旅の空でいつか

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”のっぽ” /ヨーグルトパン

  1. 2011/10/01(土) 19:20:30|
  2. ★完結★ 『ハミングライフ』シリーズ
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  4. | コメント:2
※作品一覧はコチラです


こんにちは、春です。

『ハミングライフ』です・v・
そろそろ、ラストが見えて来ました。

『ハミングライフ』書くのがちょっと久々なので、
なんだかヘンな感じですが^^;


どうぞ《続きを読む》よりおすすみください☆





***************



ハミングが聞こえた。

「ピアスが帰って来た」

微かに笑いを含んだ声で家主が言った。
カウンターで本を読んでいた”のっぽ”が顔をあげる。

「……鼻歌うたってる。ちょっと音ズレてるな」

あぁ、と納得して”のっぽ”も笑顔になる。

家主が教えた歌だ。
街に出始めたピアスが、家主から教えられたメロディが全くデタラメであることを知っていつか怒っていた。
正しいメロディの方を覚えなおしたはずだったけれど、
何カ所か、家主が教えたままに記憶されてしまった音があるらしい。
ピアスは不満そうだったけれど、家主はその様子をとても気に入っていた。

やがて足音が聞こえて来て、それから今度は”のっぽ”にも、強いノックの音が聞こえた。
3回ほど。
おそらく両腕が塞がっているのだろう。蹴りつけた音だ。
”のっぽ”がドアをあけにいく。

「おかえりな、……あー本当に大荷物ですね」

半分受け取ってやって”のっぽ”が言う。

「ミーチェは?」

「まだですよ。もうすぐ、ですかねぇ」

1年ほど前から、ミーチェはこの家では暮らしていない。
マルセルの生活も落ち着いて、ミーチェは少しずつ、マルセルの元へ行くことが多くなった。
今ではそちらの生活が主になって、ここには週に1・2度遊びにくるか、
マルセルの仕事の都合で、それでもせいぜい1・2泊預かる程度だ。

今日は2人で、昼過ぎに顔を出しにくると言っていた。

「これ、お土産」

玄関先で荷物の整理をしながら、ピアスが紙袋を差し出す。

「え、うわぁ~ありがとうございます」

「”のっぽ”んじゃねぇよ。ミーチェと、今度来るヤツらの分」

「えー」と残念そうに笑って紙袋をあけると、大きめの絵本が2冊、入っていた。
ページ数の多い方がミーチェ用だ。
もう1冊は、薄くて、絵の量が多い。

「可愛いな」

奥から手を拭きながら出て来た家主が、覗き込んで言う。

「双子っつってたっけ。まぁ、読んでやるんだから1冊でよかった、よ、な……?」

可愛い、は絵本の感想だったのだが、
まるで自分が「可愛い」扱いされたような気分になって、ピアスは顔を赤くする。
少し声も小さくなって、弱気になる。

「うん、いいんじゃないか。喜んでくれるといいな」

ミーチェが家を離れることが多くなって、
それからこの家には、いろいろな子どもたちが来た。
やってくる事情も様々だったけれど、多くはヨーのように、一時的に預かっていただけだ。

そうした子どもたちの中でも、
特に年齢が低く、寝付きの浅い子どもたちには、寝るまでつきあわされることが多かった。
そんな時、家主やピアスや”のっぽ”には、絵本は力強い武器だった。
ミーチェにもよく、寝る前に「アレ読んで」「コレ読んで」とせがまれていた。

「……やっぱり2冊買ってくればよかったかな」

今度やってくる双子は、けれどそうした子どもたちとは違い
いつまでこの家にいることになるのか、そのアテがなかった。
ピアスとミーチェ以外では、初めてのことだ。

家主がこの家を出ることがわかって、そうしてその時期が目前に迫って来ていて、
だからピアスにとっては、
家主になったら、初めて「保護者」のような存在になるかもしれない、そんな子どもたちだった。

「どうせ長くいることになるんなら、1冊ずつやれた方がよかったな」

もう一度、言った。
その子どもたちが来ることが決まってから、ピアスは日々、緊張を隠しきれない。
同じような感情に覚えがあって、家主は苦笑する。

「まぁ、じゃあ次街行ったときに買って来たらいいんじゃないか?」

当の双子は今、決して軽くはないケガをしていて、2人が育った街の病院にいる。
10日後に、こちらの街からはまた少し離れた病院にうつることになっているのだ。
この家に来るのは、そこでの経過次第になる。
長ければ、まだひと月ほどの間があるだろう。

「まだ時間もあるしな」

「もう、すぐだよ」

その双子が来てから、さらに10日後。
家主は、この家を出ることになっている。

その日のことを思って、なんだかいっぱいになりそうな気持ちを落ち着けて
ピアスは荷解きを進める。

「……ヨーグルトと、ジャムもらってきた。
 ミーチェが来たらおやつにしよう。で、残りは明日のパンにするから」

ピアスは今、2つの仕事をしている。
パン屋と、学校の授業に遅れがちな幼い年齢の子どもたちの宿題を手伝ってやる仕事だ。
どちらも短時間の仕事だったけれど、
どうにか「家」のことに活かそうと、ピアスは真剣だ。

「まぁ、そうだな」

ピアスの、どちらの言葉に対しての答えなのか、ピアスにはわからない。
新しく家主になる緊張と、家主に頼ってもらえる嬉しさと、
そしてやっぱり、近づいてくる別れは、寂しい。
いろいろな気持ちがある。
「その日」までに、どうにか言葉にして伝えたいと思うけれど、
どんな言葉にできるのいか、それもまだ、ピアスにはわからない。
だから今は、
もう、少ない時間しかないけれど今は、自分の気持ちを落ち着けることに懸命になる。



***************



マルセルと一緒にやってきたミーチェは相変わらず元気そうで、
ピアスからのプレゼントを喜んだ。

「こんど、よんであげるね!」

お姉さんが弟に向かうようにしてマルセルに言って、言われたマルセルも嬉しそうだ。
ミーチェは最近、少しずつ文字を覚えている。
読んでもらうばかりではなくて、
今度は誰かに、何かを読んであげられるのが嬉しいようだ。

「これな、ヨーグルトはもらいもんだけどな、ジャムはおれが作ったんだ!」

ミーチェにそう力説するピアスも嬉しそうで、
小さな瓶に小分けにしてやって、それもミーチェたちへのお土産にしてやることにする。

お茶は”のっぽ”が淹れている。
ヨーグルトの他には、マルセルが買って来たビスケットも添えられた。
家主はめずらしく、キッチンには立たず、ソファで過ごしている。

さっさとおやつを食べ終わったピアスとミーチェは、
暗くなる前にと外に遊びに出かけていった。

「あの、もうそろそろ、ここを出られるんですよね?」

家主が出て行くことは、マルセルにも、すでに手紙で伝えてあった。

「冬が、本格的になる前には。
 年を越す前には、ここを出る予定です」

「向こうはあたたかいんですよね?」

「それほどは変わらないはずですが、まぁ、ここよりも多少は」

家主はサイドテーブルから小さなカードを取り出して、
そこに行き先の住所を書き添えて「もし何かあれば」とマルセルに渡す。
小さく頭を下げて、マルセルがそれをしまい込んだのを見てから言った。

「自分がこの家を出てから、逆にもし、何かあったら、頼りにしてしまうこともあるかもしれません。
 そのときは、どうか、力を貸してやってください」

頭を下げたのは、今度は家主のほうだった。
マルセルは「そんな自分なんかが」と恐縮している。

実際のところ、マルセルに協力を頼むようなことはそうそうないだろう。
それは家主にもわかっていた。

自分が出た後も、”のっぽ”はここに残ると聞いている。
カリンやコウとのつながりも、全て、ピアスには残るようにしてある。
自分の後見人たちにも、何かあれば力になってほしいと頼んでいる。
頼りどころとしてはそれだけでも十分で、申し分もないのだけれど、
それでもできるだけの相手に、頼れるだけの相手に、
こうして機会があるごとに家主は頭を下げてまわっている。

ひとしきり恐縮しきって、それからマルセルが言う。

「ピアスさんにも、本当に、お世話になっていますから。
 僕のほうでできることでしたら、もちろん、何でもさせていただきます」

だからどうかもう頭をあげてくださいーーーと、ずいぶんと焦りながら。
その言葉を聞いて、やっと家主も頭をあげる。

「よろしくおねがいしますね」

”のっぽ”が追い打ちをかけるように頭を下げて、マルセルはまた恐縮した。
窓の外からは、ピアスとミーチェの笑い声が聞こえている。



***************



「このまま、無事に冬が迎えられるといいですね」

リビングで、家主と”のっぽ”はグラスを傾ける。
ピアスはしばらく前に翌朝用の仕込みも終えていて、おそらくもう、寝付いたころだ。

「そうだなぁ」

最近は涼しくなって来たから、中身はあまり冷やしてはいない。
子どもたちが寝静まったころ、家主と”のっぽ”はこうしてよく、2人で会話を楽しんだ。

当たり前のようにこうした時間を持てるのも、もう、あと少しの間だけだ。

「最近のピアスを見ているとね、もう、ひしひしと、
 こうやってヒナタさんとお酒を飲めるのもあと少しなんだなぁって思っちゃいます」

どうやら”のっぽ”の方も同じことを考えていたらしい。

「”のっぽ”はさ、本当に、大丈夫なんだよな? ここに残っても」

「ヒナタさんもしつこいですねぇ」

苦笑して”のっぽ”が言う。

ヒナタが家を出てピアスが家主になると聞いて、
そうして”のっぽ”が「じゃあ自分もピアスとこの家に残る」と言ってから、
ヒナタはしばしば、同じことを尋ねている。

「ずっと、ってわけじゃないですけどね。
 とりあえず、ピアスが大人になるまで、あと、もう何年かはここにいたいなと思ってます」

ピアスは今年、16になった。
もう幼いとは言えない年齢だし、
身長も少しはのびて、考え方も話し方も、ずいぶんと大人らしくなった。
けれど、まだ、子どもだ。

2年前。
家主が動いて、ピアスが家主になることを決めた。
ピアスがそれを選択してくれたことを嬉しく思ってもいるけれど、
いざその選択をしたピアスを目の前にすると、
毎日のように、家主は後悔した。

ピアスは成長した。
けれど、まだ子どもなのだ。
子ども時代に子どもでいられなかった子ども。

その子どもに、「保護者」の役割をさせること。

ピアスが選択して、決断して、
そうなって初めて家主は、恐ろしくなった。
それは、その道を選ばせてしまったことは、とても残酷だったのではないか。

実際、ピアスには言っていないけれど、
カリンにもコウにも、そしてその上司たちからも、
理由はそれぞれ別だったろうけれど、ピアスが「家主」になることは反対されていた。
話にもならない、といった風だった。
それでもどうにかこうにか話を通せたのは、”のっぽ”も残る、と決まっていたからだ。

それを考えれば、「残るのでいいのか」など、本当はヒナタが言えたことではない。
けれどだからこそ、聞かずにはいられないのだ。

”のっぽ”に、この家から出て行きにくくさせてしまっているのではないだろうか。
そう考えてしまう。

「あのね、ヒナタさん。自己満足なんですよ、ぼくがここに残ると決めたのは」

「?」

いつもは、笑って「気にしないで下さい」というばかりだった”のっぽ”が話し始めた。

「今だってここに居続けているのは、ぼくの自己満足です」

”のっぽ”のグラスの中身はほとんど無くなってしまっていたけれど、
注ぎ足すタイミングを、ヒナタは見つけられない。

「ピアスは、ぼくと知り合ったのは、自分が仕事を始めてからだと思っています。
 仕事を始めて、屋根のある場所で暮らせるようになって、ぼくの店に来るようになってからだと。
 でも、違うんです。本当は。ぼくはそれより前から、ピアスのこと、知ってたんですよ」

初めて聞く話だ。

「彼が、まだそのヘンの道端に住んでいた時から、僕は知っているんです。
 そして僕は彼のことを、彼のような何人もの子どもたちのことを、
 なんて邪魔な子どもたちなんだろうって、ずっと、思ってたんです」

”のっぽ”の口元には、苦笑すら浮かんでいない。

「だって、臭いし。
 触ったら何だか病気になりそうな気がしたし、お客さんの食べ残しは荒らされるし。って。
 家にいないならいないだけの事情もあるんだろうけど、
 少なくとも、そんな道端にいるよりはマシだろうと思っていて。
 それなのに大人しく帰らないなんて、本当に悪い子たちなんだろうな、って。そう思っていたんですよ」

苦い、告白だ。

「ゴミとか、街に住み着いた害虫みたいに思ってました。
 綺麗に掃除できらたら、ずっと住みやすい街になるだろうにな、とか。
 もっとひどいことも思った事、あるんですよ」

グラスの中身が干された。
”のっぽ”の顔は上がったけれど、視線は合わない。

「ピアスが仕事をはじめて、客として店に来るようになって、
 それでも、あぁあの汚かった子どもかって、勝手に警戒したり見下したり、疎ましく思ったり。
 ピアスは当時、ぼくのことなんて眼中になかったでしょうから、
 ぼくがそんな風に思っていたことなんて、気づいてないでしょうけど」

おそらく、それは本当だろう。
”のっぽ”がピアスを追ってこの家に来た時、ピアスは本当に驚いていて、
”のっぽ”の名前だって知らなくて、話し方だって親しみのある風ではなくて。

「だから、彼が”死ぬ”少し前に、仕事のことを話してくれた時。
 どうして家を出たのかだとか、その仕事しか選べなかったのかとか、
 その仕事を辞めたがっているようで、でもそうできなくてとか、そんな話を
 本当に淡々と、当たり前のように、何でもないことのように話してくれた時、
 ぼくは、恥ずかしくて仕方がなかった。
 ……いつ思い出しても、今でも、当時の自分のことが恐ろしくて、死にたいくらい恥ずかしいです。
 彼のことを、彼が路上で生活していた数年前から知っていて、
 なのにぼくは、何もわかっていなかった。何もしなかった。
 何もしないよりも悪い。鬱陶しくさえ思って、見下していたんですから」

こんなに長々と”のっぽ”が言葉を紡ぐのはめずらしい。
一緒に暮らし始めてから、もう短い期間ではないのに。

「だから彼が”死んだ”と聞いた時、
 彼のことは、ぼくが殺したようなものだと思いました。
 彼を見かけるようになった時から、もし僕が、何かしていたら。
 彼をひきとるとか親になるとか、そんな大層に思えることじゃなくても、
 例えば、夜とか雨の日には店の軒先を貸してやるとか、
 余った料理くらいわけてやるとか、仕事をさせてくれる人を探してみるとか、せめて、声をかけてみるとか。
 そうすれば彼は、
 道端で何年も暮らす事も、危険すぎる仕事をすることもなくて、
 ”死ぬ”事だって、なかったはずで。
 ほんの少し、ほんの一声でも、ぼくが何かできていたら」

少しだけ言葉が切れた。
酒ではなく、湯冷ましを注いでやる。
”のっぽ”にしてはこれも珍しく、お礼も会釈もしない。
ヒナタの行動に気づいてもいないのかもしれない。

それでも”のっぽ”は、それを口に含んでから続けた。

「彼が”死んだ”なんて信じられなかったって、ずっと言ってきましたけど。
 これ、ウソです。信じたくなかっただけなんです。
 あんな風に死んでしまうなんてあんまりだと思ったし、自分のせいで、だなんてことも思いたくなかった。
 だから、必死でした。どうしても見つけなきゃならなかったんです。自分のために」

「よかったな、生きてて」

言ってから「しまったな」と思ったけれど、遅かった。

「えぇ、本当に。
 あなたや、あなたのような存在に出会えなかった他の子どもたちだったら、こうはいかなかったでしょう。
 ピアスだって、きっと本当に、今、ここにはいなかったはずですね」

知っているのだろう。
自分や、自分のような存在に会えなかった子どもたちがいることを。

ヒナタは知っている。
ピアスを”殺して”からも、あの街に住んでいた子どもたちのことは調べていた。
存在を知る事ができた子どもの数は僅かで、
間に合った子どもたちの数は、もっと少ない。

「……ヒナタさんのおかげで、随分と遅くなってしまったけれど、
 本当はきっと間に合っていないんですけれど、でも、機会をつくることができました。
 ぼくが彼に、何か、今度こそ何か、できるチャンスです。
 ずっとってわけにはいかないし、そんなの、何より彼の負担になってしまいそうですし、
 でも、少なくとも彼が子どもの間は、僅かでも彼の力になれることがあればいいなと」

そこまで言って、話し始めてからはじめて、のっぽが笑った。

「ね、自己満足でしょう」

「そうか?」

「ですよ。だって、ぼくが追ったのはピアスのことだけでしたから。
 少しでも話したことがある、少しでも関係したことのある、ピアスのことだけだったんです。
 例えばピアス以外の、当時街にいて、次第に顔を見なくなった子どもたちの顔なんて、思い出すことも出来ない。
 自己満足です」

「……まぁ、自己満足だっていうなら、悪くないだろ、それも。
 それならそれで、おれの気も楽になるし」

それでも十分だと、ヒナタは思った。
昔何をどう考えていたのだとしても。
のっぽは今、誠実だ。
それで十分だと思う。

「そういうことですから。
 だからとりあえずヒナタさんは、ぼくのことは気にしなくていいです」

苦笑ではなくハッキリと笑って、
いつの間にか空になっていたヒナタのカップに
今度はのっぽが中身を足した。

「……のっぽは、あれだな。
 考え方とか、考える方向とかが、アスミに似てる」

「アスミさんですか?」

何回か、のっぽも彼女に会っているのだが、ヒナタの言葉は意外だったようだ。

「そう言えば、アスミさんとヒナタさんて、いつからの知り合いなんですか?
 前のお仕事の関係ですか?」

「いや、もっと前」

「ぼくのこと話したんですから、たまにはヒナタさんの話、聞いてみたいです。
 今さらすぎる話ですが、ぼく、ヒナタさんのことそう言えばよく知らないですし」

「別に話すようなことなんか、ないんだけどな」

数年一緒に暮らしていれば、よく知らないなんてことはないだろう。
昔のことなんて、話す必要だってないだろう。

「……」

でも、もうこうして話ができるのも、あと少しだ。

「……いいけど、けっこう長くなるぞ?」

「ヒナタさんが行っちゃうまで、まだもう少しありますからね。
 毎晩でもつき合う心づもりはできてますよ」

苦笑して「じゃあまぁともかくは、それは明日な」と言って、
その日は、結局寝室に向かうことにした。

「じゃあ、おやすみなさい」

苦い話だった。
それでも、この家で過ごす最後の期間をこうして過ごせるのは嬉しかった。

こうやって穏やかに、少しずつ、
自分も、ピアスも、のっぽも準備をして、
そうしてその日を迎えるのだ。

悪くない。
寂しいだけではない。豊かな時間だと思えた。

ピアスの寝室からは、しっかりとした寝息が聞こえていた。
翌朝は彼のお手製のパンが食べられるそうだから、寝坊はできない。



***************



翌朝、焼けて来たパンのにおいにワクワクとしている中、

「……あれ?」

一言、家主が呟いた。

「どうしました?」
「どうした?」

2人は尋ねるけれど、「んー……」とか「えー……」とか、
家主の答えは曖昧なものばかりだ。

そして、
「……とりあえず、ちょっと散歩行ってくる」
唐突だった。

「は? もうすぐパン焼けるぞ」

「絶対に冷める前に帰ってくるから。
 ちょっと、うん、悪い。よろしくな」

おい! と止めるピアスの声を無視して、家主は出て行ってしまう。

「なんだ、あれ……」

「さぁ……」

残された2人は、
特にピアスは文句を言いながら、朝食の準備をすすめることにした。
あんな突然に散歩だなんて、何かがあったに決まっているけれど、
それはまた、彼が帰って来てから尋ねればいいだけだ。

今はとりあえず、文句を言いながら、朝食の準備をする方が大事だとピアスは思った。
だって、せっかくのパンだ。
けっこうな自信作なのだ。
職場でも何回か練習をさせてもらっていて、
だから今朝、2人に食べさせるのが楽しみで仕方がない。



その、ピアスの文句を聞きながら、
家主は森の入り口に向かって歩いていた。

向こうも近づいて来ている。
入り口まで出て行くまでもなく、鉢合わせられるはずだ。

でも、だからこそ、わからなかった。

「おはようございます」

やっとお互いの視界にお互いが入ってきたばかりのところだったけれど、
家主の耳がいいのは知っているので、カリンが挨拶する。
その口の動きさえまだ見えない。

家主はずんずんと近づいて行く。
向こうの声は聞こえても、
こちらの方は叫ばなければ、相手の耳には届かないのだ。
不便だ。

表情がわかる距離になる。

「出て来て頂いてすみません。
 先輩は耳がいいので、呼べば先輩から出て来てくれるかな、と」

前にもこんなことがあったのを思い出す。

この日、カリンがやってくることはわかっていた。
けれどこんな朝の時間ではない。
この日の午後、ピアスは街に出る用事はなくて、そのスケジュールに合わせていたはずだった。

「あいつらに聞かせない方がいい話、なのかな?」

「それはまだ、わかりません。
 ただ、先にお話ししておきたいことだというのは確かです」

言って、家主に封筒を渡す。
中に入っているのは、どうやら、紙が1枚だけ。

家主がそれを広げる前に、カリンは言った。


「ピアスの母親が逮捕されました」




(to be continued...)


===============


《ヨーグルトパン》
・薄力粉 250g
・重層 ちょっと(小さじ1くらい?)
・ヨーグルト 500g ※プレーンをオススメです・v・
・砂糖 大さじ1くらい
・塩 小さじ1弱

1、ヨーグルトの水切りをする。
 キッチンペーパーをざるにしいて、ひとまわり大きいざるの上におき、そこにヨーグルトをセット!
  ※一晩くらいかかります。
2、オーブンを190度にあたためておく。薄力粉と重層をまぜてふるっておく。
3、水切り後のヨーグルト・砂糖・塩をよく混ぜる。
4、ふるっておいた粉を加えて、さっくり混ぜる。
5、簡単にひとまとめにする。捏ねません^^;
6、薄力粉を全体にまぶし、オーブンシートをしいた天板に乗せ、
 熱の通りをよくするため、十字に切れ目を入れておく。
7、30分くらい焼く。

これで完成です*^^*

小学校の時にも作ったりしていたので、簡単。なはず。
シンプルですが、特に焼きたてはうまいですよん*^^*♪



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comment

  1. 2011/10/03(月) 01:08:11 |
  2. URL |
  3. ゆさ
  4. [ 編集 ]
こんばんは☆

ピアスが家主に!!
少々びっくりでしたが、でも、ぶっきらぼうながらも優しい家主になりそうですね。
鼻歌とか歌えるようになってるし…vvv
彼が子どもたちのために絵本を選ぶ姿を想像すると何だか微笑ましいです~(*^ ^*)。

のっぽさんと、ピアス…そうだったのですね。。。
みんな色々な事情と思いを抱えて、この家にいたのだなあ。
そしてのっぽさんの優しさは、ほんとに、最強だと思いました!うわあ~もうぅ(ごろごろごろ)
彼の「ぼくが何かできていたら」っていうセリフで泣きそうになりました。

ラストで衝撃の展開が!
続きをお待ちしております…が、お忙しいですよね。。。
寒くなってきましたし、日々ご無理せず、お過ごしくださいませ~。

Re: ゆささん

  1. 2011/10/27(木) 08:57:26 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
ゆささん、こんにちは!
と、ちょっとお返事が随分と遅くなってしまってすみません。。。

> 鼻歌
へへ。『ハミングライフ』なので……!

> のっぽ
あ、あ、ごろごろしてくださいましたか!!うぁぁぁなんというかありがとうございますっ*>w<*

> 彼の「ぼくが何かできていたら」っていうセリフ
は、自分がいつも大事に考えていかなきゃな、とか思ってるのです。
できてないけど。。。

コメントありがとうございます☆
早くこっちに帰ってこられるようにがんばります~~~*^^*♪

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