旅の空でいつか

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8章(2);とっ散らかった中身の話

  1. 2012/10/29(月) 21:25:20|
  2. ★完結★ 『真空パックと虹色眼鏡の物語』シリーズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:5
※作品一覧はコチラです

みなさまこんばんは、春です・v・
『真空パックと虹色眼鏡の物語』更新です。

次が、最終話。
の、予定。です。

会話だらけなんで
ちょっと長いかもしれないです。注意!!

あとあと、
みなさま、いつもコメント・拍手などありがとうございます。
とてもとても嬉しいです*> <*

カウンターぞろ目まではまだまだ遠いのですが、
総拍手数が、もうじき1111という
わんこなぞろ目になりそうです。

ので、
もし、拍手してくれた方で
「あ、ぞろ目をになってしまった」という方、いらっしゃいましたら
そしてもし、何かございましたら
リク的なもの、ギャグとエロ以外でしたら受け付けますので……
お申し付け頂けますと嬉しいです……!
(なければ、自分で勝手に何かやりますw)


ではでは、
《続きを読む》よりおすすみください*^^*




***************


そろそろマフラーでも巻かないと、外のベンチで過ごすのに不便する季節になってきた。
今日の帰りにはターミナル駅まで出て、ついでに他の防寒着も買って帰ろう。
声をかけられたのは、そんなことを考えながら昼食のサンドイッチの包みを開けた時だった。

「ねぇ、あなたのソレ、私のせい? 一応言っておくけど、ごめんね?」

「……は?」

美咲は彼女の名前を知らない。
けれど、そう言いに傍にやって来た顔には見覚えがあった。
会話を交わしたことなど一度しかないが、忘れるわけもない。
数ヶ月前、まだ夏の訪れる前の雨の時期に
ほとんど初対面にも関わらず、随分とひどい言葉を投げつけて来た相手だ。
たしか、演技がどうこうで気持ちが悪いとかどうとか。
下手に絡んで来た男の、恋人だとかなんとか。

「……」

開けかけたサンドイッチを脇に置いて、美咲は彼女の顔を観察してみる。
地顔ではないのだろうけれど、話しかけて来た彼女の目つきは悪く、不機嫌そうで、少しだけ顔色が悪い。
顔色というのは物理的な話ではなくて
きまり悪さのような感情が表情に出ているのだ。
どうやら彼女は本心から自分に謝っているらしい、と美咲は判断する。
けれど、何を?
それがわからなかった。

たしかにあの言葉は随分と堪えたし、謝られるのに十分なもののような気はしているけれど
もう、あの雨の日から4ヶ月近くの間があいている。
今さらそれについての謝罪になど、普通来るものだろうか?

「……」

目の前の相手は、黙ったまま美咲を睨みつけるようにして立ち尽くしている。
謝りに来たらしいのに睨みつけられなければならないなんて、ますます意味がわからない。
ただ、相手が無言で立ったままでいる理由はわかった。
美咲が何も答えず、無言のままだからだ。

「……とりあえず座れば?」

言って美咲がサンドイッチを膝の上に置くと、少し迷ったらしい間の後で
結局彼女は、空いたスペースに腰掛けた。

「ね、一応本気で謝りに来てくれたらしいから私も一応聞くんだけど、
 あなた何を謝りに来たの?」

ぐ、と息を飲むような音が聞こえた。

「……理由なんてひとつしかないでしょ。
 前、私、けっこうあなたに嫌なこと言ったから」

(あぁ、やっぱりあのことなのか)

「あー、うん、そうよね。喋ったことあるのなんてあの時くらいだし、
 かなり酷いこと言われたしね。
 でも、なに、なんで今さら?
 私あなたのことなんてほっとんど忘れてたんだけど」

「え、そうなの?」

「うん。だってあれもう夏前とかじゃん。
 謝って来るにしても間空き過ぎじゃない? 何なのよ」

美咲の言葉を聞いた彼女は「うわぁー……」と言って、それから大きなため息をついた。

「私じゃなかったのね。ちょっと安心したわ」

「だから、何なのよ。何で今さら?」

「あんたが、今さら、みたいな感じだと思ってなかったのよ。こっちはね。
 ここんとこずっと気になってたんだから」

「ちょっと、よくわかんない」

「だからあんたが……えーと上の名前忘れたわ、美咲さんが、
 休み明けからずっと顔色悪いからね、気になってたのよ。
 夏前と違って美咲さん、
 だって全然、誰とも喋んないし、愛想もふりまかないし。
 それで顔色も悪いのとか見てたらさ、
 前に私が言ったことがショックでそんなんなっちゃってんじゃないかって、何か心配になっちゃって。
 私のせいだったらどうしようとか思ってたの。
 違ったみたいでよかった。っていうか気にしてて損したわ」

「……あー、言われてみれば、そうね。
 そう言えば学校始まってから、確かに碌に会話してないわ。
 意識してなかったから気づいてなかったけど。まずったかな」

「なにそれ、かなり雰囲気変わったけど、自覚なかったの?
 感じ悪いヤツってわけじゃないけど、いい人だよね〜見てて癒されるわ元気になれるわ〜みたいな空気は皆無よ、今。
 そんで、もうずっと顔色も悪い」

「へー……んー……別に感じ悪くないならいいや」

「ちょっと、あんた本当に大丈夫?
 あんなガッツリした仮面かぶってたじゃん。いいの?」

「目立ちたくなくてしてただけだし。
 今のまんまでも悪目立ちしてないんなら、別にこのまんまでも」

「な、何? 何か大きな病気でもしたの? あ、それで顔色悪いの?
 変化が大きすぎて怖いんだけど」

「病気とか別にしてないし。
 で、えーと、あなた……名前なんだっけ。知らないや」

「川本、梓」

「川本さんね、あなた、怖いなら近づかなきゃいいだけだから。
 ともかく、もうあの時の話はいいから。気にしないで。ね。
 これで解決よね。じゃあ、そういうことで」

「ちょ、ねぇ、本当に大丈夫?
 そんでそんな面倒そうな言い方しないでよ失礼でしょ私に」

「……うん、悪いけど、正直本当にちょっと面倒くさい。
 別に川本さんが心配するようなこと、何もないから。
 川本さんだけじゃないくて、
 今誰かと何か関わるのが全体的に面倒なの。
 だから、放っておいて欲しいのね。忙しいのよ、いろいろと」

「今の時期そんな忙しくなるような課題量出ないじゃない。
 あ、バイト? そんな忙しい働き方してるの?」

「違う、バイトしてない。仕送りで十分間に合ってるから。
 そういうのじゃなくて。
 いろいろあるのよ、考えたいことが」

「なに、普通に悩み事?」

「だったら何」

普通の悩み事、なのかどうかはわからなかった。
悩み事の原因である真崎はおおよそ普通ではない体質の持ち主だし、
そのせいもあって考えるべき項目が増えているのだから、普通ではないような気もしていた。
ただ、今の状態は一言で表すなら「恋煩い」と言えないこともなくて、
だったら普通の悩み事、と言えないでもないような気もした。

「……へぇ」

「へぇって、何?」

「いや、あなたでも普通に悩むとかするんだなぁと思って。
 何も悩みなさそうじゃない。
 勉強だって人に頼られるくらいだし、お金にも困ってないみたいだし、
 外面綺麗だし、あなたあんまり他人に興味ないでしょう?
 あんな仮面かぶるのってさ、バリア張ってるのと一緒じゃない。
 一線ひいてさ、自分はあんたたちと一緒にしないでよーって、
 ちょっと上からみんなのこと見下ろしてるみたいな。
 偉そうにこのやろうって思ってたんだけど、
 そっか、そんなやさぐれて悩んだりすることとか、あなたにもあるのね」

驚いた。

「あ、なた、川本さん、本当に失礼だね」

「私はあなたと違って、仮面かぶって人の顔色伺って
 言いたいこと我慢するみたいなこと、しないようにしてんの。悪い?」

「悪くはないけど……うん、そういうの嫌いでもないけど……」

「あー私もあなたのこと、思ってたほど嫌いじゃないかもって思ってきたわ。
 なんていうか、けっこう普通だね。前はますます悪かったわねぇ」

「それはどうも。
 でさ、もういいかな。私ご飯食べてる途中なんだけど。
 で、ほんと考え事したいからさ」

梓はふむ、と考える。

「美咲さん、友達いないでしょ」

「……はぁ?! い、いるよ!!」

「悩んでるとかそういう時ってさ、
 友達に愚痴るとか相談するとかするんじゃないの?」

「……」

ユウキや雄大の顔が浮かんだ。
ちょっとしたことで悩んだり迷ったりしたときには、たしかに二人に頼って来た。
二人に話をするだけで気持ちが軽くなったり、
半分以上解決したような心持ちになったりすることもあった。
ただ、全てではない。
自分で考えることもしたくないような、
口にすることも避けたくなるようなトピックに関しては
今まで、誰にも告げたことはない。

自分自身で抱えているのでもいっぱいになるような事柄は、
他人ならますます抱えてなどくれないと思っていたからだ。
同じ様に、自分でも逃げたくなるような事柄は、
他人ならますます逃げたくなるはずだと思っていたからだ。
抱えさせてしまうような事態を招くべきではないと思っていたし、
逃げたいと思わせてしまうような負担をかけるべきではないとも思っていた。
どうせ本当にはわかってなどくれないだろうとも思っていたし、
わからなくて当たり前なのに「わかって欲しい」などと期待してしまうこと自体、歪んだ甘えだとも思っていた。
そして、怖かった。
辛くなったら自由に逃げられるような立場の誰かに告げて
もし、その誰かが逃げてしまったら。
その様子を見てしまうような可能性など、考えるだけで怖かった。
だって、自分は絶対に逃げられなどしないのに。

(あぁ、だから、真崎さんも……)

真崎が美咲に体質のことを話してくれなかった理由。
もしかしたら、同じなのかもしれない。

(私では、理解できないから。
 私に抱えさせたくなくて、私が逃げるところを見たくなくて、
 だから、言えなかった?)

浮かんだ可能性は、少しずつ確信へと変わっていく。
自分にだって、彼に言えていないことがあるから。
同じだから、そう思える。

「あれ、何かちょっとスッキリした? そんな顔になったけど」

「あぁ、うんまぁ」

そういえば川本さんまだいたんだ、と思うけれどそれは言わない。
同時に、彼女だったらこれもきっと口にしていたのだろうなと思う。
少し、いや、かなり羨ましい。

「……友達だから言えないことっていうのも、あるでしょう?」

「え?」

「どうでもいい人なら、逆にいいのかもしれないんだけどさ。
 友達だから言いにくいっていうか……怖くなる、みたいなこと」

「あー……」

言ってみてから思った。
彼女にはないのかもしれない。
だって言葉にすることを我慢しないと、彼女は言っていたのだから。

その彼女から返って来た応えは、少しズレたものだった。

「じゃあ、私がちょうどいいじゃん。
 いいよ。今日特に用事とか何にもないし」

「?」

「だから、美咲さん何かあるんでしょ。
 どうでもいい人には言いたいけど友達には言えないこと。私聞くよ」

「は。え?
 いいよ別に。言ったじゃん、私今ご飯食べてるとこだし」

「サンドイッチなんて、話しながらだって食べられるじゃん。
 っていうか早く食べなよ。私がいること気にしてるの?
 本当に美咲さん、いろいろ気にし過ぎだよね。もはや笑えるわ」

「うるさいよ」

どういうつもりでそう決めたのかはわからないが、
どうやら彼女は、本当に自分の話を聞いて行くつもりらしい。
わがままそうだし、頑固そうだ。
ただ、面倒だとも思ったけれど、たしかに
何の関係もない、“どうでもいい”相手である彼女になら話してみるのも悪くないのかもしれない。
そんな気もした。
それで美咲は、とりあえずサンドイッチを口に運び、言ってみることにした。

「あのね、夏に私、彼氏と別れたのね」

「あ、付き合ってる人いたんだ。とっかえひっかえしてんのかと思ってた」

「そういうのも、前はしてたんだけどね。
 ちょっと気が変わって、その人と付き合ってみることにしたの」

「で? 何で別れたの?
 とっかえひっかえしてたのがバレて怒られたとか?」

「いや、そういうんじゃなくて」

(……あれ?)

「……そう言えばなんでだろう。ちょっとよくわかんないや」

「なにそれ。もうちょっと意味わかんないんだけど」

よくよく考えてみたら、どうして別れたのだったか、よく思い出せない。

「……」

あの時は、もうこれで終わりだと、確かに感じたのだけれど。
確たる理由を告げることも告げられることも、していなかった気がする。

「……彼は、私にずっと隠していたことがあって。
 隠したままでいるつもりだったみたいなんだけど、
 それがあの日、わかってしまって」

「それでふったの?」

「いや、私がふられた」

川本梓は、ますます「わからない」という顔をしている。
美咲にもよくわからなくなっていた。

「隠されてた美咲さんの方がふられるって、どうして?
 美咲さんはそれ納得したの?」

「何か、何でだろう……もうダメだなって、私も、思っちゃって。
 隠されてたことが許せないとか、そういうわけじゃなかったんだけど。
 あぁ、でも、私も……私も、隠してて、ずっと言えなかったことがあって」

そうだ、言えなかった。
小学生の頃のこと。その頃からのいろいろなこと。
そのせいで、彼のことさえも恐れたこと。
言ってどう思われるのかがわからなかったからだ。
世間でよく聞かされる様なくだらない、心ない論を聞かされるとは思っていなかった。
彼がそんな人間でないだろうことはわかっていた。
けれど恐れていた。
彼に同情されることも、逆に「大したことじゃない」と言われることも。
彼の、自分を見る目が変わってしまうことを恐れた。
どんな方向にだって変わって欲しくなかった。
そんなの、耐えられないようにしか感じられなかった。

「お互い様だったってことね。
 えー、それはさぁ、あらためて彼に聞いてみて、美咲さんも話してみて、
 そっからじゃあどうするかって考えればよかったんじゃないの?」

「そう、かもしれない」

彼女の言葉は正論だと思った。
けれど想像はできなかった。
「お互いに話してみる」ことが正しいのかもしれないと考え始めた今でさえ、
あの時の自分にも、今の自分にも、
それが満足にできるとは思えなかった。

(あぁ、だから私、まだ真崎さんに連絡もとれないんだ……)

「そうか、美咲さんは彼のことがまだ好きなんだね。
 失恋で悩んでるってことだもんね。うーわ、本当に普っ通の悩みだね!」

「なに、バカにしてるの?」

「してないでしょ。美咲さんこそ“普通”をバカにしてんじゃないの?」

「……」

そうかもしれない。言い返せなかった。少し恥ずかしい。

「で?
 別れたくない相手と別れて、まだ好きで、美咲さんはこれからどうするの?」

「……会いたくて。でも、ただ会いに行っても相手にしてくれない気がして」

「まぁ、その可能性は高いね」

「それで、いくつか口実を考えてて」

(……“口実”?)

自分の言葉に驚いた。
口をついて出た“口実”という言葉。
言ってみて気がついた。
自分はたしかに、“口実”だと感じている。
“口実”の存在を求めている。

“口実”のひとつはヒロキだ。
あの事件の日から一月くらいして、彼の体調も持ち直しただろうころに
お見舞いを理由に『カフェR』へ顔を出そうと思っていた。
ふたつめは、自分のこと。
記憶を“掃除”してもらいに、つまり彼に“仕事”を頼みに行って
全てを話して、
けれど全てを消してもらって、まっさら綺麗になって、
彼を怖がる気持ちを消して、
そうしてもう一度、と考えていた。

ふたつめの案は、とても魅力的だった。
小学生の時の、あの記憶さえなくなれば
その後の、他のいろいろは覚えていたとしても
大元でいつも黒々としているあの想いさえなくなってしまえば
自分はきっと立て直せるはずで、
こんなに諸々を拗らせて息を詰まらせることもないはずで、
そうすれば、真崎ともまたうまく付き合って行けるはずだと思っていた。

ただ、踏み込みきれなかった。
もう一度やり直すためには彼に過去を告げる必要があって、
その後の綺麗になった自分を思い描いてみてさえも
そうすることへの恐怖が強かったのだ。

この二つ目の考えについて
美咲自身は“思い詰まっている”と感じていた。
真崎に関してだけの話ではなくて、もっと人生レベルのトピックだと。
その考えは今も変わっていないのだけれど
それでも、そのことさえ、
ただの“口実”のひとつとしても捉えていたことに驚いた。

真崎の存在は、
自分の数年に及ぶ人生レベルのトピックに並ぶ程、大きなものだったか?

「いいんじゃない?
 “口実”って必要よね。自分のためにも、相手のためにも、たぶんね。
 で、それ実行してみたの?」

「ううん、考えてはいたんだけど、どっちもうまくできなくて」

二つ目の方は、自分のせいで。
一つ目のヒロキの方は、単なる誤算だ。

小学生たちの夏休みがあけるころ、
どうせいつも通り店にいるだろうと思われたヒロキの見舞いと称して
『カフェR』に向かったことは、あったのだ。
しかし、全くの無駄足だった。

『カフェR』にたどり着く前、駅からの道のりで
当のヒロキと出くわしてしまったのだ。
しかも
「あれ、美咲?」
暗闇の中、声をかけてきた彼は
上半身裸で、肌を少し赤くさせた最低に酔っぱらった様子で
同じく酔っぱらった様子の、中年に差し掛かるほどの年齢の女性を背負って
どこまでも楽しそうに笑っていた。
「……」
正直、もう少し騒いでいたら
近隣の住民に110番されていてもおかしくないような事態だった。
二人して酔っぱらって
罰ゲームだとかなんだとかで、半裸で女性と女性の荷物とを運ぶことになったらしい。
あれだけの怪我をしていたくせに
見舞い、などと言ったら爆笑されそうな程の上機嫌な様子だった。

(あいつがあんな酒癖悪いヤツだとは思わなかったわ)

ヒロキの腹には
ごくうっすらと、傷跡が残っていただけだった。
最初の30秒は「本当に怪我が治ってよかった」と思っていたけれど
後の数分は、とっとと元気になって浮かれ騒いでいるヒロキへの怒りしかわかなかった。
ついでに、背負われて笑い顔のまま眠りだしてしまっている女性にも。

「やってみようとはしたのね」

「あ、うん。
 いっこは普通に失敗で、もういっこは、……できなかった」

「できなかったもういっこって、なに? どんなんなの?
 そんなに難しいの?」

「、……えと、」

言われて、迷った。
たくさんの言葉が喉まで出かかって止まった。

どう言えばいいだろう。
どんな言葉を使えば正確に、誤解されないように、
相手の感情を同情にも不快にもせずに、
偉そうな、もしくは余計な親切心からの“アドバイス”モードにしないですむように伝えられるだろう。

「あー、美咲さん、けっこう真面目だね。
 いいよ、言いたくないなら言わなくて。
 つか、私ほんと“どうでもいい人”なんだからさ、
 テキトウに言えるところだけ言いやすいように言えばいいじゃん。
 聞いてわかんないならわかんないって、私、言うし。
 わかんなくても話するのに支障ないならわかんないまんまでもいいわけだし」

「……そう、か」

「うん。どうでもいいよ。……いやごめん、違う、なんでもいいよ」

自分でもいつの間に食べ終えていたのか思い出せない
ゴミになったサンドイッチの包みをまるめて、脇のゴミ箱に捨てた。
胃が重くなって緊張した。
ただ、チャンスだとも思った。
何の、なのかはわからない。ただ思う。

勢いが必要だった。
深呼吸して、
何も考え込まないうちにと口を開いた。

「ずっと、捨てたいものがあって」

「ん? ……うん。それで?」

「ちっちゃい頃から、ずっと持ってるもので。
 ずっとずっと、捨てたかったんだけど、ちょっと大きくて、
 自分ではうまく捨てられなくて。
 他の人に捨ててって、頼むのも難しくて」

「うん」

「でも彼は、もしかしたら、それを捨てられるかもしれない人で。
 捨ててもらえたらきっとスッキリするし、
 いろいろうまくいくかもしれないし、たぶん、楽なんだけど。
 だから彼にお願いしようと思うんだけど、でも、何か頼めなくて」

「なんで?」

「怖い、し、恥ずかしい」

「恥ずかしい?」

「何でそんなもん持ってるんだって、だって、言われたらどうしようって」

「……なんか、持ってたらヤバいものとか?」

「ヤバい、って言ったら、ヤバいかな……。
 いや、えと、
 持ってたら私が捕まっちゃうとか、そういうものではないんだけど」

「そんな恥ずかしいもんなの?
 その彼に、そう思われたり言われたりするようなものなの?」

「……彼はたぶん、思わない。言葉にもしない。
 でも彼以外の人から見たら、そう思われても不思議じゃないのかもしれない。
 そう言われるようなものだってことは、もう、わかってるの」

「いや、それ私にはわかんないよ。
 だって美咲さん悪いことしてないんでしょ?
 なのに何で恥ずかしいの?
 え、そうやって誰かに言われたの? 誰に?」

「誰に、って……」

誰に、と言われても答えられない。
新聞とか、テレビとか、ネットとか、
学校の授業だとかクラスメイトだとかの周囲の人間たちの、会話や使われる言葉の端々で
けれど、ずっと言われ続けたことだ。

「わかんないけどさ、
 でも、彼はそう言ったり思ったりしないわけでしょ?
 じゃあ、彼にだけ話して、とっとと捨ててもらっちゃえばいいじゃん」

「……そう、なのかも。
 でも怖いんだよ。私がそんなの持ってるって知られたくない。
 それに、彼に渡して、私がスッキリして、
 でも彼の方がそれを本当にちゃんと捨ててくれるのかもわからないし」

「は?」

「もし、今度は彼がそれをうまく捨てられなくなっちゃって
 それで困っちゃったりしたら嫌だな、とかも、思って」

「いや、本当にわかんないからテキトウなこと言うけどさ、
 じゃあ、彼がそれちゃんと捨てられるかどうか
 一緒に見届ければいいんじゃないの? そういうの無理なの?」

「……どうだろう」

わからなかった。
彼の“掃除”の仕組みを、美咲は知らない。
聞けば教えてくれるのかもしれないけれど
優しい彼のことだから、また本当のことは隠されたまま教えてくれないかもしれないとも思う。
もしくは、彼自身にだってわかっていない可能性もある。
何一つわからない。
彼の“体質”について、持っている情報が少なすぎた。

「美咲さんさ、部屋の片付けとか苦手な人?
 ちょっと頭の中も整理しきれてないんじゃないの?」

「そう、かも。
 ……もう、ずっと捨てられなくて持ってたから。
 いざ捨てられるかもってなっても、
 もうどうしたらいいのかもわかんなくなっちゃってて」

「……ソレ、本当に捨てたいの?」

「え?」

「小学生だっけ? の時から、ずっと持ってるんでしょ?
 もう、人生のほぼ半分じゃん。
 それってさ、本当は捨てたくないとか思ってたりするからなんじゃない?」

「っ、
 ち、がうよ!」

怒りがわいた。

「あんなもの、いらない! 欲しいなんて思うわけない!
 そんな、簡単に捨てられたらどれだけ……
 あれのせいで、どれだけ、今まで、ずっと……!」

涙が浮かんだ。
悲しみよりも、怒りが強くて。

そのことのせいでグラグラに蝕まれた土台の上に
自分が今まで、どれだけ慎重に積み上げて来たか。
立て直し方がわからないのだから、そうするしかなかった。
そうしなければやってこられなかった。
それを。この女は。

「なにも、知らないくせに!
 わからないくせに、簡単に言わないでよ!」

「……ねぇ、ちょっと、それはズルいよ」

「は? ズルい? 私が?」

この女は。
何を言うのだろう。

「知るわけないじゃん。
 だって、美咲さん話さないんだもん。わかるわけない。
 私は、私が聞いた範囲で思ったことを言っただけだよ」

「……!」

「でも、わかんないけど、何か嫌な気持ちにさせたんならそれは謝るよ。
 そのことだけはね。
 ただ、だって、思ったよ。
 それだけずっと捨てられなかったものなんでしょ。本当に捨てたいの?
 捨てる必要はあるの?」

(捨てる、必要?)

「気持ちはわかんないよ。捨てたいってんなら、捨てたいんだろうね。
 でも捨てないで、もうそんな何年もやってきたんでしょ?
 良くも悪くもさ、それもう美咲さんの人生の一部じゃない。
 捨てる必要あるの?
 本当に捨てられるの?
 捨てたら、けっこう生活変わるんじゃないかなって思ったんだよね。
 ね、本当に考えたことある? 捨てたら、どう変わるのか。
 捨てたい今と、捨てた後の予想図と、
 優先させたいのはどっちかなとか。冷静に考えられてる?」

(捨てた後、どう、変わるか……)

冷静に、という言葉がひっかかった。
捨てたい気持ちは本当だ。全力で。
捨てることができたらと、いつだって考えて来た。
腐った土台を新調するということだ。おそらくは。
こんな心もとない積み上げ方ではなくて、
もっとしっかりと、歪みなく、丁寧に重ねなおしたい。

(あぁ、でも……)

誰かに、彼に土台の入れ替えを頼むためには
今までどうにか積み上げてきたものを、一度取り除く必要があるのではないか。
そしてもう一度、ゼロから積み上げ直さなければならないのではないだろうか。

その手順を踏む必要がある、という事実はきっと
彼に頼むのであっても、そうでない何か別の方法でやりなおすのであっても変わらないだろう。
でも、わからなかった。
彼にそれを頼んで、土台を新調できたとして。
もう一度積み上げ直す自分は、おそらく
今とは違う自分になっているはずで。

全ての変わった、まっさらの状態の自分で
もう一度、“今”の自分が望んでいるようなものを積み上げることはできるのだろうか。

「ソレ捨てたら、
 今想像してた以上のいろんなものもなくなってました、みたいなことにも
 なるかもしれないよね?
 それでも、本当に捨てたいの? 捨てるの?」

(……それでも)

「捨てたい、よ。
 今持ってるもの、他の大事なもの全部、一緒に捨てることになるんだとしても。
 あんなものずっと持ってるより、ずっとずっとマシ、だと思うから……」

言いながら、違和感を持った。
何かが矛盾している。
あんなもの捨ててしまいたい。
何を失っても。
そう思う気持ちも、こんなにも本心だと言うのに。

ふうん、と吐き捨てた後で、川本梓が漏らした。

「……その“他の大事なもの”には、
 美咲さんの元カレも含まれてるのかな?
 わかんないけど、あとはなんか、友達とか? そういうの」

「!」

言い当てられたと思った。
感じた違和の正体。

過去を、
今に続く人生の半分に及ぶ重荷を捨てて、新しくやりなおせるとして。
そのやり直した先に、
変わってしまった自分に、本当に真崎は再び出会い直してくれるだろうか。
ユウキは、雄大は。
わからなかった。

「……含まれてる、けど、
 でも、きっと彼も、
 ううん、彼はわからないけど、友達だって、離れてはいかないと、思う」

「彼は離れるかもしれないの?」

「わからない……
 でも、可能性はある、気がする。
 ……ううん、離れていく、かもしれない」

そうだ。
真崎は、わからない。
望んで記憶を消して、別人になった私に
“過去”の中の存在である自身が近づくことを、彼は望まないのではないか。
彼は、優しいから。
そんな気がした。
ユウキと雄大との繋がりを失うことはないだろう。
そんなに脆いつながりでは、ない。
きっと大丈夫だ。大丈夫に決まっている。
けれど、でも。

「でも、きっと離れていかないだろうことに甘えて、
 美咲さんは自分から手放すようなリスクをおかせるわけね?」

「……」

そうだ。
つまり、そういうことだ。

できるだろうか。自分に。

彼らはきっと、離れてはいかない。
だからこれはただ、気持ちの問題だ。
自分の中の。
彼らに甘えてそのリスクをおかすことを、自分は自分に、許せるかどうか。

「……ね、でもさ、それ
 その元カレと寄り戻すための口実だったわけでしょ?
 元カレが戻って来なくなるリスク抱えてるって、
 口実として破綻してない?」

「……え、あれ。そうだね」

「でしょう?
 ほら、やっぱ美咲さん、頭ん中とっ散らかってんだよ」

何か、目隠しになっていた蓋を外されたような心地がした。
言われてみればその通りだと思った。

「話聞きながら、何か変だなーと思ってたんだよね。
 最初は、それ捨てたら彼氏もきっと戻ってくるみたいな口ぶりだったけど、
 何か、捨てたら戻ってこないかもみたいな感じにもなってるし。
 だいたいさ、全っ然わかんないけど、
 何か捨てるか捨てないかってことと、その彼の気持ちがどうなのかってこととは
 そもそも別次元の話じゃない?
 だからさ、元カレとのことだけに絞ったら
 美咲さんが考えるべきなのは、
 それを口実として使えるかどうか、ってことだけだと思うのね。
 で、それ口実にしたら
 むしろ元カレとは寄り戻せない可能性すら出て来ちゃうわけでしょう?
 したらさ、それは口実としては不適切だよね」

「うん、うん」

「ただ、本当にわかんないけど、それ捨てるか捨てないのかってのも、
 なんか一大トピックなんでしょう?
 で、その彼ならどうにかできるかもしれないと。
 したら今度は、それ捨てることを彼に頼むかどうか、を
 彼と寄り戻せる可能性をほぼ捨ててまで頼みたいのかどうか、てことと
 合わせて考えなきゃいけないわけだ」

「ちょ、そう、そうだよね。そういうことだわ。
 川本さんすごい、なんかすごい冴えてるね……びっくりした」

「そりゃ、他人事だからね」

「あー、なんか、話してみてよかったかもって、思って来た。
 ありがとう川本さん」

「いや、まだ何も解決してないから。
 むしろ考えること増えてるんだけど、わかってる?」

「あぁ、うん、そうか。そうだね。どうしよう」

「どうしたいのよ」

「どうしたいかって、それは……」

言葉の先に迷った、その時だ。

「うぉー、見つけられるもんなんだな」
という、聞き覚えのある声が聞こえた。

聞き間違いではないのかとも思った。
けれど声のした方に顔を向けてみれば
確かに彼が、そこにいた。

「ゆ、雄大?」

「誰あれ。彼が、彼?」

「いや、彼は元カレと違う。友達」

「あ、美咲さん、本当に友達いたんだ」

失礼なことをさらっと言われたけれど、それに構っているタイミングではなかった。
いつも通りの大きなコンパスで、早いピッチで、雄大はもう目の前だ。

「え、雄大どうしたの? 何でうちの学校にいんの?」

「何で、じゃねぇよ。
 あの人と別れたつってから、
 お前が電話もメールもなかなかレスして来ねぇから心配してたんだよ。
 ……ん、まぁ、思ってたより元気そうだな」

そう言えば、二人に返さずにいたメールやら着信やらがあった。
それぞれ数件ずつ。
気持ちが落ち着いたら返そうと思っていて、
なんだかんだとそのままだった。

「……隣、友達?」

「え? いや、んと、まぁそんなようなもん」

「美咲おまえ、俺ら以外にもちゃんと友達いたんだな。
 なんだよ、ちょっと安心したわ」

“そんなようなもん”と言われた川本梓が、
うっすらと笑いながら美咲に視線を送って来た。

「美咲さん、やっぱ友達あんまりいないキャラなんだね」

「ちょ、うるさいよ。ほっといてよ」

そのやりとりを見て、雄大もニヤニヤとし始める。
顔が赤くなるのを感じた。
なんだか恥ずかしいし、
うっとうしいことこの上ない。

雄大がニヤニヤとしたまま言った。

「美咲がなかなかレスして来ねぇからさ。
 ユウキから、美咲に会いに行って直接伝えてくれって頼まれてんだよ。
 いやぁ、さすがにちょっとどうするか迷ってたんだけどさ、
 思ってたより元気そうだし、まぁ、いいかな」

「ユウキから?
 え、何? 伝言?」

「うん。伝言、的な。
 あぁでも、他に友達いるんなら余計なお世話かも。微妙だな。
 ……んーでも、いいかなぁ。
 ごめんな、先に俺からも謝っておくわ。
 んでこれ、俺の意志じゃないから。半分は。ユウキだからな」

「なに、何なの?」

「うん。
 美咲ちょっとさ、歯、見せてよ。写メるから」

「は? 歯? なんでよ」

「いやなんかユウキとさ、美咲の歯並びがどうとかって話しになって、
 歯の写メ送ることになったんだよ」

「何それ、どういう」

「まぁまぁ。いいから歯、見せろって」

そう言って雄大は左手に携帯を構え始める。

「ほら、いーってして」

言われた通り、「いー」っとして見せた。

「そんなんじゃ見えねぇよ。もっと、はい、いー」

一体、何だと言うのだ。
よくわからないまま、目をつぶって、力一杯、してみせた。

そろそろシャッター音が聞こえてくる頃だ、と思った瞬間。

バツン! と、音が鳴った。

「え、ちょ、は?!」

次に聞こえて来たのは川本梓の声で、
その次に、左頬の痛みに気づいた。
痛いというより、ちりちりと熱い。
バツン、は、シャッター音ではなくて。
あれは。

「な、え、殴った?
 ななななに? ちょ、雄大なに、どういうこと?!」

殴られた。
驚いて目を開けると、正面の雄大は苦笑している。

「あー、うん、殴った。ビンタ。
 女殴るとか初めてしたよ俺。気分悪ぃな。
 もっかい言っとくけど、ごめんな? 半分はこれ、ユウキからだからな?」

「な、なんで……なに……?」

「んー、もう、10日くらい前? なんだけど、アイツから頼まれてさぁ。
 美咲がふられてからずっと元気ないっぽいって言ったら、
 ビンタと、伝言と、両方してこいって」

「傷心の友人にビンタって……なによそれ……」

「なー。なにそれって、思うよなぁー?
 しかも俺、お前が怒ったらビンタし返されることとか込みで頼まれてんだぜ?
 ほんとふざけんなって思うよな。
 まぁ、俺も同意してここまで来たわけだけどさぁ。
 すんごい手加減しといたからさ、まぁ、許せよ」

「許せよ、て……」

ジンジンとしはじめた頬に手を当ててみる。
次第に熱を持って来ているのが、あてた指先からも感じられた。

(……あぁ、でも)

頬が熱くなっていくのと同時に
頭の中が少しずつ、冷えていくのも感じられた。

傷心の自分が、よくわからない伝言で、
よくわからないひっかけに騙されて殴られるなんて。
全く意味がわからなかった。
そしてバカみたいだと思った。
バカらしすぎて、これでは冷静にしかなれない。

「……で?」

「ん?」

「伝言の方は?」

あぁ、と思い出したように苦笑したまま雄大は言った。

「“欲張れ”ってさ。
 “ダメでも自分がついててやるから、諦めて腹決めろ”って」

「うわ、何それイケメン。わたしちょっと惚れそう。
 美咲さん元カレやめてそのユウキとかいう人にしときなよ。
 つか紹介して。私その人と知り合いたい」

「ユウキ女子だけど、それでもよければ」

「おい、やめろ」

「そうなの? 残念」

「ユウキは男女どっちでも気にしないと思うけど。
 あ、でも今仲良しの彼氏いたわ。ダメか」

「え? なんだっけバイとかそういうの?
 私が無理だよ男がいいもん。
 あ、でも友達にはなりたいかも。友達なら」

「男じゃないとダメなの?
 もったいないなー。まぁ私もだけどさ。もったいないよね、うちら。
 え、つか川本さんあの彼氏とは別れたの?」

「とっくに別れたよ。
 ダメだあの男、美咲さんも言ってたけど、どうしようもないわ。
 まぁわかってたけど」

「その程度ってわかってる男のために私あんなこと言われたわけ? 最悪」

「いや、私が納得して別れるなりふるなりするのと
 横から別のにさらわれるのとでは違うでしょ。さらわれるのはイヤだもん腹立つもん。
 しょうがないじゃん。でも悪かったわねってば。
 謝ってんじゃん今日、最初から」

「うん、まぁ、もういいや本当に。
 あ、で、ユウキすごいイイヤツだよ。
 ちょっと雄大、川本さんにユウキ紹介してやってよ」

「っ、ざけんな何で俺が!
 紹介したいならせめて自分でやれよ!」

「ちょっと、私もう行かなきゃいけないから。
 いけなくないけど、急ぎたいんだよね。なんか、急がなきゃ。
 あー、ほら、ビンタ。許してあげるから。
 かわりに紹介してあげて。ね。よろしくね。
 あと、ユウキにはありがとうって言っといて。ちょっと目ぇさめたわ。
 雄大、あんたにも感謝してる。ありがとう。川本さんも」

「ついでみたいに言われても……まぁ、いいけどー」

「よくねぇよ! ついでかよ!
 感謝してんならビンタもそれでチャラだろ、おい」

「は? 女の顔、つか私の顔叩くとかありえないでしょ。
 チャラかどうか決めんのは、叩いた雄大じゃなくて叩かれた私じゃないの?」

「そ、れは、そうだけど!」

まだ文句を言いたげな雄大をよそに、美咲は上着のボタンを締め、
鞄の中身を少しだけ整理してから立ち上がる。
マフラーも冬用の上着も、買いに行くのは後日でいい。
それよりも、もっと優先させたいことがある。


自分は、どうしたいのか。

どうせ、出来損ないの土台に積み上げて来た、出来損ないの自分なのだ。
本当にバカみたいだなと思う。
失うものの数だって、どうせそう多くなんてないのに。
ダメになっても、それでもついていてくれるユウキや、雄大もいるのに。
それだけはきっとなくさないのに。
どうしたいのかだって、もうわかっていたのに。

欲張れ。
欲張れ。もっと、もっと。

「せっかく心配して来てやった友人おいて行くって、
 なんだよ、そんな大事なところかよ。どこ行くんだよ」

どこって、
そんなの、決まってる。

「真崎さんのとこ!」

雄大への謝罪の言葉も、
二人への、いや三人への感謝の言葉も、足りていないことはわかっていた。
それでも自分が今、彼の元に走るのなら三人とも本望のはずだ。
その自信があった。確信があった。

欲張っていい。
全部、全部だ。

少なくとも、つかみ取ろうと手を伸ばすことくらいは。

走り出した背中に、雄大の声が響いた。

「破れ、自分で!
 んで、アイツの眼鏡壊してこい!
 できるから! お前は、できる!」

言葉の意味はわからなかった。
でも、言いたいことはわかるような気がした。

雄大に見えるかどうかはわからなかったけれど、
大きく頷いて、美咲は走った。



(to be continued...)


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comment

  1. 2012/10/30(火) 15:53:42 |
  2. URL |
  3. TOM-F
  4. [ 編集 ]
お邪魔しています、TOM-Fです。

おおっ、今回はボリュームありましたね。でも、なんというか、緊張感がずっと続いていて、一気に読みきってしまいました。
いや~、あの子がここで、こんな活躍をするとは。すみません、てっきりエキストラだと思いこんでいました。このプロット、お見事です。
それと、雄大くん。アンタ、ほんとにいいとこ持っていきすぎですって(笑)

美咲とともに、物語りもラストシーンに向けて走り出した感じですね。
こうして、誰かに支えてもらって、背中を押してもらって、はじめて動き出せるってこともあるんですよね。

次回は、もう最終回なんですね。なんだか、感慨深いです。
真空パックと虹色眼鏡の二人に、なにが待っているのか、とても楽しみです。

では、また。

  1. 2012/10/30(火) 18:58:08 |
  2. URL |
  3. gaker
  4. [ 編集 ]
お久しぶりです。
gakerです。
拍手がもうすぐゾロ目だというので試しに押してみたら、踏んじゃいました「1111」(笑)
せっかくなのでリクエストさせてもらいます。
「青春、恋愛、現代、短編」
こんな感じでどうでしょう?

Re: TOM-Fさん

  1. 2012/10/30(火) 23:54:47 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
TOM-Fさん、こんばんは☆

はい〜ちょっと長かったです^^;
お読み頂いて、ありがとうございます。

> あの子
いつかこの子を主人公にしてあげたい、と
実はちょっと思っている私です。
遠〜〜〜〜〜いいつか、書けそうな気になったら……^^;

> 雄大

いいとこはもっていくけれど、
なかなか自分にはいい展開の訪れてくれない
それでもへしゃげない野生の子。
それが雄大です(ちょっと適当ですごめんなさい)。

> 次回

また、あまり間をあけずに更新できたらいいなと思っています。
TOM-Fとお知り合いになれたのも、たしかこれ書き始めた頃ですよね…?
うわぁ、そう思うと本当になんだか……感慨深いです……!

また近いうちに、お会いできますように。

コメントありがとうございました!!

Re: gakerさん

  1. 2012/10/31(水) 00:04:21 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
gakerさん、お久しぶりです*^^*

って、
うわぁぁぁぁぁgakerさんでしたか!!
ありがとうございます、気づいて頂けて踏んで頂けて嬉しいです!!

> 「青春、恋愛、現代、短編」

ふふふふ、短編はもっと書きたい書けるようになりたいと思っていたところでありますが
青春も、恋愛も、現代も、
全部不得意分野ですよ……なんてこと!!
(『真空パックと虹色眼鏡の物語』はまさにそんなんな感じなのですが……ね……へへ)

しかし、
はい、喜んで書かせて頂きます・v・

次の1話で今書いているのが終了なので
そちらを終えたその次、になってしまいますが
ぜひ、書かせて頂きたいです☆^^☆

えと……12月中くらい……には!!
(書けたらご報告の連絡をさせて頂きます)

それにしても
うはぁ〜〜〜まさか、gakerさんに踏んで頂けるとは!!
日頃からめちゃくちゃな多量の本読んでらっしゃるgakerさんですので、
何というか、けっこうな緊張です。。。^^;
お、お楽しみにお待ち下さいませ*> <*

コメント、そしてぞろ目拍手を
ありがとうございました☆

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  1. 2012/10/31(水) 10:19:46 |
  2. |
  3. [ 編集 ]
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