイツが少し体調を崩していたり、どこかケガをしているような時でも、
“ミスター・ビッグ”がコイツに治療を受けさせているようだ、
ということには、気づいていた。
栄養状態も悪くなさそうだし、
洋服だって、ちゃんとしている。

話し振りや顔つきや動き方から、
コイツは学校には行っていないけれど、ちゃんとした教育を受けていることも、わかった。
細いけれど筋肉も綺麗についているから、
身体を動かすことも、
……もしかしたら、武術のようなこともしているのかもしれない。

それらのひとつひとつに、
オレは少し、ほんの少しだけ、安心していたんだ。

だって“買われた”人間とはつまり、
持ち主がそれに飽きれば、捨てられても壊されても、当たり前だと。
そういう存在だと、いうことなのだ。


けれど。

それは全て、コイツを
いつか自分の息子にすることを想定していたから、だったのだろうか。

「……じゃあさ、そしたらお前、もっとこの街をよくしてくれよ。
 この街を守ってるのがお前なんだったら、今よりももっと安心だ。」

オレは、お前なら安心だ、だなんて、
そんな冗談めかした軽口しか言えなくなる。


その年まで、あと2年もなかった。


コイツが例えば、息子になって。
そう、そうしたらきっと、
コイツには本当に、一切の自由はなくなるだろう。

今よりももっと多くの時間を、
あの黒服たちに囲まれて、あの大屋敷の中で、過ごすことになる。

“ミスター・ビッグ”は、決して、オレたちの前に姿を表さない。
この街にずっと住んでいるオレたちですら見たことがないのだから、徹底している。
それは、
「姿を見せることが命の危険につながるから」だろう、とオレは予想していた。
“ミスター・ビッグ”が、
この街の支配者が、つまりは“そういう危険の生まれるような仕事”をしているのだろうことは、
オレにだって、わかっていた。

そういう立場に、コイツもおかれる、ということだ。
“ミスター・ビッグ”の息子、だなんて、そんな肩書きをつけられたら。

オレたちのところに来られないだけじゃない。
あの場所にいけないだけじゃない。
おそらくもう片時だって、
きっと、一人でいる時間すら作れなくなる。


それは一体、いつまで続く?

例えば“ミスター・ビッグ”が死ねば、
コイツは自由になれるかもしれない。

“ミスター・ビッグ”だって人間だし、
もう、けっこうな年齢だとも聞いている。

でも、それじゃあダメだ。
だってそれまでコイツは、動けないのだから。

“ミスター・ビッグ”が老いて死ぬのは、
それはいつだ。

何年後?
十何年後?
もしかしたら、何十年後かもしれない。

それまでどれだけの間、コイツは囚われなければいけないんだ。
それまでどれだけの間こいつは、
自分の人生を自分で動けない、
そんな状態でいなきゃいけないんだ。


オレたちは3人とも、
それから何も、話すことができなくなって。

そうして、その月の夜は更けて行った。



***************



それから残りの、2年近く。

オレたちはその猶予の日々を、
変わらずに過ごした。
ゆっくりと、ただ、過ごした。

できるだけ多くの時間を、一緒に過ごした。
アイツは月に一度だけでなく、
時には二度・三度と、オレたちの家にやって来た。

どうしてそれができるようになったのか、
オレもエレンも、アイツに尋ねることは、しなかった。


厳しい寒さの冬が過ぎた。

やわらかな春が過ぎて、
力強い夏が過ぎて、
僅かながらも、実りと彩りを与えてくれた秋が過ぎて、
そうしてまた、冬がきた。

寒い寒い、冬だった。
けれどだからこそ、アイツがあたたかさを感じられるように、
そんな季節になるように、その季節を変えようとした。



オレは20歳になった。
あんなに幼かったはずのエレンは14歳になって、
アイツはとうとう、17歳になった。

それからまた、
春と夏とを、過ごして。


そして。

この前の夜、アイツは言った。
「来月だ」と。

「決まったよ。
 この月が変わったら。……次の月の、その、最初の日だ。」

穏やかに話すアイツに、オレは、返す言葉がなかった。
返せる言葉がなかった。


季節は秋。

来月。
月が変わるまで、あと、数週間を残すだけだ。


……けっきょくオレは、何が出来たんだろう。コイツに。

なにか、
少しでもなにか、できただろうか。

来月になってしまったら、きっともう本当に、何もできなくなってしまうのに。
どうしようもできなくなってしまうだろうと、わかっているのに。
もうコイツは
決して、帰ってこられなくなるだろうと、わかっているのに。

わかっているのに、
この現状を変える力なんて、全然、持つことができなかったオレでも。
なにか、少しでも。


どうしたらいいか、わからなかった。
本当に、わからなかった。

学校を卒業して、
仕事をして、
エレンを養うことができるようになっても。
コイツとの“約束”を、終えることが出来ても。

コイツとのあの“約束”は、
どうしようもできなかったオレたちを、
あの日、救ってくれたのに。


それなのに結局、
「オレにはどうしようもできない」としか、
そんな風にしか、思えなくて。


毎日毎日、
ただ、黒服たちに囲まれた『A』の姿を見ていることしか、
オレにはできなかった。



……そんな時だった。

痩身で黒髪の、
生意気そうな女と狼を連れた変なヤツが、この街にあらわれたのは。


それは、
アイツが“ミスター・ビッグ”の息子になる、
ほんの10日ほど前の出来事だった。



Alan_bytohnosan
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comment

  1. 2010/05/07(金) 03:33:21 |
  2. URL |
  3. よしたけりんか
  4. [ 編集 ]
うをぉ~いよいよ『Z』と『A』が近付いてまいりましたね~!!
ドキドキします!ハラハラします!!

そして・・・『Z』の登場シーンかっこいいです!黒髪で痩身の・・・なんか猫みたi…

遠野さんのアラン素敵スギです!!
てかこれデジ絵ですよね?!
今デジ絵の修行中なので、勝手ながらものすごく参考にさせていただいてます(☆∀☆)www

Re: タイトルなし

  1. 2010/05/07(金) 09:30:36 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
> りんかちゃん

来ましたよー!
ドキドキしますか!ハラハラしますか!
あぁ、よかった……。

デジ絵 って、何ですか?
手書きじゃない絵? ん? 手書きだけどアナログじゃない、的な……?
すみません、本当に無知です;_;(ちょっとググルさんにお世話になってきます!)

コメントありがとうございます☆

  1. 2010/05/07(金) 13:35:07 |
  2. URL |
  3. 遠野 亨聿
  4. [ 編集 ]
やっと会えるのですね…?
AとZ。
…凄く続きが待ち遠しいです…!!

あ、えっと…こんなに大々的に載せていただき…本当にドキドキするです…///

Re: タイトルなし

  1. 2010/05/07(金) 13:59:00 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
> 遠野 亨聿 さま

コメントありがとうございます*^^*
やっと、『Z』が到着しました。
彼らの旅はラストに向かっておりますが、
遠野さん祭りは、始まったばかりです☆笑
がんばって盛り上げますので、
どうかどうか、お楽しみにー!!

  1. 2010/05/07(金) 23:24:11 |
  2. URL |
  3. [ 編集 ]
おぉおおww
卒業おめでとうなのです!!
…なんて思っています←

大きくなられたのですねっ…///
私より大人だぁーww

そして二人の未来が気になります+。
もうドキドキなのが分かりますっ*^^*

春様!!
執筆頑張って下さいませっ!
楽しみにしていますwww

そして素敵絵ww
もうお話しのアランが皆この絵の子なのですよ☆

Re: タイトルなし

  1. 2010/05/08(土) 02:05:33 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
> 夢さん

はい、彼も大人になりました☆
あ……でも、私よりは子どもです。笑

今日からは、
週末以外はピッチ上げて行きますー。
がんばる、というか、ガリガリ楽しみますので、
どうか、あとちょっと、見守ってやって下さいませ*> <*

遠野さんは、
他にもたぁぁぁくさん、ステキな絵を描いていらっしゃいますので、
ぜひリンク先、見に行ってみてくださいませ*^^*
至福の時間を過ごせますよ☆

コメント、ありがとうございました☆

  1. 2010/06/07(月) 00:53:40 |
  2. URL |
  3. 遠野秀一
  4. [ 編集 ]
こんばんは、遠野です。

アラン君がスゲーカッコイイ大人になっているw
あれっ? でも、私より年下? 私よりもずっと大人な気が?

っていうか、Zの登場もカッコイイw
ユエ、生意気そうとか言われているしw

Re: 遠野秀一さま

  1. 2010/06/07(月) 09:05:51 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
おはようございます*^^*
アランがカッコいい感じの大人なのには、
絵の効果も非常に大きい気がしています。笑
そして彼は、私よりも年下らしいですが、たぶん、私よりも大人なヤツです。笑

> っていうか、Zの登場もカッコイイw
嬉しいです!!!!わぁぁぁい☆^^☆
一安心♪

そして遠野秀一さま、
本当に、あとちょっとですね!!すごいスピード!!
コメント、ありがとうございました☆

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