旅の空でいつか

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恋人と別れた朝 /Z

  1. 2010/02/27(土) 23:40:40|
  2. ★完結★ 『アルファベットの旅人』シリーズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2

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そいつに気づいたのは、もうすっかり日ものぼりきった時間。

そいつがそこにいることに気がついて初めて、
自分が随分長い間、そこに座ったままでいたことに気がついた。

日のあたる、町外れの丘の上。
ここからなら、町の外へと続いていく長い長い道が、一番良く見えるから。

そいつが、話しかけてきた。
どうしたの、と、ただ一言。

見かけない顔をあやしんで名をたずねると
『Z』
とそいつはこたえた。

それは名前じゃなくて記号じゃないか、と言うと、
そうだね、と言って、そいつは柔らかく笑った。

あまりにやわらかい顔で笑うから、
なんだか照れくさいような、悲しいような、よくわからない気持ちになった。

しばらくうつむいて黙っていたけれど、
風が気持ちよく吹いてきて。

だから、話し始めた。


***************

この日の朝、
朝と言っても、まだ外も暗いような時間に、
真冬の時期でもあるまいに、冷え込む空気の中で
恋人と別れた。

この朝に別れが来ることは、その少し前からわかっていた。
恋人の口から聞かされていたから。


__両親の仕事の都合で、遠い、遠い町に行く。
__馬車に乗って、何日も何日もかかるような場所に。
__ずっとそこに住み続けるかはわからない。
__けれど、この町に戻ってくる予定もない。

恋人の行く町の名前も教えてもらった。
聞き覚えのない名前。
どんな場所なのか、想像もつかない。


自分も一緒に行く、とか
ここにいて、とか
口に出すのはなんとか堪えた。

自分は、もうまるっきりの子どもではなかったけれど、
自分の力で生きていけるほどにはまだ大人でもなかった。

なんとかしようと思えば、なんとかなったのかもしれないけれど、
まだできない、と思った時に、
もう、別れは決まったようなものだった。


一緒にいて何をするわけでもなく、
何か特別な出来事を乗り越えたわけでもなく、
それまでただ、一緒にいることが当たり前で、
隣にいるのが一番心地いいと、お互いに感じていた。

未来を約束したわけでもなかった。
でも、約束なんてする必要がないくらい、
ずっと一緒にいるのが当たり前なんだと思っていた。


暗い道を、二人で歩いた。
恋人を連れて行く馬車のやってくる、その場所まで。

道のりで、何を話したかは覚えていない。
何かポツポツとしゃべったことは覚えているけれど、
あとはとにかく、無言だったような気がする。

重い荷物を半分ずつ抱えて、
ただ、二人で歩いた。


来なければいいのに。
そう思い続けていたけれど、信じられないくらいに正確に
恋人を連れて行くその馬車はやってきた。


__じゃあ、行くね。
__元気でね。


また会おう、とは言えなかった。
恋人も言わなかった。

重い荷物を運び入れて、
最後に、恋人が乗る。

馬車の窓から半分だけ、顔をのぞかせる恋人。
泣いてはいない。
笑顔で、手を振っていた。

きっと一生懸命につくった笑顔だということがわかったから、
だから自分も、笑顔で手を振った。

馬車が走り始める。

物語のように、馬車を追う自分の姿を想像したけれど、
結局、それはしなかった。

一緒にいよう、と言えなかった最初の時に
きっともう、終わっていたんだと思った。


馬車が角の道を曲がって。
自然に、足が動きそうになったけれど、それでもまだ、そこに立ち尽くしたままでしかいられなかった。

やがて馬車の走る音も、消えた。

まだ日の上らないくらいの明け方の町は、
人の声も、鳥の声さえ聞こえなくて、無音の世界だ。
聞こえるのは、自分の呼吸の音だけ。


だから、自分は、___走った。


来た道を引き返し、
いつもは曲がらない道を曲がり、
ただひたすらに続く坂道を走って、のぼっていく。

走って、走って、走って、走って。
どんどん荒くなっていく自分の呼吸。
聞こえるのは、自分の呼吸の音だけ。

いつだって隣にいたはずの、隣で聞こえていたはずの
なんてことないはずの「声」が聞こえない。
もう聞くことができない。
それが怖かった。
だから、走った。

そうしてこの丘の上にたどり着いた。

この町で、一番遠くまで見通せる場所。
まだ、見えるかもしれない場所。

遠くの道に、馬車のような黒い小さな影が見えた。
それが本当にその馬車なのかどうかはわからなかったけれど、
お日様の方向に走っていくその影に、明るい陽がさした。

朝が来て、一日が始まったんだと、わかった。
もう恋人は、自分の手の届かないところに行ってしまったんだと、
初めて理解した。

(・・・・・・。)

その場に座り込んで、ずっと、道の向こうを眺めていた。
もう影すら見えない、明るい道の向こうを。

***************


また、風が吹いた。
自分ももう、行かないと。

『Z』に向かって、言った。


自分と恋人は、きっともう、2度と会うことはないだろう。
「一緒にいたい」と言えなかった最初の日に、自分はあきらめてしまったのだから。
奇跡が起きても、きっと会えない。


『Z』は最初の一言以外、一切の口を挟むことなく、ずっと話を聴いていた。
別に何かの反応を期待していたわけでもなかったから、
返事なんて待たずに立ち上がって、町に戻ろうとした。


「大丈夫、きっとまた会えるよ。」


その声に、振り返る。
無責任なことを言うな、と思ったけれど、それを言う前に『Z』は続ける。


「あきらめたのが原因なら、今から、諦めるのをやめたらいい。
 奇跡なんて起きるか起こらないかはわからないけど、そんなものに頼る必要だってないよ。」


簡単に言うな、と思うと同時に、
でも、と思う自分がいた。

これから自分は大人になって、きっともっと、生きる力もつけて。
そうしたら。今日から諦めずにいたら。

いつか、会いにいけるだろうか。
会いにいって、その町にもう、いないとしても。


「会いたいなら、きっと、会える。いつか。」


また風が吹いて。
なんだか、世界が明るくなったような気がした。

胸が高鳴るのがわかった。
恋人の顔を思い出して、そしてそのとき、
初めて、涙を流した。

一緒にいたかった。
大好きだったんだ。本当に。

『Z』は少しだけ考えるようにして、それにね、と付け加える。


「奇跡だって、案外、やってくれるかもしれないよ。」


奇跡は諦めない人だけに味方してくれるって、教えてくれた人がいたんだ。
『Z』はそうも続ける。

そうかもしれない、と返した。
たぶんね、と『Z』は笑った。

それから、ひとつだけ、『Z』からこの町のことをきかれて、
いいや、と首を振ると、
「そうか・・・」とこたえて、『Z』は少しだけ悲しそうにまた、笑った。

「教えてくれて、ありがとう。」
それきり『Z』は、黙り込んだ。


自分も、ありがとう、とだけ言って、
そして、丘を降りた。



***************



__会いたい人がいるんだ。


ひとり丘に残った『Z」は、遠くの道を眺めながら、思い出す。

陽だまりのような、奇跡のような、その色。
長い間、自分を支えてくれていた。

遠い記憶。
もう、わずかにしか思い出せないけれど。
それは今でも、『Z』の希望の色だった。

わかるのは、『A』という記号だけ。
気づいてもらえる可能性は、拾い直した『Z』というかつての自分の記号だけ。


探すんだ。
絶対に。


少しだけ疲れて、『Z』はそこに寝転んだ。
草のにおいと、あたたかい陽が心地いい。


大丈夫。
まだ、諦めない。
だから、大丈夫。


そう、自分に言い聞かせながら、
『Z』は目を閉じた。




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comment

  1. 2011/08/09(火) 02:17:27 |
  2. URL |
  3. 星乃瑠璃
  4. [ 編集 ]
 最初の「ゼロ地点」とは雰囲気が違いますね。
 
 明るいけど、お別れって切ない・・・

Re: 星乃瑠璃 さま

  1. 2011/08/09(火) 23:32:43 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
重ねまして、こんばんは!!

この話は、ちょっとだけさわやか風味です・v・

それにしても、本当に、
懐かしいこの話を読んで下さって嬉しいです☆
このブログを始めることにしたきっかけの話ですし、ちょっと思い入れもひとしおなのです^^;

道のりはまだはじまったばかりですので、
どうぞゆったり、ご覧下さいませ*^^*

コメントありがとうございました♪

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