旅の空でいつか

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獣の庭《in secret》 /A

  1. 2010/04/16(金) 04:30:22|
  2. ★完結★ 『アルファベットの旅人』シリーズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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わたしには、ヒミツがある。

いつもいつも、わたしのことばっかり考えている、
心配性のアランお兄ちゃん。

本当にいつもいつも、わたしのことばっかりを考えてくれているだけのことはあって、
アランお兄ちゃんは、
わたしのことだったら、なんでも知ってる。

いつも誰と遊んでいるかとか、
どこで遊んでいるかとか、
誰とケンカしたとか。

ちょっと頭が痛くなっただけでも、
「エレンお前、どっか悪いのか?」って、
気づいて、聞いてきてくれる。

それにお兄ちゃんは、
いつもわたしの話を、よく、聞いてくれるから。

だから、お兄ちゃんに「ヒミツ」にしておくのは、
内緒のコトをつくるのは、
すごく、すごく、むずかしい。

でも。

わたしにはひとつだけ。
お兄ちゃんに、ヒミツがある。

もう3年、ずっと内緒にできたヒミツだから、
たぶんもうずっと、バレることはないと思う。


お兄ちゃんは知らない。

3年前わたしは、
わたしのつくっている『庭』の持ち主の、
あの、キレイなキレイなおにいちゃんと、
一回だけ、
2人だけで、お話ししたことがあるんだ。


***************



3年前、アランお兄ちゃんは言った。

「あの“獣”はもう、この場所へは来られなくなってしまった。
 だからかわりに、
 エレンに、この場所をキレイにして欲しいらしいんだ。」

やりたくなかったら、やらなくていいんだ。
お兄ちゃんは、そうも言った。

それを聞いて、
すごく、悲しかったのを覚えている。

わたしは、あの場所が好きだった。

今でも毎日忙しいお兄ちゃんは、
でも3年前は、
今よりももっともっと、忙しくて。

お兄ちゃんが帰ってくるのを待っている間わたしは、
おうちの中で遊んでいることもあったし、
近所のおばちゃんちに遊びに行くこともあったし、
お友だちのおうちに行くこともあったし、
とにかく、
いろんなところで、いろんなことをして、遊んでいたんだけど。

いつもより、帰って来るのがうんと遅かったお兄ちゃんを探しに行って、
迷子になって、初めてわたしは、あの1本の木のある、街外れの場所を知った。
そうして知ったあの場所が、
わたしは、大好きだった。

街の人もいないし、
街の中みたいに、いっぱい木とか花とかが生えているわけでもない。
なんもない。
あるのは、細い木が1本だけ。

そんな場所だったけど、
でもそこには、あのおにいちゃんがいた。
だからわたしは、
あの場所が、大好きだったんだ。


この街の中では、それまで見たことのない人だった。
細い細い、たった1本だけしか生えていない木に、背中をついて、
ちっちゃくなって、
ただ、じーっと、座っているおにいちゃん。

髪の毛が、やわらかい金色にキラキラしていて、
お日さまの光みたい。
あの場所は、あんまりお日さまの光があたらない場所だったけれど、
でも、時々、ちょっとだけ日差しがさしこむと、
おにいちゃんの髪の毛は、
いつもより、もっともっと、キラキラした。

いっつも地面ばっかり見ているお兄ちゃんは、
わたしが話しかけても、
全然、こっちを見てくれなくて、
だからちゃんとは見たことなかったけど、
でも、最初に顔を覗き込んだときは、
やっぱり、
すごく、すごくキレイな顔をしていて、
とってもビックリした。

夏になると、わたしは時々お兄ちゃんと、
すごく早起きして、街の中をお散歩したりした。
真夏でも、
朝は、すごく、キモチがいいんだ。
涼しくて、空気も全然、じとってしてなくて。
最初は薄暗いんだけど、少しずつお日さまがのぼってくると、
街の色が、
いつもよりもやさしい色になって、見えてくる。

お日さまがいっぱいのぼって、暑くなってくると、
また、いつもと同じ色に戻っちゃうんだけど。

そんな街が見られる、お兄ちゃんと手をつないで歩く夏の朝のお散歩が、
わたしは、大好きで。

あの、夏の朝みたいな。
夜と朝の真ん中くらいの、朝の空。
いちにちの、はじまりの朝の空の色。
お日さまのおにいちゃんは、そんな色の目をしてた。

お日さまも、
夏の朝のお散歩の空も、
わたしは、大好きだから。

だからわたしは、
ひとめで、そのおにいちゃんのことが大好きになった。


でも、だからアランお兄ちゃんが
「あの“獣”はもう、この場所へは来られなくなってしまった」
って、そう言ったときは、
本当に、悲しかったんだ。


どうしてかはわからないけど、
アランお兄ちゃんは、お日さまのお兄ちゃんのことが、好きじゃないみたいだった。

お兄ちゃんは、あのおにいちゃんのことを
アイツ、とか、“獣”って呼んでた。
わたしには、
あのおにいちゃんには会っちゃいけないって、そう言った。

わたしはそれも、悲しかった。

あのお日さまのお兄ちゃんとはそれまで、
わたしは、一回もしゃべったことがなかった。

話しかけてもいつも、お日さまのお兄ちゃんは
何にも答えてくれないし、
ただ、じーっと地面を見ていて、
ぎゅ、ってお膝を抱えて、動かなくて。

でも、お日さまのお兄ちゃんは、
絶対に、ワルイ人じゃない。
わたしは、そう思っていた。

イイヒトかどうかは、わからなかったけど、
でも、だって、ワルイ人だったら、
あんなに毎日、近くにいたら、
きっと怒ったり、怒鳴ったり、髪の毛をひっぱられたり、したと思うんだ。

でもあのおにいちゃんはそんなこと、
一回だって、しなかった。


わたしはお兄ちゃんが大好きで、
でも、キレイなキレイな、お日さまのおにいちゃんのことも、好きになっていた。


だから、お兄ちゃんが3日もお仕事がお休みになって、
行っちゃダメだって、ずっと言ってたお兄ちゃんと一緒に、
あの1本の木のところに行った時。

わたしがおにいちゃんにおにぎりを渡そうとしたら、
受け取ってくれて、
それで「ありがとう」って、言ってくれて。

はじめてしゃべってくれて、
すごくすごくすごく、うれしかったんだ。

お兄ちゃんとあのおにいちゃんが、
このまま、仲良くなってくれるかもしれない、とも思った。

そしたら、きっと。
きっと、すごく楽しいと思ったんだ。


でも、アランお兄ちゃんが
「あの“獣”はもう、この場所へは来られなくなってしまった」って、わたしに言ったのは、
その、次の日だった。

トイレから帰ってきたら、もう、お日さまのお兄ちゃんはいなくて。
夕方になって、おうちに帰ってから、
そう、言われた。


お庭をつくる、っていうのがどういうことなのか、
わたしには、よくわからなかった。

でも、
草をうえたり、花をそだてたり、
そういうことなんだな、っていうのは、わかった。

それはすごく、楽しそうだと思った。

そしたらきっと、いろんなムシも寄ってくるだろうし、
たった1本で立ってる、あの寂しそうな木も、
きっと嬉しいんじゃないかな、って、思ったし。

でも、何より、
お日さまのお兄ちゃんからの、お願いだったから。

だって。

アランお兄ちゃんと、お日さまのお兄ちゃんと、
みんなで一緒に遊べたら、
たぶん、きっと、
すっごく楽しいと思うんだ。

お庭をつくって待ってたら、
いつかお日さまのおにいちゃんも、また、あの場所に来てくれるかもしれない。

そしたら、3人で遊べるかもしれない。

それはすごく、
すごく、楽しそうだなって、思った。


だからわたしは、
そのお庭をつくろう、って、決めたんだ。

決めたら、悲しいキモチは吹き飛んで、
うれしくて、
たのしいキモチでいっぱいになった。

わたしが、お兄ちゃんとおにいちゃんを仲なおりさせてあげるんだ!
って、
そんな風に思ったんだ。


……お兄ちゃんに内緒で、
あのお日さまのお兄ちゃんとわたしが、初めて2人でお話ししたのは、
お庭をつくろう、って決めた、
その次の日のことだった。



***************



その日お兄ちゃんは、
朝早くから、いろんな人のところに行かなきゃいけないから、って言って、
すごく早い時間に、おうちを出て行った。

まだ街のみんなは、朝ご飯を食べ始めるくらいの時間。

お庭をつくるんだ! って、嬉しい気持ちでいっぱいだったわたしは、
お兄ちゃんが出て行ったあと、
すぐに、あのお庭に向かったんだ。

まだ、周りも静かで、
お店をやっている人たちは、その準備をはじめていたけれど、
他の人はみんな、ごはんを食べている時間。

時々、スープのにおいとか、パンが焼けるにおいがしてきて、
わたしはすごく、楽しかった。

スープのにおいも、
パンが焼ける甘いにおいも、大好き。


そんな中をるんるんと歩いて、その場所につくと。


「……おにいちゃん?」

いないはずの、
お日さまのおにいちゃんが、いた。

いつもみたいに座っているんじゃなくて、
あの1本の木の、すぐそばに立って、
両手で、細い細い、幹にふれて。
少しだけ上に顔を向けて、
枝の間から、たぶん、朝のお日さまの光を見ていたんだと思う。

何だか、
木と、お話しをしているみたいだった。

そんなお日さまのお兄ちゃんは、
やっぱり、すっごくキレイだった。

キレイだな。
思いながらわたしは、
(このおにいちゃんが、ワルイ人なわけないよ)
って、そんなことも、考えていた。

なんだか、ずっと見ていたいようなキモチになったけれど、
わたしの声に気づいたお日さまのおにいちゃんは、
ビックリしたみたいにこっちをむくと、

「……」

すごく、名残おしそうに木から両手を離して、
そのまま、歩いて行っちゃいそうになった。

なんにも言わずに、わたしの横を通り過ぎて、
歩いて行こうとしていたんだけど。

でも、お日さまのおにいちゃんが、
なんだかすごく、本当に、
この場所が好きなんだろうな、って、思ったから。

だからわたしは、呼んだ。

「待って!」って。


振り返ってくれないかも。
そう思ったけど、
お日さまのおにいちゃんは、立ち止まった。
「……」
でも、立ち止まるだけでなかなか振り返らないから、
わたしはもう一度、呼んだ。

「おにいちゃん、待って!」って。

そうしたら、
やっぱりちょっとだけ、迷うみたいにして、立っていたんだけれど。

けっきょくお日さまのおにいちゃんは、
振り返って、
わたしのそばまで、来てくれた。

お日さまのおにいちゃんが、わたしの声に反応してくれたのは、
これが2回目だった。

「……」

そばまで来てくれたおにいちゃんは、
でも、何も、言わなかった。

キレイな色。
大好きな、朝の空の色。

それが、じーっと、わたしを見てる。

それだけで、
わたしはなんだか、嬉しくなった。

だからわたしは、たぶん、すごくニコニコして、お日さまのおにいちゃんに言った。

「あのね、わたし、お庭つくるよ!」

決めたよー、って、
自慢するみたいに、言った。

「おにいちゃん、ここ、好きなんでしょ?
 だからね、いっぱいお花うえて、草もうえて、ここをキレイなお庭にするよ!」

わたしがニコニコして、そう言うと。
お日さまのおにいちゃんは、
「よろしく、たのむよ。」
って、
小さな声で、言った。


また、おにいちゃんの声が聞けた!

わたしはますます嬉しくなって、
もっともっと、お日さまのおにいちゃんとお話しがしたくなって、聞いたんだ。

「でもさ、おにいちゃんさ、なんでここが好きなの?」

ここはこれから、
すっごくすっごく、ステキなお庭にするけど。

でも、今は、何もない。
あるのはこの、1本の木だけ。

なんでこの場所なんだろう。
わたしは、不思議だったんだ。

聞かれたお日さまのおにいちゃんは、
少しだけ困った顔をして、
困った顔をしながら少しだけ考えて、そして、言った。

「……ここは、すごく静かで、やさしいから。」

「……?」
よく、わからなかった。

よくわかってないわたしに、お日さまのおにいちゃんは言う。

「ここは、あんまり声も聞こえないし、人間も来ない。
 この木はすごく静かだし、それに、なんか……おれがいても、大丈夫な気がしたから。」

言うけれど、
言いながらおにいちゃんも、よく、わかっていない感じだった。

「木は、この木じゃなくても、静かだよ?」
だって、木は、しゃべらない。

お日さまのおにいちゃんは、
「そうなんだけど、この木はとくに静かで、なんか、大丈夫な気がしたんだ」って、
やっぱり、あまり自信のない感じで言っている。

わたしは、考える。
静かなのが、しゃべらないのが、好きなのかな。
そうじゃないのは、「大丈夫じゃない」のかな。
大丈夫じゃない、って、どういうことだろう。
わたしがそう思のは、どんなときだろう。
そんなふうに考えて、わたしは言う。

「……おにいちゃん、こわいの?」
「!」

お日さまのおにいちゃんは、少しだけ、ビックリした顔をする。
わたしは、なんでビックリされたのか、わからない。

……ビックリじゃなくて。
なんか、もっと、
もっとおっきなヒミツがバレちゃったときみたいな、
そんな顔だった。

でもやっぱりわたしには、
なんでそんな顔をされたのか、わからない。

だから黙って、おにいちゃんが話すのを待つ。


「……こわいよ。」


お日さまのおにいちゃんは、そう言った。
言ったときだけ、目の青が濃くなったみたいに見えて、
(あ、夜の色だ。)
そう思ったけど、
でも、それはほんとうにその時だけだったから、
そう見えたのは、たぶん、わたしの見まちがえ。


「なにがこわいの?」

わたしはさらに聞いた。
だって、わからない。

この街の人は、みんなやさしいイイヒトだし、
街のことは、ミスター・ビッグが守ってくれてるらしいし、
あんまり遊びに行けないけど、“ハナマチ”のお姉さんたちは、
みんなキレイでやさしくて、
わたしのこともアランお兄ちゃんのことも、すごく可愛がってくれる。
こわいことなんて、何もないのに。

わたしは聞いたけど、
でも、おひさまのおにいちゃんは、それには答えてくれなかった。


だからわたしは、
お日さまのおにいちゃんがもういられない、という、
1本の木に、目をむけた。

「あの木は、しずかなの?」

おにいちゃんは、うなずいた。

「おにいちゃんは、木とおしゃべりできるの?」

その質問には、
おにいちゃんは、首をかしげた。

「木は、しゃべらない。だから、木とは、しゃべれない。
 でも、なんか……あの木は静かなんだ。だから、いいんだ。」

木は、しゃべらない。
それはわたしだって、知っている。
でも。

「おにいちゃんは、あの木がなんて言ってるのか、わかる?」

わたしがそう聞いたら、
おにいちゃんは、また少しだけ、困った顔をした。

それは、ずっとききたかったコトだった。

この場所に来るようになって、
このお日さまのおにいちゃんを見るようになってから、ずっと。

お日さまのおにいちゃんは、なんだか、
この木と、お話ししてるみたいに見えたから。
お話しはできないって、おにいちゃんは今言っていたけど、
でも、声を聴くことだけだったら、できるんじゃないかな。

わたしは、そう思った。
木がしゃべらないのは、わたしだって知ってるし、
しゃべらないんだったら、きく、なんてことも、あるはずはないんだけど。

でも、思ったから。

お日さまのおにいちゃんは言った。

「なんて言ってるかなんて、わからない。
 でも、なんか、……聴こえるような気がしたんだ。」

そう言うお日さまのおにいちゃんは、
なんだかすごく、寂しそうだった。

そうだ。
お日さまのおにいちゃんは、もう、ココに来られなくなってしまったんだった。

「……おにいちゃん、なんでココに来られなくなっちゃったの?」

「決めたから。」

答えるとき、お日さまのおにいちゃんは、迷わなかった。

(決めたから?)


「大好きな場所なのに?」

おにいちゃんはうなずく。

「どうして?」

「それが必要だったから。約束、したから。」

必要?
何に必要なの?
だれと約束したの?

わたしはそれもきいたけれど、
お日さまのおにいちゃんは、それは、教えてくれなかった。

決めたから。
約束したから。

そう、くりかえすばっかりだ。


「……もう、行かなきゃ。」


寂しそうに、名残おしそうに、おにいちゃんは言う。

「本当は今日はもう、おれは、ここに来ちゃいけなかった。」
おにいちゃんは、そう言った。
「こんな朝早くから、人に会うとは、思ってなかったから。」
そうも言った。

だから、わたしは言った。

「じゃあ、このことは、ナイショね!」

わたしよりもちょっとだけ背の高い、
でも、アランお兄ちゃんよりはちいさいお日さまのおにいちゃんに、
わたしは、右手の小指をさしだした。

「わたし、今ここにいたこと、だれにも言わない!
 ここでおにいちゃんに会ったことも、言わない!」

アランお兄ちゃんにも言わないよ!
わたしがそういうと、
お日さまのおにいちゃんは、
「それはたすかる」って、
小さく言った。

ナイショにすると、お日さまのおにいちゃんはうれしいんだ。
だったら、
ぜったいに、ぜったいに言わない。

(アランお兄ちゃん、ゴメンナサイ。)

そんな風にも、すごく、思ったけど。
いま、ここであったことは、
2人だけのヒミツにするんだ。

わたしは、そう決めた。

「だからね、おにいちゃん、ユビキリしよう!」

そう言ってわたしは、差し出した小指を、
ぐっ、と、もっと近くに持って行くけど、
お日さまのおにいちゃんは、びっくりしたように少しだけ後ろに下がって、
何も言わないで、わたしの指を見ている。

「……おにいちゃん、ユビキリ知らないの?」
「……」
おにいちゃんは、うなずいた。

ユビキリゲンマンを知らないなんて!
わたしは、ビックリした。

お父さんとか、お母さんとか、お友だちとか、
今まで、だれとも、
いっかいもしたことがないのかな。

わたしには、お父さんもお母さんもいないけど、
でも、
お兄ちゃんとも、近所のおばちゃんとかハナマチのお姉さんとも、
ユビキリは、いっぱい、したことがある。

いままで、じゃあ、どうやって約束してきたんだろう。

ビックリしたけど、
わたしはちょっと、楽しくなる。

「じゃあ、わたしがおしえてあげる!!」

楽しくて、わたしは、
お日さまのおにいちゃんの手をとった。

「!」

おにいちゃんは、
一瞬、カラダをビクって、かたくしたけど、
わたしは楽しかったから、気にせずに、
おにいちゃんの小指を、わたしの小指にからませる。

お日さまのおにいちゃんの手は、
アランお兄ちゃんよりも小さくて、白くて、冷たい。

でも、それもなんだか楽しくて、
ニコニコして、笑いながらわたしは、ユビキリの歌を歌う。

だって。
ふたりだけのナイショ、なんて、
ちょっとだけ、楽しい。

お日さまのおにいちゃんと仲良くなれたみたいで、楽しい。
すごく、嬉しい。

だからわたしは、
ぶんぶん、って、からませた指をおっきく振って、歌う。

お日さまのお兄ちゃんはだまったままで、
でも、わたしが歌い終わるまで、その指をはなさなかった。


「ハイっ! これで、約束だよー!」

歌いおわって、
わたしはあいかわらず、うれしくて、たのしくて、ニコニコしていたけど、
おにいちゃんは、不思議そうな顔をして、
いまは離れた指を見ているだけだ。

不思議そうな顔をしたまま、
「……やくそく、だ。」
ちっちゃな声で言って、お兄ちゃんは、歩いて行ってしまった。

バイバイおにいちゃん。またね!
わたしはそう言ったけど、
おにいちゃんは、返事はしてくれなかった。


わたしはニコニコしていたけれど、
おにいちゃんは、笑わない。

そう言えば。
(お日さまのおにいちゃんがわらってるところは、まだ、いっかいも見たことがなかったな)


せっかく、お日さまみたいなのに。
せっかく、夏の朝みたいな、キレイな目なのに。

それがすごく残念なキモチになって、
だからわたしは、
めいいっぱい、笑った顔になって、
お日さまのおにいちゃんにもういっかい、言った。

「またね、おにいちゃん!」

ニコニコして、
いっぱい、いっぱい、手を振って。

おにいちゃんが、ふりかえって、言った。
「じゃあな。」

またね、は、言ってくれなかった。

おにいちゃんはやっぱり、笑わなかった。



***************



それが3年前の、
わたしとお日さまのおにいちゃんとの、ヒミツ。

あの日から、3年間。
わたしは一度も、お日さまのおにいちゃんには会っていない。

街の中で、見かけることはあった。
いつも、オオヤシキの黒い洋服の人たちと、いっしょに歩いている。

3年前はよくわからなかったけれど、
街のみんなが、黒い洋服の人たちを、怖がっているのがわかった。
怖いキモチは、なんとなく、わたしにもわかった。
あの人たちは、
だって、なんだか、“違う”から。

でも、お日さまのおにいちゃんのことまで、
街の人たちは怖がった。
ハナマチのおねえさんたち以外は、みんなみんな。

街の人たちのそんな話をきくたびに、
わたしは、
3年前、こわいよ、って言っていた、お日さまのおにいちゃんのことを思い出す。

__お日さまのおにいちゃんは、怖くないよ。

街のみんなにそう言いたいけど、
でも、言えなかった。

街の、本当にみんなが言うから、
だから、なんだか、言えなかった。

黒い洋服の人たちと一緒に歩く、お日さまのおにいちゃんは、
なんだか、全然ちがう人に見えた。
知らない人みたいだった。

それはなんだかさみしかったけど、
でも、お日さまのおにいちゃんはきっと、
3年前から、変わってない。

私たちは頭を下げるけれど、
でも、時々、わかるから。

お日さまのおにいちゃんが、見てる。
わたしのことを。

おにいちゃんが、頭を下げるわたしのことを、
どんなふうに思ってみてるのか、それはわかんないけど、
でも、きっと、おにいちゃんは変わってない。

そんな気がするんだ。


お日さまのおにいちゃんは、
あの日から一度も、
お庭には、来なかった。

もしかしたら、
わたしが起きる前とか、寝てからとか、来てるかもしれない。

最初はそんな風にも思ったけど、
でも、そのキモチは、すぐになくなった。

街で、黒い洋服の人たちと歩くおにいちゃんを見て、
おにいちゃんに見られてる、って感じて、
それでなんとなく、
きっとあのお庭は見てないだろうな、って、思った。


それから。

これは、気づいたのはつい最近なんだけど、
お日さまのおにいちゃんは、ひとつきに一回だけ、
アランお兄ちゃんに会いに来ているいるみたいだった。

夜の、すごく、遅い時間。

トイレに行きたくて、夜中、目が覚めて。
そしたらアランお兄ちゃんが、
ドアの外で、誰かと離していて。
わたしが見たのは、
ちょうど、アランお兄ちゃんが外から入ってきて、家のドアを閉めるところだった。

隙間から、お日さま色の髪の色が、見えた気がした。

ビックリして、わたしはアランお兄ちゃんにきいたけど、
アランお兄ちゃんは、
お日さまのおにいちゃんではない、って言う。

ウソだ!

わたしは思ったけど、
でも、違う、って、アランお兄ちゃんは言う。

ウソだ。
絶対にウソだ。

わたしは思うけれど、
どうしてわたしには会わせてくれないんだろうって、すごく悲しくなるけれど、
でも、アランお兄ちゃんは、
違う、って、言い続けた。

最初は、わたしを抜かして2人で仲良くしてるんだ! って思ってたんだけれど、
アランお兄ちゃんのその言い方をきいて、
それは違う、ってことが、わかった。

だってお兄ちゃんは、
まだ、キライなんだ。お日さまのおにいちゃんのこと。
それはすぐに、わかった。

だから、あれはお日さまのおにいちゃんだ、って、
アランお兄ちゃんにそう言わせることは、諦めた。

お兄ちゃんがおにいちゃんのことをキライで、
わたしは、悲しい。

でも、そのお兄ちゃんがどうして、
わたしにナイショで、会っているのか。

それはすごく不思議だったけれど、
でも、その理由はわからない。
気になったけど、
お兄ちゃんはきっと、絶対に、教えてくれないだろうなって、わかった。


だからわたしは、
わたしにできることを、した。


わたしにできるのは、
お庭をつくること。


お日さまのおにいちゃんは、
3年前のあの日から、一度も、来てくれない。

アランお兄ちゃんは来てくれるし、
わたしが楽しそうにしているのを見て、一緒に楽しそうになってくれるけれど、
でも、
本当は、わたしがお庭をつくることを、イヤだって思ってる。
最初はわからなかったけど、
最近はだんだん、わかってきた。


でも、わたしは、お庭をつくる。


だって。


わたしと、お兄ちゃんと、おにいちゃん。

わたしはいつか、3人で、遊びたいんだもん。


一緒に座って、おはなしするだけでもいいんだ。

大好きなお兄ちゃんとおにいちゃんが、
一緒に、仲良く、笑ってくれたら。

またおにぎりをつくって、
ここで3人で、お昼ごはんを食べるのもいいな。

それはむずかしいかな。

でも、
そんなことができたら、
ぜったいに、ぜったいに、楽しいと思うんだ。

3人で。


3人で会うなら、ここがいい。

この、お庭がいい。


ときどき、お兄ちゃんも手伝ってくれる、
お日さまのおにいちゃんが大好きだった、この場所。

おにいちゃんのお庭。
ここがいいな。


だから。

わたしは、がんばるんだ。


今年から、
わたしも「学校」に行く、ということが、決まっていた。

学校に行ったら、
このお庭には、今みたいにいっぱいは来られなくなる。

だから最初はイヤだったけど、
でも、アランお兄ちゃんが「頼むから」なんて言うから、
行くことに決めてしまった。


でも、
来られる時間は少なくなっても、
わたしは、お庭をつくるよ。

がんばるよ。


……だって、ここには。


おにいちゃんのお庭なのに、
ここには、おにいちゃんの姿だけがない。

3年前の、あの日から。

お日さまのおにいちゃんだけが、いないんだ。


わたしは、そんなの、イヤだから。


だからわたしは、お庭をつくるんだ。


いつか3人で、仲良くなって、遊べるように。

お日さまのおにいちゃんが、
いつ、このお庭にかえってきても、大丈夫なように。


おにいちゃんが、かえってこられるように。


わたしは、
お庭をつくって、待っているんだ。



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comment

no title

  1. 2010/04/19(月) 20:28:43 |
  2. URL |
  3. 遠野秀一
  4. [ 編集 ]
妹、癒されますねw
重い話がベースになっているから余計に。

お日さまのお兄ちゃんのこと、知ってほしくないなー、
そのままの君でいてくれーって思うけど、知っちゃうかなー?

うーん、切ないです……。

Re: no title

  1. 2010/04/19(月) 21:29:40 |
  2. URL |
  3. [ 編集 ]
> 遠野さん

コメントありがとうございます*^^*
癒されますか!
あぁ~っ、一安心です。

お日さまのおにいちゃんのことはですね、
……まぁ、また、おいおいww

コメント、ありがとうございました☆

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