旅の空でいつか

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『ゼロ地点』 /A/Z

  1. 2010/02/26(金) 11:46:57|
  2. ★完結★ 『アルファベットの旅人』シリーズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:10

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いつからそこにいたのかを思い出すことはできなかった。

売られたのか、捨てられていたところを拾われたのか、さらわれたのか、
それはAにはわからなかったけれど、
物心ついてからの景色はずっと変わらない。
遠くに見える窓からの光は、Aの元に届くことはほとんどない。

両手にはめられた重い鎖。

酔っぱらった大人たちに
笑いながら殴られること。
遊び半分に切りつけられること。

どれも当たり前にあったから、耐えることはできた。

一番苦しかったのは、空腹だ。
寒さと空腹とにやられるような日々は、
Aにとっての一番の恐怖だ。

時折連れて行かれる「明るい場所」。
そこに連れて行かれる時は、
身体にまとう布が、肌触りのよいものに変えられる。
血や汗といった汚れにまみれたものではなく。
両腕の鎖も、錆がなく、キラキラに光った軽量な物に変わる。
Aがどれだけ力を入れてもびくともしないことにはかわりはなかったけれど。
けれど鎖の数は増える。両足にもはめられるから。

そうして、それまでの日々が嘘のように豪勢で、豊富な量の食事を与えられる。
これを食べずにいたら、むしろもっと楽になれるのではないかとも考えるけれど、
結局Aはいつも、堪えられず手を伸ばしてしまう。
必死にむさぼり、けれど弱っているから食べきれずに吐き出して、
それでもまた、手をのばさずにはいられないAの様子を見て
ロウバンたちは嫌らしく笑う。
昔は持っていたはずの悔しく思う気持ちも、
Aの中からは次第に消えていった。
そんなこと、どうでもよくなるくらいに、
いつもいつも、お腹がすいていたから。

そうして、普段は顔を合わすこともない、数人の「自分と同じような」子どもたちと
一列に並ぶように繋がれて、
そうして、明るい明るい区画の中に放り込まれる。

目の前には、「客」と呼ばれるたくさんの男たち。
それから順番に、「値段」をつけられる。

Aにつけられる値段がどれほどのものなのか、Aは知らなかった。
値段の大きさなど、教えてもらったことはなかったから、わからなかった。

わかっていたのは、
他の子どもたちがどんどんと「客」たちに連れられていく中で、
いつもAだけは取り残される、ということだ。

他の子どもたちがあらかたいなくなって、
「客」たちにひとしきり眺められて、
それから、また、暗い場所に戻っていく。

鎖も、布も、元に戻って。

いつまで続くのかはわからなかった。


それがAの日常だった。



******************




暗い、暗い場所にいた。
もっと昔は、たしかに明るい場所にいたような気はしていたけれど、
それが本当のことなのか、自分が想い描いただけのことなのか、
Zにはもうよくわからなくなっていた。

立ち上がって背伸びをしても届かないくらいに高い場所に、
ひとつだけ、窓がある。
晴れた日には、ほんの少しだけZの元に届く光は、
ほんの少しだけ、Zをあたためた。

両手にはめられた重い鎖。

酔っぱらった大人たちに
笑いながら殴られること。
遊び半分に切りつけられること。

どれも当たり前だった。
当たり前だったから、耐えることができたのかもしれないと、Zは時々思う。

一番苦しかったのは、空腹だった。
寒さと空腹とにやられるような時は、
いつも、覚悟をしなければいけないと思わされる。

けれど、もう無理だ、と思わされるギリギリのタイミングでいつも
Zは「明るい場所」に連れて行かれる。

「明るい場所」に連れて行かれる時は、
身体にまとう布が、嫌なにおいも汚いねばつきもないものに変えられる。
両腕の鎖も、キラキラに光った軽量な物に変わる。
Zがどれだけ力を入れてもびくともしないことにはかわりはなかったけれど。
けれど鎖の数は増える。両足にもはめられるから。

そうして、それまでの日々が嘘のように豪勢で、豊富な量の食事を与えられる。
何度も「もうダメだ」と思うほどの空腹に苦しんだけれど、
Zは運良く、どうにかいつも、間に合ってきた。
必死に食事に手を伸ばし、
弱っているせいで吐いても、それでもこの機を逃さないようにと
恐怖にかられて食べ続けるZの様子を見て、
ロウバンたちは嫌らしく笑う。
悔しい気持ちよりも、悲しい気持ちが強かった。
中には、痛がっているような、悲しんでいるような、苦しんでいるような、
そんな顔をするロウバンもいた。
そんなこと、どうでもよくなるくらいにお腹はすいていたけれど、
その人の顔は覚えておこうと、Zはいつも考える。

そうして、普段は顔を合わすこともない、数人の「自分と同じような」子どもたちと
一列に並ぶように繋がれて、
そうして、明るい明るい区画の中に放り込まれる。

目の前には、「客」と呼ばれるたくさんの男たち。
それから順番に、「値段」をつけられる。

Zにつけられる値段がどれほどのものなのか、Zは知らなかった。
値段の大きさなど、教えてもらったことはなかったから、わからなかった。

わかっていたのは、
他の子どもたちがどんどんと「客」たちに連れられていく中で、
いつもZは取り残される、ということだ。

取り残されるのはZだけではなかった。
もう何回目に「明るい場所」に連れてこられたときだったかはわからなかったけれど、
Zは気づいた。
もうひとりだけ、自分と同じように、いつも取り残される子どもがいる。

光のようなひとだな、とZは思った。
あの、決して手の届かない遠い窓。
そこから自分をあたためる、あの光と同じ色の髪の毛をしている。
自分や、他の人間たちの真っ黒の髪の毛とは違う。

他の子どもたちがあらかたいなくなって、
「客」たちにひとしきり眺められて、
それから、また、暗い場所に戻っていく。

その途中で、光の彼が『A』と呼ばれているのをきいた。

それが名前ではなく、記号であることをZは知っていた。
ロウバンと呼ばれる男たちのひとりが言っていたから。
名前のない自分たちを識別するためにつけられた記号。

値段をつけられて、「客」に連れられていく、他の子どもたち。
どこに連れられていくのかは、Zにはわからない。
いなくなった子どもたちの穴をうめるように、
次にその「明るい場所」に連れて行かれる時には、
違った顔の子どもがあらわれる。
いなくなった子どもの記号をあてがわれて。


Aと話しがしてみたい。
いつか。

Zはそんな風に想うようになったけれど、
それが叶う日がくるのかはわからなかった。

いつか。
いつか。

その想いは、いつも少しだけ、Zの身体をあたためた。


それがZの日常だった。



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comment

初めまして。

  1. 2010/03/23(火) 22:13:54 |
  2. URL |
  3. ぽにょまん
  4. [ 編集 ]
ぽにょまんと申します。

普段PCとは違うツールで見ているので、コメントが出来ないので申し訳ないのですが、ちょくちょく読ませて頂いております。

暗い雰囲気ですが、分かりやすい言葉で語ってくれるので読みやすかったです。また、二人を対比させた描き方も巧妙で面白いと感じました。

連載に追いつけるのがいつになるか分かりませんが、期待してます。

No title

  1. 2010/03/24(水) 00:02:15 |
  2. URL |
  3. 精米致志
  4. [ 編集 ]
楽しく読ませていただきました。面白かったです。「A」と「Z」の二人がこれからどうなっていくのか、じっくりしっかり読ませていただきたいと思います。

もっといいコメントができればいいのですが……。とにかく素敵な作品だなと思いました。

Re: 初めまして。

  1. 2010/03/24(水) 00:27:46 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
> ぽにょまんさん

コメントありがとうございます*^^*
暗い話ですが……
小学生とか中学生でも読めて、でも、大人である自分が読みたいこと。
忘れたくないこと。
そんなことを書きたくて、始めた話、というかブログです。
もし携帯からだったら、
ごめんなさい、後のほうで、携帯(少なくともau)では、文字数が多すぎて見られない話が出てきます。
今のところ、2つくらい。
ごめんなさい><。
ソレに懲りず、ぜひ、またいらしてください。
そしてまた、感想を聞かせていただけると嬉しいです!
コメント、ありがとうございました☆

Re: No title

  1. 2010/03/24(水) 00:31:19 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
>精米致志さん

コメントありがとうございます☆
一歩、一歩ですが、『A』も『Z』も、進んで行きます。
ゆっくりな歩みですし(私の更新が)、
できているかはわかりませんが、
先の方に進んだら、また、帰って来て、前の話を読みたくなる。
そんなお話を目指しています。
精米致志さんの、ちょっとでも楽しみな、お暇つぶしになってくれると嬉しいです*^^*
これからも、よろしくお願いいたしますね。
コメントありがとうございました!

no title

  1. 2010/04/01(木) 21:36:11 |
  2. URL |
  3. リシャール
  4. [ 編集 ]
小説、拝見させていただきました。

暗いお話ですが、面白かったです。
両極端な二人がこれからどのようになっていくのか楽しみです。

これからも更新頑張ってください。
陰ながら応援しております。

Re: no title

  1. 2010/04/02(金) 00:47:30 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
> リシャールさん

コメントありがとうございます*^^*
そうなんです、暗いんです。笑

ただ、背景や状況は変えていますが、
同じような状況で育って来た、という若者を私は何人も見て来ているので(@日本)、
だから逆に書きにくかったりもするのですが、
そんな子どもたちがどうやって力強く、今も生きているのか、
書き記していきたいなぁと思っているのです。
まだまだ未熟なので、書き表せないことやいろんなこと、ありますが、
どうぞ、見守ってやって下さい。
ご訪問&コメント、ありがとうございました!!
私も伺います*^^*

  1. 2010/05/24(月) 00:10:00 |
  2. URL |
  3. 遠野秀一
  4. [ 編集 ]
こんばんは、遠野です。

前からずっと最初から読むと言ってましたが、ようやくその機会が……。
途中から入ったんで続きの方も気になるんですが、
PC壊れて一時戦線離脱してたんで、まぁいい機会かと思って。

ちょうどアルファベットを書き始めた話も聞いたことですしw
そういうの念頭に置いて読むと、また印象が変わるかもしれないですね。

Re: タイトルなし

  1. 2010/05/24(月) 01:50:25 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
> 遠野秀一さま

こんばんは!コメントありがとうございます*^^*
あぁ、そうだ、遠野秀一さまが読み始める前に
あんなものを書いてしまっていたのでした^^;

やばい、変なプレッシャーが……!!笑
(でももう今さらなので放置)

ちょっと話変わりますが、
遠野秀一さまが書いて下さっている、あの無茶ブリのリクの続き。
最終話が出た段階で、
もう一度最初から一気読みする計画を立てています。笑
えへへ、よろしくお願いします~*^^*

コメント、ありがとうございました!
(アルファベットは長いので、ゆるゆる休みながら読んで下さいねー!!)

はじめまして

  1. 2011/08/08(月) 13:45:22 |
  2. URL |
  3. 星乃瑠璃
  4. [ 編集 ]
牡蠣ひろみさんのリンクから飛んできました。
星乃です。
私も小説を書いているのですが、このアルファベットみたいな素敵な作品は絶対かけないと思いました。
題材が、奴隷のような感じかな?
暗い内容なのに、引き込まれていきました。
すごいです。
これからも読ませていただきたいと思います!

Re: 星乃瑠璃 さま

  1. 2011/08/08(月) 23:00:41 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
星乃さん、初めまして!こんばんは*^^*

> 牡蠣ひろみさんのリンクから
おぉぉ~~~!ありがとうございます☆
牡蠣さんのお話、ぐるんと入って行けちゃいますよね*^^*

そしてそして、
なんだかもう懐かしい記事にコメントを頂き、ドキドキしております……!
校正したバージョンも(掲載していないですが)作ったので、
もはやお恥ずかしい……><;
後半、素晴らしく尊敬しているブロともさんが挿絵を描いて下さっているのですが、
本当にそれがすばらしいので、ぜひぜひ、覗いてみて下さい*^^*
(作品一覧に、今まで挿絵を描いて頂いた記事へのリンクがあります)

コメント嬉しかったです。ありがとうございました!!

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