旅の空でいつか

ご訪問いただき、ありがとうございます
はじめましての方は、メニューの「はじめに。」や「作品一覧。」をご覧ください。
記事内容の無断転載は厳禁ですが、リンク&URLの転載はフリーです。ご一報いただけると嬉しいです☆
ブロとも申請は歓迎です☆
みなさま、どうぞ楽しんでいって下さいね*^^*

スポンサーサイト

  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

《春企画》約束の人_遠野さんへ捧げる……

  1. 2011/04/07(木) 08:56:49|
  2. 企画!
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:12
※作品一覧はコチラです


こんにちは、春です☆

ゆうさんの春企画参加の小話です・v・

かつ、
もう、長い長い間お待たせしていた、
遠野さんから頂いていたリクエストの作品でもあります。

前に2回消えてしまってから書くのを断念していたのですが、
ゴメンなさい、予定していた内容からガラッと変わってしまいましたが、
今さらながらに捧げます……!
コチラのお二人のお話です。

遠野さん!!
本当に、こんなに遅くなってしまってすみませんでした><。
その間に、私は何度リクエストにお応え頂いたことか……!
受け取って頂けると嬉しいです・m・!

※もうすぐ20000HITSなのですが。
 こんな体たらくでもよろしければ、「あ、自分キリ番踏んだんじゃね?」とお気づきの際は、
 お声かけ頂けると嬉しいです。 リ ク エ ス ト 控 え め に 募 集 してみます……。


ではでは、
読んで下さる方は、《続きを読む》からおすすみください☆



***************


かつてうちの隣の家に住んでいたアイツが、どうやら明日、帰ってくるらしい。
嬉しそうに教えてくれたのは、母だ。

「リンちゃん帰ってくるなら、ちょっとがんばらなきゃ!」

そう言って母は、昨日の夜から料理の仕込みにかかっている。
アイツに届けるためにと用意されているその肉料理は、
全寮制の高校に通っていたオレが卒業して帰って来た時よりも
よっぽどハリキって作られている。

アイツとアイツの母ちゃんと、そしてうちの母とは、それはもう仲がよかったからな。
それにしても、さすがにこの扱いの差はどうなんだよ、とも思うけれど、それは言わないでおく。

だって母も、アイツも、ついでにアイツの母ちゃんも、よく喋るのだ。
何を言ったってオレじゃ敵わないなんてことは、
もう、十分に教え込まれている。

だからオレは、
逆らわず、余計なことは言わず、積極的に関わることもせず、こうして居間でマンガを読んでいる。
自分からわざわざ関わる必要なんてない。

台所から母の呼び声が聞こえた。最初は無視したけれど、続けて3度。
仕方なくそれに応えて様子を見に行くと、財布を渡された。

「オリーブオイル切れちゃった。アンタ買って来てよ」

自分からわざわざ関わろうとしなくたって、どうせこうして巻き込まれるのだ。

「オリーブオイルとか……
 うちそれ普段使わないじゃん。いいじゃん普通のヤツで」
「ダメなの。オリーブがいいの。
 じゃああんたに作るときは別に普通のでいいことにするけど、リンちゃんにはがんばって作ってあげたいの。
 作ってる当の私がオリーブって言ってるのに、作ってないアンタがそれを決めるってどういうこと?」
「……」

どうせ、ヘタに逆らうこともできないのだ。
最初から黙って買いに行けばよかった。

(くそ、せっかくの春休みなのに……)

ダラダラのんびりしていたい気持ちを押さえて窓を見れば、洗濯物が大きく揺れている。
明るくて温かそうだけれど、風が強い。
少し前に出してきた上着を羽織って出かけることにする。

ドアを開けるなり、風に舞った砂が目に入って涙が出た。
(あーーーだから家出たくなかったのに!!)

アイツが帰ってくるなんて。
なんて面倒なんだ。

***

「あんた、リンちゃんが初恋の相手よね?」

口癖のように、いつも母はそう言う。
しかもアイツの目の前で。

「小ちゃいときも、いーーーっつもリンちゃんの後くっついてってねぇ。
 リンちゃんが小学校行くときは『オレも行くー』って泣きべそかいて。
 小学校入っても、あんた自分のクラスの子じゃなくて、いつもリンちゃんに遊んでもらってたのよね」

低学年までの話だろ! なんて反論してもダメだ。

「中学校行ってもあんた、リンちゃんおっかけてバスケ部なんて入ってたじゃない」

それは当時読んでいたマンガの影響だ。
でもその反論だって、いつも母には言い訳にしか聞こえていなかったようで。

「じゃあ、おんなじ高校入ったのは?」

近かったからだ。

……とは言えこの辺りから、
さすがに「理由」を探すのが、自分でも難しいなと感じるようになってくる。
別に、そんなに本気になってアイツの後を追っていたわけではないはずなのだけれど。

「あんた、リンちゃんと同じ大学入りたくて気合いで文系から理系に転身してたじゃない。
 リンちゃんが理系の大学行くって知った途端。文系クラスだったくせに」
「……」

実際、理転はけっこうキツかった。
ただそれは別に、アイツと同じ大学に入りたかったからなわけじゃない。

オレにだって勉強したいことのひとつやふたつあったっておかしくないのに、
母はそれを信じようとしない。

「まぁ、けっきょくリンちゃんヨーロッパ留学決めちゃったからね。
 就職はコッチでするって言ってたけど、あんたのおっかけっこも高校までで終わっちゃったわねぇ」

母のそんな話を聞きながら
「へぇ~~~そうだったんだ初恋ねぇ」なんて、アイツはいつも笑ってた。
幾度となく繰り返されて来た会話だけれど、
それが最後になされたのは、アイツの留学がわかった、今から3年前のことだった。


オレは別に、アイツについて行こうとしていたわけじゃない。
アイツといると楽しかったのは事実だけれど、
いつも少し強引で、誘い出すのが妙にうまくて、
そしてそれがいつも思いがけない、突拍子もないタイミングでやってくるから、
なんとも、断るのが難しかったのだ。

「……」

そう、アイツはいつも突拍子もない、
けれど絶妙なタイミングで、オレを誘い出すのだ。


「……なんでいんの?」

スーパーの手前。あと2つ路地を進めば到着なのに、
そこに、リンはいた。
どっかのセレブみたいなでかいサングラスに、わかりやすい、空港帰りの大きなスーツケース。

「へへ、ひさしぶりだねー!」

「帰ってくるの明日って聞い」
「チケット取れたから日にち早めたの。とりあえずコレ持って」

皆まで言わせず、背負っていた鞄を渡された。
この強引さ。変わってない。

「じゃ、行こうか」
「ちょっと待て。オレ今、母ちゃんに頼まれて買い物の途中なんだよ」

買い物のメモを見せれば
「お土産でいいの買って来たからさ、この買い物は中止ね」
と言って、さっさと却下されてしまった。

食い下がろうとも思ったけれど、
どうせこの買い物だって、最終目標は「リンのため」のものだから、
なんだかそれもバカらしい気がしてしまう。

ほら行くよー、と、リンは進んで行ってしまう。
(さっそくかよ……)
思うけれど、小さい頃からの習性なのかなんなのか、
つい、リンの後に続いてしまう。
コイツに逆らう習慣は、オレの中には存在していないのだ。

「……はいよ」

母から渡されたメモはつぶしてポケットに入れて、
ついでに、重そうなアイツの巨大なスーツケースもひきとってやる。

強引なくせにコイツは、
いつだって、重いものはオレに渡そうとしない。
ヘンな所で気を使うんヤツなのだ。変わってない。
そういう所がまぁ、好きなのだけれど。

「あぁ、ありがとね。私、あんたのそういうとこ好きだわ」
「オレもだよ」

強い風が吹いて、また、砂埃に目をやられる。
少し立ち止まって、涙を出すだけ出してやり過ごす。
アイツはどうかと見てみれば、アイツの目は、サングラスでちゃっかり守られている。

「この季節は、いつもこんな風が吹くからね」

少し懐かしそうにリンは言った。
セレブ気取りかと思ったバカでかいサングラスは、そうか、風よけだったのか。
周到なヤツだ。

「もう、どうしても行きたいとこがあってさ。
 私そのために日本に帰って来たんだからね。早く行くよー!」

そうしてリンは、得意気に歩き出した。

***

どこに向かって歩いているのか、オレは知らされないままに後をついて行く。
昔から、ずっと住んでいる見慣れた町だけれど、
何につけても懐かしがるリンのおかげで、
道々、オレも懐かしいいろいろに再会することになった。

いろんな動物の遊具が置いてある公園。
今はもう潰れてしまった、毎朝いいにおいのしていたパン屋の跡。
ひと文字分ネオンが消えたままになっているクリーニング屋。
よく遊びに行った、2匹の犬を飼っている家。
なぜかクジャクを飼っているらしいという噂のあった大きな畑の家。
細い坂道。

そんなもんのひとつひとつを眺めながら、リンは懐かしがっている。
たしかに懐かしいし、しきりに懐かしがるリンは楽しそうなのだけれど、
だからこそ、なんとなく気になった。
だってコイツ、こんなに何かを懐かしんで楽しがるようなヤツだったか?

「……向こうの大学、どうよ?」
少し心配になって聞いてみれば、「まぁボチボチ、かなぁ」と、曖昧な返事が返ってくる。
その歯切れの悪さもコイツには珍しいからますます気になるのだけれど、
リンはすぐ、また新たなる懐かしいものに気を取られたようだったから、話はそこで終わってしまった。
昔は「なんてでかいんだろう」と思っていた木のある裏道。
今となってみるとそうでもない大きさだから、不思議だ。

さっきまで強く吹いていたはずの風は、いつの間にかその勢いを弱めていた。
もうすぐ夕方になる景色を眺めながら、オレたちは歩いた。

***

「コレよ、コレ!」
「……コレ見たくて、わざわざ帰って来たのか」
リンは満足そうに頷いている。

こっそりと柵を登って辿り着いたそこは、オレたちの通っていた小学校だ。

校舎裏の、枝垂れ桜。
校庭にずらっと植えられているソメイヨシノはまだ、つぼみが少しほころびかけた程度だけれど、
こちらは見事に咲いている。

(そういえば……)

小学校の春休み、理科の宿題かなんかで、
そこらに生えてる植物の絵を描いて来ましょう、なんてのがあった。
タンポポや、咲きかけのソメイヨシノの絵を描くクラスメイトが多い中、
リンだけがこの木を選んだのだと聞いたことがあった。

じっくりと眺めるためか、リンはその場に座り込む。三角座りをくずして、手を後ろについたカタチだ。
服汚れるぞ、というと、汚れてもいいようにジーンズを穿いて来たのだと言う。
周到だ。

「これ、好きなんだっけ?」

訊くと、リンが頷いた。

「なんかこう……気合い入れて垂れてます! って感じがさ、いいよね」

いいよね、と言われても、オレにはその感覚はわからない。
桜なら断然ソメイヨシノだと思う。

別に反論するほどのことでもないから、無言で返す。
そうしてそのまま、しばらく黙って桜を眺めた。
枝が風にそよぐ様子は、まぁ、そんなに悪いものでもない。
さっきまでみたいな強風じゃなくてよかった。そんなに勢い良く揺れてたんじゃ、風情も何もない気がしたから。
それじゃ、これのためにはるばる帰って来たリンが、なんだか残念すぎると思った。

「あんたさー、私が初恋なんだって?」

リンが言った。
「おまえ、なにを……」
唐突だった。

「……の、ノーコメントとかだめ?」

リンは無言になった。たぶん、ダメなのだろう。

「……非公式には、そういうことになってる」

「公式には?」

「公式発表はされてない。
 これからもされないと思うけど、否定はしていないみたいだぞ」

肯定はしていない、と言い切れないあたり、やっぱりオレはコイツには弱い。

「ふうん」と言ったきり、リンは黙ってしまった。
目線は枝垂れ桜に向いたままだから、オレからはリンの横顔しか見えない。
何を考えているのか、わからない表情だ。
楽しそうにも、怒っているようにも見えない。ただ、やっぱり懐かしんでいるような気はした。

リンが何を考えているのか知りたくて、
それはもう知りたくて表情を探るけれど、やっぱり、わからなかった。
正面切って見られる程の余裕を、オレはもうこのときにはなくしてしまっていたので、
そうして横顔を覗き見るようにするくらいしかできないのももどかしい。
オレが余裕をなくしている一方で、
何を思っているのかもわからないほどに落ち着いて見えるリンがうらめしかった。

正直、オレが今リンのことを恋愛感情みたいなもので好きなのかどうかと言えば、たぶんノーだ。
……いや、ノーとは言わないけれど、少なくともイエスと即答もできないだろう。たぶん。
手ぇ出したいみたいな気持ちに苛まれることも、
リンに対して焦がれるような気持ちになることも、今は持ち合わせていないから。
ただ、そういう気持ちがないと「好きじゃない」ってことなのかと訊かれたらわかんなくなりそうだし、
そういう感情を持っていないこの状況が今後もそうなのかとか考えたらそうでもないかもしれないし、
そもそもそういう気持ちじゃないってわけでもあるんだかないんだかあらためて考えたらわからなくなりそうだし、
つか今、リンはなんで今このタイミングでオレにそれきいたの?
オレにききたかったの?
え、もしかして本当はききたかったんじゃなくて何か言いたかった的な?
さすがにコレは、オレのうぬぼれ過ぎか?

……そんなようなことを、
たぶん、ほんの少しの間にオレは、とにかくグルグルと考えた。
グルグルしてるオレを差し置いて、リンはどこまでも落ち着いた表情で、桜を眺めている。

「……」

リンは落ち着いて、オレはグルグルしたまま、少しずつ辺りは暗くなっていった。

「ちょっと寒くなって来たね。帰ろうか」

「え、そそうだな、うん、帰ろう」

ジーンズをはたいて立ち上がって、何事もなかったかのように、リンは歩き出す。
オレは少し気まずいまま、グルグルを引きずったままそのあとに続く。

「あーーーここから見る夕焼けとかも懐かしいわーーー」と、
リンは、本当に何事もなかったかのようなふるまいだ。
そしてよくよく考えてみたら、ただオレがグルグルしてみただけで、
実際、本当に何事もなかったのかもしれなかった。

「んー……まぁ、そうかもな」

何となく、釈然としない想いが残った。

帰路では、お土産に買って来たと言っていたオイルやら香辛料やらを渡された。
そのお礼もかねて、ちゃんとリンの家までバッグも持って帰ってやった。それだけだった。
帰ったら母ちゃんからは「遅い!」とか「携帯にも連絡したのに居間に置きっぱなしで困ったわよ!」とか怒られたけれど、
リンに会って散歩してたと答えたら、今日アイツが帰って来たことに驚いて、
そして「じゃあ仕方ないわね」と、あっさり納得されてしまった。
本当に、この扱いの差はどうなのだろう。またもオレは、そう思わされる。
いつもなら言わないけれど、言ってみた。

「……母ちゃん、ほんとアイツのこと好きだよな」

あったりまえでしょーとか言われるかと思ったけれど、返って来た言葉は「アンタほどじゃないけどね」だった。

やっぱり、言わなきゃよかった。

***

翌日の夜、アイツがうちに遊びに来た。アイツの母ちゃんも連れて。
誘ったのは母で、
アイツの父ちゃんとうちの父ちゃんは、二人で一杯ひっかけにでかけたらしい。
オレもそっちに連れて行ってもらいたい気分だったけれど、
二十歳まであと数ヶ月残したオレを連れて行くと思う存分飲めないとかなんとかで、置いてけぼりをくらった。

母ちゃんが気合いを入れて仕込んでいた料理を振る舞って、
アイツの母ちゃんは、「最近お気に入り」だという赤ワインを持って来た。
両家とも、父親たちはビール派で母親たちはワイン派なのだ。
オレはまだ、どっち派とか言えるほどにはどっちも飲んだことがない。
リンはどっちなのかと聞いたら「焼酎派」と返されて、自分用に用意していたらしいボトルを渡された。
周到だ。

料理がすすんで、酒も進んでくれば舌も軽くなる。
母ちゃんたちはまた、オレとリンがいかに昔から仲良しだったか、話し始めた。
あと5分ほどすれば、オレの初恋がリンだという話題にうつるだろう。
それが、いつもの流れだった。

昨日のことを、思い出す。

(今日は、いつもより気まずいな……)

2階に一時避難を考え出した、その話題にうつる1分程前、
「発表がありまーーーす」と、リンが言った。
焼酎はボトルの半分ほどなくなっていたけれど、酔っぱらってはいないようだった。
リンの母ちゃんはすでにその内容を知っているらしく、
「よし、言ってやれ!」と小さく拍手をしている。こちらは、うちの母同様、酔っぱらっているらしい。
とりあえずオレのネタは今夜は出て来ないようで、少し安心した。

けれど、やはりリンだった。
オレにはかなり唐突で、少しばかりショックな発表だった。

「わたくし、向こうでの就職が決まりましたーーー!!」

いや、訂正だ。
かなりショックな発表だった。

「……こっち戻ってくるんじゃなかったの?」

リンが言うには、向こうでアルバイトのつもりで手伝いをしている先の研究機関で誘いを受けたらしい。
誘われたからってそんな簡単に決めるなよ!
リンはそんなヤツじゃないはずだ。オレはそう思ったけれど、実際は、誘われるのはいつもオレで、誘うのがリンで。
だから、リンがそんなヤツなのかそうじゃないヤツなのかは、わからなかった。

「戻ってくるつもりだったんだけどね。向こう、すごく楽しいんだもん。
 声かけてくれたとこも興味ある分野だし、
 そんなとこから声かけてもらって仕事として研究できるなんて、そうそうあるチャンスじゃないしさ」

「そんなの嫌だよ!!」

言ったのは、オレじゃなくてリンの母親だ。「パパのマネでしたー」とはしゃいでいる。
(……はしゃいで言えるってことは、そこはもう解決したってことか)
こじれているなら、こんなネタにはしないだろう。
(オヤジ!! もっと粘れよ!!)
思ったけれど、さすがに強くは言えなかった。声にも出せなかった。なんとなく、恥ずかしいような気がして。

なんも言えないオレを差し置いて「寂しくなるわー」と母ちゃんが言って、
「まぁ永住するって決めたとかじゃないので」とリンに慰められている。

そんな簡単に片付けて欲しい話題ではない。ないのに。

母ちゃん同士が盛り上がり始めて、やっと、リンがオレに視線をよこした。
「今日、月見えると思う?」
「は?」
それより向こうで就職って本気かよ、と、言いたいのはそこだったのだけれど、
逆らえない習性のオレは窓を覗き込む。
そうして「もうすぐ終わる細めの三日月」と、律儀に答えてやる。

「ちょっとお月見しよう」
リンの一声。
リンは焼酎の、オレはウーロン茶のグラスを持って、とりあえず、庭に出た。


「やっぱまだちょっと寒いな」
出るなり、リンが言った。
そのリンの後ろ姿を眺めながら、昨日のことを思い出す。

懐かしいもの巡り。
好きだった枝垂れ桜。
昨日の会話。

浮かぶのは、ひとつの可能性だ。

「もう、帰ってこないつもり?」

訊けば「うーん……」と、リンはやはり、歯切れが悪い。
でもオレは、言葉の続きを待った。
リンが再び口を開くまで、そう長くはかからなかった。
「それもアリかな、とも思ってるけどさ」とヒドくショッキングなコトを言ってから、リンは続けた。

「……正直、ちょっとどうしよっかなって思ってるとこもあるんだよね。
 向こうのがいいのはわかってるけど、こっちで研究できないわけでもないしさ」

向こうで就職することに対して、少しは迷っている気持ちもあるんだ。
ソレがわかって、すがりたいような気持ちになった。

リンは、続けて言う。

「でさ、あんたが非公式に私にホレてたのはわかったけど、今はどうなの?」

(今そこの返しが来るのか!!)

このタイミングは予想外だった。
口ごもるオレを、リンは今度はまっすぐに見つめてくる。
(ど、どうしたらいいんだこれ……)
答えられないオレを、次第に睨むようにしてリンは、視線で問いつめる。
もちろん視線だけでなく、言葉でも。

「もし、あんたが今も私にホレてて、だから行くなよ! とか言うんだったら、私行かない」

オレは、考えてみた。
それはもう、昨日のグルグルなんか、全く足元にも及ばないくらいのスピードで。
考えて、考えて考えて考えて、考えすぎて頭が真っ白になったその時に、
口が勝手に動いた。

「オレ、リンのこと好きだよ。こっち帰って来いよ」

言ったら、聞いたリンの目が、少しだけ大きくなった。
その目を見て、顔つきを見て、次第に変わって行く表情を見て、
オレの高速回転していた脳内が落ち着きを取り戻した。

「……」

二人で、無言でお互いを見つめ合う。
口にしてみて、初めて自分の気持ちがハッキリとわかった。
たぶんそれはリンにも伝わっていて、
きっと今オレたちは同じ気持ちだ。それもわかる。

オレたちは、口をそろえて言った。


「「 それはないわーーー 」」

言って、見事にハモッたことに気づいて、笑いながら言い合う。

「「 だよねぇーーー 」」

再び声がそろって、
それからは、なんだか爆笑してしまった。


「いやぁあんたも相当私のコト好きだしさ、私もあんたのことまぁけっこう好きだけど、
 今さらなんか、なぁんかそういうのはないよねぇ!」

ないない、とオレは力強く頷いた。
ハッキリと言葉にしてみてわかったけれど、なかった。
リンのことは好きだ。
好きだけど、なんか、違った。
とりあえず「こっちかあっちか」みたいな、そういう次元で選ぶようなものではない。
そういう、なんだかせまっくるしいものではない。
それがわかった。

「イヤだいたいさ、お前オレが『好きだから行くなこっち帰って来い』とか言ったって絶対行くじゃん!!
 行かないわけねぇよお前だもん!!」

「行くに決まってるじゃん行きたいもん!」と、リンも爆笑しながら頷いて答えている。

そうだ。
そうだよ、わかっていたはずだったのに、何を焦っていたのだろうオレは。
リンはだって、そういうヤツだった。


それからは、
向こうで働くことを楽しみにしつつ、少しはホームシックのような気持ちになっているらしいリンをからかって
「日本の月はキレイだろう」とか「日本の桜はキレイだろう」とか「日本の酒はうまいだろう」とか自慢してやって、
とりあえず「月はどこから見ても同じ月だから」と反論されて、
桜に関しては悔しがらせつつも、酒はなぜか毎旬ごとにオレが送ってやることになってしまった。

その後は今度はリンからの自慢大会で、
卒業してから行く予定になっている先がどれだけ素晴らしい場所なのかをひとしきり自慢されて、
これにはオレは全敗だった。
例にもれず、オレの中の「リンを追いかけたい症候群」が騒ぎだした。

「まぁ、来たらいいよ」
絶賛シンドローム中のオレに、まるで何でもないことのようにリンが言う。

「あんた、私についてくるの得意技じゃん。
 私も、あんたについてこられるのには慣れてるし。
 向こうも楽しいよ? それにさ、あんたがいたら、もっともっと楽しいかもって気もしてるんだよね」

リンのその言葉は、少し、オレの視界を広くした。
あぁそうか、行けばいいのかオレが。それだけか。いつものことか。
そしてそうしたら、リンは嬉しいのか。
……それは少し、光栄だった。

「リンも、ほんとオレのこと相当好きだよね」

テレて言えば、笑顔を深くしたリンから返って来た言葉は「あんたほどじゃないけどね」だった。

その通りでもそうじゃなくても、もう、どっちでもいいやと思った。
やっぱり、言ってみてよかった。
少し違ったのかもしれないけれど、きっと、これでよかったのだ。

***

リンが留学先に戻ったのは、そのわずか3日後だった。
巨大なスーツケースのわりに、滞在期間はそれほど長くはなかったのだ。
数年ぶりの再会だったのにもうまた別れなきゃならないというのは、やはり純粋に寂しいと思う。

駅までの道を、荷物を持ってやりながら二人で歩く。
できるだけ見送ってやりたい気もするけれど、空港まではさすがに行かない。

「まぁ、実際さ」

オレの少し前を歩くリンが言った。

「何年もあんたの顔見ないって、ちょっと調子狂うっていうか、ヘンな感じだったよ」

「あぁ、わかるよ」と頷いて答えた。

「なんだかんだ、ずっと一緒だったもんなぁ」

「飽きもせず、ほんとよくくっついてくるよね」とリンは言う。
なんだか自分がストーカーみたいに言われた気がしてきて、少し困る。

「……もし、もうついてくんなって思ったら、ちゃんと言えよ?」
そうしたら、やめるから。
もう一生会わないくらいの勢いで、やめるから。

リンが振り向いた。
「あんたも、ついてくるのがイヤになったら、ちゃんとやめなさいよ?」

オレが「そりゃ言われなくてもすぐにでも」と頷くと、少し考えてから、リンはさらに続けた。

「ついて来たいのについて来られなくなったら、その時も、ちゃんと言ってね?」

その言葉は意外だった。

「……待っててくれるとは思わなかった。意外だな」

へへへ、とリンが笑顔で言う。

「待ってるわけないじゃない! あんたが『ついてくの難しいわ~』って言ったら、
 『とりあえずさっさと走れ!』って、私はつっついてあげんの。その方がだって、きっと楽しいでしょ?」

おぉ、なるほど。全然待っていてはくれないのか。
ここまでの流れでそう言われるとは思わなかった。それこそまさに、意外だった。
意外で、だからこそリンらしいと思った。
オレがついていきたくなるような誘い方を、さすが、わかっている。

「まぁ、とりあえずは夏休みだね。バイトしてチケットとって、おいでよ」

そう言って笑うリンの向こう、道の先に駅が見えた。


(そうか。とりあえずは、まずは、夏か)


もう別れの時まであと少しだったけれど、
またすぐにやってくるだろう再会を思えば、楽しみな別れだった。

夏なんて、きっとすぐ来るだろう。



***************


……こ、これでどうにかよろしくお願い致しますっ><!
遠野さん、リクエスト本当にありがとうございました!!

ここまで読んで下さったみなさまにも、深謝です。
ではでは、また次のお話で☆☆


※作品一覧はコチラです
スポンサーサイト

<<《春企画》約束の人_支配者 | BLOG TOP | 祝☆OKAMAの日>>

comment

  1. 2011/04/07(木) 10:03:08 |
  2. URL |
  3. 水聖
  4. [ 編集 ]
こんにちは☆
この爽やかさとすっきりとした後味。春さんらしくて素敵です。
二人の会話が特に好きです。
公式に両思いですね^^

Re: 水聖さん

  1. 2011/04/08(金) 01:06:20 |
  2. URL |
  3. [ 編集 ]
水聖さーーーん、こんばんは☆

(話を書くのでは)随分久しぶりの更新だったので、ドキドキでした。
水聖さんから頂いた感想を読んで、ほっとしました。ありがとうございます*^^*

うん、これはもう、両想いってことで問題ないだろうとも思います(爆)
こいつらきっとずっと仲良くやってくんだろうなぁ、という……
だといいなぁ・v・

コメント、ありがとうございました☆☆

  1. 2011/04/08(金) 09:54:20 |
  2. URL |
  3. 遠野亨聿
  4. [ 編集 ]
うわああああああありがとうございました!!!
…これは携帯、大事に使わなきゃならんですね…(現在酷使中)

実際キャラを作った時点では、恋とか愛とか全く念頭になかったのですが…イイ!
もう、ツイッタ君にはさっさとリンちゃんの所へ行ってもらいましょうw
そして、文句言い合いながら、末永く暮らすがいいさ!!www

重ね重ね、ありがとうございました~!!
あ、ブログでリンク貼っても宜しいでしょうか…?

Re: 遠野亨聿 さま

  1. 2011/04/08(金) 10:48:38 |
  2. URL |
  3. [ 編集 ]
遠野さん……
本当に、こんなにこんなにお待たせしてしまって、すみませんでした;_;
リンクフリーです。
むしろこの記事は遠野さんのものです。持って行ってやって下さい!!

携帯ちゃんは、大事にしてやってくださいw
私はあの(絵を描いて頂いた)後、携帯を某スマートなフォンに変えてしまいましたが……・v・;

本当にお待たせしました!
そしてそして、リクエスト&コメント、ありがとうございました!!

  1. 2011/04/08(金) 16:28:33 |
  2. URL |
  3. よしたけ りんか
  4. [ 編集 ]
うわぁぁあぁ青春ですね~~~!!!!
『初恋』って言葉は、ほぼ『青春』と同義な響きがありますよね。。
ステキ~☆

ふたりで「ないわ~」ってなったとき
なんかこっちまで緊張の糸が解けたみたいに頬が緩んでしまいました(^^)

ぜひ彼にはリンちゃんを追いかけて行って欲しいです!!!!
大学だろうと、大学院だろうと・・・

ステキなお話ありがとうございました☆

  1. 2011/04/08(金) 23:03:35 |
  2. URL |
  3. ゆさ
  4. [ 編集 ]
こんばんはー☆

うわ、うわわわ…素敵なお話!!
夢中で読んでしまいました。読後はすごく爽やかでしたよ~(^o^)/

男の子と女の子のこういう関係、ものすごく好きですvvv
恋人とか友達とかカテゴライズするんじゃなくて、もっとこう、長い付き合いだからこその、浅いようで深い関係みたいな…ごめんなさい、うまく言えないです。。。f(^_^;)
と、とにかくいい関係なんです!←これが言いたかった
> (今そこの返しが来るのか!!)
は、男の子とハモりました(笑)。
同時の「だよねぇーー」にも笑わせていただきましたvvv
相手が何を考えているかわからないと言ってはいるけれど、心のどこかで、たぶん知っていたんでしょうね~2人とも(^ ^)。

季節にぴったりなお話をありがとうございました☆

Re: よしたけりんかちゃん

  1. 2011/04/09(土) 16:09:58 |
  2. URL |
  3. [ 編集 ]
こんにちは、春です☆

「青春」たしかに!! って、そうか、たしかに!!
 初恋って春の関連wordだったのですね・v・♪

> ふたりで「ないわ~」ってなったとき
> なんかこっちまで緊張の糸が解けたみたいに頬が緩んでしまいました(^^)

よかったぁ~~~
へっぽこなので、むしろそこまで緊張感ある感じに書けている自信がなかったのです^^;
なんというか、ほっと嬉しいです……*^^*

コメント、ありがとうございました☆

Re: ゆささん

  1. 2011/04/09(土) 16:15:55 |
  2. URL |
  3. [ 編集 ]
ゆささん、こんにちは☆

ありがとうございますーーー!!

> 恋人とか友達とかカテゴライズするんじゃなくて、もっとこう、長い付き合いだからこその、浅いようで深い関係みたいな…

!! そんな感じですそんな感じ!!
うはぁ~~~~~~そう言って頂けて嬉しいですっ*> <*
そんな感じに書きたかったんです!!

が、読み返してみると自分でも
「イヤおまえらもういいから勝手にくっついてろよ」とか言いたくなっちゃう感じで、
難しいものだと思っていたのです・_・。

あ、
遠野さんのブログに行きますと、春バージョンの2人の作品が掲載されています!!
すごーーーく可愛いです*> <*

コメント、ありがとうございました☆☆

  1. 2011/04/10(日) 17:42:56 |
  2. URL |
  3. 浜名猫鳩
  4. [ 編集 ]
 コミュ企画で何か書こうかと他の人のを読んでる途中に立ち寄り。
 こういう話で、桜がらみで、こういうヒロインで、ってもうなんか、凄いイイですね。ちょい読みするだけのはずが最後まで読んじまったです。

 懸想した者の絶望的な弱みというか、相手にどこまでもついていこうとして、でもついていきつづけてどうなるんだ、逆に止めてどうなるんだ、っていうところの妙味がたっぷりなお話だと感じました。着いていこうとするのが男側ってのが尚イイ(笑)。

 いやはや、似たような話を考えていたんですが、これ読んで白紙にリバースです。

Re: 浜名猫鳩 さま

  1. 2011/04/11(月) 00:19:10 |
  2. URL |
  3. [ 編集 ]
浜名猫鳩さま、初めまして☆
立ち寄って頂いて嬉しいです*^^*

>懸想した者の絶望的な弱み
コレは、ありますよね・・・!
しかし以前友人と「最終的にはホレた方の勝ち」とMTGの末結論を出したことがありました。
どこまで強気でいく気なのか自分は、と今でも思いますが……・v・;

浜名猫鳩さんの作品も拝見したいです!ぜひ!
ブログ、どうかお邪魔させて下さいね*^^*

あまり更新頻度は高くありませんが、また遊びにいらして頂けると嬉しいです♪♪
コメント、ありがとうございました☆

  1. 2011/04/26(火) 21:24:31 |
  2. URL |
  3. きのみ
  4. [ 編集 ]
初めまして('∀'*)
「物語は素晴らしい!」コミュからやって来ました、きのみと申します(^^*)

恋愛小説っぽいけど、あっさり…というか爽やかな小説だったなァと思います。2人の関係が何とも絶妙な感じで、新しいと思います('ω'✿)
とても面白かったです♫

また、機会があればお邪魔させて頂くと思います(・・*)
それでは失礼しました=3

Re: きのみさん

  1. 2011/04/27(水) 22:58:34 |
  2. URL |
  3. 花舞小枝の春
  4. [ 編集 ]
きのみさん、こんばんは!初めまして*^^*

> あっさり…というか爽やかな小説だったなァと思います。
ありがとうございます*^^*
どぷっとはまっていく恋愛や昼ドラみたいなドロドロのものも
いずれは書いてみたいのですが、、、。笑
爽やかですか! 嬉しいです♪

> また、機会があればお邪魔させて頂くと思います(・・*)
はい、ぜひ、ぜひぜひ☆☆

コメントいただけて、とても嬉しかったです。
ありがとうございました*^▽^*♪

 管理者にだけ表示を許可する
 


trackback


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。