旅の空でいつか

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音楽の民_1《吹きだまりの街》 /Z

  1. 2010/04/18(日) 23:57:23|
  2. ★完結★ 『アルファベットの旅人』シリーズ
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→『音楽の民_2《吹きだまりの街》 /Z』はコチラです
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“吹きだまりの街”。
ここがそう呼ばれるのには、理由がある。


「なんていうか、随分……」
続きの言葉が出て来ない『Z』に私は言う。
「雑多だね。」
そう、それ!
『Z』が、スッキリした! といった風に答えた。

もうすぐ、夕方。
そんな時間になって“吹きだまりの街”についた私たちの目の前にあるのは、
とりどりの色。

赤、青、緑、黄色。
どれも砂埃にすすけてはいるけれど、
それでもなお、鮮やかな色の屋根を持つテント。

あちらこちらへと行き交う人々の肌の色も、
髪の色も目の色も、様々だ。
白。褐色。
赤。黒に近い茶色。
青に緑に、黒。
『Z』が探しているような、
金色の髪はその中でさえ、見つけることはできなかったけれど。

とてもとても、にぎやかだ。

大きな市が開催されているのかと思って、テントの人に聞いてみれば、
大きな声で笑いながら、そうではない、と言う。

今日が特別な日というわけではなく、
この街では、いつもいつも、こんな調子なのだそうだ。

“吹きだまり”なんていうから、どんな寂れた街かと思えば、
開放的で、騒がしい。

所狭しと、
物や、人や、大きな声にあふれている。

「ここに、“冬の要塞”に行くための手がかりが、あるのよね?」

『Z』はうなずく。
「あの人は、そう言ってた。」

ひとつ向かいのテントに下げられたランプに、灯がともされた。
それを合図にするように、
波紋が広がるようにして、
周囲のテントのランプも、光りだす。

(うわぁ~……)

たくさんのランプに照らされて、広場はますます
明るさと、雑多さを増して行く。

すごく、キレイ。
まるでこれから、大きなお祭りが始まるみたいだ。

その様子を眺めながら私たちは、
今日の宿屋を探し出した。

***************



人の数がともかく多いから、
無事にあいている宿屋を見つけられるかどうか、心配だったのだけれど、
そんな心配は必要なかったようで、
私たちは、すぐにあいている宿をとることができた。

けれど、外はもう黄昏時だ。
宿の人からは、
今からでは私たちの分の夕食を用意することはできない、と言われて、
私たちは食堂を探すことになった。

荷物を置きに、一旦部屋へ向かった私たちの鼻には、
食堂から、今日の夕の分だろう、食事のにおいが届いてくる。

もう、お腹がぺこぺこだ。

すぐさま部屋に荷物を置いて、部屋を出る準備をする私たち。
持って行くのは、財布だけでいい。

素早く準備を整えて、部屋のドアを開ける私の背中に
「……ねぇ、ユエ。」
『Z』が、声をかけてきた。

なにー? と私は、振り返る。


そこにあったのは、
困ったように笑って、サングラスをかける『Z』の姿だ。

「……『Z』?」

苦笑したまま、『Z』は何も言わない。


はじめて『Z』とケンカらしいケンカをした温泉の町で、
仲直りのしるしに、
私がプレゼントしたサングラスだ。

『Z』はとてもそれを気に入ってくれて、
いつも、胸の内ポケットの中に入れてくれていた。

けれど、
「見えている間はできるだけ」と
通り過ぎる道のひとつひとつを、
町や村の景色を、
そこで出会う、すれ違うだけの人の姿でさえもを、刻み付けるように眺める『Z』は、
今まで、
そのサングラスを使うことは、ほとんどなかった。

カーテンを閉めていない窓の外は、すでに日が落ちて、夜の景色だ。
他の建物の窓や、離れたところに見えるテントからの灯は見えるけれど、
目に刺激が強すぎる、というほどのものでは、もちろんない。

なのに、なぜ『Z』は今、
このタイミングで、サングラスをつけたのか。

私を呼んで、苦笑して。

……もしかして。

「『Z』、今、__見えてないのね?」

苦笑したまま『Z』は、
小さく、うなずいた。

「最近、見えない時間の間隔がね、
 大きくなってきてるのには、気づいてたんだ。
 それに、たぶん……これでもう完全に見えなくなった、ってわけでは、ないと思う。」

ただ、今回はちょっと、その時間が長そうな気がするから。
小さな声で、『Z』は続ける。


「……わかった。」


私は、ゆっくりと歩いて、
ベッドの側に立つ『Z』に近づいて行く。

そして、
「じゃあ今日は、手、つないで行く?」
微笑みながら私は、『Z』の手をとる。

そんな私に『Z』は、
苦笑から、笑顔の割合を少しだけ強くして言う。
「ユエは背、ちっちゃいから、肩につかまらせてもらったほうがいいかな。」

『Z』が背高いだけでしょ!
私も笑いながら、そう答えて、
『Z』の左手を、右肩に添えてやる。

私の右側に立つ、その『Z』のさらに右側には、ウルフが寄り添う。
それに気づいた証拠に、「ありがとう」と『Z』はウルフに言う。

『Z』は、人や物の気配には、敏感だから。
これなら、歩くのにもそんなに苦労はしないかもしれない。


……私が今まで、気づいていなかっただけで。

これまでも『Z』はそうして、目の見えない時が訪れても
普通に、
何事もなかったかのように、過ごしてきたのだろうから。


気づけなかった自分が情けないけれど。

でも私よりも、
一番、怖かったり、焦ったりするはずの『Z』がこんなに落ち着いているのだから、
だから私が今、
焦ったり、悲しくなったり、してる場合じゃない。

「じゃ、行きますか!」

だから私は、元気よく、そう声をかけて、
いつものように、部屋を出るのだ。



***************



実際のところ。

私の肩につかまって、逆側をウルフに挟まれている、というそれだけで、
『Z』は難なく、歩いてみせた。

不思議なくらいに大した苦労をすることもなく、
食堂を見つけて、席についた私に『Z』は言った。

「見えなくなるってことは、もう、随分前から、わかってたからね」

旅に出る前から、最低限、
ソレに大しての備えは、行って来ていたのだという。

さすがに、初めて訪れる場所や道を行くのでは、困ってしまうけれど。
「でも、大丈夫だよ。」
そう言う『Z』の声は、落ち着いている。

店内は、ひどく騒がしい。
いくつものランプに照らされてはいるけれど、
それでもなお薄暗い、一品ずつの価格帯の低い、安い食堂だ。
小綺麗どころか「小汚い」という言葉の似合う食堂だけれど、
けれどそんなコトを吹き飛ばすほどに、
この店に集まる人たちは、明るく、騒がしい。

この街について最初に見た、あの市の立っていた広場と同じだ。
喧噪。
明るくて、開放的で、騒がしくて、雑多だ。

あちこちで乾杯の声が響き、
大声で笑い騒ぐ声にあふれている。
店員の声ももちろん、それに合わせて大きいものばかりだ。

「なるほどねぇ」

『Z』の言葉にそんな風に答えながら私は、
今までとは少し、
違った気持ちで『Z』を見る。

薄暗い店内でもサングラスを外さない『Z』の姿は、
たしかに、ちょっと“変わっている”のだろうけれど、
けれどこんな店にも、その姿は溶け込んでいる。

“溶け込む”。
そんな印象を『Z』に持ったことが、
今まであっただろうか。

景色の中に、今にも溶けて消えてしまいそうな、
そんな危うさを感じたことは、あった。

けれど、この雑多な景色に、
たしかに存在感を持って“溶け込む”姿なんて、
今まで、なかったはずだ。


『Z』は、少し変わったと思う。
その変化が起きたのは、
間違いなく、ここに来る前の町だ。

そこで『Z』は、
かつて、自分の人生を奪った組織の男に、会った。

『Z』とその男が、日も落ちて暗くなるまでの長い長い時間、
一体どんな話をしていたのか。
詳しくは、私は、知らない。

けれどその男の家を出てきた後『Z』は、言った。
自分は、その男を“許せなかった”と。

……それからだと思う。
『Z』の、危なっかしいまでの「お人好しさ」が消えたのは。

もちろん『Z』が、
相変わらず“バカ”がつくほどのお人好しであることは、変わっていない。
何が変わった、と、
ハッキリと言えるほどの変化は、どこにもない。

けれどやっぱり、
変わった、と、私は思う。

視力をどんどんと失って、こんな店内でもサングラスをかけているというのに、
それでもそれはとても頼もしくて、
嬉しい変化だった。


「お待ちどー!!」


店員が大きな声で、
大盛りの料理を運んでくる。

『Z』は、店員がテーブルを離れたことをその気配で察してから、
慣れた手つきで、テーブルの上のフォークを探し出す。
探しながら、皿の位置も確認している。
それがわかる。

『Z』の手が、テーブルの上を散策するのを終えたのを見計らって、
じゃあ、
と私たちは、いつものように「いただきます」をするところだった。

「い」の口を作る、ちょうどその時。

店内の明かりが、消えた。

突然の消灯に、店内が一瞬にして静かになる。
見えていないはずの『Z』も、気づいて、「何が起きたのか」と気配を探り出した。
もちろん私もそうするけれど、
__何か危険が起きたような、そんな気配はない。


静寂は、ほんの数秒だった。
そして数秒後、
店内は、今まで以上の騒がしさに包まれた。

「ミーナぁぁぁ!!!」

あちこちから、声があがった。
みんながみんな、「ミーナ」と、呼びかけている。

女性の名前、だと思う。


パッと、明かりがついた。
スポットライトだ。
今まで気づかなかったけれど、離れたところに、小さなステージがある。
スポットは、そのステージに当てられている。

そして。

「……あっ」

私は思わず、声を上げた。
周囲の歓声にその声はかき消されたと思っていたけれど、
「どうしたの?」
『Z』には、聞こえていたようだった。

ステージに、静かに、女性があらわれた。
30歳くらい。
『Z』ほどではないけれど、長身の部類に入ると思う。
大人の女性に特有の、豊かで丸みを帯びた、
けれどハッキリとしたメリハリのついたラインを持った身体。
ゆるくウェーブのかかった、長い髪。

その、髪の色は。

「金色だ……。」

おそらくあれが、『Z』の探す色。

舞台の上で、スポットライトに照らされて。
やわらかく光りを放って。


「『Z』……金色の髪の人がね、いるよ。
 女の人で、30歳くらいだけど……今ね、いるの。舞台の上に。」

「っ!」

前の町で、男が言っていたという、手がかり。
それが、あの女性なのだろうか。

そこら中のテーブルから「ミーナ」と呼ばれるその女性は、
テーブルのひとつひとつに視線をやって、
ゆるく、微笑んだ。

私とも目が合った。
強い、明るい青色の瞳だ。
おそろしく整った顔立ちをしているけれど、
ゆるく、やわらかなその笑顔が、
ともすれば抱きそうになる、その美しさへの恐怖心をかき消した。


小さな舞台の奥から、
やっぱり小さな、ピアノの音が聞こえてきて、
店内は再び、静かになった。

マイクなんてない。
けれど「ミーナ」と呼ばれた、その金色の女性は、
歌った。


「……」


その女性が声を出した瞬間、
『Z』は、気配を探るのをやめた。
そして私も、
おそらく、周囲の他の人間も、
一瞬
呼吸をとめた。

小さなピアノの音にのせて、
女性の声が、響いた。

マイクなんかいらない。
決して大きな声ではないけれど、
確かな強さとやさしさをもって、
女性の声が届く。

ライトに照らされた女性の髪が、光りを放つ。
ひとつ、ひとつ、
音を発していく彼女の声もまた、
チリン、チリンと
真鍮の鈴の音のように、光を持って、放たれた。


__彼女が歌う間、
だれも、なにも、しゃべらなかった。

それは、息をとめるほど。
彼女の声以外の音が、耳に入らないように。


……私たちが我に返ったのは、
彼女が舞台を去って少しして、
誰かが歓声をあげた、その後だった。



***************



彼女が去っても、私はまだ、うまくしゃべれずにいた。
熱々だったはずの目の前の料理は、冷めてきてしまっている。

けれどそれを「残念」とも感じないほど。
彼女の歌は、『力』を持っていた。

彼女がすでに舞台を降りてしまっていることにも、
周囲のテーブルがすでに騒がしさを取り戻していることにも、
料理が刻々と冷めていってしまっていることにも、気づいていた。

けれど、それでもまだ、なんだぽーっとしてしまっている私の目の前で、
「あ。」
同じように黙ったままだった『Z』が、
一声発して、サングラスをとった。

(あぁ、『Z』、見えるようになったんだ……。)

それを理解して、やっと。
私の頭は、活動を再会した。


「ちょっ……! ねぇ今の! 今の歌!
 『Z』、ちゃんと聴いてた!? すごくない!?」

けれど興奮して、なんだか、うまく話せない。
自分の声が大きくなっていることにも気づいているけれど、
でも、止められない。

一方『Z』は、「うん、すごかった」と言いながらも、静かだ。

ただ、少し頬が赤くなっているところを見ると、
興奮しているのは、私と一緒らしい。

「……」

数秒、
お互い何も言わずに見つめ合って、
それから私たちは、忘れていた「いただきます」をした。

冷めた料理が、こんなにおいしく感じられたのは、初めて。

食べながら、私たちは話す。


「あの人、金髪だったよ。」

もりもりと食べながら、『Z』がきく。

「金髪って言っても、いろいろあるよね。どんな色?」

私も、もぐもぐとしながら、答える。

「なんか、やさしいっていうか、やわらかい感じ。あ、目は青かった!」
そして、
たしかにいろいろあるけど、金髪って時点でさ、めずらしいよね。
そうつけたす。

実際、
『Z』と旅をはじめてから、いろいろな場所で、そう少なくはない数の
黒髪ではない人間を見てきた。
けれど薄い茶色やハチミツ色の髪色はあっても、
「金髪」と言えるほどの髪の色を持った人間には、まだ、一度も出会っていなかった。

たしかに。
『Z』は口に料理を運びながら、そう答える。

「……」

その後私たちは、
またしばらく無言で、料理を口に運ぶ。

やがてウルフが、しっぽで私のふくらはぎを打った。
(あぁ、お水が足りないんだね)
ウルフの前に置かれた、いくつかの皿の様子を確認して、そう理解する。

水のおかわりをもらおう。
今日もいっぱい歩いたから、少しだけ、塩を混ぜてもらおうかな。
そんなことも考えながら、手をあげて、店員に声をかける。

「ねぇ、ユエはさ、
 あの歌っていた人が“手がかり”だと、思う?」

店員が私に気づいて、笑顔で寄って来る。
その様子を見ながら、私は答える。

「それはわからないけど、でも、可能性は高いと思う。」

だよね、うん。
『Z』は小さく、うなずいた。

あの人と、なんとかして話してみたいよね。
どうやって、あの人に会って話しかけるキッカケを作ろうか。
相当な人気歌手さんみたいだったから、普通に会いたいって言っても無理だよね。

……と、そんなことを相談したくて、
あげた手を下ろしながら私は『Z』を見つめるけれど、
けれど『Z』は、
店員に塩気をきかせた水を頼むのと同時に、
なんの躊躇もなく、
アルバイトと思われる店員に、言って退けた。


「あの、さっき歌ってた人と話したいんですけど、どうしたらいいですか?」

「!」


いくらなんでも、単刀直入すぎた。

これで「なんだか熱心なファンだ」なんて風に店員にとられてしまったら、
私たちはおそらく、警戒されて、
元々難しそうだった彼女との対面が、ますます困難なものに変わってしまうだろう。

私の想像通り、アルバイトらしい店員は
瞬時に困った笑顔になる。
「あぁ、またか」と、おそらく今頃この店員は、そう思っているはずだ。
もちろん、ファンの一人が「会いたい」と言ったからといって、
歌手に、いちいち取り次ぐはずもない。
そんなことをしていたら、彼女の時間は
ファンたちとの語らいだけで、おそらく、なくなってしまうだろうから。
またか、面倒だな、と、
けれどあからさまには表情に出さないあたり、
このアルバイトは、よく訓練されたほうだろうと、私は考える。

それとも、
こういった客の対応には慣れているのだろうか。
その可能性も高い。

一応、確認はしてみますが、
彼女も忙しいので、たぶん難しいと思いますよ。
……そう言い残して、店員は去って行く。

私は『Z』を、小さくつっつく。

(彼女に近づくチャンスを自分でつぶすみたいな……余計なことを……)
そんな想いを込めて。


けれど。

ウルフに渡す器を手にして戻ってきた店員は、
不思議そうな顔をしながら、『Z』に言う。

「あの……会う、そうです。」

あぁ、それはよかった!
言って『Z』は、力の抜けるような顔で、笑う。

(えぇ~……なんで……?)

よかったね、ユエ。

何も考えていないような、そんなやわらかな笑顔を向けてくる『Z』に、
まだ、どうしてそんなにうまい展開になるのかがわからない私は、
へら、っとした笑顔を返す。

「お食事が終わりましたら、お声かけください。奥へご案内いたしますので。」
店員はそう言って、去って行く。

あぁ~よかった!

笑顔で『Z』は、再び、料理に手をつけ始める。
それを眺めながら私もけっきょくは、
フォークをにぎりなおして、目の前の料理につきさしたのだ。



(to be continued…)



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