旅の空でいつか

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8章(1);くすぶるような何かの話

  1. 2012/10/16(火) 23:12:43|
  2. ★完結★ 『真空パックと虹色眼鏡の物語』シリーズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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みなさまこんばんは、春です・v・
『真空パックと虹色眼鏡の物語』更新です。

ちょっと間があきすぎてしまって
前回まで誰の何がどうだったんだっけとか
「文章ってどうやって書くんだっけ・v・?」とか
いろいろ浦島太郎でしたが
とりあえず書けたのでアップです。

さりげなく、少しずつ、こっそりと
誤字つか脱字とか修正するかもしれないです。
(しないかもしれないです)

それでは、《続きを読む》よりおすすみください*^^*


***************


「あ、じゃあオレこれからデートだから」

そう言って飲み終えたコーヒーカップをカウンターから差し出し
ヒロキは席を立った。

「……まぁ、気をつけて」

「うん。また来る」

ちりん、と小さなベルの音を立ててドアが閉まって
店内はすっかり静かになってしまった。
しろさんとくろさんは買い出しに出掛けてしまっていて、
店内にはマサキ1人だ。

夏が過ぎ、秋らしい気候になって来たこの頃
『カフェR』の雰囲気も随分と変わったものだと、マサキは思うようになっていた。
それが自分の気のせいであると自覚してなお、どうしてもそう感じてしまう。


実際、変わったのはヒロキくらいのものだった。
夏のあの日、大怪我をして戻ったヒロキはその後、順調に回復をみせた。
主要な出血はその日のうちに止まってしまって、
今では傷跡さえ残っていない。

「なんでこんな無理したんだ」と穏やかに問いつめるくろさんに
ヒロキは結局、その胸の内を明かしてくれることはなかったけれど
「もうこんな無茶な仕事はしない」と言った。
心配に顔を青ざめさせたままのマサキに彼は
……マサキには理由はわからなかったけれど、頭を下げて
全てを見通しているしろさんには、逆に頭を下げられていた。
「しろさんが謝るようなことじゃない」というヒロキに
「でもね、謝らせて欲しいのよ」としろさんは苦笑しながらも言い募り
二人して謝り合うという、不思議な光景が広がった。

二人の言動の意味はマサキにはわからなかったけれど
それはとても印象的なものだった。
だから、とてもよく覚えている。
あれからもう2ヶ月が経とうとしているだなんて、信じられないほどに鮮やかな記憶だ。

その後ヒロキは客選びにこだわるようになり、仕事の種類を変えた。
正確には種類ではなく、バランスを。
あんな無茶をする前のものに戻したのだ。
結果、
客の性別は男性よりも女性が多くなり、
つけられるのは傷や痣ではなくキスマークになった。
また、以前までとは違い「妊娠の可能性がある行為まではすすまない」という自分ルールも新たに制定したようで
リスクが僅かでも軽減された分、生活は穏やかになったようだった。

ヒロキの変化は続いた。
付き合う相手が出来たのが、9月の中頃だ。
相手は客だった女性で、年齢はヒロキと彼の母親との丁度中頃だ。
既婚者だったが、子ができなかったことを主な理由として夫とはうまくいっておらず、
離婚の予定もないが仲直りをするような意欲もない、という状態らしい。
子ができなかった理由は、夫・彼女双方の身体にあった。
どちらかでなく、どちらもどうしようもないのだとわかってしまって
自分を責める必要も相手を責める契機もなくて助かったと
その彼女は語ったらしい。

夫側にもすでに恋人がおり、彼女がそれを認知しているのと同じように
ヒロキの存在のことも彼女の夫は認知しているようだった。

ヒロキの付き合いに関して、しろさんとくろさんは驚く程に冷静だった。
「もういい大人なんだから」お互いに考えて納得しているのならそれでいい、と。
マサキはそうはいかなかった。
相手の夫に訴えられたらどうするのか等、不安を考え出せばきりがない。
そもそも離婚する気はないとわかっている既婚者と付き合っていて、
ヒロキはそれでいいのか、と憤るような気持ちにもなった。

「オレも別に結婚願望とかないし、まぁ、いいんじゃないかなって」

へらりと笑うヒロキの頬はほのかにピンク色に見えて
マサキは強く文句を言うこともできなかった。

付き合う相手ができて以来、ヒロキの来店時間が減った。
訪れる頻度はそう変わっていないし、
交わす会話の内容も、濃さも、何も変わっていない。
ただ、いつまでもダラダラと店に居座っているようなことがなくなって
ヒロキが常席としていたカウンター隅のスペースには
すぅすぅと風が通るような寂しさを感じるようになってしまった。

マサキが風通りのよさを冗談めかして話した時。
「オレじゃないでしょ」
と、ヒロキには言われている。
少なくとも、オレだけではないだろうと。
すぐに思い至ってしまって閉口した。
その時ヒロキには、こうも言われている。

「しろさんが言ってたことの意味、オレやっとちょっとわかったよ」

しろさんに友達を作れと言われた話は、ヒロキも知っている。
その話題だということはすぐにわかった。

「オレ、マサキさんのこと大事だけど、マサキさんだけじゃダメなんだな。
 自分にもよくないし、たぶん、マサキさんにもよくなかったんだ。
 たぶん一緒でさ、
 マサキさんの友達がオレだけだと、たぶん
 マサキさんにもよくないし、
 そうすると結果的にオレにもよくなかったのかもしれないなって」

ヒロキの言葉の意味はよくわからなかった。
わからないマサキを置いたままヒロキは続けた。

「もう少し、いい意味でドライだったらそれでもよかったのかもしれないけど
 ドライになるには、オレにはマサキさんてやっぱ大事すぎるし、
 マサキさんもさ、ほら、ドライどころか
 ねちねちしてウェットなところあるじゃない?
 そうするとさ、こう、閉じた感じなのって行き場がないっていうか」

「失礼だな。
 ……別にいいけど、言ってることの意味がよくわかんないよ」

「んー……オレもうまく言えないんだけど、
 要はさ、閉じたまんまだと、頭ん中とっ散らかって
 オレもまた同じ無茶なことしちゃうのかもしんないなー、っていうこと」

傍で聞いていたしろさんは無言のままだったけれど
そのさらに奥で聞いていたくろさんは「なるほどなぁ」と頷いていた。
マサキだけがわからなかった。


しろさんの話をキッカケに強引に「友達」になった雄大は、
美咲と別れてから一度だけ、一人で店にやってきたことがあった。
ヒロキとその話をした数日後のことだ。

「……やっぱあんまり元気そうじゃないな。まぁ、それは元からか」

マサキの顔を見るなりそんな事を言った。

「美咲とは“もう”連絡とってないの?」

言葉から、自分たちが別れたことは知っているのだということがわかった。

「うん。電話もメールも、一回も。……彼女は元気?」

「それ俺が答えることじゃないから。ノーコメント」

「……」

自分からふらりとやって来たくせに、
何を話すでもなく、彼は出されたコーヒーを減らしていった。
彼との無言の時間はなかなかに緊張するものではあったけれど、
元々人との会話を得意としていないマサキには、
だからといってどんな話題を使って話しかければいいのかが全く思いつかない。
無言の時間は長く感じたけれど、
雄大は後から来た客よりも早くグラスを空にして
釣りのいらないピッタリの代金をマサキに渡すと、こんな言葉を残した。

「あんたの眼鏡は歪んでる。
 さすがにさ、そろそろ少しメンテナンスした方がいいんじゃないの?
 あんたの眼球もガシガシ傷ついてるんだろうけど、
 このままじゃ見られてる美咲にも凶器だろ」

少しだけムッとして答えた。「もう見てないよ」

マサキのその様子をなぜだか雄大は気に入ったようで、笑顔になった。
けれど返された言葉は鋭いものだった。

「それは違うって。“もう”どころか最初から見てねぇんだよ。
 前にも言ったろ。
 あんたは美咲のことを見てなさすぎる。
 実はあんまり美咲のこと好きじゃなかったのかなーとか思っちゃったくらい」

「!」

以前とは違う感情が湧いた。

お前に何がわかる、と思った。
自分がどれだけ彼女を想っているか。
わからない癖に何を、と。

煮え立つような言葉をそれでも飲み込んだのは、恐ろしかったからだ。
まざまざと認識させられてしまった自分自身の感情が。

「彼女の傍にいればきっと大丈夫だ」という胸焼けするような甘えや
「彼女のことを傷つけたくない」という脆弱な勘違い。
そして、どれだけ彼女を好きだったのか。
昔からずっと、今でも。

ぐらぐらとめまぐるしく考えるマサキに雄大は言った。

「美咲は、あんたが思っている程強くないし、
 あんたが思っている程弱くもないよ。たぶんな」

美咲のことを、強いとも弱いとも
それほど意識して見ていたわけではなかった。
それでも雄大の言葉は耳に残った。

けれど。

「でも、もう終わったから。関係ないよ」

雄大の顔もムッとしたものになった。
けれどムッとした目つきのままで、彼は再び笑顔を作って言ったのだ。

「それも俺はノーコメントだな」

マサキも何もコメントを返せないでいるうちに、彼は店を出て行ってしまった。
彼が去った店内で、奥にいたくろさんは無言だったが
カウンターで並んでいたしろさんは「ピリっとしてて詩的で頭のいい子ねぇ」という評価を出した。

「よかったわね、マサキちゃん。けっこう好かれているみたいで」

「え」

今のやりとりのどこをどう切り取ればそういう評価になるのか、
マサキには全くわからなかった。
ただ、雄大の言葉に悪意がないことはわかっていたし
しろさんにそう言われてみればますます、彼の存在は貴重な気もした。
美咲がキッカケの繋がりだったから、いつまで続けられるものなのかという不安はあったけれど。

しろさんは重ねて言った。

「マサキちゃん、まだ諦めちゃダメよ」

「美咲さんのことなら、もう」

「美咲ちゃんのこともそうかもしれないけれど、それだけじゃなくて……
 そうね、違う、諦めちゃダメなんじゃないの。
 諦めるのならいいの。
 でも、諦めたフリは、もうダメよ。
 ちゃんと考えなさいな。
 マサキちゃんももういい大人なんだし、大事なことだからねぇ」

(なにを……)

何を諦めたというのか、
何を諦めたフリをしているというのか、
マサキにはわからなかった。

何を諦めている自覚もなかったけれど
一度考えてしまったら、
今まで自覚して来なかっただけで、考えようともしなかっただけで、
たくさんのもので途方もなく溢れてしまいそうに感じられて
想像するだけでも億劫だった。

「諦め続けの人生」と言えるような悲壮さを感じるには
そもそも自分自身に対する期待が不足していたし、そのことに不安も不満もない。
しかし「諦めてなんかいない」と感じるのにも、圧倒的に自信が足りていなかった。


雄大にも言った通り
別れて以来、美咲には一度も連絡をしていない。
同様に美咲から何の連絡が来ることもなかった。
彼女の元を訪ねることはもちろん、
彼女が訪ねて来ることも。

それでいいと思っていた。
望んだ結果で、選んだ結果だった。


……ただ、くすぶるような何かがあった。

すきま風を感じることの増えた『カフェR』。
「オレじゃない」と言ったヒロキの声。
色眼鏡。
雄大の言った「ノーコメント」が脳裏から消えないこと。
鳴らさない電話。
鳴らない電話。
自分でも認識できていない、
諦めたこと、諦めたフリをして諦めていないこと。


「もういい大人なんだ」と言ったしろさんの声が
小骨のようにマサキを刺した。
見えない、焦れる様なくすぶりの正体。
考えてみた方がよいのだろうということはマサキ自身にもわかっていた。
億劫さの正体が恐怖であることも。

「……」

くすぶりを抱えたまま、マサキの秋は深まっていった。




(to be continued...)


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comment

  1. 2012/10/17(水) 09:51:19 |
  2. URL |
  3. TOM-F
  4. [ 編集 ]
お邪魔しています、TOM-Fです。

更新、お疲れさまでした。そして、お待ちしていました。
ふむふむ……。
ううっ、くすぶりを抱えたまま、TOM-Fの秋も深まっていくじゃないですかぁ。

自分でも認識できていないなにか、あるいは認識したくないなにか。
そういうものって、意外と周囲の方が分っていたりするんですかね。
相手をちゃんと見ていれば、見えるのかな、とか思ってみたり……。

この緩急の付け方が、もうたまらないです。
次回の更新も、楽しみにしています。

  1. 2012/10/18(木) 01:14:12 |
  2. URL |
  3. 八少女 夕
  4. [ 編集 ]
他に知り合いがいなかったという恐るべき理由で友達にされたにしては、雄大さんって超親身ですよね。
まあ、例の「なんとかしようよ」の片想い連鎖のせいなのかもしれませんけれど。

こう、世の中って、みんな忙しくて、自分の人生の主人公である自分の事で精一杯で(マサキさんは今はそういう状態かな)、こんなに通りすがりの「恋敵の関係者」にまで親切にしないけれど、その雄大さんの「普通でない」親身な友情にマサキさんが思い当たる日もくるのかなあと、次の更新を首を長くして待ってますね。

Re: TOM-Fさん

  1. 2012/10/29(月) 21:43:59 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
TOM-Fさん、こんばんは!
またお越しいただけて嬉しいです。ありがとうございます*><*!

> 自分でも認識できていないなにか、あるいは認識したくないなにか。
> そういうものって、意外と周囲の方が分っていたりするんですかね。

の、ような気もします。
ただ真崎氏はいろいろ抜けているしバカに素直な子でもあるので
ちょっと特別かもしれんです。
残念な子…^^;
(いえ、愛はありますが…!)

> 緩急

あ、ありますかね!
ありがとうございます*> <*

さきほど、更新しました。
もうすぐのラストまで、お付き合い頂けますと嬉しいです。

コメントありがとうございました!

Re: 八少女 夕さん

  1. 2012/10/29(月) 21:48:13 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
八少女 夕さん、こんばんは!

> 他に知り合いがいなかったという恐るべき理由で友達にされたにしては、雄大さんって超親身

いや、本当に恐るべき理由ですよね。
片想い連鎖効果もありつつ、
雄大氏は、例えば捨て猫見つけたら
さりげなく、執念深く、飼える人探すタイプの人です。
自分への負担が大きすぎない限りは。

> こう、世の中って、みんな忙しくて、自分の人生の主人公である自分の事で精一杯で(マサキさんは今はそういう状態かな)、こんなに通りすがりの「恋敵の関係者」にまで親切にしないけれど、その雄大さんの「普通でない」親身な友情にマサキさんが思い当たる日もくるのかなあと、次の更新を首を長くして待ってますね。

ありがとうございますwww
マサキのためにはマサキは思い当たれた方がいいけれど、
雄大のためにはユウキに「あんた本当にイイヤツだね」ってしみじみ思ってもらえた方が報われますね。
雄大、好きなんだけど、なぁ……。

コメント、ありがとうございました*^^*

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