旅の空でいつか

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恋人の手紙_2《吹きだまりの街》 /Z

  1. 2010/05/05(水) 11:37:03|
  2. ★完結★ 『アルファベットの旅人』シリーズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:16
←ひとつ前の『恋人の手紙_1《吹きだまりの街》 /Z』はコチラです
※作品一覧はコチラです



おじいさんの出した条件は、
“お孫さんから話を聴くこと”だった。


まだ、私たちと『Z』が出会うよりも、数ヶ月前。
『Z』が旅をはじめてから、ほんの数週間後の話だ。

『Z』は、立ち寄ったとある町で、一人の少年に出会っていた。
すでに町の人には、あらかた『A』のことを聴いていて、
情報を得ることはできなくて、
それで、町を出ようとしていたところ。

ふと目についた丘の上で、
『Z』は、その少年に出会ったと言った。

町を、
町から伸びる道の先を一望できるような、そんな丘だったらしい。

そこで出会った少年は、
その日の朝に恋人と別れたのだと、言ったそうだ。

その町は、
お孫さんが、住んでいた町。
その日は、
お孫さんが、町を出て行った日。


お孫さんのいる2階に向かう前に、『Z』は言った。
「ぼくね、今、少しだけ嬉しいんだ」と。

「ユエと出会う前の、数ヶ月。本当に何の情報も手に入らなくてさ。
 だからぼく、それまでの時間が、
 なんだか全部無駄だったみたいな、そんな気がしていたんだ。」

無駄とか。
そんなこと、あるわけがないのに。

『Z』は、その少年のことをよく覚えている、とも言った。

自分だってその時、
焦って、焦って、本当に『A』に会えるかどうか、不安で仕方がなかったくせに、
なんだか偉そうなこと言って、発破かけちゃった感じだったから。
だから、ちょっと恥ずかしくて。

そんな風に、言った。

よかったね、『Z』。
よかった。
私は心の底から、そう思う。

決意をして、一人きりで、旅に出て。

私たちに出会った、情報を手にすることができるようになったその前の旅路だって、
絶対に、無駄なんかじゃない。


「行ってらっしゃい、『Z』」

『Z』のことだから、
絶対に、無理にお孫さんから話しを聴くような、
そんなことはできないだろう。

でも、『Z』だからたぶん、大丈夫だ。

だって『Z』には、
思わずいろいろ話したくなってしまうような、
そんな雰囲気があるから。

今までの道のりでだって、『Z』に「ついつい話しすぎちゃった」人たちを
私はたくさん、見て来た。

人には、話したくないこと。
でも、誰かに聴いてほしいこと。

『Z』の持っている雰囲気と、
あとはたぶん、「きっともう会うこともない人だろうから」という安心感とか、
そうさせるんだと思う。

そう思うから私は、2階にあがる『Z』に、笑顔で、声をかけられる。

少しだけはにかんだみたいな、
でも、まぁ……
やっぱり少しだけ、緊張したみたいな顔で、『Z』は2階へと上がって行った。

それに笑顔で手を振ってから、
(さて、じゃあ、私は……)
私と同じく、テーブルで『Z』を見送っているおじいさんに向き直った。


目が合って、おじいさんには「ん?」という顔をされる。

そんなおじいさんには控えめに笑顔を見せて、
私は言う。


「あの……私も、ちょっとお話ししてもいいですか?」


***************



「『A』のことは、いいんです。とりあえず。」

だって、『Z』だって聴かないんだから。

「でも、先にどうしても、伺いたいことがあって。」

私はもう一度、お茶を入れ直した。
おじいさんは台所の奥から、小さな砂糖菓子を出してくれた。

あ、ありがとうございます。
言って、私はお茶を差し出す。
おじいさんは黙って、私が話しだすのを待っていた。

「あの……。
 “ミスター・ビッグ”って、どんな人なんですか?」

おじいさんは、さっそく砂糖菓子の包みをバリバリと開けながら、
「さっき言った通りだけど?」なんて聞き返してくる。

「なんか、すごい実力を持っていて、街を守って、
 それから、でも……“支配者”だと、聴きました。」

「うん、あとビビリね。」

おじいさんの言葉を聴きながら、私も砂糖菓子をかじる。
すごく甘い。

「……私、『Z』を傷つけたくないんです。」

おじいさんは包みを開けたまま、
菓子には手をつけずに、私の話しを聴いてくれていた。

「『Z』にケガをさせたり、痛い思いとか怖い思いとか……させたくないんです。」
 さっき、“ミスター・ビッグ”はたぶん『Z』を気に入るだろう、って、そう、おっしゃいましたよね。」

おじいさんが、無言のままうなずいた。

「その人がどんな人なのかは、わかりません。
 でも『A』を……人を“買う”ような、人なんですよね。」

そんな人間が、『Z』を気に入るだろうと、そう、この人は言ったのだ。
私には、それが心配で仕方がない。

「だからもし、“ミスター・ビッグ”が、『Z』を傷つけるような人なんだったら……」

「だったら、どうする?」

おじいさんは、指についた砂糖菓子の粉を舐めながら、聴いてくる。
私は、砂糖菓子をひとかけ、ウルフの顔の前に差し出してやってから、
答える。

「……それなら私は、『Z』をあの街には、行かせたくない。」

ふむ。
おじいさんは、小さくうなずいた。

「お嬢さん、でもきっと君のツレは、どんなけ説得してもね、
 たぶん、あの街に行きたがる気持ちをおさえられはしないと思うよ。」

私も、うなずく。
私にだって、それはわかっていた。

「それは、わかっています。
 だからもし、その危険があるなら、……私は、考えないといけないんです。」

『Z』が、それでもその街へ行く、と言うなら。

力づくでも、『Z』をとめるか。
それが無理なら、例えば、申し訳ないけれど、私たちのファミリーにも、なんらかの協力を頼むか。
それも無理なようなら、私で、どこまでそれに対抗できるのか、まずは計らないといけないし。
もしくは。

「たとえば、あなたが“ミスター・ビッグ”と連絡をとれないようにする、とか。」

言って私は、おじいさんを見つめる。

指先で、
持ったままでいた齧りかけの砂糖菓子が少し、溶け出したのがわかった。

「……ボクを、脅しているの?」
いや君もさ、動き方がちょっと特殊だから、なんかやってたりするんだろうなぁとは思ってたんだけどね。
おじいさんはそんなことを呟きながら、さらに言う。
「でも君、あんまり人間に致命的なケガさせたりとか、したことないでしょ。」

私は笑って、うなずく。

「脅しじゃありません。あなたに“致命的なケガ”をさせるつもりも、ありません。」

さすがに、そこまでは。
たぶんできない。
それをしたいと、たとえ、思ったとしても。

「……でも、そうしなくてもとれる手段は、ありますから。」

例えば、“ミスター・ビッグ”と連絡をとるための鳥を、一時的に動けなくさせるとか。
しばらくの間、手紙を書くおじいさんの指を、動かせないようにするとか。

「きみ、案外おっかないねぇ。」

苦笑して言うおじいさんに、私も苦笑して答える。
ウルフが立ち上がって、脇に寄り添った。

「……私も、決めてるんです。」

私は、『Z』が大切だ。
とても。
それに『Z』には、『Z』の帰りを待つ人もいるのだと、知っているから。

「私は、私にできることを、するんです。」

たとえばそれで、
もう修復できないくらいに、『Z』との関係が悪くなるとしても。

私は、私にできることを。
やりたいことを、するんだ。

ため息をつくおじいさんを見つめながら、
私は、溶けかけた残りの砂糖菓子を、一口に飲み込んだ。

すごくすごく、甘い。
舌が痺れそうだ。

「……まぁ、たぶん、“彼”もそんな下手なことはしないと思うけどさ。」

薄くなった白髪を撫で付けながら、おじいさんは言う。

「でも、保証はできないよ。こればっかりはね。
 全てはあの子次第、ってことなんだけどね……。まぁ、どうだろう。」

おじいさんの口ぶりは、ひどく、曖昧だ。

「“彼”はね、まぁ、どう言ったって、“イイヤツ”じゃない。
 お嬢ちゃんが思いもつかないようなコトだって、いっぱいやって来てるし、
 ソレが“必要”だと思えば、ためらいなくやる。そういうヤツだ。
 ……ただ、まぁ、ヤなとこばっかりだったら、ボクもこんなに何十年も友だちやってないし、ね。」

そう言って、おじいさんは笑った。

「もう一度言うけどさ、保証はできないよ。何一つ。
 でも“彼”は、たぶん君のツレを気に入る。
 気に入った人間は……まぁ、ムゲに傷つけようなんて思わないんじゃないかな。」

たぶんね。
最後にそんな一言をつけたすから、
やっぱり私の不安は、拭えない。

「……“ミスター・ビッグ”が気に入る人間って、どんな人なんですか?」

おじいさんは、苦笑して言った。

「んー……それは、難しい質問。一言では言えないよ。
 “彼”がどんな人間なのかを、一言で言うのができない、って言うのと同じくらいね。」

もう、何十年も「友人として」つき合ってきたおじいさんでも言い表せないくらい、
“ミスター・ビッグ”は、難しい性格をした人間なんだろうか。

「君たちはさ、こう言っちゃなんだけど、かなりわかりやすい性格、してるじゃない。」

「はぁ……」
私はファミリーからはよくそう言われていたし、
最初はちょっとわかりにくい、と思っていた『Z』だって、
どんなことを考えて、どんなことを大切にして、どんな考え方をする人なのか、
それはなんとなく、この1ヶ月一緒にいただけで、わかるようになってきた。

たしかに、私たちはわかりやすい、かもしれない。

「でもさ、そんな、わかりやすい人間ばっかじゃないわけさ。
 イイトコがあったり、ワルイトコがあったり、ハッキリしてたり、曖昧だったり。
 勇敢だったり、ビビリだったり、明るかったり、シリアスだったり。いろいろあるでしょ。」

__許せなかった。
そう言ったときの、『Z』の顔が浮かんだ。

私には、それは当然のことのように思えたけれど、
でも『Z』自身にとっては、それはなかなか、受け入れたくない気持ちのようだった。

「みんないろいろあるけど、それでも“わかりやすい”人間がいる一方で、
 本当に“わかりにくい”人間もいる。むしろソレが個性、くらいのね。」
“彼”は、そっちのタイプなんだよ。たぶん。

(また、たぶん、ね。)

おじいさんは、“ミスター・ビッグ”のことを、あまり明確には話さない。
それはおじいさんの性格なのかもしれないし、
“ミスター・ビッグ”のことを、本当にただ、明確に話せないのかもしれない。

その判断をつけるのは、難しかった。

「……」

お茶をゆっくりと、飲み込む。
口の中に残っていた甘さが、流れて行った。

まだ、釈然とはしない私の気持ちを酌んでか、おじいさんが言った。

「……まぁさ、逆に、下手に無茶なことしないようにすることなら、できるんじゃない?」

「?」

「君、あのツレさんのことが大好きでしょ。」

もちろん、うなずく。

「『A』のことで今は、頭いっぱいみたいだけどさ。あんなイイ子なんだし、
 たぶん、あの子のことをだいじに想っている人は、君以外にも、いるんじゃない?」

それにも私は、うなずく。

「……だったらさ、ソレを、思い出させてあげなよ。」
そしたら、きっと無茶なこととか無謀すぎることとか、
君のツレはしないんじゃないかな。

おじいさんは、そう言った。

「……」

それは、わからない。
『Z』にとっては、だって、『A』の存在は
ものすごく、大きいのだ。

それに、最近は少しは落ち着いて来たように見えるけれど、
もともと『Z』は
自分のことを顧みることが、少なすぎる性格の人間だった。

だから、断言はできない。

でも。

おじいさんの言葉を聞いて、ふと、思いついた方法に、
私は少し、かけてみたくなる。

(抑止力、……的な?)

「……」

『Z』は、やさしいから。

「……うん、そうですね。それなら、できるかも。」

おじいさんは、静かに笑って、私を見ている。

私は、一息に残りのお茶を飲み込んで、立ち上がった。
急いで流しに湯のみを持って行く。

「ちょっと、買い物に行ってきます!」

すぐに戻ります!
そうも付け足して、私は出かけた。

お昼の時間を少し過ぎた、
あの、騒がしい市場に向かって、私は歩き出した。



***************



ウルフとお昼ご飯を食べて、
『Z』のご飯と、おじいさんたちへのお土産も買って、
それから、必要なモノを買い出してから、
私はおじいさんの家に戻る。

季節は秋とは言っても、それでもまだ外は明るいけれど、
もうすぐ、夕方。
そんな時間だった。

家に戻ると、
おじいさんは一人で薬の調合をしていた。
『Z』とお孫さんは、まだ、2階で話しているみたいだった。

ただ、流しには3人分の食事の後があったから、
お昼ご飯は食べたみたいだ。

私はおじいさんに、『Z』の分にと買った食事も合わせて、お土産です、と渡すと、
おじいさんに、お願いをした。

おじいさんは笑って、了承してくれた。

それから私は、
今度はお茶ではなくて冷たい水を汲んで、
机に向かった。
おじいさんはまた、あの砂糖菓子を出してくれたけれど、
それに手をつけるのは、少し待つことにする。

市場で買って来た紙とペンを取り出して、
私は、それを書き始めた。



***************



『Z』とお孫さんが2階から降りて来たのは、
私がソレを書き終えて、
今日はうちに泊まって行きなよ、と言われて、やっと暗くなって来た窓の外に気づいて、
それで、おじいさんと一緒に作り始めた夕ご飯ももうすぐ出来上がるような、
そんな時間だった。

随分長い間、話していたことになる。

『Z』は、お孫さんの肩に、捕まっていた。
少しだけ、動くのがゆっくりだ。

(……あぁ、今、見えてないんだ。)

気づいて私は、悲しくなって、焦るけど、
でも『Z』の顔があまり暗くないから、
今はまだ、完全に見えなくなるその時ではないのだろうと考える。

(落ち着け、私……。)

「おいしそうなにおいだね」と
料理の存在を感じ取った『Z』は、嬉しそうに言う。

『Z』と一緒に降りて来たお孫さんは、
少しだけ、スッキリした顔をしていた。
目元がほんのり、赤くなっている。

「あのね、おじいちゃん。
 ……私、手紙を書こうと思うの。」

降りてくるなり、お孫さんは、そう言った。

へぇ!
私は、少し驚いた。
これは、イイ感じの偶然だ。

「彼に、……全部は話さないけど、でも、
 行き先だって言った町の名前がウソだったことは、伝えようと思って。」

『Z』は、話すお孫さんの様子に、笑顔を浮かべている。
私はそんな『Z』を見て、笑顔になる。

お孫さんが、『Z』をイスへと導いた。
その隣に座るお孫さんに、私は
今日、市場で買って来た紙を差し出す。

シンプルだけど、
淵に繊細な細工をしてある、なかなか上等な紙だ。

「これ……」

少しつり上がり気味の目を見開いて、彼女が私を見つめた。

「あげる。さっき買ってきたの。“あなたも”使って!」

ありがとう。
私にそう言う彼女だけれど、
『Z』は、何の話をしているのか少しだけわからない、といった顔をしている。

だから、そんな『Z』に私は言う。

「ねぇ『Z』、あなたも手紙、書いた方がいいと思うの。」

え?
『Z』は、少しだけ焦った顔をしている。

「『Z』さ、旅に出てから、おうちの人に手紙書いたことある?
 ちゃんと、自分が今どんなことしているのかって、伝えたことある?」

『Z』はゆっくりと、首を振る。
そして「だって、心配かけるし」なんてことを言っている。

「手紙のひとつもよこさない方が、よっぽど心配かけるに決まってるじゃない。」

だから私は、そう、強気に言ってやる。

「あのね、『Z』は『A』に会いたくて、『A』のことを心配してるでしょ。
 でも『Z』のこと育ててくれた人だって、『Z』に会いたくて、『Z』のこと心配してるんだよ。」

「……でも、なんて書いていいか、わかんないよ。」

少なくとも、これから行く街の名前は書けないだろう。
たしかにその場所に向かうことを、
特に警衛士なんていしている人に知らせてしまったら、それは心配させるだろう。

大切な人に心配をかける行為をしていると。
『Z』には少し申し訳ないけれど、
でも、もっともっと、それを感じて欲しい。

そして「心配かけちゃいけないな」って、
少しでもいっぱい、感じて欲しい。

『Z』自身がそう思うこと。
それが、今出来る中で一番の、安全策になる。

私は、そんな気がしていた。

『Z』に向かって、おじいさんが言った。

「あ、その手紙書くこと、追加条件だから。」

えっ!
『Z』が驚いた声をあげる。

追加条件。
卑怯だけど、おじいさん、ナイスプレー!

そしてとどめは、
「……私も、書くし。
 それに、手紙を書いたら? って言ってくれたの、『Z』さんですよね?」
お孫さんがさしてくれた。

そうか、『Z』はそんなこと言ってたんだね。

「ほら、ね。いいからもう、書くって決めちゃいなって。
 すごいイイ感じの紙だって、もう私、買って来ちゃったし。
 ……それに私、もう『Z』のご家族に、私からの手紙も書いちゃったからね。
 『Z』が書かないって言っても、この手紙はどうせ出すんだから。」

『Z』の住んでいた家の場所なんて知らないけれど、
でも、ご家族の一人は、都で一番の病院で院長をしている、と聞いた。
その病院宛にだったら、『Z』から住所を聞かなくても、手紙は出せる。

「……ユエ、やること早すぎだよ。」

だって、こんなイイコト思いついちゃったんだもん。
それは仕方ないでしょ。

少してれくさそうにしている『Z』をよそに、
おじいさんが、出来上がった料理を並べてくれる。

「まぁ、とりあえずご飯の後にしよう。
 あったかいもんは、あったかいうちに食べるのがいいよね。」

人間、お腹がすいているのが一番よくないからね。
おじいさんは、そうも言う。

それには『Z』もうなずいて、
私ももちろん賛成して、急いで、テーブルの上を片付ける。

あったかいクリームシチューに薄くきったパンと、
それから、軽く、カラッと揚げた小魚のサラダ。
いいにおいだ。

私たちは、
4人と1匹でそろって「いただきます」をして、
その日の夜を過ごした。



***************



その日は、夜の間中、『Z』の視力は戻らなかった。
『Z』も、時間が過ぎるに従って
少しずつ不安になっていったようだったけれど、
「たぶん、大丈夫……」
そう、応えた。

一応、おじいさんにも見てもらった。

ちょっと、これはもうよくない感じだね。

おじいさんは、そう言った。
よく、ここまでもたせたね、とも。

ただ、今はまだ完全な失明ではないだろうと、おじいさんも言った。


だから『Z』のおうちの人への手紙は、
私が書いた。


『Z』が言うことを、
ひとつひとつ。

言い直したり、言う順番を変えたりもしたから、
何度も、何度も書き直した。

そうして出来上がった文章は、
すごく、時間はかかったけれど、
書き終えてみれば、私が書いた『Z』のご家族への手紙よりも、
随分と文章量は少なくなってしまった。

けれど、たぶん、これでいいのだ。


手紙の最後に、『Z』は
自分の名前と、誕生日のことに触れた。

ご家族が決めてくれた誕生日に、旅に出て。
だから、
次の誕生日までには戻れるようにします、と、そう書いて。

そしてそうしたら、
また、自分をその名前で呼んで欲しいと。


書いている私は、
必然的に、その名前を聞いてしまったわけで。


名前だから、
それは、たったの3文字。

でも『Z』にはとても似合っていると、そう想う。

(『Z』のご家族に、会いたいな……。)

すごく、そう思った。


「ねぇ、私さ、『Z』の名前、聞いちゃってよかったの?」

少しだけためらって、私は聞いた。

だって、『Z』が一度手放した名前は、
『Z』にとっても本当に、大切なものなんだと、想ったから。

この、たった3文字の中に。
いったいどれだけの願いが、祈りが、こめられているか。
伝わってくるようだった。

だから私は、ためらう。

けれど『Z』は、笑顔で言うのだ。
もちろん、と。

そしてこう、続けた。

「ぼくがさ、これから、無事に……会うことができたら、
 そしたらさ、ユエにも呼んで欲しいよ。」

「……」

いいのだろうか。
ご家族に会う前に、私が呼んでしまって。

その迷いは口には出さなかったけれど、
感じ取ったのか、『Z』が言う。

「呼んで欲しいよ。ユエにも。
 だってぼく、その名前で呼ばれるの、すごくすごく、好きだったんだ。」

「……」

私は、
どうしてだろう、どんな言葉を伝えたいのかがわからなくて、
ただ、うなずいた。

見えてはいないはずだけれど、
私のその気配を感じたのか、『Z』はさらに、微笑んだ。


私は、ふと、あらためて思う。

『A』に、会って。
それから『Z』は、どうするつもりなんだろう。

一目見たいんだと、
それだけなんだと、『Z』は言っていたけれど、

でも、本当に“見る”だけで気持ちのすむ話では、
もう、なくなっていると、思うのだ。

無茶なこと。
無謀なこと。
それさえしなければ、まぁ大丈夫だろうと、おじいさんは言った。

それをしないですむように、
私だってがんばるし、
こうして、手紙も書いた。

でも。
それでも。

「……ユエ、どうかした?」

黙り込んでしまった私に、『Z』が首をかしげて尋ねた。

「ううん、……なんでもない!」

『Z』には見えてはいないけれど、
私は笑顔で答える。


大丈夫。大丈夫だ。

きっと、うまくいく。
きっときっと、
ちゃんと会って、無事にいられる。

……今は、そう信じるしかないから。

だから、
不安な気持ちは、この手紙と一緒に
空に飛ばしてしまおう。

少なくとも、今は。

心配するよりも、考えること。
考えて、動くこと。

そのほうが、よっぽど大切だと思うから。


この手紙が青い空を飛んで、
そうして、『Z』のご家族の元に届くことを考えれば、
気持ちは少し、明るくなった。

「いよいよだね。……やっとだね、『Z』。」

私が笑顔でそう言うと、
『Z』も小さく、笑顔を返してくれた。



***************



翌朝。

お孫さんは、恋人へ。
『Z』は、遠い都のご家族へ。
私は、花の町にすむファミリーと、それから『Z』のと一緒に、『Z』のご家族へ。
そしておじいさんは、“ミスター・ビッグ”へと、
それぞれ、手紙を飛ばした。

4羽の、特に強い翼を持った鳩たちが、
それぞれの手紙を、それぞれの場所へと運んで行く。

いい天気だった。

それからもう数日を過ごすと、
1羽の鳩が、返って来た。

『Z』のご家族にも、お孫さんの恋人にも、
この街から手紙を送ったことは知らせていないから、
だからその鳩は、
“ミスター・ビッグ”からのもの。

鳩の運んで来たのは、
手紙ではなく、1枚のプレート。

『Z』が、
……私たちが街に入ることを許可すると、
それを示すプレートだ。


「じゃ、明日、出発しようかね。」

そう、さらっとおじいさんが言って、
私たちは、うなずいた。

明日。

私たちはついに、『A』の街へと向かって、発つ。



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comment

  1. 2010/05/05(水) 16:34:30 |
  2. URL |
  3. 遠野 亨聿
  4. [ 編集 ]
こんにちは!

いよいよ…といった感じですね、ドキドキします…///
ZもAも幸せになって欲しいです…!

  1. 2010/05/05(水) 18:03:45 |
  2. URL |
  3. [ 編集 ]
おぉおおお!!
続きが気になります…

やはり良いですね!!
ZもAも大好きです*^^*
長かった旅もやっと
目的の場所が見えてきたのですねー…なんか今から泣けてきます←

続きを楽しみにしていますね♪
頑張ってくださいませ+。

  1. 2010/05/05(水) 20:44:46 |
  2. URL |
  3. ゆさ
  4. [ 編集 ]
こんばんはvvv
いいお天気…戻ってきた鳩…。
役者が揃いましたね。

続きを楽しみにしています。

おじいさんの口調がとてもやさしくてホロリときました(^^)。

Re: タイトルなし

  1. 2010/05/05(水) 23:10:12 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
> 遠野亨聿さん

いろいろな意味で、いよいよです!!
遠野さん、いよいよですよ!!
私もドキドキしています……。
コメントありがとうございます*^^*

Re: タイトルなし

  1. 2010/05/05(水) 23:14:31 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
> 夢さん

こんばんは!
コメント&丁寧に読んで頂いて、本当にありがとうございます*^^*

> ZもAも大好きです*^^*
私もです。笑
いやぁ、自分以外の人に言ってもらえると、
本当に本当に嬉しいです;_;
ありがとうございます☆

> なんか今から泣けてきます

まだ泣くのは早いですよ*ーvー*
→すみません調子のったこと言いました。

あぁぁぁ、、、がんばります☆

コメントありがとうございました*^▽^*

Re: タイトルなし

  1. 2010/05/05(水) 23:19:08 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
> ゆささん

ゆささん!こんばんは~*^^*
コメントありがとうございます☆

役者……
が揃うのは、ごめんなさい、実はまだなんです。笑
ここで勢いに乗れないのが、
私の実力のなさ&残念さ、でもあるのだと思います。

もしくは空気の読めなさ。笑(これの可能性が非常に高いです)

続きもまたどうぞ、覗きに来てやって下さい☆

あ、
おじいさんの口調、ありがとうございます!!
なんか、今でもまだ微妙にキャラ定まってない感じがしているのですが……。
いいのかな。ダメですね。
でも、ありがとうございます*^^*

  1. 2010/05/06(木) 11:29:59 |
  2. URL |
  3. よしたけりんか
  4. [ 編集 ]
2話分一気に読みましたが、まさか最初の方の話が繋がってくるとはおもいませんでした!
すごい!!

いよいよ『A』に近付いてまいりましたね♪
『会ってどうするのか…』わたしも気になります(●>н<●)ムフー

Re: タイトルなし

  1. 2010/05/06(木) 12:55:16 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
> りんかちゃん

この2人には、実はちょっと独立した話(ただの設定)も作っちゃいました。笑
今のところ出す予定はないのですが^^;
さて!
次の記事はいよいよ、りんかちゃんの出番なのですよ!
本当に、ありがとうございますっ☆☆

コメントも、ありがとうございました☆
ふふふーん☆^3^~♪

  1. 2010/05/06(木) 13:17:02 |
  2. URL |
  3. airking
  4. [ 編集 ]
ぽぇーーーん!
改めて後日に最初からじっくり読みます!!

どせいさんと一緒に。。。w

昨日はコメありがとうございました!!
続きを選ぶ恐怖にも勝てる気がしました!w(何w

Re: タイトルなし

  1. 2010/05/06(木) 13:27:38 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
ばよえ~ん(違)

コメントありがとうごじます♪

 > 改めて後日に最初からじっくり読みます!!
ちょっとお時間かかるかもしれません。が
 > どせいさんと一緒に。。。w
…ということでしたら、ぜひ、よろしくお願いいたします。笑
読み聞かせてやって!!!!
どせいさんフォントでこの話を読んだりしたら、ものすごい革命的に雰囲気変わるだろうなぁ……なんて想像しちゃいました^^;

またairkingさんのところも、遊びに行かせて頂きますねー♪
続きがくれる勇気もありますから!

  1. 2010/05/06(木) 15:04:55 |
  2. URL |
  3. airking
  4. [ 編集 ]
ばよえーーーん!!w

えっ?wこれぷよぷよじゃなか!!w
もしやあなたは。。。ぷよぷよ通?w
ってこれタイトルになっちまうw

どせいさんフォントww
フォントがストーリーを変える。。。w
恐ろしいなどせいさんw

毎日でも来てやってください!!

僕も毎日行きますので。。。(おぃ!w

Re: タイトルなし

  1. 2010/05/06(木) 15:42:33 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
> aiekingさん

ごめんなさい、知ってただけでした!笑
スピードの要求されるものは苦手なのです……。
なぞぷよはやったことありますが!!
ぜひぜひ、おじさんを楽しみにしておりますよー*^^*

  1. 2010/05/06(木) 17:54:43 |
  2. URL |
  3. airking
  4. [ 編集 ]
あれ一人でやろうとすると。。。。
多重録音の技術が必要になるwでも
おじさん頑張ります!!

Re: タイトルなし

  1. 2010/05/06(木) 20:16:27 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
> 技術を磨くいいチャンスですね☆(鬼)

あ、無理はなさらず……
……でも楽しみにしていますので☆

  1. 2010/06/06(日) 00:34:32 |
  2. URL |
  3. 遠野秀一
  4. [ 編集 ]
こんばんは、遠野です。

最初の方にあった「恋人と別れた朝 /Z」は
こんなところに繋がっていたんですね。
……合ってますよね?

Zも言っていますが、ユエと出会うまでに過ごした日々が
こうした形で誰かの役に立つってのはいいですよね。

あと、ぷよぷよは苦手ですw
連鎖とかどーやればいいんですか?w

Re: 遠野秀一さま

  1. 2010/06/06(日) 07:57:17 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
おはようございます~*^^*

> 最初の方にあった「恋人と別れた朝 /Z」は
> こんなところに繋がっていたんですね。
あってます☆
あの時は、『Z』があった相手を男にしようか女にしようかも決めていませんでしたがwww

> 連鎖とかどーやればいいんですか?w

ぷよぷよは私もあまりやったことないですが、
「同じ色を近くに置いて行く」そのときに「なんとなく違う色を挟み込んでみる」
と、なんか連鎖できました。笑
5連差以上になると、けっこう楽しかったのですが……う~ん^^;

コメント、ありがとうございました☆

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