旅の空でいつか

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5章(3);友だちの話

  1. 2012/06/21(木) 18:00:06|
  2. ★完結★ 『真空パックと虹色眼鏡の物語』シリーズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:6
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みなさまこんばんは、春です。
今回はあまり間をあけず、次の話が更新できました。
『真空パックと虹色眼鏡の物語』です。

このシリーズはもともと、
今日の記事の彼をメインにした別の話を考えていて、
そこから派生してうまれたモノなので……
あらためて彼の話を書けて、個人的にとても楽しかったです。


それでは、《続きを読む》よりおすすみください*^^*




***************


(いってぇなぁ……)

今日の客は、なかなかに容赦のない人物だった。
少しくらいのケガなら一瞬で治ってしまう体質を持っているとは言え、
痛いものは痛い。
他者の感じるそれと自分が感じるそれとの間に
差異があるのかないのか、それはヒロキにもわからなかったけれど、
痛いのは、嫌だ。
シンプルなその思いに違いはないはずだと、ヒロキは思っている。

自分の体質の限界を知ることだとか、
体質をただ不便なものとしておくのではなく、どうにか活かせないかだとか、
他のアルバイトよりもいい金になるだとか、
「殴られ屋」の仕事を続ける理由はいくつかあったけれど、
これが本当に割のイイ仕事なのかと、あらためて考えれば疑問は残っている。
痛いし、
心底から楽しんで望んでいる仕事だとは言いがたい。

それでもヒロキは今、
今までにないほど積極的に、この仕事を引き受けている。
マサキや、しろさんやくろさんには「学校が忙しい」と嘘までついて、
距離を置いて、バレないようにして。

金が必要だった。


***


ヒロキがマサキと初めて出会ったのは、高校1年の時だ。
校外学習の授業で鎌倉に出掛けた。
その帰り道、新宿で友人らと別れてそのまま帰宅するはずだったのが、
何を思ったのか、ふと、
地下深いことで有名な都営の地下鉄に乗って、気の向くままに出掛けてみたくなった。
終点に近づくにつれ、その地下鉄は住宅街に止まるようになる。
そのことは知っていたから、
出掛けてみたところで、何があるというわけでもないはずだということは
ヒロキにもわかっていた。
けれど時間はまだ夕方までも間があったし、
この日は部活もなかったから、ちょうどいい暇つぶしだと思ったのだ。

終点の手前の駅で降りて、
予想通り、とりたてて何もない住宅地の中にある名前も知らない駅を出て、
ぶらぶらと歩いてみた。
地元ならでは、といったおもしろい工場や変わった遊具のある公園でもあればいいのに、と思いながら歩いて、
結局そんなものたちには出会えなかったけれど、
やがてヒロキは、1件のカフェにたどり着いた。
よくよく見てみなければ、周囲にある民家に紛れてしまうような外見のそのカフェには、
けれどドアと表札にあたる部分に、たしかに『カフェR』とかかれた
小さな看板がかかっていた。

何かに呼び寄せられるように、
その店のあまりにも目立たない、見事なまでの紛れぶりに惹かれてドアを開けた。
看板と同じく小さなベルの音が響いた店内には、
ゆらゆらとコーヒーの香りが漂っていた。

そこでしろさん・くろさんに出会い、マサキに出会った。
苦いのがあまり得意ではないせいで当時はあまり飲んだことはなかったのだけれど、
雰囲気にのまれて、コーヒーをオーダーした。
けれど出されたのはアイスミルクで、
「あなたはこっちの方が好きなんじゃない?」と、柔らかな笑顔で、
カウンターの中にいる女性に言われた。
その通りだったのだけれど、
牛乳だなんて子どもっぽいような気がして、少し恥ずかしくなった。
しろさんと呼ばれたその女性と、カウンター内で隣に並んでいた男性……マサキは、
照れた様子のヒロキに微笑んだ。

店内には複数人の客がいて、みな「常連」といった風にくつろいでいた。
とりたてて何をすることもなく、手持ち無沙汰ではあったのだけれど
店はなぜだか居心地がよく、
他の人がみんな去って、客が自分1人になってしまうまで、
ヒロキは店内に居座った。

その状況になって少しすると、カウンター奥の扉から
のそりと、男性があらわれた。
しろさんに「くろさん」と呼ばれた男性は、静かにカウンターからも出てくると、
おもむろに、ヒロキの隣に腰掛けた。
ヒロキとの間に少しだけスペースを開けて、けれど親しげに。

そうして問われた。
「あんた、妙な体質持ってないか?」と。
自分や、カウンターに並ぶ2人も変な体質持ちなのだと明かされて、
自分だけではなかったのかと、ヒロキは身体が熱くなるような感覚を覚えた。

この時の驚きを、ヒロキは未だに忘れられない。

ヒロキが自分の体質をハッキリと自覚したのは、12歳の時だ。
両親と弟と一緒に車で出掛けている途中、大きな事故に遭ってしまった。
3人は即死。
状況から見ればヒロキの生死も絶望的だとされていた中、
1人、生き残ってしまった。
ケガの回復は、医者たちが近寄るのを躊躇うほどに早かった。

それまでヒロキ自身も、自分のケガの治りが早いことには気がついていた。
けれどそれは「ちょっと丈夫」な程度のものだと思っていて、
まさか、普通の体質の人間との間にそれほどの差異があるものだとは思っていなかった。

その後ヒロキは「同じ東京に住んでいるから」という理由で
血筋の遠い親戚夫婦に引き取られることになった。
この親戚はとても優しい人たちで、
ヒロキは心の底から、この夫婦を大切に想っている。
だから、辛かった。

医者たちや、しょっちゅう見舞いに来てくれていた血の近い親戚たちが、
ヒロキの回復の早さの、その異常さを目にするにつけ
目に見えて、自分から離れて行くのがわかった。
それはそうだろうとヒロキも思う。
どう考えても自分の体質は異常だし、気味が悪いだろう。
だから悪意がなくとも、遠巻きにされても仕方がない。当然だ。

だから、自分をひきとってくれたこの優しい夫婦には、自分の体質のことを知られたくない。
そう思った。

ヒロキの体質は、見た目にわかりやすい。
その分、バレないように日頃の生活を営むのは困難だった。
遊んでいる間でも体育の時間でも、
とにかくケガをしないようにと気を配る必要があった。
自然、スポーツを行う機会は少なくなり、
そのため夫婦や、高校までの友人・知り合いたちは
ヒロキは運動が嫌いで苦手なのだと思っている。
実際のヒロキの趣味と性格とは、むしろその真逆だ。
けれど誰にも気づかせなかった。
ヒロキはそれだけ、自分を隠した生活を強いられていた。

そんな生活に疲れていたことと、大学への進学とを契機にして
ヒロキは高校を卒業すると、ずっと世話になっていた親戚の家を出ることにした。
体質のことを隠したまま、大好きな夫婦と一緒に暮らすのはもう、無理だった。

ヒロキは考える。
例えばいつか、体質が治るなり、体質をおさえるなりする術が見つかったら。
もしくは、
自分自身はもちろんのこと、自分の周りの人たちもみんなが、
この体質とうまく付き合って行くことができるような、そんなあり方が見つけられたら。
その答えが見つかるまでは、とても一緒には暮らしていられない。
盆やら正月やら、そういった機会には帰るようにしている。
連絡もこまめにいれている。心配はかけたくない。
けれど、近づける距離はそこまでだ、と思っている。
少なくとも、今はまだ。

家を出ると決めたのは、『カフェR』の面々に出会ってからすぐのことだ。
しろさん・くろさんとマサキとに出会い、話し、決めた。
元々大好きな夫婦だったこともあって、
ゴールが決まっている分、
大抵のストレスは「夫婦と離れるのが名残惜しい」気持ちの前で萎んでしまった。
だから、3年後には家を出る、と
それを決めてしまってからは、それだけでも随分と楽になった。

実際に家を出るにあたっては、マサキに随分と助けられた。
マサキは「何も考えずに家を飛び出す」という経験を持っていたので、
何に困って、
どれだけの金が必要なのか、
金以外にどんなことに気をつけておくとよいのかなど、
随分と参考になる話を聞かせてもらうことができた。

実際、引っ越しには予想していた以上の金がかかってしまって、
すでに返してしまっているけれど、
その時にヒロキは、マサキから金を借りたりもしている。

そのこともあってヒロキは、マサキのことを「恩人」だと考えている。
引っ越すまでも、
引っ越して生活が落ち着くまでも、生活が落ち着いた今でも、
しろさん・くろさんや『カフェR』の存在はもちろん、
マサキに助けられている部分は大きい。

マサキは、どこまでも献身的な人間である。
それがヒロキのマサキへの評価だ。
同じ体質を持っていて、
『カフェR』を心地よく感じ、居着いていて、
けれど共通点と言えばそれだけしかない、ただの他人。
その、ただの他人であるはずの自分にマサキは、
言いにくいだろうたくさんのことを話してくれて、
何かあれば相談に乗ってくれ、助けてくれた。
自分の、ためらいなく「好きだ」と言える家族との相談ごとだなんて、
それを持たなかったマサキには、しんどく感じることも多かったはずだ。
それは当時のヒロキにもわかっていた。
けれどその時は、ヒロキのキャパシティも決壊しそうになっていることも多く、
そんな配慮をするだけの余裕は持っていなかった。

その思いを、マサキに伝えたことがあった。
マサキは「それでいい」と言った。
「下手な配慮なんてされるより、遠慮なく話された方が嬉しい」と。
ヒロキがマサキの人柄を思うとき、
必ず思い出すのが、このときの会話だ。
一生、マサキには頭が上がらないだろう。
そう考えたことは本人には言っていないけれど、
ヒロキはもうずっと、そう感じている。


***


あの時の会話。
マサキの言葉。

あれは、マサキの本心からの言葉だったろう。
そう思うからこそ、ヒロキはますますマサキに恩を感じてしまうし、
自分の不愉快さを度外視したようなマサキのその献身的な様には
「すごい人だな」と思うと同時に、どうしても「心配」を感じてしまう。

その「心配」について、
ヒロキは、マサキにうまく伝える術を持っていない。
いつか、どうにかしてそれを伝えたいとは思っていた。
けれどどんな言葉で伝えればいいのかがわからない。

数週間前、マサキが体調を崩した。
キッカケはマサキの「掃除屋」の仕事で、
しろさんはその原因を「客の記憶にひっぱられたせい」だと話していた。

恩がある。
心配だ。
けれど、どうしていいのかがわからないから、
いつかわかる日が来るようにと、願うようにヒロキは考えていた。
しかしマサキが、あんなにも簡単に、調子を崩してしまうのを目の当たりにしてしまって、
待っているのではダメなのだと、ヒロキは思った。

伝える術も、言葉も、持っていない。
けれど自分にもできることはある。
そうも思った。

必要なのは金だった。
もう、マサキが高額の仕事なんてする必要がないほどに、
自分が稼いでしまえばいい。
自分に養われるようなのは嫌だと、以前マサキが言っていたのは覚えている。
けれど、あんな風に調子を崩すような仕事を続けるよりはマシなはずだとも思う。
タダではその金を受け取ってはくれないだろう。
だから、金はあげるのではなく、ただ、貸すだけということにすればいい。
いつかマサキが自分にそうしてくれたように。
その金はいつか、マサキの望むペースで返してくれればいい。
それがいい。
それだけの話だ。

自分にもできることがある。
ヒロキには、それが嬉しかった。
この、今自分がしていることを話したら、
マサキは嫌がるか、それとも随分と怒るかもしれない。
けれど、そのときはもう「後の祭り」にしてしまっていればいいのだ。
何でもないことのように、
「だってもう金貯めちゃったもんねー」と笑って伝えればいい。
そしてそこからは、
マサキが金を受け取ってくれるまで、ひたすら説得を続けるのだ。
そうだ、それだけの話だ。


まとまった金を稼いで、再び『カフェR』のドアをくぐること。
そのときのことを考えると、押さえようもなく、楽しみな気持ちがこみ上げてくる。
だから、今自分がほのかに感じている
不安のような、罪悪感のような気持ちは、無視をしてしまっても大丈夫だ。
マサキにもしろさん・くろさんにも嘘をついてしまっているから、
それがただ、少し後ろめたいだけだ。
ヒロキはそう、自分に言い聞かせる。


夕方の少し前、自宅についた。
しばらくは動けないほどの息の詰まるような痛みを抱えていたはずだったのに、
今ではもう、軽く疼く程度だ。
助かることばかりではない体質だけれど、
今は「便利だな」と思うことの方が多い。

今日も、ちゃんとケガは治った。
だから明日もまた、この仕事を続けられる。
__うん、便利だ。

疼きさえも徐々になくなっていく身体を抱えて、
ヒロキは自宅のドアをあけた。

この調子なら、
秋が来る前にきっと、またあの店のドアをくぐれる日が来るだろう。
それが、とても楽しみだ。



(to be continued...)


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comment

No title

  1. 2012/06/23(土) 15:21:44 |
  2. URL |
  3. TOM-F
  4. [ 編集 ]
 お邪魔しています、TOM-Fです。

 更新、早いですね~。

 ヒロキ、最近見かけないと思ったら、そんなところで頑張ってたんですね。
 彼の体質も、なかなかにやっかいなものですね。隠したくても、隠せないという点でも、しんどいだろうなぁ。

 それにしても、この微妙なすれ違いには、ヤキモキさせられます。
 だれかのために、ここまで頑張ってしまうって、「いい人」なんですよね。その努力が報われるといいんですけど、なにか起きますよね、やっぱり。もちろん、お話しとしては「なにか」が起きることを期待してますけどね(笑)

 お話しの展開に意外性があって、飽きずに読めるので、いつも感心しています。

 次回の更新も、楽しみです。

No title

  1. 2012/06/23(土) 18:31:56 |
  2. URL |
  3. 八少女 夕
  4. [ 編集 ]
こんにちは。

ここの若い登場人物たちは、皆どこかやっかいですね。
自分に引け目があるからなのか、器用でないからなのか、みんないい人でお互いを大切に思っているのに、何故か「そこまで考えることないって」な方向にまでいってしまう。とても切ないです。
続きを楽しみにしていますね。

Re:TOM-F さん

  1. 2012/06/23(土) 22:43:18 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
TOM-Fさん、こんばんは~*^^*
今回もいらしていただいて、本当にありがとうございます*><*

> 更新
テスト前(というか、今日と明日です。笑)なので
こう……テスト前になると徹夜でマンガ読みたくなる、のと同じ種類の欲求がですね、
止まりませんで……(爆)

> ヒロキ
はい、こんなところにおりました・v・
彼はマサキに対してだけはバランス悪いのです。

> 微妙なすれ違い
言ってもらって気がついてしまったのですが、
うちの子たち、大抵みんなすれ違ってばっかいるなぁと……
こればかりは、私の日頃のズレっぷりを反映しているかのようで……うわぁ……。

> なにか起きますよね、やっぱり。
乞うご期待!!!!笑


あ!!!
あの、7月中にはテストやスクーリングも一息つくので……
そしたら、すごく今さらすぎるのですが
TOM-Fさんのお話、一気読みさせてください*><*

ずーーーっと読めずにいて(一気に読みたいのである程度まとまった時間が確保したく、できず…)
ずーーーっと気になっているのです。

よろしくお願いいたします*^^*

それでは、コメントありがとうございました!!

Re:八少女 夕 さん

  1. 2012/06/23(土) 22:51:18 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
八少女 夕さん、こんばんは☆
少しだけ(コチラのブログでは)お久しぶりです*^^*

> ここの若い登場人物たちは、皆どこかやっかいですね。
間違いないですねwww
うちの子たちって、どうしてこう……
……いや、私のせいなのですが・v・

八少女 夕さんのブログ、
もうあと1月ほどすると時間がとれるので……
一気読みさせてください*><*
いつも作品一覧だけ拝見しているのですが、
長編、いろいろな場所が登場するようで、とても気になっているのです・v・
その際には、どうぞよろしくお願いいたします。

ご訪問&コメント頂き、ありがとうございます!!

No title

  1. 2012/06/24(日) 04:20:53 |
  2. URL |
  3. 八少女 夕
  4. [ 編集 ]
こんばんは。また登場しました。
確かに、ご無沙汰でしたね(笑)

「大道芸人たち」の一氣読みですか……。す、すみません、長くて。ご無理をなさいませんように。今、チャプター2が終わった所でしばらくインターバルで、短編をアップしています。七月に入ったら、日本編が始まります。

あと、もしご迷惑でなければ、春さんの所にリンクをさせていただきたいなと、ずっと前から思っているのですが、いいでしょうか。

Re: 八少女 夕 さん

  1. 2012/06/25(月) 00:30:17 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
ふたたび、こんばんは!

> インターバル
おぉぉ、むしろ今がチャンスですかね…!
とても楽しみなのです*><*

> リンク
おぉーーーありがとうございます☆
大歓迎です*^^*
相互リンク?
ブロとも?
どどどの形がよろしいでしょうか…?
私、どれでも大丈夫です!!
ブロともだと、更新されると表示が出るので
私はそちらの方が嬉しいですが……・v・

そして、
八少女 夕さんのリンクもぜひ、貼らせて頂きたいです!
こちらこそ、どうぞどうぞよろしくお願いします*><*

コメント、そしてリンクの件ありがとうございました☆

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