旅の空でいつか

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ピアス_1

  1. 2011/12/03(土) 21:08:01|
  2. ★完結★ 『ハミングライフ』シリーズ
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こんにちは、春です。
『ハミングライフ』です。


今回の章書きながら自分の傾向見えて来たんですが、
ココに来て終わり見えてきてからが、なんだか長い気がします。。。
3~4話の予定だったのだけれど、なんかもう5話とかかかってしまいそうな予感。。。

タイトルに「終章」ってつけようとして、結局やめちゃいましたもの。笑


そして私に甲斐性がないので、ここからはレシピなしです。
まぁ料理作る楽しさがわかったので(私が)、もういいかな、と。笑

こんな感じですが、終わりまでお付き合い頂けると嬉しいです。


それでは、《続きを読む》からおすすみください☆



***************



ハミングが聞こえた。
もうすぐ大人になる、少女の声。ミーチェの声だ。
自分は以前の家主ほどの耳の良さはないけれど、わかる。
だって彼女が幼い頃から、ともに時間を過ごしていたのだ。
到着は昼頃になると言っていたはずだ。まだ少し早い。
近づいてくる声を嬉しく感じながら、“家主”は湯をわかし始めた。



***************



ハミングが聞こえた。出所はキッチンで、のっぽの声だ。
パンはもう、しばらく前に焼けている。
ふらりと出て行ったまま帰らない家主をピアスは心配していたけれど、
ピアスとは違い、のっぽは笑顔だ。
ふんわりと焼けたパンにナイフを入れるのを、茶を淹れるための湯を沸かしながら楽しみにしている。

かさりと草を踏む足音がして、その特徴から、家主が帰って来たのだとわかる。
足音は2人分。もう1人は、カリンだ。
家主とは違う形で、ピアスも耳がいい。
近づいてくる足音が見知ったものであるか、そうでないか、無意識のうちに聞き分ける癖がついているのだ。
ある程度親しい者であれば、足音だけで、それが誰のものなのかもわかる。
生活が変わってもその癖は抜けなかった。

「ただいま」
「お邪魔します」

2人の声が重なった。
のっぽがやかんに水を足して、火を強くした。お茶を淹れる人間が1人、増えたせいだ。
まだ冬とは呼べない季節だけれど、さすがに朝晩は冷え込む時期だ。
外にいた時間が長かったから、きっと2人とも身体を冷やしてしまっているだろう。

「お帰り。遅かったな」

ピアスが出迎えると、家主はゆったりと微笑んだ。
2人で、何を話していたのか。
家主の笑顔に、ピアスは少しだけ緊張する。
この表情は何度か見たことがある。
ピアスは知っている。
家主は何かあると、……それが特に、自分やのっぽやみぃや、親しい誰かに深く関係することで、
しかも、話しづらいことであった時に、
しばしばこういった表情をするのだ。

今日は、これは、誰に関する話だろう。
思いつかない。
思いつけないということは、今はこの家に暮らしていない、みぃに関することだろうか。
昼過ぎになるはずだったカリンの到着が早いのは、
なにか緊急の事態なのかもしれない。
ピアスが問いつめるよりも前に、家主が言った。

「ピアスに、ちょっと言っといた方がよさそうなことがある」

(……オレ?)

ピアスが表情を固めた。
「とりあえず、中に」リビングのドアの前で様子を見ていたのっぽが言って、
それもそうだと、3人はともかくは、家の中に入っていく。
家主は少しだけ困ったような笑顔のままで、カリンはいつもの無表情のままだ。
ピアスだけが少しだけ顔色を悪くして、家のドアにしっかりと鍵をかけてから、上がる2人の後に続いた。
自分の何が話題にあがるのか、最近のことを思い返してみても、ピアスには想像すらつかなかった。

「ピアス、あなたの母親が先日、逮捕されました」
「……え?」

誰もが無言のままついたテーブルで、話を切り出したのはカリンだった。
カリンの言葉に、ピアスは肩の力が抜けるのを感じていた。
表情にあらわれたようで、それを見たカリンの顔が不思議そうなものになる。

カリンが口火を切るまで、ピアスが一番心配していたのは、
自分が、何か自分の気づかないところでとんでもない間違ったことをしてしまっていて、
もしくは、過去に犯した、もう取り返せないもろもろの行動のせいで、
やはりこの家の家主にはふさわしくないと、
そう、カリンやコウの上司らからみなされてしまったのではないか、ということだった。

「母親」に対して、何の感情もないと言えば嘘になる。
思い返せば、話題に出たり突かれたりすれば、それは確かに痛い部分だ。
けれどもう、ピアスにとっては過去の話だ。
痛くとも痛いなりに、どうにかやり過ごすだけの術は身につけていたし、
とらわれる必要なんてないのだということも、わかっている。
過去は過去だ。
消せなくとも、それは日常とは切り離したところにおいておくことができる。
その処理さえこなせれば、今の状況であれば、
自分のこれからに影を落とされることもない。

だから正直なところ、少し安心もしたのだ。
うずく感情さえ置いておけば、もう自分には関係のない話だと、そう言うこともできるから。
第一、書類上ではかつての自分はすでに死んでいるのだから、これは文字通り「他人事」だ。

だから、思うままに伝えた。何も感じるところがないわけではないけれど、大丈夫だ、と。
のっぽが淹れてくれたお茶はすでに冷め始めていてぬるく感じる。
少しだけ笑顔を見せながらそれを口に運んだ。
ピアスの様子に頷きながらカリンは、けれど少し複雑そうな表情で家主をあおいだ。
カリンの視線につられてピアスも家主に視線をうつす。
本当に大丈夫だから、と伝えるために。
家主の表情は、帰って来たときから変わらない、例のゆったりとした笑顔のままだ。
その表情に、ピアスはひっかかりを覚える。
まだ、何かあるのだろうか。

「あの、どうして彼女は逮捕されたんでしょうか? 罪状は?」

のっぽから家主に向けられた質問だった。けれど答えたのはカリンだ。

「暴行罪です。
 以前からマークされてはいたのですが、なかなか証拠も証言もとれず、手出しができなかったのですが……
 逮捕された日、彼女は随分とお酒を飲んでいたようです。
 近隣の住人から通報があり、呼ばれた近くの警衛士がかけつけたところ、
 現行犯で、つかまえることができました。
 多量の薬剤とアルコールとを一緒に摂取していたのが原因で、
 彼女自身も今はまだ、病院にいます。
 病室には見張りがいますが、回復次第、正式に身柄をおさえることになっています」

ピアスの記憶にある限りでは、「母親」はアルコールも嗜む人だったけれど
酔って暴れて手が付けられなくなるほどのものではなかった。
多量の薬剤とカリンは言った。自分が家を出た後、彼女はどこか身体を悪くしたのだろうか。
いくつかの疑問が浮かんだ。
自分の知らない「母親」の荒れ方に、そんな義理はないはずだとわかっていても、心が痛みもした。

けれどピアスの顔を青くさせたのは、また別のことだった。
隙間風などないはずの家の中が寒く感じる。
暴行罪。
その意味。

「……あの人は、誰に、暴力をふるったの?」

「母親」はずっとマークされていたとカリンは言った。
それは自分のせいだろうと思っていた。さっきまでは。
けれど、けれど。

「リルベット。 ピアス、お前の“弟”だよ」

今度こそ寒気に耐えられず、ピアスは身を震わせた。
冷めているはずの、手にしたカップを熱く感じる。
自分の指先がそれほど冷えているのだと、けれどピアス自身は気づくことができなかった。


***************


久しぶりに、ピアスは自分の感情を持て余した。
どうしたらいいのか、どうしたいのか、わからなかった。

どうにも震えはとまらなくて、何度かカップを落としそうになった。
空になったはずのカップを口元に運ぶのも、何度かやった。
もう腹はたまっているのに、皿の上に残ったパンを食べきらなければとか、
空いた皿は早く下げて洗ってしまわなければとか、
「今すぐにやらなければならない」わけではないはずのいろいろなことが頭に浮かんで、ピアスを焦らせては消えていく。
焦って、焦る必要はないと気づいて、また焦って。
そうこうしているうちに、ピアスは、自分が今何を考えているのか、わからなくなっていく。
ただ「どうしよう」と、誰かにせっつかれているような焦った気持ちだけが膨らんでいく。
呼ばれれば返事をしたし、大丈夫かと問われれば大丈夫だと答えた。
けれどその言葉が本心でないことは、ピアス自身にも、家主たちにも、わかっていた。

泣き出しそうなほどの慌てぶりを見せたピアスの前髪を、
正面に座っていた家主が、ぐい、と掴んだ。
荒々しい行為だったけれど、おかげでピアスは、家主にしっかりと、視線を合わせることになった。

「ちょっと、落ち着け」

とりあえず深呼吸ですかね、とカリンが言って、ピアスを誘導するかのように深呼吸を始めた。
素直に従うピアスを見て、その隣に座っていたのっぽが立ち上がり、キッチンに向かう。
新しい茶を淹れるため、湯を沸かし直しているのだ。空いた皿を一緒に下げて、水につけておくのも忘れない。
家主と視線を合わせたまま深呼吸するピアスの耳に、カチャカチャいっている皿の音と、湯を沸かす音とが耳に入ってくる。
いつも聞こえている音だ。
震えがおさまっていく。

「……オレ、どうしたらいい?」

今度こそ、泣きそうだった。

忘れていた。
自分は忘れていた。
母親のことを聞いても、ひとかけらも思い出さなかった。
弟のこと。
自分が忘れていた、そのことが、ピアスにはショックだった。
どうして忘れられたのだろう。どうして思い出さず、平気でいられたのだろう。
過ごした時間は短い。
向かい合って同じ部屋にいたことや触れ合ったことは、もっともっと短い。数えるほどもない。
けれどたしかに、自分の弟だった。
あの「家」に、自分が置いて来た。
考えることもなかった。
だって弟は、母親に可愛がられていた。自分とは違って、確かに。
だから大丈夫だと思っていた。
自分さえ家を出ればそれでいいのだと高をくくって、綺麗さっぱりと忘れてしまっていた。
それがどれだけ危険なことだったか、考えようともしなかった。
自分のことだけでいっぱいで、弟のことなんて、少しだって考えなかった。
弟はいくつだった?
今はいくつだ?
何年間、どれだけの間、弟は「母親」の暴力にさらされた?
どうして「大丈夫」だなんて、思えたのだろう。

「いま、弟は、どうしてる?」

ピアスの前髪から手を離して、家主は視線をカリンに向けた。

「リルベットも、別の病院に入院しています。
 衰弱はしていますが、命に別状はありません」

入院するほどひどいのか。
また気持ちが傾ぎそうになったところに、のっぽが戻って来た。
温かいカップを持たされて、気づいて再び深呼吸した。

「オレ、どうしたらいいんだ?」

自問のようなものだった。
先ほどは答えなかった家主が口を開いた。
聞かなくても、何を言われるのか、ピアスにはわかっていた。

「ピアスは、どうしたいんだ」

何度となく言われて来たこの言葉を、このときほど重いと感じたことはなかった。
答えることができず、ピアスは無言のまま、カップを口に運んだ。
舌を火傷しそうなその熱さに、少しずつ、頭の中が整理されていった。
ピアスが落ち着くまで、3人は待っていてくれた。


***************


午後になって、紙袋を抱えたコウがやってきた。カリンが呼び出したのだ。

「弟のこと、見に行きたいんだ」

コウが部屋に入るなり、ピアスが言った。
自分が腰掛けたその隣の席にどさりと荷物を荷物を置くと、「うん」とコウが頷いた。

「呼び出されたってことは、まぁそういうことだろうなと思ってたよ」

家主が飲み物を運んで来たが、
コウはそちらを振り向きもせずにピアスとの皮を続ける。

「でも、わかってるよね。きみは、ペリドットはもう“死んだ”人間だ。
 名乗ることはもちろんだけど、“弟”に正体を気づかれてもいけない。
 それはわかってるんだよね?」

無言のまま、頷いた。
コウは続ける。

「ていうかね、本来は、近づくことも禁止されてる事項なんだけど。
 それはきみのためでもあるし、執念深い誰かがいたときに、
 きみの“家族”を、守るためでもある。これもわかってる?」

眉間を寄せて、微かに俯いて、それでもピアスは頷いた。

「それでも、会いたいの?
 きみと、きみが今気になっている“弟”の身を危険に晒してまで?
 本気?」

今度は、頷くことができなかった。
そのピアスの様子を厳しい表情で見ているコウの後頭部を、
黙って聞いていた家主が、はたいた。
カリンがコウの臑を蹴飛ばしたのと同時だった。
どちらを痛がればいいのかわからず、コウが身をすくませる。

「そんなことわかってんだよ。
 だからあんたを呼んだんだ。あんまりピアスをいじめんな」

低い声で言う家主と、無言のままいつもより冷たい視線を向けてくるカリンを交互に睨みつけながら
「これも仕事なんだよ!」とコウが文句を言う。
隠しもせずに舌打ちした家主が、どっかりとソファに腰かけた。

その様子にため息をつくと、少しだけ語調をやわらげてコウは続ける。

「もう一度、きくよ。それでもきみは、“弟”に会いたいの?」

迷っているピアスに「遠慮すんな」と家主が声をかけた。
それでピアスは、頷けた。おそるおそるではあったけれど。

「あい、たい」

ピアスがそう答えてもコウは無言のままだったから、
今度は、ちゃんと力を込めて言う。

「会いたい。話せなくてもいいんだ。隠れて見てるだけでもいいから」

そう言って頭を下げたピアスに、コウは笑いかけた。

「うん。了解。
 一応ね、これ、ちゃんと聞いとかなきゃいけなかったから。
 悪かったな。 ……だから、もうそんな睨むなってば」

家主に一言告げてから、隣の席に置いたままにしていた荷物を机の上にあげる。

「まずはコレ。次はどれがいいかは、適当に選んで決めて」

まずは、と言って出されたのは銀色のチューブで、
あとは、白地にいろいろな色のラベルが貼ってある缶だ。

「リルベットは、参考人でもあるからね。
 きみの“母親”同様、今は親族以外は、病院関係者と、警衛士以外は面会謝絶状態なんだ。
 どうやら、親族って言えるほど親しい親戚はいないみたいだけど。
 まぁ、だからピアスには、オレの部下みたいな形で入室してもらうことになる」

「……え、で、コレなに?」

「正体ばらしちゃいけないってんだから、とりあえず変装かな? とか思って。買って来た。
 チューブが髪の毛の脱色剤で、缶の方は染め粉。
 それで髪色変えて、後は帽子とサングラスとかでいいんじゃないか?
 そっちは用意してないから、とりあえずヒナタかのっぽに借りて」

「随分、用意がいいな」 

少し驚いて言う家主に、膨れ面でコウは答える。

「オレだってちゃんと考えてんだよ。
 他ならぬお前のとこの、ピアスのことだからな。とびきり贔屓してやるつもりなわけだよ」

あんな嫌な言い方してたくせに、と家主が言えば、だからあれ言うのは仕事なんだってば、とコウも言い返す。
喧嘩になりそうだったので、ピアスは急いで染め粉を選ぶ。
赤みがかった濃い茶色。
赤髪は珍しい色ではないから、これなら不自然にならずにすむだろう。

「じゃあ、そんな感じで。
 病院にはオレは明日行くって、もう他のヤツらに伝えちゃってるから、
 今日中に急いで色変えといてな」

わかった、と頷いて、ピアスは急いで風呂場へ向かう。
キッチンにいたのっぽが「手伝います」と後に続いた。


そうしてピアスは、髪色を変えた。
初めての経験だった。
鏡にうつる姿を見て不思議な心持ちになる。
これは、誰だろう。
“弟”に合いにいく自分は、“ペリドット”でもなければ“ピアス”でもない。

昔開けて以来、ずっとつけている左耳のピアスが鈍く光った。
これも外してしまおうかと考えて、手をつけて、やめた。

“弟”に、会う。
あらためてそれを考えると、抱えきれないほど大きな緊張が沸き上がって来た。
けれどそれだけではなかった。
ピアスの中には、
たしかに、楽しみに思う気持ちも存在していたのだった。


左耳の銀に触れて、ピアスは浴室を後にした。



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