旅の空でいつか

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終章;捩じれて拗れたその先の話

  1. 2012/11/01(木) 20:48:24|
  2. ★完結★ 『真空パックと虹色眼鏡の物語』シリーズ
  3. | トラックバック:1
  4. | コメント:8
※作品一覧はコチラです


みなさまこんばんは、春です。
『真空パックと虹色眼鏡の物語』更新しました。
最終話です・v・

あまり間をあけずに更新、できました。


そしてそして皆さま、拍手ありがとうございました!
11111クラップのリクエスト、無事に頂けました。

ブログ「やおよろず書評」のgakerさんです☆
お題は
「青春、恋愛、現代、短編」で頂きました。

青春、恋愛、現代とか。
自分ではなかなか書こうとしない分野なのでドキドキです。
そして、楽しみ。
gakerさん、ありがとうございます☆

次回は、上記リクでの更新かと思います。


それでは、ラスト、
《続きを読む》よりおすすみください☆



***************


昼の混雑時を過ぎ、ティータイムまでには間があるこの時間
『カフェR』には静かなひとときが訪れる。
客足はパタリと途絶え、フロアには
簡単な洗い物をする水音と小さく流しているBGMの音、
マサキのグラスを磨く音しか聞こえない。
奥でくろさんの仕込んでいる鍋の、ぐつぐついう音さえ聞こえてきそうだ。

この数日、マサキはずっと考えていた。
自分の中でじりじりと燻りをあげるモノの正体を。

答えはあらかたわかっていた。
けれど彼女に向けて足は動かなかったし、
携帯に向けて声を届けようとすることも指を動かすこともできなかった。
もう使うことはないだろうと、あの夏の日に決めておきながら
彼女の連絡先は消せないでいた。
だからやろうと思えばいつでも、動こうと思えばいつでも、動けたはずだった。

答えは出ていた。
けれどまだだ、という思いがあった。
離れるべきだと判断した事由は何一つ解決されていないのだから。
今さらだ、という思いもあった。
季節は変わり、短い秋は過ぎて、もはや冬の匂いを感じさせる頃合いだ。
彼女の中からはもうとっくに
自分の存在など薄れてしまっているかもしれないのだから。

だから、まだ動くべきではない。
だから、もう動いても仕方がないかもしれない。
マサキはそう考えている。
……けれど。

テーブルを磨いていたしろさんが、ふいに顔を上げた。
ふわりと笑いながらカウンターにやって来て、
グラスに僅かの氷と水を注ぎだす。

「どうかしました?」

尋ねるマサキに、しろさんは笑顔を向けてくる。

「ううん、これから」

しろさんがグラスについた水滴を吹き終えた瞬間、
ドアベルがいつになく勢いのよい音を立て、誰かの入り込んでくる足音が廊下に響いた。
その勢いのままフロアのドアが開く。

「……美咲さん?」

後ろでひとつにまとめられた髪は乱れて
バッグからは、無理に押し込んだらしい薄手の上着があふれて見えている。
顔は僅かに上気していて、呼吸が荒い。

「お、……久しぶり、です」

敬語だ。
呼吸のせいか、声も荒い。

しろさんが彼女にグラスを渡した。
頭を上下に数度傾けることでお礼を伝え、彼女はそれを一息に飲み干した。
それから深呼吸を数度。

まだ少し荒い呼吸のまま、美咲がカウンターにやって来た。
マサキの正面。

「……お久しぶり、です」

マサキも敬語になった。

(走って来たのかな)

どうして?
何をしに、何のために?

美咲が空のグラスをカウンターに置いた。
様子から判断して、1杯では足りなかったろうと
今度は氷も通常程度入れて水を注ぎ足してやる。
差し出すと、美咲は無言でそれもほとんど飲み干してしまった。

次に口を開いたのはマサキだった。
美咲はまだ落ち着きを取り戻せないでいるけれど、話しかける。

「そんなに急いで、どうしたの? 何かあった?」

何となく敬語になりそうなのを堪えて、いつも通りを意識して言葉を選んだ。
答える美咲は、今度は片言だった。

「私、真崎さん、好き」

「え?」

「あ、えと、え? あれ? 違う、えと、違わないけど、あれ?」

ちょっと待って、と再び慌てた様子で美咲が言う。
その顔がみるみるうちに
やって来たときの数倍にもなる赤さに染まっていくのを見てしまって
(うわ……)
マサキの顔も赤くなる。

「違う、違うの」と言いながら、美咲はもはや涙ぐんだ様子だ。
顔はやがて隠されてしまった。
けれど隠れていない耳までが真っ赤で、
それを見てマサキは自覚する。
自分も今きっと、同じような状態だろう。

すとん、と落ちるように言葉がこぼれた。

「僕も好きだ」

「え?」

美咲が真っ赤で涙ぐんだまま顔を上げた。

「え? ……あれ?
 ちょ、僕もちょっと、ちょっと待って。
 違うんだ、こんなこと、言うつもりじゃなくて……」

マサキも顔を隠してしまいたい気分だった。
けれどそうしなかったのは、できなかったからだ。
美咲に、素早く腕を掴まれてしまったから。
隠せない。

「真崎さん、今の本当? 私のことまだ好き?」

マサキの言葉を聞いて、美咲は逆に落ち着きを取り戻していった。
マサキの方は慌てふためく一方だというのに。

「ね、もう一回言って。真崎さんはまだ、私のことが好き?
 隠しちゃダメだよ。
 ちゃんと顔見せて。ちゃんと私を見て、もう一回言って」

おかしい。
どうしてこんなことを言うはめになってしまったのだろう。

美咲さんはズルい、と思った。

「……好きだよ」

おかしい。おかしい、どうして。
こんなの、冷静になど考えられない。逃げられない。隠せない。
取り繕うことさえできない。
こんな状態では、さらけ出すことしか。

美咲が、まだ少し赤いままの顔で笑った。

「嬉しいな。なんか、すごく嬉しい」

隠せないから、マサキも笑顔になった。

「うん。僕もだ」

へへへ、と笑い合う二人の横を
いつの間にか奥から出て来ていたくろさんが通り過ぎた。
フロアを通り過ぎて廊下を過ぎ、ドアベルを鳴らして外に出たかと思うと
またすぐに戻ってくる。
そしてフロアのドアの横、先ほどまでしろさんのいた場所に立つ。
一方でしろさんは、二人から少し離れた場所でコーヒーを淹れ始めていた。
客に出す用のものではなく、お湯を注ぐだけのインスタントだ。

美咲が言った。

「あのね、でも、違うの。
 私、真崎さんとちゃんと話さなきゃって思って、今日来たの」

ちゃんと話す、という言葉がマサキの鼓動を重く鳴らした。

「話す必要があると思ったの。私たち」

その通りだと思った。
けれど、話せるだろうか。
自分は何を彼女に言えるだろう。

わからなかったけれど、逃げられなかった。

「……うん。僕も、話したい」

どこまで話せるかはわからなかった。
けれど、話さなければきっと解消しないのだと思った。
ずっと胸で燻り続けている、このわだかまりは。

「とりあえず、どうぞ」

しろさんが二人の前にカップを置いた。
湯気と一緒にコーヒーの匂いが広がる。
しろさんは、そのままフロアを横切ってドア近くのくろさんの横に並んだ。
今度はくろさんが言った。

「外、準備中の札出しといたからな」

さっき出て行ったのはそれだったのか。
準備中の札などこれまで、マサキでさえほとんど見たことがないと言うのに。

「ゆっくり話せ」

そう言って二人は、静かにフロアのドアを締め二階へと上がって行ってしまった。
マサキ達だけが残されたフロア。

「……何かちょっと、緊張するね」

照れたように笑う美咲に砂糖とミルクを差し出してやる。
どちらも少なめ。
砂糖の数もミルクの量も、ちゃんと覚えていた。

渡されたそれをゆっくりと溶かし、一口含んでから
美咲が再び口を開いた。

「考えてたの。あの日、私たちが別れた理由」

「うん」

「潮時、っていうか。
 もう別れるしかないんだなって、あの日、思ったの。
 真崎さんも同じように思っていた気がして、
 私たち二人ともがそう感じているんだったら、もう仕方ないのかなって。
 でもね、それじゃダメだったんだなって考え直したんだ。
 ちゃんと聞いて、ちゃんと伝えることをしないといけなかったんだ。
 だって、」

「だって、何?」

「だって私は、やっぱり、真崎さんが好きだったから。
 あの日の、あの後から考えてたの。
 真崎さんに会いたくて、どうしたらまた会ってくれるのかって、ずっと」

「……うん」

マサキもコーヒーを口に運んだ。
少しでも落ち着いて話せるように。
それから口を開いた。

「僕は、でも、もう会わないつもりだった。
 美咲さんはきっと店にも来てくれないだろうと思っていたから、
 僕から連絡することさえなければ、それで終わりにできるだろう、って」

「どうして?
 だって真崎さん、私のこと好きなんでしょう?
 会いたいとは思わなかったの?」

「思わなかった。……いや、違うな。
 会いたかったよ。僕も。でも、それ以上に会いたくなかった。
 会うべきではないと思っていたし、会わせる顔がないとも思っていた」

「だから真崎さん、あの後一度も連絡くれなかったんだね」

「うん。でもそれは、美咲さんもでしょう」

「……お互い様、かな」

「それは、そうみたいだね。お互い様だ」

一瞬の沈黙の後、美咲が笑って言った。

「あぁ、本当、お互い様だ。
 あのね真崎さん、真崎さんも私に隠し事してたけど、
 私も、ずっと真崎さんに言わないでいたことがあって」

「え?」

「そのこともね、考えてたんだ。
 昔、すごく嫌で、怖い想いをしたことがあって。
 それがあったのは私がまだ小さい頃だったんだけど
 ずっと忘れられなくて、今でもずっと、
 すごく怖くなったり、嫌な気持ちになったりするままなの」

マサキの鼓動が鳴った。
小さい頃に美咲の身に起きたこと。嫌だったこと。怖かったこと。
まさか、消したはずの記憶が消えていなかったのだろうか。
もしくは思い出してしまったのだろうか。

(いや、でも……)

口ぶりから判断する限りでは
美咲は自分とかつてすでに出会っていたことを思い出したわけではないように見える。
であれば、例えば
断片的にだとか、そのときの感情だけ蘇ってしまったとか。
可能性はいくらでもあった。

(ダメだ)

あんなことで、あんなもので、
僅かでも彼女の人生に影を落としたくなどなかった。

「小学生のね、高学年の時。もう、そんな昔のことなのにね」

(……違う、のか?)

ほっとしたような気持ちになった。
けれど安心はしきれなかった。

「そのせいで私、真崎さんとは付き合って行けないって
 ずっと、ちょっと、思ってたんだ。
 でも、だからあの日真崎さんの“掃除”の話を聞いてからね、考えたの。
 真崎さんに、その記憶を“掃除”してもらえたらいいのになって。
 それを口実にもできるかなって考えてもいたんだ。
 嫌なこと忘れて、真崎さんにも会えて、もう一度やり直せるかもしれなくて、
 いいことだらけなんじゃないかなって」

自分の親の、あの記憶ではなかった。
思い出されたわけではなかった。
けれど彼女の身に、“掃除”してしまいたいほどのことが起きていたのだ。
十年近く経っても忘れられない、
嫌な感情や恐怖の感覚を、今も体感させる程の何かが。

付き合っていた半年以上の間も、ずっと彼女の中にあったのだ。
気づけなかった。
それ程の大きなものを巣食わせているだなんて知らなかった。わからなかった。
何も見えていなかった。

(……あ)

雄大の言葉が脳裏をかすめた。
色眼鏡。
歪んで、凶器のようにもなり得ると言われた。
美咲を少しも見ていないと、見えていないと言われた。

(本当だな……)

彼の言った通りだった。
自分は何をしていたのだろう。
美咲の何を見て、何を知った気でいたのだろう。

マサキにとって、美咲は言わば太陽のような存在だった。
自分が今、こうして家を出て
ちゃんと立って、どうにかまともに生活していられる理由。
近くにいれば安心できて、
かつての彼女を思い出すだけで、深呼吸できるような心持ちになれる。
強くて、真っすぐで、正しくて、優しい。
自分などが近づいて影を作ったりしてはいけない人で、
大きな、絶対の存在だった。
そう思っていた。

けれどどうだろう。
今、目の前で話す彼女は、こんなにも小さい。
知っていたはずだ。
抱き合った時、すっぽりと包み込めてしまうだけの大きさしかないのだ。

(何も見えていなかった……見ていなかった)

血の下がるような、震えるような心地がした。
ただ、それだけではなかった。

燻りの奥から、小さな火の粉がのぞいた気がした。
だって、だったら、
彼女の本当の姿はどこにあるのだろう。

「……今も、思う?
 もし美咲さんがして欲しいなら、“掃除”、するよ?」

きっと強いだけではない、
真っすぐなだけでもない、正しいだけでもない、優しいだけでもない、
彼女の本当の姿を見てみたいと思った。

美咲は静かに首を振った。

「ううん、いらない」

「……どうして?」

(本当の姿を)
(ただの彼女の姿を)

苦笑しながら美咲は言った。

「だって、それ頼んじゃったらきっと真崎さん、
 私にはもう会わない方がいいだろうな〜とか、考えちゃいそうで」

「!」

「真崎さんが、本当に記憶を“掃除”できるんだとして。
 その、仕組み? みたいのはよくわかんないけど、
 せっかく忘れたのに“掃除”した自分が目の前にいたら
 それがキッカケで私が思い出しちゃったら大変だ〜とか、
 なんか、そんなこと考えそうな気がして」

その通りだった。
むしろ今でも思っている。
だから正直に伝えた。

「うん、そうだね。多分そうすると思う」

「でしょう?」と美咲は苦笑する。

そうしてきたし、そうし続けるつもりだった。
あの冬の夜、電車の中で関わってしまうまでは
実際にずっとそうし続けて来た。

「だから、いいの。
 迷ったけど……今も、ちょっと迷ってるけど」

苦笑して言う彼女の表情は明るくない。
顔に落ちる影。
小さな肩。

自分はどうして、こんな存在に頼りそうになってしまっていたのだろう。
頼れるような気がしてしまっていたのだろう。
寄りかかってはいけないと思っていたけれど、それどころではない。
寄りかかるどころか、これは。
これでは、むしろ。

(どうしたらいい……?)

絶対の存在なんかじゃない。
太陽なんかじゃない。
陽炎のように揺れて、少しでも乱暴にしたら壊れて消えてしまいそうだ。

見えたと思った。
美咲の、本当の姿が。

どうしたら彼女を守れるのだろう。
「何から」なのかはわからない。
ただ、守りたい。
彼女を傷つける、脅かす、害を為す可能性のある全てから。

やはり別れるべきではなかった。離れるべきではなかったのだ。

彼女のことが好きだ。
彼女も自分を好きだと言ってくれた。きっと、本心からの言葉で。
繋がっている。

だから大丈夫だと思った。
きっと、もう一度やりなおせる。
そんな想いが、確信のように生まれた。

「それでね、考えたの」

彼女が再び口を開いた。

「私たちがあの日別れたのは、やっぱり、正解だったなって」

「うん。……え?」

苦笑したままで美咲は続ける。

「だって私ね、どこかで思ってもいたの。
 真崎さんだったら、いつか大丈夫になるんじゃないかなって。
 えっと、何て言うか……
 真崎さんといたら、いつか、私も大丈夫になれるんじゃないかなって。
 ずっと、どこかでそんな風に思ってた。
 あの日真崎さんの“掃除”のこと知って、別れて、
 しばらくは真崎さんに助けてもらうことばっかり考えていて。
 それで、自分がそれまで
 どれだけ真崎さんに頼ろうとしていたのか、あらためて気づいちゃった」

「……僕じゃ、ダメなのかな。僕には美咲さんを助けられない?」

「うん」

ショックだった。
初めて美咲の姿が見えたと思ったのに。
繋がれているような感覚もあるのに。
好きだと、想い合えているのに。

「どうして?」

マサキの表情が曇ったことに気づいたのか
少し慌てた様子で美咲は言う。

「あ、あのね、違うの。
 真崎さんじゃダメってことじゃなくて、真崎さんでもダメ、なの」

よくわからなかった。

「だって私の“掃除”したら、真崎さん離れて行っちゃうんでしょう?
 私、そんなのイヤだもん」

「離れない、よ」

「さっき離れるって言ったじゃん」

「離れない。今決めた。
 ちゃんと傍にいるよ」

美咲は少しだけ考え込む仕草を見せて、
けれど首を振った。

「ううん。やっぱりダメ。
 だって、それじゃあ意味がないの」

「わからない。何がダメなの?」

強い、
睨むような鋭さで美咲はマサキを見据えた。

「だってそれじゃ、私が真崎さんを守れないでしょう?」

「!」

その表情のまま、
けれど少しだけ顔を赤くして美咲は続ける。

「守るとか……何言ってんだろ私、恥ずかしいな。意味わかんないよね。
 でも、そう思ったの」

いっそうわからなくなった。

(まだ、なのか……?)

マサキは思う。
自分にはまだ、美咲が見えていないのだろうか。

(守る? 僕を?)

「ねぇ真崎さん。
 その“掃除”の体質のこと、つらかった?」

「え?」

「苦労、した?
 真崎さん、それのせいで家族を捨てたって、言ってたよね。
 大変だった?」

「……」

それほどでもなかったよ、と言いたかった。
けれど言えるわけもなかった。
今日の彼女は、だって少しの隙もなくて、逃げ道など与えてはくれなさそうで。
気を使うことも、強がることも、そうして偽ることも
きっと彼女は認めてはくれないだろう。

「……うん。
 たくさん、嫌なことがあった。大変だったよ」

「じゃあさ、もし、私にそれを解消してあげる力があったとしたら
 真崎さんは私を頼ってくれる?
 それを解決することを、私に委ねてくれる?」

(あぁ、そうか……)

やっとわかった。
そうか、そういうことか。

肩の力が抜けて
笑いのようなものがこみ上げて来た。

「いや、それはないな。
 頼りたいと思ったことがないわけではないけれど……
 むしろ結構、ずっと、そうしたいと思っていたりもしたんだけれど」

「ね、そうでしょう?」

「うん。少なくとも、解消を委ねることはできないな。
 たぶんそうしてしまったら僕は、
 美咲さんと並べなくなってしまうから」

聞いた美咲が嬉しそうに笑って頷いた。

きっと、同じなのだ。
頼りたい、解決を委ねてしまいたいと思う気持ちがあって、
けれどそれを自分たちは選べない。
それぞれの抱えているものが、自分たちにとって
それぞれに大きすぎて。
本当に頼ってしまったら、委ねてしまったら、並べなくなってしまう。
それだけ大きなものを相手に解消などされてしまったら、
きっと必要以上に相手を大きく見てしまう。
それからもきっと、何かあるたびに頼ってしまう。
寄りかかりたくなってしまう。すがれるもののように感じてしまう。

それではダメなのだ。対等ではなくなってしまうから。
だって本当にしたいのは
ただ隣にいて、一緒に並んで歩くこと。
それだけなのに。

おかしな話だ。
お互いに頼りたい気持ちがあって、
お互いに、それだけはしたくないと思っている。
それぞれの抱えるものについて頼られたい気持ちがあって、
それぞれ、決して頼ってもらえることもない。

どこまでも一緒で、
どこまでもすれ違っている。

美咲は強い存在だと思っていた。
けれど弱かった。
けれど、やはり強い人でもあった。
どちらでもあって、どちらでもない。
そういうことだ。

胸の中にあった燻りが消えていた。
清々しいほど、湧いてくる笑みが止まらないほど綺麗に。
今度こそもう本当に大丈夫だと、
そう思えるほどに。

ただ隣にいたいだけだった。
ただ一緒に並んで歩きたいだけだった。

「美咲さん、好きだよ」

「うん。私も」

こんなに簡単なことだったのに、なんて難しいのだろう。

「……なんでうまくいかなかったのかな、僕たち」

復縁はもう断られてしまった。
けれどこのままで終わる気もしなかった。
一体自分たちは、どうしたらいいのだろう。
どうしたいのだろう。

「あ、それはね、私も考えてたの。
 でね、ふふ、気づいちゃった。私たちの何が失敗だったのか。どうしたら、よかったのか」

「え、なに、教えて?
 ちょっとそれ、やってみようよ」

おかしそうに笑いながら美咲は言う。

「真崎さん。
 私たち、“お友達から始めましょう”?」

「……今さら?」

「そう、今さら。今から!
 私たち、もうちょっと時間が必要だったんだよ。
 好きでもないのに、先にくっついちゃったから。
 まだお互いに、付き合う準備もできてなかったのに。
 そういう始まり方もありだと思うけど、私たちには向いてなかったんだと思う。
 まぁこれは、私がいけないんだけどさ。
 ……私が、私のことにケリつけて冷静になるには、
 たぶんもう少し時間がかかると思う。
 真崎さんも、そうじゃない?
 ちょっと、何か、もどかしいけどさ……
 でもそれしないともう、私たち付き合って行けないと思うから。
 だから、それまでは」

「それまでは、お友達?」

「うん。お互いに準備ができるまでは。
 ほら、私たちいきなり恋人だったからさ。
 お友達期間作ってみるのも、ちょっと新鮮で楽しそうじゃない?」

(今さら、また、か)

美咲と“お友達”になるのは初めてではない。
彼女が忘れている、消した記憶。

「……そうだね。
 うん。新鮮だし、楽しそうだ」

「でしょう?」と言って、美咲は笑う。

新鮮なわけではない。
けれどやっぱり、これは言えない。
言わない。

隠していることが辛かった。
後ろ暗いような気持ちがあった。
けれど、あんなにも強く感じていたその想いは今は薄れて
「まぁ、それでもいいのかな」と思える。

別にいい。
言えないことがあっても、隠したままでいることがあっても。
大事なのは、これからのこと。
それだけのはずだ。


「……美咲さん、コーヒーのおかわりいる?」

「え?」

「“友達”になった記念。
 コーヒーじゃなくてもいい。今日は奢るよ」

声を上げて笑って
美咲は『カフェR』で一番高額のディナーセットを注文した。
真崎も笑って、二階の二人を呼びに行った。


二階に上がる途中、ふと思いついたことがあった。

美咲とのやりとり。
美咲の“本当の姿”。
全部全部、雄大の言った通りだった。

よく見ているな、と思う反面
見すぎじゃないか、とも思った。
本当によく見ている。
これではまるで、彼も美咲にホレているようではないか……?

不安になって、後ろのポケットに入れていた携帯を取り出した。
数日前は店にまで来てもらったのだから
今日のことを報告しがてら、そこのところを詳しく本人に聞いてみたいと思った。

携帯には新着メールが届いていた。
美咲と話すのに一生懸命で気づいていなかった。
まさに、雄大からのメールだ。

少し緊張しながらメールボックスを開く。
そこにあったのは、僅か数行の言葉。

『俺がホレてんのは美咲じゃない。
 それは安心しろ。そんで感謝しろ。眼鏡マンめ。
 ふんばれよ(・v・)』

本当に、お見通しだ。
ますます笑みが止まらなくなった。

呼びに行った二人が階下に向かって行く後ろ姿を見送りながら、返信のメールを送る。
マサキからも数行だけ。

『眼鏡マンは卒業。
 ふんばるよ。
 全部、これからだ(^o^)/』

ともかくはやってみるしかない。
一番だと思えるカタチに向かって、できることなら何だって。
掴むために。
少なくとも、手を伸ばすくらいは。

全部、全部。
これからだ。


無事に送信されたのを確認し、ポケットに携帯を戻すとマサキも急いで階下へと向かった。
美咲の待つ階下へ。
美咲の元へ。



***************


おしまいです・v・


ここまでお付き合い頂きましたみなさま、
コメントや拍手やメッセージを下さったみなさま、
最後まで書けたのは
ひとえに、みなさまのおかげです。

本当にありがとうございました!!


それではまた、
次のお話でお会いできますように。




※作品一覧はコチラです
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comment

  1. 2012/11/01(木) 23:10:34 |
  2. URL |
  3. 八少女 夕
  4. [ 編集 ]
ハッピーエンド! よかったぁ。
ここ数日、時間がなかったので、今日二本続けて読む事になりましたが、それで正解だったかも。一氣に大団円のなだれ込めました。

ものすごく特異な「体質」が出てくる話だけれど、実際に語っているのは、そういう特異さの事ではなくて、誰にでもあてはまる地道な、普通の関係の話。それが最後にぐっときて、とても爽やかでした。

願わくば、主役の二人だけでなく、例の「片想い連鎖」のもったいないほど人間の出来た親友の二人にも幸福が訪れますように!

素敵なお話をありがとうございました。

  1. 2012/11/01(木) 23:35:02 |
  2. URL |
  3. ゆさ
  4. [ 編集 ]
うん、うん、うん…て、セリフのひとつひとつに頷きながら読みました(´w`)。
そうだったんだね、ていうのと、それわかるわー、ていうのと、良かった良かった、ていうのと。
ぶつかってすれ違って、それでようやく知っていく気持ちとか、
過去を告白する方にもされる方にも必要な覚悟とか、
悩んで考えてまわり道して"お友達"に辿り着いた2人とか!
良かったです良かったです、拍手おくりたいです。ぱちぱちぱちぱち☆

雄大くんナイスメール☆
うおおわたしも気をつけねば…!無意識にメガネかけちゃうことあるからなあー油断するとすぐ曇るんですf(^ ^;)。

「敬語だ」ていうマサキさんのモノローグ、わたしの心の声とハモって
ちょっと笑ってしまいました。。

お疲れさまでした!!
色んなことを考えさせていただいた、すごく、すごーく読み応えのある、素敵なお話でした。
次回作も楽しみにしていますねー☆

  1. 2012/11/02(金) 11:56:48 |
  2. URL |
  3. TOM-F
  4. [ 編集 ]
お邪魔しています、TOM-Fです。

最終話の更新、お疲れさまでした。それから、完結、おめでとうございます。

It's only Biginning …… ですね。

問題がすべて解決したわけではないけれど、未来に向ってここからもういちど始めよう、というすごく爽やかなエンディングで、ほっとしました。
でも、この先二人がどうなっていくのかが気になる終わり方で、余韻というか、含みというか、そういうものの残し方が上手いなぁ、と感じました。
でもまあ、この二人なら、大丈夫だろうなと思いますけどね。

とてもいいお話を読ませていただいて、ありがとうございました。
次回作も、楽しみにお待ちしています。

Re: 八少女 夕さん

  1. 2012/11/03(土) 23:27:02 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
八少女 夕さんこんばんは、春です・v・

うわぁーーー読了ありがとうございました*><*

2話連続読み、
そうですね、私もほぼ2話いっきに書いたのですが
2話でセットみたいなところもありましたので、ちょうどいいような気がします・v・

> 誰にでもあてはまる地道な、普通の関係の話

でした^^
せっかくの体質設定なのでそこをもうちょいっと活かしたい、と思いつつも
それには筆力が不足しておりまして^^;

> 「片想い連鎖」のもったいないほど人間の出来た親友の二人

ここの人たちはみんなそれぞれイイ感じになる設定なので
(あの二人のことはもう書かないけれど)
……訪れます! よ・v・

ゆっくり更新のつたない文章を、最後まで読んで頂いて
本当に嬉しかったです。
ありがとうございました!!

Re: ゆささん

  1. 2012/11/03(土) 23:32:55 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
ゆささん、こんばんは☆

読了頂きましてありがとうございます*> <*

> 過去を告白する方にもされる方にも必要な覚悟

これ、ちょっと「あるある」な気がしています。
そもそも告白とか、する必要もないような気もしているのですけれども
しないならしないなりにも覚悟が必要だったり。。

> 悩んで考えてまわり道して"お友達"に辿り着いた2人とか!

ここでは書かない設定では
その後「あ、結局はそういう感じなんです?」て感じに落ち着いたりもするのですが
そして書いた私が言うようなことでもないのですが
よし、よくがんばったね、と言ってやりたい気持ちも、やはりちょっとあったりします^^;

> ぱちぱちぱちぱち☆

あざーーーーーーーす!!
全力で受け取りましたあざーーーーーーーす!!

> めがね

私も。。。・v・(爆


読了、そしてコメントありがとうございました*^^*
次に書く話(完全に未定)でも、またどうかお会いできますように…!

Re: TOM-Fさん

  1. 2012/11/03(土) 23:40:18 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
TOM-Fさん、こんばんは☆

お、終われましたぁぁぁありがとうございます;_;_;!!

うん、実は
基本的に、本当に諸々解決せずのままなのですが
マイナス地点から地平から顔出してみるくらいの心持ちにはなれたかな(、どうかな)、という感じです。
そんな感じが出せていたらいい…なぁ…(弱気)。

TOM-Fさんに頂く感想、
拝読するのをいつも楽しみにしていました。
はい、
また次のお話でも(オール未定ですが)お会いできると嬉しいです。

コメント、そして読了頂き、ありがとうございました!!

  1. 2012/11/23(金) 23:41:06 |
  2. URL |
  3. [ 編集 ]
遅ればせながら、最後まで読ませて頂きました。
素敵なお話をありがとうございました。

実は個人的に苦手な設定(児童虐待とか…)が
あったのですが…・

登場人物の心が丁寧に描かれていたので、
共感しながら、読み進めることが出来ました。

季節描写も穏やかで、読んでいて
気持ちよくなれました。

また、春様の描く穏やかな世界観に
浸りたいです。
次回作も楽しみにしています。

Re: 亜さん

  1. 2012/11/26(月) 21:43:26 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
亜さん、こんばんは!
そして、こちらでははじめまして・v・!

うあぁ〜〜〜すっかり長くなってしまった話を……!
お読み頂き、ありがとうございます。嬉しいです;_;
亜さんにとても丁寧に読んで頂けていたこと、
すごくすごく、嬉しいです。

> 実は個人的に苦手な設定

ご気分を悪くなさっていたら、ごめんなさい。
しかもここのブログですと、
そこかしこに散見できるというか、けっこう頻出しているテーマなのです……。
いろいろと、気をつけてはいるつもりではあるのですが……> <。

> 季節描写も穏やかで、読んでいて
> 気持ちよくなれました。

あぁぁぁぁ、とても嬉しいです*> <*
このシリーズは、実際の季節に合わせて書いていたので。
ほっとしました。

本当に、読了頂いてとても嬉しいです。
末永く仲良くしてやって頂けると嬉しいです*^^*

コメントありがとうございました☆☆

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まとめ【終章;捩じれて拗れた】

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  2. まっとめBLOG速報
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