旅の空でいつか

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5章(2);雨と“友だち”の話

  1. 2012/06/19(火) 22:07:26|
  2. ★完結★ 『真空パックと虹色眼鏡の物語』シリーズ
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※作品一覧はコチラです


こんばんは、春です・v・
『真空パックと虹色眼鏡の物語』更新しました。

このシリーズのタイトルがなんでこんなんなのか、
を、やっと書けました。

ちょっとだけスッキリ。


それでは《続きを読む》よりおすすみください☆





***************



カーテンを開けると、雨が降っていた。
耳を澄ませてみれば、しとしと、といった表現が似合う風情で
空気も幾分かしっとりとしている。
日頃はあまり気にならないくせ毛も、湿気で元気になっている。

マサキは雨が好きだ。
低血圧のせいなのか何なのか、
天気がぐずつくと軽く頭痛がしてくることもあるけれど、
それさえ除けば雨も雪も、降ればなぜだか
マサキは自然と、気持ちを静かにすることができた。

室内に吹き込むこともなさそうなので窓を開ける。
隣家の軒下で、気まぐれネコのもんたさんが雨宿りしているのが見えた。
身体は濡れているのだろうけれど、
相変わらずふくふくとしていて、
抱いたら重そうだけれど、きっと気持ちいいだろうなと思う。

雨はいい。特に、こうして静かに降っているのがいい。
前回の「仕事」で大きく波の立ったマサキの気持ちも
日の経つごとに凪いできていて
このままぼぉっと外を眺めて1日過ごせたら
きっと何もなかったように、元通りになってくれるだろう。
なんとなくだけれど、そう思う。

雨のおかげで気持ちよく目覚めてしまったので、
そのまま階下に向かってみた。
日頃であればマサキが仕事を始めるのはもう少しあとの時間なのだけれど、
顔を洗って、そのまま夫婦の仕事の手伝いに入ることにする。
くろさんから、朝食の準備を頼まれた。
マサキが朝食を作るのは、主に冬だ。
初老をすでに向かえている夫婦は寒さで節々が痛むらしく、
逆に寒さを得意としているマサキは、冬の朝ならば活躍できるのだ。
逆にマサキは、夏の暑さには弱いし、
そもそも、基本的に朝には強くないので、
日頃朝食を作るのは、もっぱらくろさんの役目になっている。

少しだけ新鮮な気持ちになった。
店に出すためではなく冷凍してあったご飯を温めて、
3人分のチャーハンを作ることにする。
具材は、タマネギとベーコンの欠片たちと、余っているキャペツと人参、
卵は3つ入れることにした。
面倒さが先に立ってしまうことと、
特に朝はあまり食が進まないこともあってつい避けてしまうけれど、
マサキは料理をするのが好きだ。
出来上がりを思い描いてから、一番効率のよくなる手順を考えて
できるだけ無駄な時間がうまれないよう計算して、
あとはひたすら手を動かす。
作業の間はそれに集中できる分、なんだかスッキリした感覚になれるし、
小さな達成感もある。

ご飯を解凍している間にフライパンは温めてしまって、
それからベーコンと野菜たちをみじん切りにしてしまう。
卵は別の器で、少しだけ砂糖を加えてときほぐしておく。
十分にフライパンがあたたまったのを見計らって少ない油で野菜を炒め始めて、
火が通ったら解凍したご飯を入れ、
顆粒の鶏ガラスープの素を加えてまた炒める。
具材とご飯が炒まったら、
もんじゃ焼きの要領でそれらをドーナツ型にしてしまって、
中に再度、油を投入して、火を強めてから、卵を入れる。
箸でぐるぐるとしながら卵の色を少しだけ変えたら、
周りの山を崩して、あとは綺麗に絡めてしまう。
そのまま強めの火で炒め続ければ、
パラパラとした食感のチャーハンが出来上がってくれるのだ。

最初はうまく作れなかった。
母親が料理を作る背中を見ていたことはあったけれど、
教えてもらう機会には巡り会えないまま家を出てしまった。
フライパンの使い方や具材の切り方、
べしゃっとしていないチャーハンの作り方。
他にも、野菜の煮込み方や調理器具の手入れの方法など、たくさんのこと。
店に立つために必要な、
コーヒーや紅茶の淹れ方や食器の磨き方や、客への所作だけではない。
夫婦が少しずつ教えてくれた。
教えてくれたそれらがだんだんと身に付いて行くのは嬉しかった。

煮込む前だけれど、くろさんが下ごしらえをすませたスープも添えて朝食を囲む。
しろさんは、いつの間にか室内にもんたさんを引き込んで来ていた。
濡れた身体も綺麗に拭いてもらったようだ。
3人と1匹。
もんたさんは、夫婦の足下で気持ち良さそうにしている。

「もう、調子もよさそうねぇ」

食べながらしろさんが言った。
マサキは少し恐縮して頷く。
前回の「仕事」のあと、随分と不調をひきずってしまっていた。
夫婦の心配をおして、自分のワガママで続けている「仕事」だというのに、
心配をかけてしまっていることが申し訳ない。
小さくなるマサキに「私ね、思いついたことがあるのよ」としろさんが言う。

「マサキちゃん、あなた、少しお友だち作ってみたらどう?」

「え」

しろさんの言葉に固まったのはマサキだけではなかった。くろさんもだ。
しろさんともんたさんだけが、のびのびとしている。

「えと、……友だち、ですか。
 そういうの、あんまり得意じゃなくて……」

「あぁそんな感じよねぇ」と、しろさんは平気な顔をしている。
けれど。

「しろちゃんは時々、なかなか無茶なハードルをつきつけるな」

くろさんが固まったまま、何かのフォローのように言った。
「そう?」と、今ひとつわかっていない風の顔でしろさんは言うけれど、
マサキはくろさんの言葉に、心から頷いた。

「友だちつくるとかそういうの、1人じゃできないしなぁ。
 やろうと思ってできるとも限らないというか……」

相手がしろさんでなければマサキも
「余計なお世話だ」ですませていた話だったろう。
けれどしろさんだから、なかなかに鋭いところを突かれてしまったとも思えてしまう。

これまでマサキは、「友だち」を作るということを、すすんで避けて来ていた。
けれど決して、好んでそうして来た訳ではない。
そうして来たのには、マサキなりの理由がある。
けれど学校にも通っていない、家との縁も実質切れている今、
これまでのその理由が引き継がれるような現状でないのも確かなのだ。
だから「友だち」を作らないようにし続ける理由もないのだけれど、
逆に今は「友だち」を作る必要性も感じていないし、
環境が変わって、逆に、どう「友だち」を作っていけばいいのかもわからない。

自分には、ヒロキという友人がいる。と、主張してみようかとも思ったけれど、
「他には?」と言われてしまえば続けられる言葉を持っていないのが実状だ。
もんたさん、と言いたい気もしたけれど、
一緒に食卓を囲んでいても自分の足下に寄り付きさえしてくれないネコでは、
むしろマサキの片思いなわけで、これも苦しい言い訳だ。

少しだけ、マサキの顔が赤くなった。
なんだか小学校に入り立ての子どものような心配をされている。

「マサキちゃん、私たちとヒロキちゃんしかいないから、
 一度落ち込むと気分転換ができないのよ。
 で、今ヒロキちゃん学校が忙しいとかで、あんまりお店来てないでしょ。
 話し相手が私たちしかいないのって、ねぇ。
 あぁ、美咲ちゃんはまた別ね」

そうは言っても、と続けるくろさんをやんわりと退けて
「だって、マサキちゃん本当は、ちょっとお友だちつくりたいなって
 どっかで思ってるでしょ」
しろさんはそんな言葉を続ける。

本当にその通りだ。
マサキにもわかっている。

余計なお世話だし、
本当なら放っておいて欲しいことだし、少し無神経だとも思う。
けれど相手はしろさんで、
しろさんがこんなことを言い出す時は大抵、
それはマサキには必要な状況だったりするのだ。
数年間の付き合いでマサキはそれを知っているし、
この余計で無神経なおせっかいのおかげで、
実際にマサキは、何度も助かってもいたりするのだ。

「と、友だちってどうやって作ればいいんでしたっけ……」

だから、こんな言いずらいこともとりあえず尋ねてみようと思ってしまう。
情けない質問だということはわかっている。
けれど本当にその方法がわからないのだから仕方がない。
店に来たお客さんを相手にそんなことを考えるわけにもいかないし、
道端で「お友だちになってくれませんか」なんて言ってまわるわけにもいかない。

「そうねぇ。とりあえずは
 今いるお友だちとか知り合いの、そのまた知り合いと会ってみる、
 っていうのがいいんじゃないかしら」

思い浮かべられる「今いるお友だち」「知り合い」で浮かんで来る顔は
美咲とヒロキとの2人だけで、
マサキは自分のことながら、心もとない気持ちを味わわされる。

大学に通うだなんてことを別世界のように感じているマサキには
それがどれだけのものなのか想像もつかないけれど、
ヒロキは今、しろさんも言った通り相当に忙しいらしく、
夫婦からの「仕事」も受け付けていないどころか、
近頃は店に顔を覗かせることも、マサキの携帯に連絡をよこすこともない。
そんなに忙しいらしいヒロキに
「友だちを作りたくて」だなんて連絡を入れるのは気が引けた。

そんな状況のせいで、マサキの携帯は今、
もっぱら美咲専用のようなことになっている。
マサキの携帯のアドレス帳に入っている連絡先の数なんてたかが知れていて、
美咲と、店の番号と、しろさん・くろさんと山崎さんと、
(……あぁ、そういえば)
もう1人くらいしかいなかった。

何となく、こんな相談を美咲にはしたくなくて、
マサキは直接、そのもう1人に連絡を試みることにした。


***************


「……俺が言って交換した連絡先だけどさ。
 美咲ごしじゃなく本当に連絡来ると思ってなかったから驚いた。
 つか、美咲に何かあったのかとか思って、最初少し心配したし。
 実際、そういう時のためにと思って交換したわけだしな」

「うん、そうだよね。ゴメン」

「別にいいんだけど。暇だったし」と答えて、
いつもならヒロキが座っているカウンターの隅に腰掛けて答えたのは雄大だ。

以前、一緒に花見に行った際、雄大には
少しだけ強引に、連絡先を交換させられていた。
その行為が美咲のためだということはマサキにもわかっていて、
だからこんなに突然、こんな理由で雄大に連絡を入れるのは
けっこうな勇気のいることだった。

電話口で「美咲に何かあったわけではない」ことは説明していたけれど、
それでもなお心配そうに店にやってきた雄大には、
どういう話の流れで連絡をすることになったのか、既に説明してある。

「俺の見立てでは、あんた、別に悪い人じゃないしな。
 だからなんつーか、友だち作れって言われたとか
 そんな理由で呼び出されるとかは、まぁ思ってなかったよ。
 こんな呼び出しの経験、なかなかないから楽しい気もしてるんだけど、
 でもさ、それで呼び出されて、俺今どうしたらいいかわかんないんだよね」

「うん……呼んではみたけど、それ自分にもわかってないんだ」

マサキは正直に白状する。
だろうな、と雄大も頷いた。

「こういうの、あらためて言ったり宣言したりしてどうこうって話じゃないとは思うんだけど、
 知り合ったのも縁だしさ、
 もう俺たちも友だちってことでいいんじゃないかと、俺は思うんだけど。
 そこんとこマサキさんはどう思う?」

「あ、マサキさん年上だけど敬語とか使わなくて大丈夫?」と重ねて聞かれて
「もちろん大丈夫」と、マサキは両方に頷いた。

「うん、わかった。
 親睦はこれから適当に深めていくということでいいよな?
 じゃあ、とりあえずこの話はこれで」

あっさりと終わってしまった。
友だちをつくるって多分こういうことではない。
それはマサキにもわかっていたけれど、
横で聞いていたしろさんが小さく笑う声が聞こえたので、
まずはこれでいいのだろうと納得する。
雄大の言う通り、「親睦はこれから深めていく」のでいい。
それは間違っていないと思う。

「ここのコーヒー本当にうまいですね。
 おかわりもらってもいいですか?」

雄大はしろさんには敬語で言う。
「今日はマサキちゃんのおごりだから、遠慮なくどうぞ」
と答えるしろさんは、その声も嬉しそうだ。
奢りとかなると一気に友だち風だな、と雄大も笑った。

「で、マサキさんの本題は終わったわけだけど、
 せっかく足を運んで“友だち”になったわけだしさ、
 この先、共通の知人の話でもしようかと思うんだけど」

「美咲さんのこと?」

「うん。最近さ、美咲どう?
 元気にしてる?」

「美咲さん、え、いま体調崩したりしてるの?」

「知らねぇよ。俺に聞くなよ。聞いてんの俺だから。
 マサキさんは会ってんだろ? どうなのよ」

「……連絡は、まぁとってるし、店にはちょくちょく来てくれてるけど、
 最近ゆっくりは会ってないから、その、予想みたいな話になっちゃうけど。
 たぶん、いつも通りだと思うよ」

コーヒーのおかわりを差し出すと、
しろさんはそのまま、奥に引っ込んで行ってしまった。
雄大の話し方から、何か感じるところがあったようだ。

いつも通り、ねぇ。
去って行くしろさんにお礼の会釈をして、
しろさんが奥に行ってしまったのを見計らってから雄大は続ける。

「マサキさん、俺たち“友だち”になったばっかだけど、
 今日はこのまま、少しケンカでもしてみようか」

「え、え?」

外は静かに雨が降っていて、
時間は、おやつの時刻を過ぎて夕食の準備にはまだ間があるくらい。
他のカフェでは違うのだろうけれど、
住宅地の中にある『カフェR』では、客足の途絶えるシチュエーションだ。
この店には今、他の客はいない。
だから雄大も、遠慮しなかった。

「さっきも言ったけどな。
 俺、マサキさんは基本的に悪い人じゃないと思うんだよ。性格も、頭も」

「高校にも行ってないし、頭の方はわからないけど」

「そういう話じゃねぇよ。それはわかってんだろ」

マサキは黙って頷いた。
わかっている。
わかっていて、少し逃げた。話をはぐらかそうとした。
いきなり「ケンカ」しようなどと言われて、話の先が見えなくて、
それで尻込みしてしまったからだ。

「美咲さんの話、だよね?」

「うん、美咲の話。
 なんだけど、それはいいや、いったん置いておく。
 まずはマサキさん、あんたの話だ」

自分の話?
マサキにはますます先が読めない。

「あんたには、美咲はどう見える?
 美咲のこと、どんなヤツだと思ってる?」

奢りのくだりで一度ほぐれかけたけれど、
今は再び、緊張感に襲われている。
美咲が、どんな人間に見えるか。

マサキがまず思い出すのは昔のことだ。
優しい子だった。
よく笑って、よく怒って、ハッキリと物を言う子だった。
自分の思ったことに素直すぎて、
そのスピードについて行くのが難しいと感じることもあるけれど、
美咲の考え方はいつもとてもまっすぐで、
自分のことを思ってくれてのことなのだと、マサキには疑いなく感じられた。

昔からそういう子だった。
今も変わらないと思う。
気が強くて、言動は全体的に大胆だ。
そしてその一方で、
意外なところで、意外に小さなことで迷っていたりする。
そういうところが可愛いと思うし、とても好ましく感じている。


昔から、というところを省いて答える。

「じゃあ、何か1つの物に例えたら何だと思う?」

少し難しい質問だと思った。

「竹を割ったような」という言葉が浮かんだ。
言動だけでなく、美咲のまっすぐな性格を思えばふさわしい例えだと思って、
そのまま伝えた。

聞いた雄大は、コーヒーを飲んで一息ついてから続けた。

「あんたは、アレだ、トンボみたいな人だな」

「トンボ?」

「花見の時もちょっと思ったんだけど、
 今日、今話しててますますそう思ったわ。
 あんたは、トンボだ」

意味がわからない。

「美咲との関係って、半年くらいだっけ?」

本当は違うけれど、
成長した美咲と知り合って親しく付き合うようになってからはそれくらいだ。
それに昔だって、何年もの時間を過ごしたわけではない。
よく遊んだし、マサキには大きな存在だったけれど、
当時過ごした時間だって、思い返してみればほんの1年ほどだ。

だからマサキは頷いた。
これは嘘ではない。そう思えたから。

「トンボってあれ、一個に見えて目がいっぱいあるようなもんなんだってな。
 マサキさん、それは知ってる?」

小学校の時に、理科の教科書に乗っていたのを読んだことがある。
知っている。

「じゃあ、トンボの歌は知ってるか?
 トンボの眼鏡は水色眼鏡~ってヤツ」

「あの、青いお空を飛んだから、って歌詞の、だよね?」

「そう、それ。あんた、そんな感じなんだよな。
 美咲のこと、よく見てるんだろうと思うよ。でも、見えてないと思う。
 あんたの眼鏡は曇ってるから。つか、まさに色眼鏡ってヤツだ。」

親しく付き合った年月は、聞いた限りでは、雄大の方が長いのだろう。
けれど、美咲のことを「わかってない」と言われるのはスッキリしない。

「マサキさん、美咲のこと好きなんだよね?
 本当に、本気で好き?」

好きな気持ちは本当だ。
本気だ。
けれど雄大が求めている内容と、
そのレベルとに釣り合っている気持ちなのかと言われたら自信はない。
美咲から切り出されれば、今すぐにでも、別れる心づもりがある。
抵抗のようなものをする気は一切ない。
だから雄大には即座に頷いたけれど、
あらためて問われて、胸が痛んだ。

「じゃあさ、なおさらだな。
 マサキさんは、色眼鏡ばっかかけてんだ。
 けっこう厚い眼鏡ぽいよな。
 もしくは、重ねがけ? 眼鏡on眼鏡?
 いくつ色眼鏡かけてんだよ。
 色とりどり、よりどりみどりだな。
 あんたの眼鏡は虹色眼鏡だ。
 幻みたいな綺麗なもん見て、それで満足してんだ」

胸は痛んだけれど、
さすがに、少し不快になった。
そんなに言われるほどだろうか。

「じゃあ、雄大には美咲さんは、どう見えてるの?」

「……真空パック」

発泡スチロールとサバが浮かんだ。
アレではない。
ただ、よくスーパーで一緒に並んで売られている。

「美咲さんはそんな安物じゃない」

「あんたが何想像したかは何となく伝わったけどな、そういう意味じぇねぇよ。
 言いたいのはそこじゃねぇ。
 安物じゃねぇのもわかってるよ。バカにすんな。
 つか、あんた本当はバカなのか? 俺の思い違い?」

「雄大の言ってること、意味がわからない」

「わかんねぇだろうな。
 ……俺だって、確信あって真空パックとか言った訳じゃないし。
 だからこれが、俺の見方が正しいのかとかもわかんねぇよ。
 でも、たぶん間違ってない」

そこまで言って、雄大はコーヒーを一息に飲み干した。

「俺、美咲に惚れてるわけじゃないけどさ、まぁ、大事ではあるんだよ。
 あいつと“友だち”始めてから長いし。
 あんたのこと嫌いじゃないし、あんたが美咲のこと好きなのも、
 大事にしてるらしいのも、嘘じゃないとも思うし。
 だからこっから先はあんたの、あんたらの問題だ。
 でも、俺は少しだけ怒っているし、不安にも思ってる。
 そんな眼鏡であんたが何を守りに入ってんのかは知らねぇけどな、
 保身ばっかしてんじゃねぇよ。
 ……と、俺としてはね、思うわけだ」

「奢り、どうも」言って雄大は立ち上がった。

「あんたとは“友だち”になったからさ、ちょっと突っ込んだこと言ってみた。
 気分悪くしただろうから、さっそく謝ってもおく。
 で、こんだけ美咲のこと好きなのに走る“保身”の中身、
 必要なら話も聞くし。
 俺に言う言わないはあんたの自由だし、好きにしたらいいけど、
 ケンカ吹っかけた手前もあるしな、
 話聞く準備くらいは、俺もしておかないでもないから」

言いおくと、「じゃあ今日はこのへんで」と
雄大はさっさと帰ってしまった。

店に1人、取り残された。
正直なところ雄大に圧倒されてしまって、しばらく、
客が入って来て声をかけられるまで、頭がうまく働かなかった。

(……保身?)

そのつもりはなかった。
守るというなら、
自分の身ではなく、マサキが望むのは美咲のことだ。
彼女を、自分の面倒な体質が引き起こすだろうアレコレに巻き込みたくない。
そう思っている。

けれど、雄大の言葉はマサキの中に残った。
保身。
色眼鏡。
そんなつもりは、本当にないのだけれど。
でも。

「マサキちゃんは、意外とプライド高いからねぇ」

夕食時にしろさんが言った。
雄大との話に関連したことなのだろうというのはわかったけれど、
自分のプライドが高いとは思ってもいなかったけれど、
しろさんはそれ以上何も言わなかったし、
マサキも言い返すことはなかった。


翌日、美咲から連絡が入った。
久しぶりに少し遅い時間帯に店に来て、閉店まで過ごして行った。
家まで送って行って、
そのまま誘われて、泊まって帰ることになった。

美咲は元気かと尋ねた雄大のことが思い出された。
マサキの目に、彼女は「いつも通り」に見えた。

それでも気になって、
一緒に夜を過ごして翌朝、目元がやや疲れているようにも見えたこともあって
「美咲さん、少し疲れてる?」と尋ねてみた。
美咲は微かに首をかしげて、
「疲れてる、かなぁ? そうでもないと思うけど」
と、不思議そうに笑っていた。

やはり「いつも通り」だ。
そう思った。

雄大の言葉は胸に残っていたけれど、
だからといってどうという事もなく、
マサキはそれからしばらくの日々を過ごした。
「いつも通り」だ。
とりたてて問題はないはずだ、と。


この朝が、すれ違いの始まりだった。
けれどマサキがそのことに気づくのは、随分と後になってからのことだった。




(to be continued...)


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comment

No title

  1. 2012/06/21(木) 12:53:14 |
  2. URL |
  3. TOM-F
  4. [ 編集 ]
 お邪魔しています、TOM-Fです。

 雄大台風、上陸って感じですね(笑)
 いい意味で、見事にお話しを引っ掻き回してくれました。

 タイトルの意味は、そういうことだったんですね。ずっと分からなくて、う~ん、と思っていたのですが、やっと明らかになりました。
 それにしても、真空パックと虹色眼鏡とは、よく言ったものですね。
 自分から変わろうとしなければ、人は変われないし先に進めない。そして、思い込みや願望やらに邪魔されていては本質は「観え」ないし、観えないと踏み込めない。とはいえ、それはなかなか気づかないし、気づいても簡単にはできないことで。
 そんなことを考えながら、読ませてもらいました。それこそ、私の思い込み全開です。まあ感想ということで、的外れでも笑って許してくださいね。

 美咲は雨が苦手で、マサキは雨が好き……。そして、すれ違いが始まる。
 お話しの終わり方、上手いですね。次のお話しが気になってしょうがないです。

 ところで、あの「パラパラ炒飯」の作り方、面白いですね。今度、試してみようかな。

 次回の更新も、楽しみにしています。
 では、また。

Re: TOM-F さん

  1. 2012/06/21(木) 18:09:44 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
TOM-Fさんこんにちは、春です!

> 雄大台風
あぁぁぁぁそんな感じですね!!笑
しまったもっとソレ意識して書けたらよかったのに……!!

> タイトルの意味
はい、そういうことでした^^;
あまり長いタイトルをつけるのが好みではないので
このタイトルで書き始めるの、けっこう躊躇していたのですが
(しかも今もまだちょっとスッキリしきってはいないのですが、爆)
とりあえず書き始めよう、と思ってスタートさせてしまいました^^;

そして、完璧な余談なのですが
自分は何か長めの話を書くときには、いつもその話用のプレイリストを作って
その曲たちを聞きながらPCに向かっているのですが、
そして、このシリーズ用のそのプレイリストには入ってすらいないのですが、笑
この言葉を思いついちゃったのは、ドリカムの『眼鏡越しの空』を聞いていた時でした。
ドリカム好きです・v・

> 次のお話し
さっそく更新してみました・v・!
また読んで頂けると、とてもとても嬉しいです*><*!

> 「パラパラ炒飯」の作り方
何かのバラエティ番組で、
芸人がどっかの有名な料理人に教わっていたやり方を
より簡単にしてみたのが、アレです。
鶏ガラあたりは実家のマイマザーから教わったものですが^^;
火力を恐れることさえしなければ、
(自分にしては)なかなか満足のいくチャーハンが仕上がりました。
ぜひぜひ~・v・♪

コメント、ありがとうございました☆☆

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