旅の空でいつか

ご訪問いただき、ありがとうございます
はじめましての方は、メニューの「はじめに。」や「作品一覧。」をご覧ください。
記事内容の無断転載は厳禁ですが、リンク&URLの転載はフリーです。ご一報いただけると嬉しいです☆
ブロとも申請は歓迎です☆
みなさま、どうぞ楽しんでいって下さいね*^^*

スポンサーサイト

  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

狼の娘_2 /Z

  1. 2010/03/06(土) 20:15:34|
  2. ★完結★ 『アルファベットの旅人』シリーズ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2

←前編の『狼の娘_1 /Z』はコチラです。
※作品一覧はコチラです




暗闇。
顔のない男たち。
動けない。
切り開かれる。
押し込まれる。
塞がれる。
叩きつぶされる。
笑い声。
のばした手。
払いのけられ、おさえこまれ、組み敷かれ、
軋み折れる音。
剥がされる。
しめつけられる。
苦しい、苦しい、苦しい。
光。
ちいさなちいさなお日さまの色。
とおくでひとつだけ消えない灯火。
空の青。
白。
あたたかい。
あたたかいからかなしい。
うれしい。
イロトリドリ。
おしえてくれた世界の色。
夕闇。
暗闇。
動けない。
顔の無い男たち。
笑い声。
終わらない……。



***************



パチ、、、パチ、、、

薪の爆ぜる音に、ぼくは目を覚ました。


木材で作られた天井がぐるりとまわる。
ひどい目眩。吐き気。頭が割れそうに痛む。
雨の音が聞こえる。
明るい。


「起きたの?」
少し高い、少女の声がする。

つばを飲みこんで吐き気をこらえて、
声の主に目を向ける。

初めに目に映ったのは、
日に焼けたせいか、すこし薄い茶色の長い髪の毛。
少しクセのあるその髪を、うしろに一つに束ねている。
女の子。
その傍らには、大きな獣。

(狼?)

頬を伝って、
涙ににじんだ視界が戻ってくる。
それでやっと、気づく。
(……見える。)


「大丈夫?」
少女が寄ってくる。
その左手に、洗いさらしの包帯が巻かれている。

思い出す。
そうだ、自分が傷つけた。

「ごめんなさい!」
大声で言って、起き上がる。
また視界がまわって、今度は身体ごとぐらりと傾いだ。

けれど左手でその身体を支えて、耐える。

「ごめんなさい。ぼくが、傷つけた。」
いくら謝っても、謝りたりない。
勘違いで、人の身体に傷をつけてしまった。

痛みは?
傷跡は残らないだろうか?

ぼくのすぐ隣に座って、少女はぼくの額に手をそえる。
「熱、あんまり下がってないね。うなされてたし。」
いつもの夢を見たんだろう。
内容をちゃんとは思い出せないのは、いつものこと。
ひどくイヤな夢で、胸に重さだけを残していく、いつもの夢。
「まだ寝てなよ。」

そう言われて、ぼくはあらためて辺りを見渡す。
薪が爆ぜる。

ここは、山小屋だろうか?
外からは雨の音が聞こえる。
囲炉裏があって、
薪の爆ぜる音と、湯のわく音がする。
さっきまで少女が座っていた炉端には、やはり、狼が一匹。
薄い灰色の、豊かな毛並みの狼だ。

たずねる。
「きみが、助けてくれたの?」
温かい布団の上。
服も着替えさせてくれたようで、
上等の布ではなかったけれど、厚手の長袖のものを着せてくれている。
濡れた服は、囲炉裏の側に。
(あぁ、じゃあ、見られちゃったんだな。)

「だって仕方ないじゃない!」
少女は言った。
「突然倒れちゃうし、熱出てるし、苦しそうだし。」
さすがにほっとけないよ、と、何やら怒っている。
そうか。
少女は、みたところ、15歳くらいだろうか。
ぼくよりも少し幼そう。
「本当に、ありがとう。大変だったでしょう」
170もあるぼくを抱えてここまで運んでくるのは、少女には相当な負担だったはずだ。

「大丈夫。ウルフが助けてくれたから。」
あの狼のことだろうか。
随分とまっすぐなネーミングだ。

少女の包帯をみやる。
うすく滲む赤。
「ねぇ、ぼくの鞄、貸して。」
なんも盗ってないからね!? と、少女。
そんなこと疑ってないよ、と伝えたくて、苦笑する。

鞄を受け取って、中身を調べて、ひとつの袋を取り出す。
「腕、出して。」
それで少女は気づいたらしい。
「大丈夫だよ。大したこと無いし!」
「いいから。出して。」
いいのに。
言いながら、差し出された腕。
ぼくは包帯をほどいていく。

傷をあらためる。
うん、よかった。
たしかに傷も浅いし、これなら傷跡が残ることもないだろう。
袋から2つの薬草を取り出して、少しだけもんで、つぶす。
「ちょっと待って、それって痺れさすやつじゃないの?」
勢い良く腕をひっこめてから、
取り出した薬草のひとつをさして、少女が言う。
「詳しいね。」
少し、驚いた。
「山暮らしが長いのよ。ナメないで。」
ウルフがまっすぐにぼくを見つめて近づいてくる。
威嚇されてる?
「山暮らしか。じゃあ、詳しくても当然かな。」
安心して。ぼくはウルフに、目だけで語りかける。
「大丈夫だよ。痛み止めに少し、使うだけだから。」
少女は瞬間、ウルフを見る。
ウルフは何も言わずに、少女を見つめ返していた。
それを確認して、少女は再び、腕を差し出した。
「……」
ぼくはだまって、つぶした薬草で傷口を覆う。
包帯をまた、巻いていく。
静かな時間が過ぎた。

「あなた、うまいね。慣れてるの?」
「あぁ、これは……」
どうしようかな、と少し迷うけれど、
すぐに、別にいいか、と思い直す。
こんな誰もいないような山奥だし、この少女は、ぼくを助けてくれた人だし。
袋の奥から、ぼくはひとつの包みを取り出して、それをほどいていく。
中からは、1枚の銀板。
「ぼくね、医者の資格を持っているんだ。」
この銀板は、その証。
3年前に取得したものだ。
「……ちょっと。これ、国家認定のプレートじゃない?」
うなずく。
これは、国でもトップクラスの医療技術を持ったものにだけ与えられるもの。
「あなた、めちゃくちゃ頭いいの? エリート?」
それには、笑いながら首を横に振る。
「ぼくを育ててくれた人の一人がね、すごいお医者さんだったんだ。
 ぼくは、本当は、あまり頭は良くないんだけど…
 その人が、その人たちが、教えてくれたから。」

物覚えのわるいぼくに、くりかえしくりかえし、
諦めずに教えてくれた。
取得したモノや、それを取得した年齢をみて、
人はぼくを、相当な人物のようにもてはやした。
でも、すごいのは、あの人たち。

「全部、あの人たちのおかげなんだ」
やさしいひとたち。
思い出すと、少しだけ悲しくなって、
けれど、やっぱりいつも、あたたかい気持ちになる。

ふぅん。少女は言う。
「まぁ、そうよね。じゃなきゃ、こんな偉いお医者様が
 雨で熱出して夜の山の中で倒れるなんてバカなマネ、普通しないわよね。」

言い返す言葉もなく、苦笑する。
包帯を綺麗に巻き終えて、ぼくはまた薬たちを鞄に入れ直す。

少女は少し考えて、狼を一撫ですると、言った。
「この子の名前はウルフ。わたしの名前は、ユエ。」
濃い茶色の瞳が、ぼくをとらえる。
「あなたの名前は?」

あぁ。
どうしよう。
そうか、この子は、ぼくの服を取り替えてくれて。
アレを見たから。

「……『Z』。」
少女の目が細められる。
「もう気づいてると思うけど、見たよ、身体。」
どうしようもなくいたたまれないような気持ちになってしまって、
ぼくは目を伏せる。

ぼくの服の下にある、たくさんの傷。
特にひどいのは背中。
首にも、胸にも、腹にも、腕にも、脚にも。
よく見ると、頭の中にも。
身体中にある。
切り傷、擦り傷、火傷、消えない痣、
それから、手術の跡。
左目の義眼はバレてはいないかもしれないけれど。


この少女は、知っているのかもしれない。
『Z』という記号が示す意味。
そんな気がした。
そうでない人なら、「なんだよそれ!」と不思議な顔をするか、あだ名かと聞き返すか、
変わったヤツだと笑い飛ばすか。

目を伏せたまま何もこたえられないぼくに、少女は続ける。
「詳しいこと聞かせてなんて、そんなことを言うつもりはないんだ。安心して。」
それでも、どう答えていいのかわからない。
だから、少女は続ける。
「最初はね、逃げて来たのかと思ったの。」
随分ひどいところだったんだろうなって思った。そうも続ける。
「でも、そうじゃないみたいだね。」
ぼくは黙ったままうなずく。
少女は少しだけ笑って、ウルフをまた一撫でする。
気持ち良さそうに、目を細めるウルフ。

薪の爆ぜる音が響いた。
雨はまだ降り続いている。

熱があるからか。
満月が近いからか。

だから、あんなことを思い出すんだ。
だから、あんな夢を見るんだ。
だから少し、弱気になっているんだ……。

「もう、10年くらい前かな。助けてくれた人たちがいたんだ。ぼくのことを。」

助け出された日のことは、今でも思い出せる。
まっしろの天井。
あたたかくて、ふかふかのペッド。
やさしくて力強い、言葉。

もうわかりきっているけれど、ぼくは確認する。
「きみは知っているんだね。この、『記号』の意味。」
うなずく少女。
「パパが死んで、やめたんだけどね。
 ちょっと前まで、この山で盗賊をやってたんだ。」
あ、うちは強かったから、殺さないし、身ぐるみ全部剥がそうとかいうほど悪どいヤツじゃないよ、と慌ててつけたす。
「言ってみれば、うちの家業も裏業界だったわけでさ。
 だから、話に聞いたことくらいはあるよ。」

そうか。
それなら、遠慮なく訊ける。

「『A』という人を、探しているんだ。きみ、知らない?」
「どうだろう……どんな人?」
ぼくが知っている情報なんて、たかが知れているけれど。
「あかるい……お日さまみたいな色の髪の毛をしてるんだ。
 目は、朝焼けを待つ空みたいな、深い青い色。……たぶん、男の子だよ。」
「『記号』しか知らないってことは、あなたはその『A』と、『その場所』で会ったんだね。」
うなずく。
「もう、10年近く前。正確には、9年前。
 たぶん、ぼくと同じくらいの年齢だったと思う。彼は、買われていった。」

『A』の年齢をぼくは知らない。
ぼく自身の年齢も、ぼくは知らない。
名前を奪われる前の記憶をぼくは持っていない。
誕生日なんて、覚えているはずもない。

ふん、とため息を漏らす少女。
「あぁ、わかった。パパから聞いたことあったわ。
 あなた、あの9年前に一斉摘発を受けた組織につかまってた子どもの、生き残りなんだね。」

「生き残り」
その言葉が、ぼくの胸を重くする。
そう、ぼくは助かった。
けれど、あの闇の中で、たしかに命を落とした子どもたちも多くいたことだろう。
売られた子どもの行く末はわからない。
自分の命に値段をつけられ、
名前を奪われ、『記号』をつけられ、
人間としてでなく、ただ、彼らを楽しませるための道具としてあった日々。

そこにいたから、わかる。
たとえその後、運よく『自由』になれたとしても、
きっと彼らはその過去を、片鱗すらのぞかれないように封印するだろう。
消したい過去だ。
ぼく自身、
『Z』という『記号』を再びまとうことには、今でも大きな痛みがともなう。
あの、やさしいひとたちが与えてくれた名前を打ち消してまで。

「ダメね。その子の外見の特徴は、たしかに大きなヒントになるけど……。他に、情報は?」
他に。
「……『A』を買っていった人。」
「覚えているの?」
うなずく。
その時のことを思い出そうとして、震える。
あたたまったはずの指先が冷えていくのがわかる。

(__大丈夫。大丈夫。大丈夫。)

「……黒い服の男たちを、たくさん連れていた。
 牢番たちも、たぶん、そいつを特別扱いしていた。」
それで? 促す少女。
「……たぶん、『A』には、相当な金額がついていたんだ。
 その彼を買う、と一瞬で決められるくらいに、お金を持っている人だと思う。」

あの子どもたちの中で、いつも「売れ残っていた」ぼくたち。
これは、助け出されてしばらくして、
文字や数字のことを教えてもらって、そしてわかった事実。
なぜ、ぼくたちだけが「売れ残って」いたのか。

彼には、非常に大きな値段がつけられていた。
髪の色。瞳の色。造詣の美しさ。
ぼくには逆に、破格の値段。
まだ「女」の機能を持っていたぼくは、そこに集まる客には魅力はなくて。
それは牢番たちも知っていて、
だからあちこち傷も目立って、けがされて、いつもそこに並べられるのは、ただのオマケで。

正反対の理由でぼくたちは、そこにとらわれつづけていたんだ。


「……」
少女は無言だ。
薪の爆ぜる音。
雨の音。
しばらくして、やっと口を開く。
「気を悪くしたらゴメンなさいね。」
ウルフがあくびをした。

「確認なんだけど、あなた、女の人よね?」
「え?」

顔をあげるぼく。
ひどく突拍子もない質問に感じられた。
しかもそんな。
いきなり。
どうこたえていいのか、ぼくはこたえを持っていないというのに。

「えと……女って言えるかはわからないけど、男とも言えないって言うか……
 気持ちの上では、男ではない、とは思っているんだけど……。」

女、なのだろうか。
男、ではないとは思っているけれど。
うまく言えない。
女なのだろうけれど、でも。
それがイヤで仕方がない。
そんな気持ちも、あって。

「なんで自分のこと“ぼく”って言うの?」

あぁ、むしろ昔は「おれ」って言ってたんだけど。
それは単純に、
牢番たちが使っていた言葉を覚えた結果、というだけなのだけれど。

「ぼくを育ててくれた……母親のような人が、自分のことをそう呼んでいたから、いつの間にか。」
母親のようなというか、父親のような、のほうの人。
ぼくのうちは、母親のようなひと、のほうが仕事をしていて、
父親のようなひと、のほうがよく家にいてくれたんだ。

ただ、女性は家にいて、男性は外で仕事をして、っていう
逆の場合の方が多いらしいことも知っているから、
うまく説明できない。


「うん。まぁいいや、それで十分だし。
 あなた、その『A』を探して旅をしているのね? これからも、旅を続けるのね?」
「……そうだね、そのつもり。」

リミットはある。
この目が光を失う前には帰ってこいと、あのやさしいひとたちには言われている。
その約束が守れるかどうかはわからないけれど。


「わかった!」
少女が言った。笑顔だ。
「ねぇ。あなた、私も一緒に連れて行って。」
「え、……えぇっ!?」

なに?いま、
なんていったの?
(……)
なんだろう、この、突拍子のなさは。
自分が何を言っているのか、本当にわかっているのだろうか。

少女は笑顔だ。
「だ、だめだよ、きみみたいな子連れて行くなん「きみじゃなくて、ユエって読んでね」」
そんな、そんなこと。
「……ユエ、だめだよ。だって、君みたいな女の子を旅になん「『Z』だって女の子でしょ!」」

ぼくの言葉は、ことごとくユエにふさがれる。

「大丈夫よ、わたし、自分のことは自分でちゃんと、守れるし。」
そうして、
お前もついてるしね。と、ウルフを撫でるユエ。
ウルフは相変わらず、気持ちよさそう。


まぁ、いいのかな……いや、やっぱりダメだろう!!
また、頭がくらくらしてきた。
ずっとやまなかったはずの頭痛は消えていたけれど。


「だ、、、ダメ!ダメ! 一緒には行けません!!」
「なんでよ!!」


ぼくと彼女との問答は、その日夜遅くまで続けられた。
隣でウルフは、眠そうに身体を伏せている。




******************




強気で勝ち気で、頭の回転の速いユエ。
彼女と口論して、勝てる訳なんてなかったんだ。


ぼくは本当に、困ってしまったけれど。


けれど同時に、本当の本当は、
嬉しくも、あったんだ。

明るくて気の強い、彼女と。
2人と1匹で歩く道のりは、やっぱりなんだか、楽しそうで。

心強くもあった。
いつ飲み込まれてしまうかわからない『闇』におびえるぼくに、
彼女の明るさは、勇気をくれる。


こうして数日後、ぼくは、
彼女__ユエとウルフと、一緒にその山小屋を出た。



←前編の『狼の娘_1 /Z』はコチラです。
※作品一覧はコチラです


スポンサーサイト

<<月の飴玉 /Z | BLOG TOP | 狼の娘_1 /Z>>

comment

  1. 2010/05/30(日) 22:10:56 |
  2. URL |
  3. 遠野秀一
  4. [ 編集 ]
こんばんは、遠野です。

FC2小説の方もありますが、
コメもしたいんでコッチ来ちゃってますw
まぁ、アッチの方もそのうち何か書きます。

っていうか、ユエちゃん、結構野性的だったんですねw
途中から読んでたんで、まさかの過去にビックリですww
あと、山賊さんをパパと呼ぶところが何ともwww

> 遠野秀一さま

  1. 2010/05/30(日) 22:23:07 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
こんばんは~☆
コメントありがとうございます*^^*
すごく嬉しいです*^~^*♪

そうなんです。
わんぱくで、でっかく…はないですが、元気な子だったんです。実は。笑
この辺りの話は……今から読み返すと……
うわぁぁぁぁなんか恥ずかしい!!
こ、コメントありがとうございます*> <*

 管理者にだけ表示を許可する
 


trackback


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。